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「風邪という病気はない」って本当?

「実は風邪という疾患はない」今回のコラムは、そんな「!」から始まり、改めて「風邪」についてのウソ・ホントに迫る内容となっています。お話ししてくださるのは、感染症の専門家で、国立病院機構・三重病院 臨床研究部長の谷口清州先生です。「風邪は万病の元」と言われるわけ一般的に「風邪をひく」とは、どのような状態を指すのでしょうか?実は、「風邪」という疾患はありません。一般的に私たちが普段「風邪」と呼んでいる疾患は「風邪症候群」というもので、自然治癒傾向があるウイルス性の上気道(※1)炎をまとめてそのように呼んでいます。(※1)上気道:鼻から鼻腔(びくう)、鼻咽腔(びいんくう)・咽頭(いんとう)・喉頭(こうとう)までの呼吸器をいう。通常、医師は、鼻水や喉(のど)の痛み、咳(せき)、発熱といった上気道炎の症状がそろっているかどうか、それらの経過はどうなのかに加え、全身状態をみて風邪(症候群・以下風邪)と診断します。これは先ほど申し上げた通り、ウイルス性の上気道炎ですから、本来は抗菌薬などを使うことなく自然に治癒する疾患です。ですから、自然に治らない場合は風邪ではないということです。風邪と同じような上気道炎の症状をきたす疾患には、マイコプラズマ感染症、麻疹(はしか)などをはじめとして、川崎病や伝染性単核症など多くの疾患があります。初期症状は風邪と区別がつきませんが、徐々にそれぞれの疾患の特徴が出てきて、診断がつくようになります。昔は、これらの病気にかかっても原因が特定できず、風邪がひどくなったように見えたのでしょう。それで「風邪は万病の元」「風邪をこじらせる」などと言われるようになったのかもしれませんね。「風邪」が治らない場合に初めて、別の疾患を疑うわけですね。もちろん、最初が風邪症状であっても、ほかの症状や身体所見によって最初から別の疾患が疑われることもありますが、最初は風邪症状しかなく、全身状態が良好であれば、経過をみて考えていきます。「風邪であれば3日程度で熱は下がる」ということで、小児科には「風邪3日」ということばがあるんです。ですから、発熱が3日以上続く場合には、必ずほかの病気を考えてみます。それぞれの疾患によって経過が違いますから、それをみて診断するということですね。例えば、マイコプラズマ肺炎の場合は、最初は高熱が出て、ほとんど咳は出ません。しかし、2日目、3日目と時間が経過するとともに、だんだん咳が強くなるという特徴があります。マイコプラズマにはマクロライド系の抗菌剤が効果的ですが、自然治癒傾向もありますので、全身状態に応じてこの抗菌薬を使用します。また、患者さんの喉をのぞいてみたときに、扁桃(へんとう)が真っ赤に腫れて、膿(うみ)がつき、軟口蓋(なんこうがい)、いわゆる「のどちんこ」の上のあたりに赤い発疹がいっぱいあれば、溶連菌感染症と診断します。風邪であれば抗菌薬は処方しませんが、この疾患は溶連菌による感染症であり、きちんと治療しないと後遺症を残すことがありますので、必ず抗菌薬による治療を行います。風邪を治す薬はない?風邪のときは抗菌薬を処方しないのですか?ええ。大前提として、抗菌薬は細菌に効果があるのであって、ウイルスが原因の風邪には効きません。効果がない抗菌薬を飲み続けて、アレルギーや肝障害などの副反応が出たり、腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう。いわゆる「腸内フローラ」)が乱れて下痢などが起こったりすれば、かえって免疫力が落ち、風邪も治りにくくなります。そのうえ、その人の体内にいる細菌が、投与された抗菌薬に対して耐性を持つようになってしまうリスクがあります。耐性菌が出現すれば、それが新たな感染症の原因になることもありますし、それが地域にまん延すれば、抗菌剤の効かない病原体が増加してしまって、将来「感染症の治療に使う抗菌剤がない」という状況になってしまうことが危惧されます。では「風邪に効く薬」とはどんなものなのでしょうか?世の中で「風邪に効く」と言われている薬の効果は、あくまでも症状の緩和にすぎません。例えば、チペピジンヒベンズ酸塩(商品名アスベリン)という成分の入った咳止め薬を飲めば咳を緩和することができますが、風邪が治ったわけではありませんから、薬の効果が切れればまた咳が出てきます。たとえ薬を飲まなくても、風邪であれば3日ほどでそういった症状は治まってくるでしょう。ただ、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)という観点から考えると、症状を抑えることで身体が楽になるのであれば、薬を使うという選択肢もあるかもしれません。重要な会議のときに咳をしていては、周りの人も嫌でしょうし、何より集中できませんからね。ドラッグストアなどで売られている「風邪薬」はどう活用すればよいのでしょうか。ドラッグストアなどで気軽に買える風邪薬は、基本的に症状を抑えるための薬です。ですから、市販薬で症状を抑えているあいだに十分な食事と睡眠をとって、自分の自然治癒力を高めるという考え方を持ちましょう。3日たっても症状が悪化傾向にあればすぐ病院へ風邪をひいたら、どのタイミングでお医者さんに行くのがいいでしょうか。風邪は自然治癒が前提ですから、そんなに心配して病院に駆け込む必要はありません。大切なのは、風邪なのか別の疾患なのかを見極めることです。お医者さんに行く判断の目安となるのは、3日以上高熱が持続するとか、他の症状も含めて悪化傾向にあるときです。5日以上発熱が続くようなら、絶対におかしいと思ってください。市販薬などの対症療法薬を使うかどうかに限らず、症状が悪化傾向にあったり、いつもの風邪と違う症状が出てきたりしたときは、必ず病院に行ってください。咳や鼻水がしばらく続くことはありますが、全身状態が悪くて、発熱が3日以上続くのは要注意です。病院に来てくれた患者さんにも「熱が続くようならほかの疾患や合併症も疑わなくてはなりませんから、そのときはもう一度来院してください」と伝えています。3日過ぎても症状が変わらない、逆にどんどん強くなっていくとなれば、風邪以外の病気を考えておかねばなりません。子どもで高熱が続けば川崎病や伝染性単核症、咳が2週間以上続けば、肺炎や百日咳、成人では肺結核の可能性も考えなければなりません。感染症専門医の風邪予防と対策感染症の専門医だからといって、私も特別なことをしているわけではありません。インフルエンザや風邪が流行する冬季に患者さんと接するときは、常にマスクをして、手洗いを徹底しています。でも一番大事なのは、日頃から、ビタミンを多く含む食品やヨーグルトなどの乳製品を取り入れつつバランスのよい食事を心掛けたり、適度な運動、睡眠をとったりして、規則正しい日常生活を送ることですね。風邪をひいてしまったら、本来ならゆっくり寝て身体を休めたいところなのですが、そうはいかないこともありますよね。私の場合には、自分の体力で治せるように漢方系の栄養ドリンクを飲んだり、身体を温める作用のある葛根湯(かっこんとう)や麻黄湯(まおうとう)などを使ったりすることもあります。それでも症状が強くてつらいときは、解熱鎮痛剤や咳止めなどの対症薬を飲みつつ、ほかの疾患の可能性を考慮するようにしています。このとき、最も気をつけているのは、もちろん「ほかの人にうつさない」ということです。

