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大切な腎臓を守るために覚えておきたい健康診断の5つのキーワード

腎臓の病気が進行してしまうと、腎臓の機能が低下し、十分にその機能を果たせなくなってしまいます。その結果、場合によっては腎臓の機能を代替するために人工透析が必要になることがあります。そうならないためにも重要なのが健康診断です。健康診断では腎臓の機能のチェックもしっかり行います。ここでは、どのような検査のどのような項目を見れば、腎臓の機能がわかるのかを説明していきたいと思います。腎臓の働きは「ろ過」まずは、腎臓の働きを知りましょう。腎臓の働きを簡単に言うなら「ろ過」です。腎臓は1日に150リットルの血液をろ過して、体内で作られた老廃物や毒物を1日1.5リットルの尿として排出しています。腎臓の機能が低下してしまうと、体内に余分な水分、老廃物や毒素が蓄積してしまうことになります。ろ過は腎臓の中にある「糸球体」で行われます。細い血管が毛糸の球のように丸まってできているもので、ここで水や老廃物などがろ過されます。ろ過されないものは、赤血球やタンパク質(アルブミンなど)などです。ろ過されたものが尿として排出され、ろ過されなかったものは再び体に戻っていきます。ただし、ろ過されるかどうかは、それぞれの物質の大きさだけで決まります。アルブミンより大きな粒子のものはろ過されません。一方、重要なものでも粒子が小さいものは、ろ過されてしまいます。それらは、「尿細管」という場所で再吸収され、再び体に戻されます。ほかにも腎臓には、余計な水分を尿として排出することで体内の水分量を適切に調節する働き、ナトリウムやカリウムなどのミネラルや化合物のバランスを調整する働きや、血圧を調整する働きなどがあります。健康診断では、主に尿検査と血液検査の2つの検査で腎臓に異常がないかどうかを調べます。尿検査では「尿蛋白」「尿糖」、「尿潜血」、血液検査では「Cr(クレアチニン)」「BUN(尿素窒素)」を調べます。次回以降、それぞれどのような意味があるのかを解説するので、この5つの言葉の意味をぜひ理解してください。