谷口 清州

2019.2.18

心不全ってどんな病気? 原因・症状・治療方法は

テレビの報道などでもよく耳にする「心不全」。実は病名ではないって、ご存じでしたか? 心臓の病気だと思われがちですが、「心不全」とは病名ではなく、心臓のはたらきが悪くなった結果起こる状態を指しています。石川先生に詳しく解説していただきましょう。心不全って病気?簡単にいうと?心不全とは病名ですか?「心不全」はポンプである心臓の能力が落ちてしまった状態で、病名ではありません。よく比較される「心筋梗塞」は、「心不全」の原因のひとつですね。「心筋梗塞」が起きたけれど、心臓の筋肉は死なずに生き残った。しかし、心臓のポンプ機能は低下してしまった、という状態を「心不全」といいます。心筋梗塞の他にも心不全の原因はありますか?以前は高血圧が心不全の大きな原因でしたが、血圧を下げるよい薬が出てきたこともあって、この20年くらいは心筋梗塞を原因とする心不全が増えています。高血圧が心臓に悪さをしているということですか?そう。例えば、われわれが重たいバーベルを毎日持ち上げていると、筋肉隆々になりますよね。それと同じで、血圧が高いと、心臓はその高い血圧に逆らって血液を送り続けなくてはならないから、心臓の筋肉が太ってしまう。それを「心肥大」と呼ぶんです。心臓が太るとどうして心不全になってしまうのですか?心臓が肥大すると、血液を送る力は強くなりますが、高血圧のまま血液を送り続けていると、そのうち心臓が疲れて、へばっちゃうんです。そうすると、ポンプそのものの能力が落ちてしまいます。原因が心筋梗塞でも高血圧でも、心不全のポイントは心臓のポンプの能力が弱くなってしまうということです。心不全の検査・症状は?どんな検査をすると心不全であることがわかるのでしょうか。エックス線(レントゲン)検査で心臓の大きさを、超音波検査で心臓の動きを確認することができます。また最近は、血液検査で、心臓に負担がかかると分泌されるBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)というホルモンを測ることで、心不全や心肥大を発見できるようになりました。どんな症状が現れたら、心不全を疑えばいいのでしょうか?高血圧や動脈硬化、糖尿病の方は、手足がむくむ、息切れがする、ちょっと動いて息切れがするなどの症状が出たら、できるだけ早く受診してください。特に、高血圧が長く続くと心臓がへばってしまって、命に関わる重度の心不全になることがあります。そうならないためにも、普段からしっかり血圧をコントロールしておくことが重要です。心不全の治療とは?心不全になってしまったら、どんな治療をするのでしょうか?利尿剤と交感神経への刺激を抑える薬の2種類を組み合わせて飲むことが多いですね。心不全になり、心臓のポンプのはたらきが落ちると、全身にうまく血液が巡らないので、腎臓で尿が作られにくくなります。そうすると、本来外へ出るはずの尿が、水分として体の中にたまっていきます。利尿剤を使ってその水分を外に出すことで、心臓への負担を減らします。交感神経への刺激を抑える薬というのはどういう薬ですか?心不全になって心臓の動きが悪くなると、われわれの脳は心臓に「もっと働け」と、交感神経を通じて指令を出します。結果として心臓をいじめてしまうことになるので、薬で交感神経の活動を抑えています。心不全にならないための予防や、気を付けるべきことはありますか?高血圧や動脈硬化、心筋梗塞などの病気をもっている人は、病気を放置することなく、早めに治療することを心がけておくといいと思います。そうすることで、もし心不全になっても、軽い症状で済ますことができますからね。インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2018.5.28

動脈硬化は検査で分かる? 動脈硬化のQ&A

病気に対する疑問や不安に、横浜市立大学大学院医学研究科 循環制御医学 主任教授の石川義弘先生が答えてくれる「教えて! 石川先生」。第2回の病気は「動脈硬化」です。動脈硬化、コレステロールってなに?動脈硬化とは、どんな病気なのでしょうか?動脈硬化は、病的に血管が硬くなることをいいます。酸化して変性したコレステロールがプラーク(塊)となって沈着することで、血管に炎症が起こります。そこがこぶのように膨らみ、最後には血管が詰まってしまうのです。血管が硬くなるだけであればそれほどの問題にはなりませんが、変性したコレステロールがたまって血管をふさいでしまうと血液が流れて行かなくなり、その先の臓器が壊死(えし)してしまいます。脳でそれが起これば脳が脳梗塞、心臓で起これば心筋梗塞ということになります。動脈硬化の原因とされるコレステロールとは、どのような物質なのでしょうか?コレステロールは、実は人間の細胞膜の主要成分で、細胞を守ったり外部の物質やエネルギーを出入りさせたりという重要な働きを支える、生物にとって絶対に必要な物質なのです。さらに、コレステロールは、男性ホルモン・女性ホルモンといった性ホルモンの原料でもあります。体の中にコレステロールがなかったら、われわれは、男であったり女であったりすることはできません。男らしさ、女らしさをうみ出しているのは、コレステロールなのです。どうして、コレステロールは悪者扱いされているのですか?コレステロールそのものが悪いのではなく、コレステロールの素となる脂分をとりすぎることが問題なのです。最近は、脂肪分ゼロの牛乳やヨーグルトも売られていますよね。アメリカでスーパーマーケットに行くと、「コレステロールゼロ」を掲げた食品が山のようにあります。コレステロールには、いわゆる善玉コレステロール(HDL-C)と、悪玉コレステロール(LDL-C)の2種類があります。LDLコレステロールは肝臓に蓄えられたコレステロールを全身に配分する役割、HDLコレステロールは血液中の余分なコレステロールを肝臓に回収する役割を負っています。「悪玉」と呼ばれるLDLコレステロールですが、LDLコレステロールがなければ全身にコレステロールが行き渡りませんから、細胞膜も、性ホルモンも作ることができません。問題なのは、とりすぎることです。どうして、コレステロールは酸化したり変性したりするのでしょうか?酸素がある場所では、当然「モノ」は酸化します。われわれ人間は生命を維持するために、酸素を体の中に取り入れています。酸素に触れたコレステロールは「酸化」、つまりさびてしまいます。さびたコレステロールは形が変わります。これが「変性」です。酸素を使って生きているわれわれ人間は、体の中で酸化や変性といった障害や副作用が起こるのを避けることができないのです。また、二酸化炭素を吐き出すときには、細胞の中にATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー物質がため込まれるのですが、同時に毒をもった酸素、スーパーオキサイドも作られてしまいます。このスーパーオキサイドは活性酸素の一種で、酸化させる力が非常に強いので、コレステロールやたんぱく質・細胞などは、次々と酸化、変性してしまいます。最近、「酸化ストレス」という言葉を耳にすることも増えました。酸化ストレスは、呼吸により体の中に発生した活性酸素が原因です。老化にも、体の構成成分の酸化、変性が深く関わっているといわれています。しかし、もし酸化ストレスを完全になくそうと思うのであれば、呼吸をやめなければなりません。栄養のとりすぎ・ストレス……増える危険因子なぜ「40歳以上の日本人のほとんどが動脈硬化の危険因子をもっている」と言われるのでしょう?多くの人が、コレステロールをはじめとする栄養分をとりすぎるようになったからでしょうね。ここ数十年、肉やチーズなどの乳製品が簡単に手に入るようになったことで、脂分を容易に摂取できるようになりましたから。でも、人類の歴史のなかで、これだけ多くの人類がコレステロールを持て余すようになったのは、ここ数十年の話です。石器時代には、肉を食べようと思ったら狩りに行かなくてはなりませんでした。1カ月の間、毎日狩りに出ても、獲物が捕れるのは何日もなかったという話を聞いたことがあります。日本も数十年前までは毎日の食事にさえ困っていて、こんなに簡単に肉を食べることなどできなかったはずです。石器時代の人も昭和の人も、コレステロールをとろうと思っても、そう簡単にはとれなかったのです。ならば私たちも、脂分などコレステロールそのものをとらなければいいのかというと、そういうわけでもありません。人間の体には糖分からコレステロールを生成する機能がありますから、基本的には食事のカロリー量や摂取する栄養素の量をコントロールすることが必要になります。つまり、いつでも食べ物を手に入れられるようになった私たちは、年齢に関わらず動脈硬化の危険因子をもっているということになります。食生活も生活環境も、明治・大正・昭和の時代に戻ることができれば、動脈硬化の心配をしなくて済むのですがね……。ストレスは、動脈硬化にどのような影響を与えるのでしょうか?ストレスは、人生のスパイスです。よいストレスもあれば悪いストレスもあります。新しい仕事場で新しいプロジェクトが始まって、これまでに経験したことがないくらい勉強したり、話したこともないような人と交渉したりしなくてはならないとします。このようなできごとは強いストレスになるかもしれませんが、うまくいけばとてつもない喜びを感じることもあるでしょう。でも、悪いストレスが続くと、メンタルだけでなく高血圧や動脈硬化、糖尿病と、体にも悪い影響が起こります。大切なことは、そのストレスが自分にとってプラスなのか、マイナスなのかを見極めることです。そう言われると難しく感じるかもしれませんが、実は意外に簡単で、多くの場合、ストレスを感じる時間で判断できます。ストレスにさらされる時間が短ければ体への影響は少ないですし、逆に長い時間ストレスにさらされ続ければ、メンタルにも体にも強いダメージを与えることになります。また、「失恋と厳しい仕事」「離婚と残業が続く仕事」といったように、全く異なったストレスが同時にかかっているかどうかも、ダメージの大きさを判断する基準となります。個人差はありますが、ストレスはうつ病といった心の病だけでなく、高血圧や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こし、時には命を奪ってしまう可能性さえあるのです。自分が動脈硬化であると気付くには動脈硬化にいち早く気付くにはどうすればよいですか?初期の動脈硬化に症状はありませんから、なかなか自分では気付きにくいでしょうね。症状はなくても、動脈硬化を起こしやすい危険因子はあります。血圧・コレステロールが高い方、糖尿病の方などが動脈硬化になりやすいことは、間違いありません。「気付いたら血管が詰まっていた」では手遅れですから、危険因子をもっている方は、動脈硬化がどの程度進んでいるかを診断するため定期的に採血し、頸動脈の超音波検査をしたり、脈を測定したりすることをお勧めします。動脈硬化かどうかを調べる検査には、どのようなものがありますか?一つは超音波検査です。動脈の壁が厚くなっていたり、コレステロールがたまって硬くなったプラークができていたりするところが見られます。健康診断や人間ドックのオプションにある頸(けい)動脈の超音波検査がそれに当たります。頸動脈は、体の表面に一番近い太い血管ですから、非常に検査がしやすいのです。また、上向きに寝た状態で、同時に四肢の血圧を測る「血圧脈波測定」という方法もあります。いわゆる「血管年齢」を調べる方法です。運動・服薬で動脈硬化は治せる?動脈硬化を進行させないために、自分でできることはありますか?定期的に運動することで、ある程度、しなやかな血管を取り戻すことはできます。高血圧の治療 Q&A でも触れていますが、もう一度お話ししましょう。血管は、縮まった状態が続くと硬くなって、血圧が上がりますが、血管がしなやかになれば、血圧は下がります。血管は、自らの拡張・収縮を制御する能力を備えていて、血管の先の筋肉で酸素が必要になると、それを感知して、自ら広がりしなやかな状態を作ります。運動をすると、筋肉にはたくさんの酸素が必要になって、血管は自ら広がります。つまり、人間が定期的に運動すれば、血管も定期的に自らを広げる練習をすることになります。そして、血管を広げるときには、私たちが血圧を下げるために飲んでいるどの薬よりも優秀で、性能のよいホルモンのような物質を出していることがわかっています。運動するだけで、治療効果の高いお薬が、自分で、しかもただで作れるわけです。実践しない手はありませんよね。処方された薬を飲めば、動脈硬化は治せるのでしょうか?いったんたまってしまったコレステロールのこぶを薬で除去するのは至難の業です。除去できるとしても、時間がかかります。おそらく世界で一番使われているのは「スタチン」という、LDLコレステロールを作る酵素を阻害する薬です。この薬を飲むと、確かにコレステロール値がグッと下がります。余談ですが、アメリカのトランプ大統領も「スタチン」を飲んでいることを公表しています。「スタチン」を飲むとコレステロール値は下がります。しかし、動脈硬化が進んでしまった理由はコレステロール以外にもあるということを忘れてはいけません。例えば、運動不足の人がたくさん食べてストレスをためれば、さまざまな原因から起こる結果の一つとして動脈硬化が進みます。高血圧や糖尿病でも同じです。すべての原因を見ることなく、コレステロール値が高いということだけを治療しても、他は解決していませんから、われわれの体にとってよいことではありません。コレステロール値が高い人が「スタチン」を飲み続けることはもちろん必要です。しかし、それ以上に大切なのは、その人の食生活や運動、ストレスなども含めて気を付けることです。高血圧と同じですね。動脈硬化に効く?「〇〇健康法」の信頼性タマネギを食べると血液がサラサラになるというのは本当ですか?「紅茶キノコ」から始まって、今までさまざまな「〇〇健康法」が話題になってきました。しかし、医学的に効果があるかどうかはわかりません。一般的には、タマネギだろうと、紅茶キノコだろうと、酢コンブだろうと、100人に食べさせれば、4、5人「よく効く」という人がいてもおかしくありません。でも、それを健康雑誌で紹介すると、全員に効果があったように受け取られてしまうんですね。タマネギの効果を確かめるなら、何百人、何千人の人の半分は、決められた量のタマネギを食べる。残りの半分の人は一切食べない。それ以外の食生活はすべて同じ、という条件の下で比較する大規模臨床試験を実施しなければ、医学的に証明はできません。毎日1杯のオリーブオイルが動脈硬化の抑制に効果的って本当ですか?「地中海ダイエット」に代表される地中海沿岸地方の食事には、植物性脂肪の油である「オリーブオイル」が多く使われています。脂自体の摂取量は変わらないのに、動物性脂肪を多くとるアメリカ人に比べて、オリーブオイルを主とする地中海沿岸地方の人びとには、動脈硬化や心疾患、肥満の人が少ないというのです。オリーブオイルの摂取以外にも、抗酸化作用の高い赤ワインを飲むことで、動脈硬化を抑えることができるといいます。今から15年ほど前、「フレンチパラドックス」として話題になりましたが、「フランス人は、チーズやバター・肉など動物性の脂を好み、カロリーの高い食事しているにも関わらず、ヨーロッパの他の国に比べて動脈硬化の人が少ない」と報告されています。抗酸化作用が高い赤ワインをたっぷり飲むフランス人は、体の中のコレステロールの酸化が抑えられ、動脈硬化になりにくいというわけです。赤ワインは健康に効果があるということですか?「酒は百薬の長」というように、赤ワインに限らず、少量のお酒はHDLコレステロールを増やすといわれています。量としては、350ccのビール1缶(純アルコール換算で20cc)が1日の目安です。最近は、お酒の値段が極端に安くなり、手軽に飲めてしまうので、飲み過ぎる人も多くなりました。ビールより赤ワインのほうが体によいといわれますが、ビール好きな人に赤ワインを飲めというのも酷な話です。それよりも量を守ることのほうが大切な気がします。インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2019.3.14

急増する梅毒。感染経路や症状、検査や治療の方法は?