梅村 将就

2020.12.17

新型コロナ、大都市圏では「感染しているかも」の前提で行動を。地方も他人事ではない

もはやコロナウイルスの感染伝播を止めることは難しい新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は瞬く間に世界に広がり、世界保健機関はパンデミックを宣言しました。4月2日時点では、世界中で88万人を超える感染者が報告され、死者は4万人を上回っています。当初中国の湖北省に始まったアウトブレイクは徐々に中東とヨーロッパに広がり、ヨーロッパで急激な拡大とともに北米と南米に広がりつつあります。一方で、日本は地域封鎖や外出禁止令などの出ている欧米に比べて、患者の増加速度は緩やかです。図.国別の累積感染者数の推移(新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」[ 2020年3 月19日 ]より)この理由は明確にはわかりません。おそらくですが、幸か不幸かダイヤモンド・プリンセス号でのアウトブレイクがあったため、早くから意識が高まったこともあると思いますし、なによりも、各地方自治体の保健所の方々のアウトブレイク対応、すなわちCOVID-19の患者さんが1人見つかったら、すみやかにその濃厚接触者を特定して、そこから先への感染伝播を防いでいる、ということが大きいと思います。そして、ほとんどの濃厚接触者の方が、人との接触を避けて自宅待機をくださったということにも感謝したいと思います。また、Social Distancing(社会的に距離をとる、人ごみを避けること)と言われるような、人と人の距離を離して接触頻度を軽減するために、学校閉鎖、大規模イベントの中止、外出自粛や自宅勤務の奨励なども行われました。みなさんがこれに非常に協力的であったということも大きな要因だと思います。しかしながら、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、人類にかなり適応していることには間違いないようです。ウイルスというものは、生きた細胞の中でしか増殖できませんので、生きた細胞から生きた細胞へ、人から人へ感染することによってその生命を維持します。次の人に感染できなくなると、ウイルスはそこで止まってしまって死滅してしまうのです。エボラ出血熱のように感染すると非常に重篤になり、ほとんどの人を殺してしまうようなウイルスは、自分もそこで絶えてしまうので、ヒト世界では生き残れません。一方、このウイルスは、多くの人では軽症です。不顕性感染といって、ほとんど症状がないのにウイルスを保持している人が見つかっています。また、一度ウイルスが陰性になった人が再び陽性になったということが報告されています。このようにウイルスに感染していて、かつ症状の軽い人がたくさんいれば、すなわち人間と共存できれば、この人が歩き回ってウイルスを広めてくれるので、ウイルスにとってはその生存にとっても都合が良いわけです。このような特性から、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は効率よく、ヒトからヒトを渡り歩いて生存しているようで、今後もその感染伝播を止めることは難しそうです。大都市圏の人は「感染しているかも」の前提に立った行動を実際、東京を含む大都市圏では、感染伝播経路がよくわからない患者さんが多くなってきており、徐々に地域内での広がりを見せています。現状では見えていない感染伝播経路がどのくらいあるのかわかりませんが、軽症例が多いと、患者の発生状況が見えませんので、知らないうちに地域に広がることがあります。そのなかで、時に出る症状の比較的強い人が発見されて、患者として認識されることがあります。以前には1968年に新型インフルエンザとしてパンデミックを起こした「香港」インフルエンザは、当初は似たような流行形態をとり、「くすぶり流行」として、大きな流行をおこさずに全国にばらまかれ、その後一気に大流行となっています。東京都では外出自粛の要請が出され、電車や繁華街などが閑散としている様子も報道されています。感染伝播経路がわからない場合には、クラスタ対策は徐々に難しくなるので、このようなSocial Distancing戦略を取るしかありません。東京都を含む首都圏では、症状がなくとも「自分は感染しているかもしれない」という考え方に切り替える必要があります。若い方であっても重症化するリスクがないわけではありません。まずはご自分の身体を守るために、3つの「密」(密閉空間、密集場所、密接場面)の重なりを避けてください。しかし、うつされない方法を考えるだけではもう不十分です。感染経路不明の症例がこれだけ多く出ている今は、自分が感染していてウイルスを排出しているかもしれないという前提に立って、地域に広げない方法を考える段階に入っています。大都市圏以外に住んでいる人も決して「他人事」ではない一方で、お住まいの地域ではすべて伝播経路が追えており、誰から感染したかが不明な症例は見つかっていないので、そこまで不安には思っていないという方もいらっしゃるでしょう。少しマスクをつける人が増えたものの、日用品の買い物にも行くし、友人との集まりがあれば顔を出す。まだどこか新型コロナウイルスの感染を「他人事」ととらえている方も多いのではないでしょうか。たしかに感染伝播の経路が追えている地域では、知らない間に感染が広がっているという状況ではないと思われます。