「梅毒」と聞いてみなさんはどんなことを想像するでしょうか? 「昔の病気でしょ?」「風俗店へ行かなければ大丈夫」そんな風に思っている人が多いかもしれません。しかしこの梅毒、じわじわと感染者数が増えていることをご存じでしょうか? そんな梅毒から身を守るため、感染経路や症状、検査、治療についてまとめました。梅毒の原因は? 主な感染経路は性的接触梅毒とは「梅毒トレポネーマ」という病原菌による感染症です。主な感染経路は性行為など粘膜同士の接触で、性感性症のひとつでもあります。性感染症とは性的接触によって感染する病気のことで、ほかにクラミジアや淋病(りんびょう)などが知られています。また、妊婦が感染すると胎盤を通して胎児に感染し、流産や死産になるおそれがあります。生まれた場合でも、臓器の異常などさまざまな障害を抱えることになります(先天梅毒)。なお、梅毒という病名の由来は、症状に見られる赤い発疹が楊梅(ようばい。ヤマモモの漢名)に似ているからだとも言われています。(*4)第1~4期へじわじわ進行。気になる症状は?梅毒は、感染してすぐには症状が現れません。その経過は第1期から第4期に分けられ、長い月日をかけて徐々に全身を侵していきます。まず、感染から3週間ほどの潜伏期間を経て、感染が起きた箇所にしこりができます。これが第1期で、特に治療をしなくても数週間で症状は消えてしまいます。感染から3カ月ほど経過すると第2期となり、全身に赤い発疹が出たり、性器や肛門の周辺に平らなできものが現れたりします。第2期でも症状だけは再び消えてしまいます。感染から3年ほど経過すると第3期となり、ゴムのような弾力のあるできものが、皮膚や筋肉、骨などにもできます。さらに進むと第4期になり、血管や神経まで侵され歩行が困難になるなど、日常生活にも支障を来す可能性があり、場合によっては死に至ることもあります。早期発見のキーワードは「約4週間」梅毒に感染しているかどうかは、血液検査で分かります。しかし、感染から3週間ほどは抗体検査をしても陽性反応が出ないこともあります。症状が出ても、感染したと思われる日から約4週間経過してから検査を受けるようにしてください。梅毒に感染していた場合、自分のパートナーも感染している可能性があります。必要に応じて、一緒に治療を行うことが重要です。治療は抗菌薬(ペニシリン系)の内服第1期や第2期の場合は、抗菌薬(ペニシリン系)の内服で完治します。梅毒は治療しなくても一時的に症状が消えるという特徴があるので、「もう治った」などと自己判断せず、処方された薬をきっちり飲みきることが大事です。また、一度完治しても感染を繰り返す可能性があります。適切な予防策を取らなければ、再感染の危険は十分にあります。自分もパートナーも守る。梅毒の予防策まずは不特定多数の人との性行為を避けること、そして、性行為の際はコンドームを使用することです。しかし、キスやオーラルセックスなどでも感染する可能性があるため、コンドームだけで100%予防できるわけではありません。皮膚や粘膜に異常が出た場合は性的な接触を控え、早めに泌尿器科や婦人科を受診しましょう。参考文献(*1)性感染症報告数 – 厚生労働省(*2)梅毒患者の増加で注意喚起 – 日医on-line(*3)感染症発生動向調査で届出られた梅毒の概要(*4)梅毒に関するQ&A – 厚生労働省文:Open Doctors編集部

石川 義弘

2019.1.30

おくすりの正しい保管方法は? クイズに挑戦!『めざせ! おくすりマスター』

くすりと健康食品やサプリの違いって? 自分のくすりを人にあげてもいい? くすりの正しい保管方法は? 余ったくすりはとっておいて使ってもいい?知っているようで知らない「おくすりのキホン」。横浜市立大学附属病院 薬剤部長のサハシ先生と一緒に、おさらいしてみましょう!なんだか体調がよくない……。サプリを飲めば治るかな?健康食品・サプリは「くすり」ではなく「食品」です健康食品やサプリメントは「くすり」ではなく「食品」だって知っていましたか? くすりは病気を治す効果があると国が認めたもの。一方、健康食品やサプリメントなどの食品に病気を治す効果はありません。「特定保健用食品(いわゆるトクホ)」も国の審査に通った食品ですが、基本的に健康な人が健康を保つために使うもの。病気を治したい人は、くすりを飲んでくださいね。みんなが病院で処方されたくすりを分けてくれたけど、飲んでもいい?病院のくすりは「あなた専用」病院で出されるくすりは「医療用医薬品」。よく効くかわりに副作用も強いため、医師の処方せんが必要です。処方(くすりの組み合わせや量)はあなたの症状・体質などに合わせた「オーダーメイド」なので、あまったくすりを他人にあげるのも、もらうのもやめましょう。一方、ドラッグストアのくすりは「一般用医薬品」。処方せんがなくても買えますが、効果や副作用の強い「第1類医薬品」は薬剤師の説明を受けたうえで購入を。くすりはどこで保管しようか?目につきやすいところがいいかな?くすりに合った場所で保管をくすりは日光・高温・多湿が大の苦手。直射日光が当たる場所、暖房器具の近く、車の中などを避けて、室内で保管してください。シロップ剤や坐薬、未開封のインスリン注射など、冷蔵庫で保管したほうがよいものもあります。(ただし凍らないよう注意!)説明書の保管方法を確認し、くすりに合った場所で保管してくださいね。また、誤飲事故を防ぐため、お子様の手の届くところにはくすりをおかないようにしましょう。すっかり元気になった!残りのくすり、とっておいてまた使ってもいい?「とっておいて使おう」はNG!具合が悪いからと病院でくすりをもらったものの、飲み終わる前にすっかりよくなっちゃうこともありますよね。でもそのくすり、「とっておいてまた使おう」はダメなんです!処方された分は「全部使い切る」のがキホン。なぜかって、その処方は今のあなたの症状に合わせたものだからです。しかもくすりには使用期限があり、期限が切れると十分な効果が出ないことも。一度開封したら使い切るようにしてくださいね。おくすりマスター4か条健康食品やサプリメントは「食品」。病気を治したい人はくすりを飲もう。病院のくすりは「オーダーメイド品」。他人にあげるのも、もらうのもやめよう。くすりは日光・高温・多湿が苦手。説明書を確認し、くすりに合った場所で保管を。処方されたくすりは「全部使い切る」のがキホン。「とっておいて使おう」はNG!作画:金田啓介監修:横浜市立大学附属病院 薬剤部長 佐橋幸子

佐橋 幸子

2020.7.22

不整脈が起これば死も。増える心筋梗塞の危険因子

心筋梗塞というと、死ぬほど胸が痛い、必ず死に至る……、そんな怖いイメージを持つ人も多いのでは。今は優れた薬や治療法のおかげで、早期に治療を開始すれば命を落とすことはなくなってきました。しかし現代の生活において、心筋梗塞の危険因子は確実に増えているようです。心筋梗塞ってなに?今回のテーマは「心筋梗塞」です。心筋梗塞という単語はニュースなどでよく耳にしますが、実際のところどのような病気なのでしょう?心筋梗塞の「梗塞」は、「血管が詰まる」という意味なんです。血管が詰まると、その先の筋肉に血液が流れていかなくなります。これが心臓で起こるのが「心筋梗塞」で、脳で起これば「脳梗塞」ということになりますね。なるほど、「心筋梗塞」は心臓の血管が詰まる病気なんですね。心臓には右冠動脈、左冠動脈(前下行枝)、左冠動脈(回旋枝)という3本の大きな血管(冠動脈)があって、心臓のすべての筋肉に血液を送っています。しかし、動脈硬化などが原因で3本のうちの心臓の血管のどれかが詰まってしまうと、その先にある心臓の筋肉(心筋)は酸素を受け取ることができず壊死(えし)、つまり死んで動かなくなってしまいます。心不全についてのコラムでもお伝えしましたが、心臓は全身に血液を送るポンプの役割を果たしています。心筋の一部が動かなくなるというのはポンプの故障と同じなので、血液を全身にうまく送れなくなってしまうのです。心筋梗塞になると何が起こるの?「ポンプの故障」ですか。そうです。このポンプの故障は多くの場合「不整脈」として現れますが、この不整脈が心筋の縮む順番をめちゃくちゃにしてしまうと、最悪の場合死に至ります。運よく不整脈が起こらず生きながらえたとしても、死んでしまった心筋を生き返らせることはできないので、ポンプの一部が壊れたままになります。前々回(心不全)のおさらいになりますが、このように心臓のポンプ能力が低下している状態を「心不全」というのです。不整脈が原因で死んでしまうこともあるのですか?心臓の筋肉が死んでしまうことによって起こる不整脈ですからね。心筋の縮む順番がおかしくなって全身に血液が行き渡らなくなることもあれば、心臓自体が動かなくなってしまうこともあります。普通の人にも起こるような、ときどきリズムが狂うくらいの不整脈だったら死に至ることはありません。ところで、人間の心臓って、1日に何回くらい動いているかわかりますか?1分間の脈拍を大体70回とすると、1時間で4200回、1日で……。そう、その計算だと約10万回になりますね。私たちが寝ている間も休みなく動いています。10万回動いていたら、機械だって1回や2回のミスはありますよね。つまり、誰にでも「たちの悪くない不整脈」は起きるということです。心筋梗塞は、心臓で「たちの悪い不整脈」が起きた状態ということなのですね。そう。心臓の血管が詰まって心筋が死に、「たちの悪い不整脈」が起きて心臓がうまく動かなくなるということです。繰り返しになりますが、ポンプ能力が低下して心不全の状態に陥っても、「たちの悪い不整脈」が起こらなければ、生き残ることもあります。私たちは、どんな症状が現れたとき、心筋梗塞に気付けるのでしょう?狭心症や糖尿病などの持病があったり、血圧が高かったりと、血管に負荷がかかるような疾患を治療中の方が、胸に今まで経験したことのないような強い痛みを感じたときは、すぐに救急車を呼んで病院に行くことをお勧めします。健康な人が「胸がちょっと苦しい」とか「痛い」とかいうのは、ほとんどの場合心筋梗塞ではありませんよ。心筋梗塞の治療法心筋梗塞になったら必ず命を落とす、というわけではないのでしょうか。昔は助からない人がほとんどでしたが、今は優れた薬や治療法がたくさんありますから、早い段階で病院に行けば、ほとんどの人が助かりますよ。心筋梗塞の治療にはどんな方法があるのでしょうか?多くの場合、動脈からカテーテルという細い管を入れ、血管の詰まった部分を風船で広げる「風船治療」や、これを応用して血管内で金網を広げる「ステント治療」を行います。血栓を溶かす薬の投与だけで回復する場合もあります。これらは治療時間も短く、体への負担もそれほど大きくないですし、ほとんど後遺症もありません。カテーテル治療ではどうにもならないというときは、血流の迂回(うかい)路を作る「バイパス手術」を行うこともありますが、こちらは体への負担が大きくなり、回復にも時間がかかります。どういう人が心筋梗塞になりやすい?心筋梗塞になりやすい人っているのでしょうか?心筋梗塞を起こした人の話を聞くと、それなりの理由があります。多くは高血圧や高コレステロール、糖尿病など、もともと持っていた病気や基礎疾患をちゃんと治療していなかった人です。その人たちが心筋梗塞になって、たまたま早い段階で病院に行って命が助かったとしても、その原因となっている基礎疾患を放っておいたら、また心筋梗塞を起こすことになります。普段健康に何も問題のない人が、ある日突然心筋梗塞を起こすということは、めったにありません。心筋梗塞が遺伝することはありますか?心筋梗塞そのものは遺伝しません。しかし遺伝的にコレステロールが高かったり、血圧が高かったり、糖尿病になりやすかったりという家系はあります。心筋梗塞は遺伝しないけれど、なりやすい体質は遺伝するということですね。心筋梗塞を防ぐには心筋梗塞になりやすい体質の人は、どんなことに気を付けて予防すればいいのでしょう?糖尿病の回でも話しましたが、もう一度おさらいしましょう。例えばご両親が糖尿病なら、何もしなければその子どもは多分糖尿病になると思います。仮に今あなたが50代で、ご両親は80代で糖尿病だったとすると、若いころのご両親は今のあなたより医学的によい暮らしをしていたはずだからです。「医学的によい暮らし」ですか?ご両親が若かったころは、今のあなたのように、気軽にタクシーやバスに乗っていたでしょうか? お酒も毎日は飲めなかったでしょうし、牛肉なども簡単に手に入らなかったのではないでしょうか。近所にコンビニエンスストアだってなかったはずです。今のほうが生活するには便利ですが、医学的には昔のほうがよい暮らしだったのではないか、と思うのです。今は、便利だけれど、健康に悪い生活をしているということ……。そう。あなたはご両親と同じ遺伝子を持っていることに加えて、医学的には悪い環境で暮らしているのですから、ご両親以上に、普段の健康や生活習慣に気を付けなくてはいけないということです。心筋梗塞の治療成績は上がっていますが、危険因子はご両親のころに比べると圧倒的に増えているということです。インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2018.7.18