そのようなことから、そろそろこの「自粛ムード」を打破してもよいのではとの議論も聞こえてきますが、はたしてそうでしょうか。今お住まいの地域が、東京・大阪・愛知を含む、感染が広がっている地域との交流を絶って鎖国をするというのであれば話は別ですが、現実的にはそういうことはできないでしょう。そうであれば、遅かれ早かれ、あなたがお住まいの地域にも感染者は入ってきます。たくさん入ってくるようになれば、現在の東京のように誰から感染したかわからない患者も増えてくるでしょう。現在「オーバーシュート」と呼ばれているような、患者数が急激に増加するような事態になれば、医療費削減などでどんどん病床数を減らされている昨今の医療体制など、簡単に破綻してしまうと考えられます。ほんの数週間後、病院に人があふれ、人工呼吸器や人工心肺装置が足りなくなり、「残念ですが治療はできません」と言われる可能性はゼロではないのです。そして、こうなってしまえば、地域封鎖を行っても患者数はどんどん増加します。これは社会全体に、そして日本の未来に、大きく影響を与えます。現在は、「私の住んでいるところは大丈夫だから、イベントなどもすべて解禁しよう」ということではなく、毎日の報道で見られているイタリアやスペイン、ニューヨークの状況を考えて、自分たちはいま何をすべきかを考えていく時期だと思います。今後はどんな心構えで、どんな対策をすればよいのか地域内で感染がまん延しつつあるときに接触頻度の軽減政策を行うことは、実際に感染を減少させる効果があります。これについては、過去の1918年のスペインインフルエンザのときの米国の経験が、学術論文として報告されています。フィラデルフィア市では人口の10%程度が感染してはじめて教会・学校・劇場・公共娯楽施設を1週間閉鎖しただけでしたが、ここでは人口10万当たり死亡率は13,000を記録しました。一方、セントルイス市では、人口の2.2%が感染した時期、最初の死亡例が報告された時点で、劇場・映画館・学校・プール・ビリヤード場・日曜学校・キャバレー・ロッジ・社交場・ダンスホール・野外での集会を即座に閉鎖・中止し、それを2カ月続けました。ここでは人口10万当たり死亡率は1,800程度であったと記録されています。セントルイス市では、封鎖を解いた後若干の死亡率の上昇がありましたが、それでも全体の死亡率はフィラデルフィア市の10%程度ですんでいたわけです。この論文は、外出自粛・学校閉鎖などのSocial Distancingは感染伝播を遅らせるのには十分な効果があるということを示しています。いま、いろんなことをすべて解禁してしまってよいという時期ではありません。「これから少しずつ広がるところかも知れない」と思って、慎重にゆっくり一歩を踏み出すことが求められます。状況によっては、すぐに足を引っ込めなければならないかも知れないのです。また、上述の論文は、今後感染が爆発的に広がっていくことを予防するためには、このような接触頻度の軽減政策は、早ければ早いほど、厳密であればあるほど効果は大きいということも示しています。ゆえに、オーバーシュートすることが予見される場合には、早期に完全な封鎖を行うことが必要になります。当然のことながら、すでに爆発してしまってからでは遅いのです。早期に完全に地域を封鎖して外出禁止としてしまうことは、社会経済的にはかなり大きなインパクトがあり、日常生活にも大きな影響がありますが、それによって多くの命が救われることになります。「分からないことだらけ」で当たり前、臨機応変に対応をもともと風邪のウイルスだから、暖かくなれば自然に減っていくのではないかと思われるかもしれません。確かに季節性のインフルエンザは冬季に流行し、暖かくなると減少します。しかし、アジアの亜熱帯地域や熱帯地域ではインフルエンザは暑くてジメジメした雨季に流行することをご存知でしょうか。2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1pdm09)は、夏から流行が始まりました。気温や湿度は、感染症流行の絶対条件ではなく、人の免疫状態によるところが多いと考えられています。実際、このSARS-CoV-2は現在暑い南半球やアフリカでも広がっていますし、このウイルスに対して人類のほとんどが免疫を持っていないということが影響していると思われます。しかしながら、暖かくなると落ち着くのではないかという意見には全く根拠がないわけでありません。動物実験では、気温が30℃を超えると飛沫の中のウイルスの安定性が落ちて、感染性が低くなると言う報告があります。また、気温や湿度が低いと人の喉の上皮の繊毛運動が低下し、より感染効率が良くなるために、寒いときに流行しやすくなるというデータもあります。これにより、暖かくなると感染伝播効率が落ちると考えるのは決して的外れでとも言えないのです。このウイルスは発見されて数カ月ですから、まだまだわからないところも多いので、今後どうなるかは実際に経過をみてみないとわかりません。もちろん、人類にははじめての経験ですから、わからないのが当たり前であって、注意深く状況をみながらいろんなことを進めていく以外に方法はないのです。参考サイト新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)令和2年4月1日時点版 - 厚生労働省感染症対策特集~様々な感染症から身を守りましょう~ - 首相官邸Q&A on coronaviruses - WHO新型コロナウイルス(2019-nCoV) - NIID 国立感染症研究所特設サイト 新型ウイルス肺炎|NHK NEWS WEB