「健康診断で見つかるがん」は治る? がん入門編

男性の4人に1人、女性の6人に1人が、がんで亡くなる時代です。身の回りにがん闘病中の家族や友人がいるという方も少なくないことでしょう。そんな身近な「がん」ですが、がん細胞ができる原因やがんができにくい臓器など、治療以前の基本的な情報については意外と知られていないようです。今回は「がん入門編」として、石川先生にやさしく解説していただきましょう。そもそも「がん」はなぜできる?がんの原因は?石川先生。いきなりですが、「がん」ってなぜできるんですか?ずばり、がん細胞ができる原因は「細胞分裂のときに起こるミス」ですね。われわれの体の細胞が、毎日生まれては死んで、死んでは生まれているというのはご存じですよね。はい。その「生まれて」というのが、「細胞分裂」のことですよね。そうです。例えば胃の壁を構成している細胞の1つが寿命を迎えても、ほかの元気な細胞の分裂により新しい細胞が生まれることで、胃の壁の働きは保たれています。ちょっと難しい話になりますが、われわれは細胞の一つ一つに「DNA」という体を作る設計図をもっていて、これはアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)という4種類の部品を使って書かれています。細胞分裂をするときには、このA・C・G・Tの組み合わせで書かれた暗号を一言一句間違わずに引き継がなければいけないのですが、細胞分裂のときにミスが起こると、アデニン(A)だったものがシトシン(C)に書き換わってしまったりすることがあります。万が一、がんの発生や抑制に関係する設計図の一部がこのように書き換えられてしまうと、細胞のがん化を止められなくなってしまうのです。どうしてミスが起こってしまうのですか?例えば、1から10までの数を100万回繰り返して書いたとします。そうすれば1回や2回は絶対ミスをするでしょう? 毎日分裂を繰り返しているわれわれの細胞も同じです。疲れていたり、酔っ払っていたり、思考がうまく働いていなかったり……。そういうことが細胞にもあるんですよ。特にミスを起こしやすいのは、細胞の機能が落ちているとき、つまり年をとったときなんです。例えば、15歳くらいの孫と90歳のおじいちゃんの両方が100万回書けば、おじいちゃんのほうがミスをする回数も多いし、それを見逃すことも圧倒的に多くなるんじゃないでしょうか。がんになる臓器、ならない臓器。その違いはここまでの話をまとめると、「細胞が死んだときに新しい細胞を作ろうとするから、がんになる」「不摂生をしている人や年をとった人ほど、新しい細胞を作るときにミスをしやすい」ということになるでしょうか。そういうことです。一方で、「がんにならない臓器」があるのをご存じですか?「がんにならない臓器」……。「細胞が生まれ変わらない臓器」ということでしょうか。そんな臓器があるんですか?あるんですよ、心臓です。「肺がん」や「胃がん」はよく耳にすることがあっても、「心臓がん」って聞いたことないでしょう? あるとしても、ごくまれです。なぜ心臓にがんが発生しないかというと、心臓の細胞は、生まれてから死ぬまでほぼそのままだからです。心筋梗塞のコラムで「死んでしまった心筋を生き返らせることはできない」とお話ししましたよね。最近は「再生医療がもっと発展すれば、細胞も再生できる」という説もありますが、ひとまずその話は置いておくと、心臓の細胞は「おぎゃあ」と生まれてから死ぬまでずっと同じで作り直す必要がないから、がんにはならないというわけです。諸説ありますがね。なるほど! 細胞が死んで新しく生まれ変わる臓器は全てがんになりうるけれど、そうでない臓器にがんはできにくいということですね。そういうことですね。普通ならできそこないの細胞ができても、われわれの体をパトロールしている「免疫くん」がしっかりやっつけてくれています。しかし、不摂生をしたり、高齢になったり、何らかの理由でこの「免疫くん」が疲れてしまうと、できそこないの細胞をやっつけてくれなくなって、そいつをみすみす「がん化」させてしまいます。健康な人も「がん細胞」をもっている?すると先生、できそこないの細胞は誰もがもっているということですか?健康なわれわれの体内でも、がんになる可能性のある細胞がしょっちゅうできていますよ。通常であれば、そいつが小さいうちに「免疫くん」がやっつけてくれているので大ごとにはなりませんが、「誰もが日々がんになっている」と言えるでしょう。それを「免疫くん」がやっつけてくれている!そうです。だから「健康で規則正しい生活をしましょう」と言われるんですね。「免疫くん」が元気でいられるような生活をすることが、がんの予防につながるからです。「免疫くん」が元気なら、できそこないの細胞をやっつけてくれますから。「免疫力を高めることが大切だ」と言われるのはそういうわけなのですね。がんもいろいろ。ざっくり分類すると……がんは進行度合いなどによって、細かく分類されていると聞きました。そうですね、がんにはいろいろな分類があります。がんが疑われる場合は、詳しい検査の結果に基づいて分類を行い、その分類をもとに診断および治療方針を決めていく、という流れになりますね。どんな検査を行うのか、詳しく教えてください。がんが疑われる場合、まずは綿棒などで患部から細胞をこすり取ったり、針やメスなどで組織を採取したりします。これを病理医という細胞・組織診断のプロが顕微鏡で調べるのですが、この検査は「細胞診」や「組織診」と呼ばれます。細胞を調べる場合は「細胞診」。細胞の大きさや形などから細胞の悪性度を調べ、I~Vまでの「クラス(Class)」に分類します。一方、組織を調べる場合は「組織診」と言いますが、これはいわゆる「生検」のことです。細胞の大きさ、形、並び方などから組織の性質を調べ、1~5までの「グループ(Group)」に分類します。なお、組織診は細胞診よりも正確な判断ができることから、細胞診をしないケースも増えています。こういった検査を行うことで、「がんなのかどうか」や「どれぐらい悪いがんなのか」が分かります。ここで「がんである」と判明した場合、初めて「ステージ(Stage)」という分類が出てきます。「ステージI」、「ステージIV」といった言い回しはよく聞きます。どのように分類をするのですか?ステージ分類では、がんがどこまで進んでいるかを判断し、進行度合いによって分類します。例えば胃がんなら、がんが胃の粘膜の一番内側にいるのか、粘膜の下の層にいるのか、胃の筋肉まで進んでいるのか、胃の一番外側、漿膜(しょうまく)まで到達しているのか、もしくはそれも突き破ってほかの臓器にまで広がってしまっているのか。どこでどれくらいの大きさになっているかなどを調べます。なお、がんができた臓器によって分類の仕方は異なります。「ほかの臓器に広がる」というのが、いわゆる「転移」ですか?そのとおり。転移とは、細胞が血液やリンパの流れに乗ってほかの臓器に行くことです。リンパの流れは「リンパ節」という関門を通過しないと次の臓器に行けないので、がんもまずリンパ節に転移することになります。ですから、転移しているリンパ節の数や遠さ、あるいはリンパ節を突破してほかの臓器に転移しているか否かというのも、ステージ分類の判断材料になります。胃がんの場合は、がんが胃の粘膜にとどまってリンパ節に転移していなければ、手術による治療で完治することも少なくありませんよ。健康診断で見つかるのは「治るがん」?がんは早期発見すれば治る病気だとも言われていますよね。がんには「見つけやすくて、たいてい治療することで治るがん」と「見つけにくくて、治療しても治すのが難しいがん」があります。あくまでも一般論ですが、健康診断の項目に入っているようながんは簡単な検査でも見つけやすいうえに、見つかってすぐに治療をすればたいてい治ります。だから検査をして見つけているのです。「治すのが難しいがん」ですか……。そうです。例えば、健康診断の検査項目にはない膵臓(すいぞう)がん。これは簡単な検査で見つけるのが難しいうえに、見つかっても完治させるのが非常に難しい。一方、健康診断で必ずと言っていいほど行われる胃バリウム検査や検便は、胃がんや大腸がんを発見するためのものです。これらのがんは検査も簡単で見つけやすい。そして、早期に治療すればかなりの高い確率で治ります。治る可能性が高いがんを早く発見して、治療しようということですね。そう、「見つかったら治るがん」を見つけようとしているのです。そこに健康診断の重要性があります。多くの人が「検便を出すのは恥ずかしい」とか、「めんどうくさい」とかおっしゃいますが、検査に出さないなんてすごくもったいないと思います。なぜなら、検便で見つかる大腸がんは、他のがんに比べてわりと進行がゆっくりで、「便に血が付いているから検査しましょう」という段階であっても、治せる可能性がとても高いんです。がんの進行が遅ければ、治療して治る可能性も高い。だから検便!早い時期に見つけて、切ってしまえば治ります。だから検便はやったほうがいい。だって見つかったら治るのですから。検便はとても意義のある検査だと思いますよ。便だけで分かるんですから。便を出すだけなら、バリウム検査や採血よりもずっと楽で簡単だと思うんですがねえ。インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2018.9.18

インフルエンザが流行中。感染経路・潜伏期間・症状は?