谷口 清州

2020.4.2

病気をしたら「100%の身体」には戻れない理由

まず重要なことをおさえておきたいと思います。病気になったら、身体が100%元の状態に戻るということはほとんどないと思ってください。表面上は戻ったように見えても、定期的な通院や服薬など、色々大変なことがついて回る場合が多いです。これは覚えておいてください。ですから、「病気になってからお医者さんに行けばいいや」とか「病気になってから治せばいいや」という考え方は間違っています。完全に治る場合もないわけではありませんが、一般的には100%戻ることはありません。心筋梗塞を例に挙げてみましょう。心筋梗塞は、心臓の血管が詰まり、心臓の筋肉などに酸素が届かなくなって栄養不足になり、どんどん腐って壊死していく病気です。血管が詰まってから心筋が壊死するまで、たったの20分しかありません。20分で病院に行き、カテーテル治療を行って、血管の詰まりをなくすことは不可能です。我々医師はなるべく頑張って治療しますが、壊死した筋肉は生き返ることはありません。100%の身体には戻らないことがおわかりでしょう。また、病気になったら通院する必要があります。時間もお金もかかります。心筋梗塞になると、血管にステントという金属の網を入れる治療をすることがあります。ステントは人工物なので、放置しておくと血の塊ができて血管が詰まりやすいため、血液をサラサラにする薬を長期間飲み続ける必要があります。場合によっては一生のこともあります。その薬の作用で、身体をどこかにぶつけたらすぐに内出血するようになったり、歯を抜いたら血が止まりにくくなったりすることもあります。胃カメラや大腸カメラの時には、お薬をやめないと組織を摘まんで組織検査もできません。肺気腫といって、肺の組織が壊れて、呼吸が苦しくなる病気があります。一度壊れた肺の組織が元に戻ることはありません。肺気腫が重症化すれば、鼻から酸素を吸入するための酸素ボンベが必要になります。この治療を在宅酸素といいます。酸素ボンベは家の中でも使いますし、外出の際にはボンベが入ったカートを引いて歩かなければなりません。定年して第二の人生を楽しみたいと思っていたのに、これでは飛行機に乗ってハワイなどの海外旅行に行こうと思ってもなかなか難しいでしょう。つまり、病気にならないようにするのが一番なのです。そのためには、事前にある程度の知識をつけて、準備をしておく必要があります。健康診断は、そのための第一歩です。とはいえ、悪いところを探すばかりが健康診断の目的ではありません。人気医療ドラマ『コード・ブルー』で、山下智久さん演じる藍沢先生はこんなことを言っていました。「検査は何か発見できる場合にだけ意味があるんじゃない。 何もないと証明できれば患者は安心して家に帰れる。 気になったら答えが出るまでやれ」カッコいいこと言いますね。健康診断も同じで、異常がないことを確認し、安心するのも一つの目的です。検査や数値の意味を知り、健康と病気に対する意識を高めていきましょう。病気にならないために、ぜひ健康診断を有効活用してください。

梅村 将就

2020.4.10

「おくすりの基本」クイズに挑戦!『めざせ! おくすりマスター』

薬はジュースで飲んでもいい?「食間」ってどういう意味?薬を飲み忘れたら、2回分を一気に飲めばいいの?知っているようで知らない「おくすりのキホン」。横浜市立大学附属病院 薬剤部長のサハシ先生と一緒に、おさらいしてみましょう!薬を飲みたいけど水がない……。ジュースや牛乳で飲んでもいい?くすりは水で飲みましょう。薬はコップ1杯(180ml)以上の水またはぬるま湯で飲んでください。また、グレープフルーツジュースや牛乳などで飲むと、薬がちゃんと効かなくなることも。お酒で飲むのはもっといけません。効果が強く出すぎてしまうことがあります。その他、サプリメントや納豆なども、薬の効果に影響を与える可能性があります。食べ合わせ、飲み合わせが気になったら、気軽に薬剤師に相談してみてくださいね。「食間に飲んでください」→ 食事中に飲めばいい?食間=食事中ではありません!食間というのは「食事と食事の間」という意味で、食事の約2~3時間後を指します。例えば昼ごはんを12時に食べる人なら、食間の薬を飲むタイミングは14~16時ぐらいがベスト!食べ物や胃酸の影響を避けたい薬は食前、空腹時のほうが吸収がよい薬は食間、胃に負担をかける薬は食後……というように、薬の服用時間にはちゃんと理由があるのです。決められた服用時間を守ってくださいね。薬を飲み忘れちゃった!2回分を一気に飲んでもいい?2回分を一気に飲まないで!薬を飲み忘れたときは、薬の種類や気付いた時間で対応が違います。すぐに気付いた場合は、気付いた時点で服用します。それが1日3回飲む薬なら、次の薬まで4時間以上あけてください。次の服用時間の近くで気付いた場合は、その回をあきらめて、次回から正しく服用すれば大丈夫。忘れたからと言って2回分飲むのはダメ!副作用が出てしまう危険があります。あらかじめ、飲み忘れたときの対応を薬剤師に聞いておくと安心ですね。体調がおかしいような……。このまま薬を飲み続けていい?不安なことは薬剤師・医師に相談を。「なんだか身体の様子がいつもと違う……?」もし薬を飲み始めてから何か不調を感じているなら、副作用が出ている可能性も。眠気や食欲低下、便秘・下痢など、薬の種類によって副作用の出方もさまざまです。副作用は、薬を飲み始めて1カ月以内に起こることがほとんど。飲み始めの1カ月は特に注意しましょう。長い間飲んでいる薬であっても、もし何か不調を感じたら、すぐに医師・薬剤師に相談することが大切です。おくすりマスター5か条薬はコップ1杯(180ml)以上の水またはぬるま湯で飲もう。食間=「食事と食事の間」。食間の薬は食事の約2~3時間後に飲もう。薬を飲み忘れたとき、2回分を一気に飲んではいけません。飲み始めの1カ月は特に、副作用が出ていないか注意しよう。気になることがあればなんでも医師・薬剤師に相談しよう。作画:金田啓介監修:横浜市立大学附属病院 薬剤部長 佐橋幸子

佐橋 幸子

2020.4.3

「健康診断で見つかるがん」は治る? がん入門編

男性の4人に1人、女性の6人に1人が、がんで亡くなる時代です。身の回りにがん闘病中の家族や友人がいるという方も少なくないことでしょう。そんな身近な「がん」ですが、がん細胞ができる原因やがんができにくい臓器など、治療以前の基本的な情報については意外と知られていないようです。今回は「がん入門編」として、石川先生にやさしく解説していただきましょう。そもそも「がん」はなぜできる?がんの原因は?石川先生。いきなりですが、「がん」ってなぜできるんですか?ずばり、がん細胞ができる原因は「細胞分裂のときに起こるミス」ですね。われわれの体の細胞が、毎日生まれては死んで、死んでは生まれているというのはご存じですよね。はい。その「生まれて」というのが、「細胞分裂」のことですよね。そうです。例えば胃の壁を構成している細胞の1つが寿命を迎えても、ほかの元気な細胞の分裂により新しい細胞が生まれることで、胃の壁の働きは保たれています。ちょっと難しい話になりますが、われわれは細胞の一つ一つに「DNA」という体を作る設計図をもっていて、これはアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)という4種類の部品を使って書かれています。細胞分裂をするときには、このA・C・G・Tの組み合わせで書かれた暗号を一言一句間違わずに引き継がなければいけないのですが、細胞分裂のときにミスが起こると、アデニン(A)だったものがシトシン(C)に書き換わってしまったりすることがあります。万が一、がんの発生や抑制に関係する設計図の一部がこのように書き換えられてしまうと、細胞のがん化を止められなくなってしまうのです。どうしてミスが起こってしまうのですか?例えば、1から10までの数を100万回繰り返して書いたとします。そうすれば1回や2回は絶対ミスをするでしょう? 毎日分裂を繰り返しているわれわれの細胞も同じです。疲れていたり、酔っ払っていたり、思考がうまく働いていなかったり……。そういうことが細胞にもあるんですよ。特にミスを起こしやすいのは、細胞の機能が落ちているとき、つまり年をとったときなんです。例えば、15歳くらいの孫と90歳のおじいちゃんの両方が100万回書けば、おじいちゃんのほうがミスをする回数も多いし、それを見逃すことも圧倒的に多くなるんじゃないでしょうか。がんになる臓器、ならない臓器。その違いはここまでの話をまとめると、「細胞が死んだときに新しい細胞を作ろうとするから、がんになる」「不摂生をしている人や年をとった人ほど、新しい細胞を作るときにミスをしやすい」ということになるでしょうか。そういうことです。一方で、「がんにならない臓器」があるのをご存じですか?「がんにならない臓器」……。「細胞が生まれ変わらない臓器」ということでしょうか。そんな臓器があるんですか?あるんですよ、心臓です。「肺がん」や「胃がん」はよく耳にすることがあっても、「心臓がん」って聞いたことないでしょう? あるとしても、ごくまれです。なぜ心臓にがんが発生しないかというと、心臓の細胞は、生まれてから死ぬまでほぼそのままだからです。心筋梗塞のコラムで「死んでしまった心筋を生き返らせることはできない」とお話ししましたよね。最近は「再生医療がもっと発展すれば、細胞も再生できる」という説もありますが、ひとまずその話は置いておくと、心臓の細胞は「おぎゃあ」と生まれてから死ぬまでずっと同じで作り直す必要がないから、がんにはならないというわけです。諸説ありますがね。なるほど! 細胞が死んで新しく生まれ変わる臓器は全てがんになりうるけれど、そうでない臓器にがんはできにくいということですね。そういうことですね。普通ならできそこないの細胞ができても、われわれの体をパトロールしている「免疫くん」がしっかりやっつけてくれています。しかし、不摂生をしたり、高齢になったり、何らかの理由でこの「免疫くん」が疲れてしまうと、できそこないの細胞をやっつけてくれなくなって、そいつをみすみす「がん化」させてしまいます。健康な人も「がん細胞」をもっている?すると先生、できそこないの細胞は誰もがもっているということですか?健康なわれわれの体内でも、がんになる可能性のある細胞がしょっちゅうできていますよ。通常であれば、そいつが小さいうちに「免疫くん」がやっつけてくれているので大ごとにはなりませんが、「誰もが日々がんになっている」と言えるでしょう。それを「免疫くん」がやっつけてくれている!そうです。だから「健康で規則正しい生活をしましょう」と言われるんですね。「免疫くん」が元気でいられるような生活をすることが、がんの予防につながるからです。「免疫くん」が元気なら、できそこないの細胞をやっつけてくれますから。「免疫力を高めることが大切だ」と言われるのはそういうわけなのですね。がんもいろいろ。ざっくり分類すると……がんは進行度合いなどによって、細かく分類されていると聞きました。そうですね、がんにはいろいろな分類があります。がんが疑われる場合は、詳しい検査の結果に基づいて分類を行い、その分類をもとに診断および治療方針を決めていく、という流れになりますね。どんな検査を行うのか、詳しく教えてください。がんが疑われる場合、まずは綿棒などで患部から細胞をこすり取ったり、針やメスなどで組織を採取したりします。これを病理医という細胞・組織診断のプロが顕微鏡で調べるのですが、この検査は「細胞診」や「組織診」と呼ばれます。細胞を調べる場合は「細胞診」。細胞の大きさや形などから細胞の悪性度を調べ、I~Vまでの「クラス(Class)」に分類します。一方、組織を調べる場合は「組織診」と言いますが、これはいわゆる「生検」のことです。細胞の大きさ、形、並び方などから組織の性質を調べ、1~5までの「グループ(Group)」に分類します。なお、組織診は細胞診よりも正確な判断ができることから、細胞診をしないケースも増えています。こういった検査を行うことで、「がんなのかどうか」や「どれぐらい悪いがんなのか」が分かります。ここで「がんである」と判明した場合、初めて「ステージ(Stage)」という分類が出てきます。「ステージI」、「ステージIV」といった言い回しはよく聞きます。どのように分類をするのですか?ステージ分類では、がんがどこまで進んでいるかを判断し、進行度合いによって分類します。例えば胃がんなら、がんが胃の粘膜の一番内側にいるのか、粘膜の下の層にいるのか、胃の筋肉まで進んでいるのか、胃の一番外側、漿膜(しょうまく)まで到達しているのか、もしくはそれも突き破ってほかの臓器にまで広がってしまっているのか。どこでどれくらいの大きさになっているかなどを調べます。なお、がんができた臓器によって分類の仕方は異なります。「ほかの臓器に広がる」というのが、いわゆる「転移」ですか?そのとおり。転移とは、細胞が血液やリンパの流れに乗ってほかの臓器に行くことです。リンパの流れは「リンパ節」という関門を通過しないと次の臓器に行けないので、がんもまずリンパ節に転移することになります。ですから、転移しているリンパ節の数や遠さ、あるいはリンパ節を突破してほかの臓器に転移しているか否かというのも、ステージ分類の判断材料になります。胃がんの場合は、がんが胃の粘膜にとどまってリンパ節に転移していなければ、手術による治療で完治することも少なくありませんよ。健康診断で見つかるのは「治るがん」?がんは早期発見すれば治る病気だとも言われていますよね。がんには「見つけやすくて、たいてい治療することで治るがん」と「見つけにくくて、治療しても治すのが難しいがん」があります。あくまでも一般論ですが、健康診断の項目に入っているようながんは簡単な検査でも見つけやすいうえに、見つかってすぐに治療をすればたいてい治ります。だから検査をして見つけているのです。「治すのが難しいがん」ですか……。そうです。例えば、健康診断の検査項目にはない膵臓(すいぞう)がん。これは簡単な検査で見つけるのが難しいうえに、見つかっても完治させるのが非常に難しい。一方、健康診断で必ずと言っていいほど行われる胃バリウム検査や検便は、胃がんや大腸がんを発見するためのものです。これらのがんは検査も簡単で見つけやすい。そして、早期に治療すればかなりの高い確率で治ります。治る可能性が高いがんを早く発見して、治療しようということですね。そう、「見つかったら治るがん」を見つけようとしているのです。そこに健康診断の重要性があります。多くの人が「検便を出すのは恥ずかしい」とか、「めんどうくさい」とかおっしゃいますが、検査に出さないなんてすごくもったいないと思います。なぜなら、検便で見つかる大腸がんは、他のがんに比べてわりと進行がゆっくりで、「便に血が付いているから検査しましょう」という段階であっても、治せる可能性がとても高いんです。がんの進行が遅ければ、治療して治る可能性も高い。だから検便!早い時期に見つけて、切ってしまえば治ります。だから検便はやったほうがいい。だって見つかったら治るのですから。検便はとても意義のある検査だと思いますよ。便だけで分かるんですから。便を出すだけなら、バリウム検査や採血よりもずっと楽で簡単だと思うんですがねえ。インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2018.9.18