例年12月から3月にかけて流行するインフルエンザ。感染経路、潜伏期間、症状、予防策などについてまとめました。インフルエンザの感染経路・潜伏期間・症状は?インフルエンザは「インフルエンザウイルス」に感染することで起こる病気です。主な感染経路は、咳(せき)やくしゃみの際に口から発生する小さな水滴による飛沫(ひまつ)感染。1~3日間ほどの潜伏期間を経て、38度以上の発熱、頭痛や関節・筋肉痛などの症状が急に現れるのが特徴です。子どもではまれに急性脳症を、高齢者や免疫力の低下している人では肺炎を伴うなど、重症化することがあります。(*1)「うつさない、もらわない」3つの予防策インフルエンザウイルスの感染を予防する主な方法として、以下の3つが挙げられます。1つ目は「流行前のワクチン接種」高齢者では死亡の危険が5分の1に、入院の危険が約3分の1から2分の1にまで減少することが期待できるとされています。(*2)2つ目は「手洗い」の励行流水・せっけんによる手洗いは、手や指などについたウイルスを物理的に除去する方法として有効です。アルコール製剤による消毒も効果があります。3つ目は「咳エチケット」を心がけることほかの人に向けて咳などをしない。咳やくしゃみが出るときはマスクをする。手のひらで受け止めたらすぐに手を洗う。飛沫を浴びないようにすれば、感染の機会は大きく減少します。去年も予防接種を受けたから、今年は必要ない?インフルエンザワクチンは、そのシーズンに流行が予想されるウイルスを用いて、毎年作り変えられています。前年にワクチン接種を受けた人でも、改めて接種を検討したほうがよいでしょう。重症化しやすい65歳以上の人などは、定期予防接種の対象となっていますので、希望する方は医師に相談しましょう。ちなみに、インフルエンザウイルスには大きく分けてA型・B型・C型の3つの型があり、流行的な広がりを見せるのはA型とB型です。「インフルエンザワクチンは打っても意味がない」は本当かワクチン接種をすれば絶対にインフルエンザにかからない、というわけではありません。しかし、発病や発病後の重症化を予防することには一定の効果があり、「打っても意味がない」というのは誤解です。最も期待される効果は、重症化の予防。特に基礎疾患のある人や高齢者では重症化する可能性が高いと考えられています。肺炎や脳症などの重い合併症を防ぐためにも、ワクチン接種の意義は大きいと言えるでしょう。抗インフルエンザウイルス薬は、早めの服用が効果的本来、インフルエンザは自然治癒傾向のある疾患ですが、これまでの研究では発症から2日(48時間)以内に抗インフルエンザウイルス薬を服用すると、発熱期間は1~2日間短縮され、鼻やのどからのウイルス排出量も減少することが報告されています。(*3)抗インフルエンザ薬には、内服薬のタミフルや吸入薬のリレンザなどがあります。発症から2日以内に服用を開始するのが効果的ですので、慌てることはありませんが、特に乳幼児や基礎疾患のある人などは早めの受診を心がけましょう。薬を飲まなくても注意! 子どもの「異常行動」以前、抗インフルエンザウイルス薬の服用後に、急に走りだす、部屋から飛び出そうとするなどの異常行動が報告されていましたが、最近の調査により必ずしも抗インフルエンザウイルス薬を服用していなくても異常行動が現れることが判明しており、服用の有無にかかわらず注意が必要です。小児・未成年がインフルエンザと診断されたら、少なくとも2日間は1人にさせないようにしてください。件数はわずかですが、転落等による死亡事例もあります。参考文献(*1)国立感染症研究所 インフルエンザとは(*2)厚生労働省 インフルエンザ(総合ページ) 65歳以上の皆様へ(*3)厚生労働省 インフルエンザQ&A文:Open Doctors編集部

谷口 清州

2019.1.30

インフルエンザ(前編)A型とB型、何が違う?