心不全ってどんな病気? 原因・症状・治療方法は

テレビの報道などでもよく耳にする「心不全」。実は病名ではないって、ご存じでしたか? 心臓の病気だと思われがちですが、「心不全」とは病名ではなく、心臓のはたらきが悪くなった結果起こる状態を指しています。石川先生に詳しく解説していただきましょう。心不全って病気?簡単にいうと?心不全とは病名ですか?「心不全」はポンプである心臓の能力が落ちてしまった状態で、病名ではありません。よく比較される「心筋梗塞」は、「心不全」の原因のひとつですね。「心筋梗塞」が起きたけれど、心臓の筋肉は死なずに生き残った。しかし、心臓のポンプ機能は低下してしまった、という状態を「心不全」といいます。心筋梗塞の他にも心不全の原因はありますか?以前は高血圧が心不全の大きな原因でしたが、血圧を下げるよい薬が出てきたこともあって、この20年くらいは心筋梗塞を原因とする心不全が増えています。高血圧が心臓に悪さをしているということですか?そう。例えば、われわれが重たいバーベルを毎日持ち上げていると、筋肉隆々になりますよね。それと同じで、血圧が高いと、心臓はその高い血圧に逆らって血液を送り続けなくてはならないから、心臓の筋肉が太ってしまう。それを「心肥大」と呼ぶんです。心臓が太るとどうして心不全になってしまうのですか?心臓が肥大すると、血液を送る力は強くなりますが、高血圧のまま血液を送り続けていると、そのうち心臓が疲れて、へばっちゃうんです。そうすると、ポンプそのものの能力が落ちてしまいます。原因が心筋梗塞でも高血圧でも、心不全のポイントは心臓のポンプの能力が弱くなってしまうということです。心不全の検査・症状は?どんな検査をすると心不全であることがわかるのでしょうか。エックス線(レントゲン)検査で心臓の大きさを、超音波検査で心臓の動きを確認することができます。また最近は、血液検査で、心臓に負担がかかると分泌されるBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)というホルモンを測ることで、心不全や心肥大を発見できるようになりました。どんな症状が現れたら、心不全を疑えばいいのでしょうか?高血圧や動脈硬化、糖尿病の方は、手足がむくむ、息切れがする、ちょっと動いて息切れがするなどの症状が出たら、できるだけ早く受診してください。特に、高血圧が長く続くと心臓がへばってしまって、命に関わる重度の心不全になることがあります。そうならないためにも、普段からしっかり血圧をコントロールしておくことが重要です。心不全の治療とは?心不全になってしまったら、どんな治療をするのでしょうか?利尿剤と交感神経への刺激を抑える薬の2種類を組み合わせて飲むことが多いですね。心不全になり、心臓のポンプのはたらきが落ちると、全身にうまく血液が巡らないので、腎臓で尿が作られにくくなります。そうすると、本来外へ出るはずの尿が、水分として体の中にたまっていきます。利尿剤を使ってその水分を外に出すことで、心臓への負担を減らします。交感神経への刺激を抑える薬というのはどういう薬ですか?心不全になって心臓の動きが悪くなると、われわれの脳は心臓に「もっと働け」と、交感神経を通じて指令を出します。結果として心臓をいじめてしまうことになるので、薬で交感神経の活動を抑えています。心不全にならないための予防や、気を付けるべきことはありますか?高血圧や動脈硬化、心筋梗塞などの病気をもっている人は、病気を放置することなく、早めに治療することを心がけておくといいと思います。そうすることで、もし心不全になっても、軽い症状で済ますことができますからね。インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2018.5.28

流行が続く風疹。ワクチンを受けたほうがよい人は

流行が続く風疹。子どもの病気と思われがちですが、患者の多くは30~50代の男性や20~30代の女性。まさしく予防接種を受けていないか、免疫を十分に獲得できていない可能性のある人たちです。(*1)最も注意が必要なのは妊婦の感染で、障害をもった赤ちゃんが生まれる可能性があります。ですが、風疹はワクチンで予防できる病気です。風疹にかかったことがない人や予防接種を受けたことがない人、特に妊娠を希望する女性やそのパートナーは積極的に抗体検査を受け、十分な免疫がなければ予防接種を受けましょう。感染の自覚ない人も。風疹の感染経路と症状風疹は、せきやくしゃみなどの飛沫(ひまつ)を吸い込むことで感染し、症状が出るまでの潜伏期間は2~3週間です。発熱や発疹、リンパ節の腫れなどが現れます。また、大人が感染すると、子どもよりも重症化することがあります。一方で、症状が出ない感染者も15%~30%程度いると言われています。(*2)つまり、感染者の中には「風疹にかかった」という自覚がない人がおり、知らないうちに家族や職場の同僚などにうつしてしまうことも少なくありません。感染力はインフルエンザの数倍風疹の感染力はインフルエンザの2~4倍あり、1人の感染者から、免疫がない5~7人に感染させる可能性があります。(*3)風疹は「三日ばしか」という別名のとおり症状は軽めですが、まれに脳炎などの合併症が起こることがあり、決して軽視できない疾患です。なお、自然に感染したりワクチン接種をしたりすることで生涯続く免疫が体内につくられるため、その後は風疹に感染することはないとされています。妊娠中の感染で赤ちゃんに障害も妊婦が感染すると、赤ちゃんが難聴・心疾患・白内障などの障害をもって生まれるおそれがあり、これらの障害を先天性風疹症候群(CRS)といいます。妊娠初期ほどその確率は高くなり、妊娠1カ月で50%以上と言われています。(*4)妊娠したら風疹ワクチンは接種できない妊娠中は予防接種を受けられません。最も大切なことは、妊娠前に風疹ワクチンの接種を受け、免疫を獲得しておくことです。妊娠を希望している女性はもちろん、パートナーや家族、職場の同僚といった周囲の人たちも、ぜひ積極的に予防接種を受けてください。生まれた年で予防接種の機会が違うワクチン接種によって95%以上の人が免疫を獲得することができると言われています。2回の接種を受ければ、1回の接種では免疫がつかなかった人にも免疫をつけることができます。1990年(平成2年)4月2日以降に生まれた男女は、2回の予防接種を受ける機会がありましたが、それより年齢が上の人は受けていても1回だけ。十分な免疫がついていなかった場合、感染の可能性があります。1979年(昭和54年)4月1日以前に生まれた男性にいたっては、接種の機会すらありませんでした。(*5)また過去に風疹にかかったと思っていても、「はしか」など別の病気だったのを勘違いしている可能性もあります。記憶があいまいな場合は、採血による抗体検査を受けてみましょう。抗体検査はどこで受けられる?多くの自治体では、先天性風疹症候群(CRS)の予防のために、妊娠を希望する女性を主な対象とした抗体検査を無料で実施しています。検査といっても簡単で、採血検査のみで抗体価が分かります。無料で受けられるかどうか、どのクリニックで受けられるかなどについては、自治体のホームページでご確認ください。参考文献(*1)風疹急増に関する緊急情報:2018年9月26日現在 – NIID 国立感染症研究所(*2)風疹とは– NIID 国立感染症研究所(*3)風しん・先天性風しん症候群とは?|風しんの感染予防の普及・啓発事業|厚生労働省(*4)先天性風疹症候群とは – NIID 国立感染症研究所(*5)風しんについて|厚生労働省文:Open Doctors編集部

石川 義弘

2019.1.30

「旅行者下痢症」って? 海外で気をつけたい感染症

海外の旅行先で体調を崩すと、せっかくの旅行も楽しめません。今回のコラムでは、よくある下痢症を防ぐために現地でできることや、日本ではめったにかからない感染症から身を守る方法をご紹介します。今回は日本からの渡航者が多い東南アジアの感染症について、国立病院機構・三重病院 臨床研究部長の谷口清州先生にお話を伺いました。感染症のプロでも完全に防ぐのは難しい「旅行者下痢症」━━ 谷口先生が診ることの多い渡航者の病気は何ですか?私がよく診るのは、やっぱり下痢症ですかね。一般的に、海外旅行でかかる下痢症を「旅行者下痢症」といいます。硬水(ミネラル分がたくさん含まれた水)が身体に合わないこともありますし、香辛料など食べ物によるものもありますが、病原体に汚染された水や食品の摂取によって起こる感染性の下痢には注意をしておくべきでしょう。これらの病原体は腸管病原性大腸菌・サルモネラ・ノロウイルス・赤痢・コレラなど多種にわたりますが、一番多いのは腸管病原性大腸菌によるものでしょうか。東南アジアなんかでは屋台で食事をとることもありますよね。私はベトナムで屋台のフォーを食べていて、上にのっけてもらった香草にイモムシがついていて、スープに沈めたらそれが浮いてきたことがあります。しっかり洗っていなかったということでしょうから、他の病原体が付いていても不思議はないですね。━━ 現地で食事をする場合には、どんなことに気をつけたらいいでしょうか?本気で下痢を防ぎたいなら、非加熱のものは一切口にしないほうがいいでしょうね。生水はもちろんダメですし、飲み物にいれる氷も避けた方がよいと思います。必ずミネラルウォーターなど、ボトルに入ったものを飲むようにしてください。ミネラルウォーターでも、ビールやジュースであっても、目の前で栓を抜いてもらうのがいいでしょう。あと、ベトナムの屋台でフォーを注文するとき、現地のことをよく分かっている人は「(トッピングの)香草も湯通しして」と言っていましたね。どこで何を食べるにしても、ちゃんと中まで火が通っているものを食べるようにしてください。━━ 非加熱のものを一切取らないようにすれば、下痢を完全に防げるのでしょうか?加熱したものであっても、加熱後や盛り付け後、あるいは徐々に冷めていく途中で、病原体が混入することもありますし、ミネラルウォーターを注いだグラス、お箸や自分の手など、非加熱のものを食べる以外にも病原体が体に入ってくるルートはありますから、下痢症を完全に防ぐのは難しいと思います。基本を守って、危ういものは避けておくことだろうと思います。それでも下痢をした場合、本当にたまたま当たったとしか言いようがありませんね。楽しいことにはある程度のリスクも伴うものでしょう。━━ 谷口先生も旅行者下痢症に悩まされた経験はありますか?もちろんありますよ。私は仕事上、ガーナに行くことが多いのですが、向こうで欧米人と同じように生野菜のサラダを食べたら、「これはどう考えてもコレラだな」という症状が出ましたね。いわゆる米のとぎ汁状の、大量の水溶性下痢症です。ミントと氷の入った「モヒート」というカクテルで、発熱と下痢に悩まされた後輩もいます。幸い周りはみんな感染症の医者だったので、「これはどう考えても感染性の下痢だから、抗菌薬で様子を見よう」と。それで無事に治って帰ってきました。あとで本人は、きっとミントの葉が汚染されていたのだろうと言っていました。━━ 下痢症になったとき、現地で病院に行ったほうがよいと判断する目安は?水溶性の下痢が続くときや脱水・嘔吐(おうと)が激しいとき、血の混じった下痢が出るときは、病院に行かれたほうがよいと思います。下痢は重症になると一日に何リットルも出ます。そういうときに水分が十分とれない、水分をとってもすべて出てしまうという場合、脱水によって命を落とすこともあります。また、下痢に血が混じっているような場合は抗菌薬が必要ですから、きちんと医療機関にかかって治療を受けてください。途上国からの帰国者に多い感染症は、マラリア・デング熱・腸チフス・A型肝炎━━ 東南アジアなどの途上国では、下痢症以外にどんな感染症が多いですか?やはり風邪、つまりウイルス性上気道炎(ウイルスせいじょうきどうえん)のような、一般的なものが最も多いです。ただ、風邪であれば数日で自然に治ってしまうので、病院にはあまり行きませんよね。病院に来るのは、一向に熱が下がらないとか、発疹が出てきたとか、「いかにも重症感のある場合」だと思います。一般的に、東南アジアやアフリカなどの途上国から帰ってきて熱が下がらないというときは、マラリア・デング熱・腸チフス。この3つは考えておくべきです。これらの病気の潜伏期間は数日のこともありますが、非常に長いときもあります。デング熱の潜伏期間は長いと約2週間、マラリアや腸チフスでは約4週間になることもあります。潜伏期間が長いといえば、A型肝炎も東南アジアの渡航者に多い病気です。こちらも症状が出るまでに約1カ月かかることがあります。帰国してしばらくたっていても、病院を受診した際には、いつごろ、どこへ渡航し、どのような行動をとったかをお伝え頂くことが重要です。━━ マラリア・デング熱・腸チフス・A型肝炎はどんな病気なのでしょうか?