例年1月から3月頃にかけて流行するインフルエンザ。「今期はA型が流行している」とのことですが、そもそもインフルエンザのA型とB型って、何が違うのでしょうか?そんな疑問を解決するべく、感染症の専門家である国立病院機構・三重病院 臨床研究部長の谷口清州先生にお話を伺いました。インフルエンザのウイルスの型・亜型A型とB型の違いについてお話しする前に、まずはウイルスの型(タイプ)と亜型(サブタイプ)についてご説明しましょう。わたしたちがよく耳にするA型、B型などのいわゆる「型」は、インフルエンザウイルスの内部構造によるものです。さらにA型は、「亜型」により細かく分類されていきます。B型はA型に比べて多様性に乏しいので亜型はありませんが、山形系統とビクトリア系統に分類されています。インフルエンザウイルスの表面には、HAタンパク、NAタンパクという2つのスパイク(突起)があり、そのうちHAタンパクのスパイクが喉(のど)の受容体(シアル酸)にくっつくと、インフルエンザに感染します。感染すると、ウイルスは細胞の中でどんどん増えて、最後に細胞から外へ出ていこうとしますが、このときにもHAタンパクは表皮細胞上のシアル酸にくっついてしまい、ウイルスは細胞から離れることができません。それを切り離すのが、NAタンパク。NAタンパクによってHAタンパクとシアル酸の結合が切り離されると、ウイルスは遊離し、次の細胞に感染することができます。このようにして、どんどん気道の中で広がり、インフルエンザのさまざまな症状が出てくるというわけです。NAタンパクを阻害する薬が、皆さんご存じのタミフルやリレンザです。A型インフルエンザウイルスのHAタンパクは16種類、NAタンパクは9種類あるので、H1N1からH16N9まで16×9通りの抗原性の異なる亜型があります。これらすべての亜型はカモなどの水禽類(すいきんるい)の世界に存在しますが、それらがときどき人間の世界に侵入して感染するのです。これまでにH1N1(Aソ連型)やH3N2(A香港型)、H2N2(アジア風邪)が進入、流行したことが知られています。ちなみに、2009年には同じくA型の「H1N1pdm09」が人間界に入っています。当初、メディアでは「豚インフルエンザ」として騒がれたので、覚えておられる方も多いかもしれませんね。インフルエンザウイルスの「保有動物(リザーバー)」ウイルスは、基本的に生き物に寄生して生存していますから、必ずそのための保有動物(リザーバー)がいます。A型インフルエンザウイルスは水鳥(水禽類)界で循環・維持されているので、このウイルスのリザーバーは水禽類をはじめとする鳥たち、ということになります。そのほかの例を挙げると、サルモネラ菌やカンピロバクター、腸管出血性大腸菌(O157)などは、有袋類(ゆうたいるい)の動物が保有していますが、ヒトに感染すると食中毒を起こします。このように、もともと動物がもっていた病原体が人間に感染して起こるものを「人獣共通感染症」といいます。例えば、水禽類の鳥は、鳥インフルエンザの原因となるA型インフルエンザウイルスを腸管にもっていますが、症状が現れることはありません。しかし、鶏などの家禽類(かきんるい)や人間の世界に侵入して何代か経ることで、症状が現れるようになるといわれています。人間の腸管内にも、例えばビフィズス菌や大腸菌などのさまざまな細菌が生息していますが、それらは腸の中で共存関係を作っているため、多くの場合、病原性はありません。しかし、共存できない細菌、例えば腸管出血性大腸菌O157などが人間の体内に侵入すると、感染症をもたらすことになります。病原体にしてみれば、自分たちが生存するために人間の体内で増殖しているだけなのでしょうが、結果として感染症状を引き起こしてしまうのです。A型は大きな変異で免疫を逃れ、パンデミックを起こす型や亜型についての話が済んだところで、いよいよA型とB型の違いについてお話ししていくことにしましょう。繰り返しになりますが、A型インフルエンザウイルスには、HAタンパクとNAタンパクの組み合わせにより、144通りの抗原性の異なる亜型があります。A型インフルエンザは、数十年に一度、亜型が変わるという大変異を起こすことが知られています。突然別の亜型ウイルスが出現して、従来の亜型ウイルスにとって代わることがあるのです。もしそれが、人間が接したことのないウイルスだった場合、人間界の誰も免疫をもっていないので、たくさんの人が急速に感染、重症化し、パンデミック(世界的大流行)に陥ります。パンデミックが起こるのは、大きな変異を起こしやすいA型インフルエンザウイルスだけです。今のところ、これら144通りのA型インフルエンザ亜型のうち、人間界でパンデミックを起こしたのは、H1N1(Aソ連型)、H2N2(アジア風邪)、H3N2(A香港型)、H1N1pdm09などに限られています。ちなみに、ソ連型や香港型というのは、最初に流行した地名に由来しており、H1N1pdm09の「pdm」は「パンデミック」、「09」は「2009年」という意味です。また、先ほど「突然出てきた亜型ウイルスが、従来の亜型ウイルスにとって代わることがある」と言いましたが、突然現れたH1N1pdm09が人間界に定着してからは、不思議なことにH1N1(Aソ連型)の流行は見られなくなりました。人間界に適応したB型は、治りかけたころ他人にうつしやすい一方、B型インフルエンザは、50年くらい前に人間の世界に侵入し、今では完全に人間に適応しています。なぜなら、B型インフルエンザウイルスは、通常ヒトにしか感染しないからです。その点がA型と大きく異なります。「A型とB型と何が違うのか?」という質問をときどき受けることがありますが、その症状を見ただけではA型とB型を区別することはできません。しかし、データを読み解いてみると、A型は「熱が出るときに一番ウイルス量が多く」、B型は「症状がおさまってくる後半にウイルスが多い」ことが報告されています。つまり、他人にうつさないように、より注意が必要なのはB型なのです。なぜなら、ちょうど治りかけて、活動を始めるころにウイルス量が多くなるから。「もう治った」と思っていても、周りの人にうつしてしまう可能性が高いということです。ヒトからヒトに感染しなければ自分たちが生きられないことを、ウイルスはわかっているのでしょうか。こうした性質から、B型インフルエンザはよりヒトとの共存に適応したウイルスだといわれます。インフルエンザは根絶できるか? ウイルスたちの生存戦略A型インフルエンザは何十年かに一度大変異を起こすと言いましたが、A型であってもB型であっても、インフルエンザウイルスは毎年小さな変異を起こして、わたしたちの免疫機構を逃れています。だから毎年、たとえワクチンを打ったとしても、インフルエンザにかかる人がいるのです。それだけにとどまらず、彼らは自分が生存するためにヒトの免疫を抑制する遺伝子をもっているので、何度インフルエンザにかかっても、「完璧な免疫」というのはできません。すばやく変異し、ヒトの免疫を抑制し、何度も感染するというのが、インフルエンザウイルスの生存戦略です。わたしたちの免疫機構は、今のところインフルエンザウイルスの生存戦略を超越できるようなものではありません。つまり、人間界からインフルエンザを根絶することはできない、ということです。続く後編ではワクチンや治療薬について取り上げ、そんなインフルエンザとうまく付き合っていくためにはどうすればよいかを考えていきたいと思います。消えたウイルス「インフルエンザウイルスは根絶できない」と言いましたが、ヒトに感染するもので、今までに人類が根絶に成功したウイルスが1つだけあります。それが天然痘(痘そう)です。紀元前から「死に至る病」と恐れられ、生きながらえても顔にひどい瘢痕(はんこん)が残ってしまう天然痘。このウイルスはワクチンによってすでに根絶され、自然界には存在しません。しかし、実はアメリカやロシア(旧ソ連)の研究施設に、今もウイルスは存在します。もしもそのウイルスが、外部に流出するようなことがあったら……。今や、誰も免疫をもたない天然痘ウイルスは、バイオテロに使われる危険性をも秘めているということです。天然痘は非常に症状が重く死亡者も多い疾患でしたから、当時根絶は「絶対に必要なこと」だったのでしょう。しかし、病気を根絶するということは、免疫をもつ人がいなくなるということ。こうした側面があることも、忘れてはいけないと思います。

谷口 清州

2019.2.7

酒好きなら健康診断で確認を! 肝臓へのダメージが分かる3項目

アルコールの飲み過ぎによって、いろいろな臓器に病気が発生しますが、なかでも多いのが肝臓の病気です。肝臓は、いろいろな物質の分解と合成を行っている臓器です。たとえば、アルブミンという体に必要なタンパク質を合成したり、アンモニアという体に悪いものを尿素という体に悪くないものに変えたりしています。アルコールは身体にとっては毒のようなものなので肝臓で分解しています。しかし、分解しきれないほどのアルコールを摂取すると、肝臓に負担がかかってアルコール性肝炎、脂肪肝などの病気になります。治療せず放置していれば進行し、肝硬変や肝がんにつながることもあります。しかし、肝臓は「沈黙の臓器」と言われており、異常が出てもほとんど症状が出ないので注意が必要です。健康診断では、採血によって肝臓の検査を行います。ALT(GOT)、AST(GPT)は、いずれも酵素の一種で、それぞれ2種類の呼び方があります。肝臓にアルコールや肝炎などで負担がかかって肝臓の細胞が壊れると、細胞の中にあったALTとASTという酵素が血液の中に漏れ出てきます。つまり、採血して血液中のALTやASTを測れば、破裂してしまった肝細胞の数がわかるということです。お酒に関する値としてよく知られているのが、γ-GTP(ガンマ-ジーティーピー)です。これも酵素の一種で、タンパク質を分解する役割があります。γ-GTPは胆管(肝臓から十二指腸まで胆汁を運ぶ管)でつくられる酵素ですが、肝臓や胆管が傷つけば、γ-GTPが胆管細胞から血液の中に漏れ出てきます。特にアルコールに鋭敏に反応するので、肝障害を起こしていなくても普段からよくお酒を飲む人は数値が上昇します。一般的なγ-GTP検査値の基準値は、男性が50U/L以下、女性が30U/Lとされています。基準値を超えるようでしたら、お酒をやめるか、量を控えなければいけません。肝臓は1時間に日本酒1/3合のアルコールしか分解できません。つまり4合飲めば12時間かかるということです。大量の飲酒がいかに肝臓に負担をかけているかよくわかりますね。くれぐれも飲み過ぎに注意して、肝臓を大切にしましょう。

梅村 将就

2020.3.19

Open Doctors

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市民・患者のための健康・医療コミュニケーション学会