マラリアは蚊が媒介する感染症で、38~39度台、時には40度の高い熱が出て、不定期に上がったり下がったりします。かかった人はみな「これまで経験したことがないほど体がだるい」と言いますね。何度もかかれば次第に症状は軽くなっていくのですが、初めてかかったときは重症になりがちなので、とても苦しいようです。デング熱も蚊が媒介する感染症です。症状としてはまず発熱、そしてこの病気は別名「骨折熱」と言われるほど、手足の関節が痛みます。あとは頭痛、特に目の奥が痛くなります。しばらくすると発疹や、出血疹が出てくることもあります。腸チフスも同様に40度近い熱が続きます。チフス菌に汚染された食べ物や水から感染し、おなかが痛くなったり、食欲がなくなったりしますが、どちらかというと便秘気味になり、必ずしも下痢になるわけではありません。途中で「ばら疹」という発疹が出てくることもあります。A型肝炎は『まんがカルテ』の「海外旅行から1カ月後、発熱があり全身だるい(10歳男児)」でも取り上げましたが、症状としては全身のだるさ・発熱・食欲不振・嘔吐・黄疸(おうだん)などです。腸チフスもA型肝炎も、屋台や市場などで菌やウイルスに汚染された食べ物を口にして感染することが多いと思います。━━ どの病気も初期症状は風邪やインフルエンザに似ていますが、受診のタイミングは?そうですね、なかなか熱が下がらないと言って受診される方や、あるいはマラリアなどを心配して受診される方が多いです。海外に渡航された後に体調を崩し、3日以上発熱が続く場合や、体がとってもだるい、咳が激しい、呼吸が苦しい、眼が黄色いなど、いつもの風邪と違うなというときには早めに受診されるのがよいと思います。それから、意外に思われるかもしれませんが、夏の海外旅行でインフルエンザに感染することも結構あります。亜熱帯気候の地域では、雨季にインフルエンザが流行します。雨季は11~1月と6~8月の2回あるので、インフルエンザの流行も1年に2回。そのため、日本の真夏に東南アジアへ行った場合、帰ってきたらインフルエンザだった、ということがあるわけです。出発前にできる対策は? リスクに応じて必要な予防接種を━━ マラリア・デング熱・腸チフス・A型肝炎を予防する方法はありますか?マラリアとデング熱は蚊が媒介する感染症ですから、とにかく蚊に刺されないよう防御することが大切です。できることなら長袖や長ズボンを着用して、なるべく肌を露出しないようにしてください。虫よけスプレーも有効ですが、効果が持続する時間は商品によってまちまちなので、こまめに塗りなおす必要があります。また、マラリアには予防薬がありますので、マラリア流行地へ渡航する際は、医師の診察を受け、リスクを勘案して予防薬を処方してもらってください。腸チフスとA型肝炎に関しては、旅行者下痢症と同様に、汚染されている可能性がある水や食べ物を非加熱のまま口にすることは避けてください。A型肝炎にはワクチンがありますので、感染リスクの高い流行地域に行かれる場合は接種が勧められます、特に1カ月以上滞在される場合は接種された方がよいでしょう。腸チフスには国内で承認されたワクチンはありませんが、特に感染リスクの高い地域、滞在・生活形態の場合には、輸入ワクチン接種を検討することが可能です。━━ A型肝炎以外に、出発前に打って行ったほうがよいワクチンはありますか?今(2019年6月時点)だと、どこへ行くにしても麻疹(ましん/はしか)と風疹のワクチン(通常「麻しん・風しんワクチン」という一つのワクチンです)は、小学生未満では年齢に応じた回数、小学生以降であれば2回接種されていることを確認してください。麻しんになったことがない方、麻しんの予防接種を受けたことがない方、ワクチンを1回しか接種していない方、または予防接種を受けたかどうかが分からない方には、ワクチン接種をお勧めします。また、A型肝炎ワクチンは2~4週間隔で最低2回の接種が必要ですので、渡航前に余裕をもってワクチン接種ができるように計画してください。ワクチン接種後に発熱することもありますので、渡航直前にワクチンを接種することはお勧めできません。とはいえ、渡航先によって受けておいたほうがよい予防接種は異なりますから、『厚生労働省検疫所(FORTH)』などの情報を確認してください。まずは『国・地域別情報』で渡航先を選び、気をつけたい感染症や打っておきたいワクチンに関する情報を入手したら、『予防接種実施機関の探し方』から、お住まいの地域で予防接種が可能な医療機関を探すこともできます。これまでお話してきた感染症に対するリスクは個人個人で異なります。最近は渡航者外来や予防接種外来を設置している医療機関も多いので、そこで相談されることが一番です。ワクチンが必要な病気に感染するというのは、そんなに頻繁に起こることではありません。しかし、起こったときは長い治療が必要になり、命にかかわることもあります。リスクに応じて必要な対策を講じるには、まず「相手を知る」こと。行く先で、今まさにどんな病気が流行しているのかなど、最新情報をつかんでください。参考文献(*1)厚生労働省 検疫所 FORTH(*2)NIID 国立感染症研究所

谷口 清州

2019.7.18

寄り添い導くパートナー。今求められる医師の役割とは

「Open Doctors」とは?今、インターネット上にはたくさんの情報があふれています。当然「医療」にもその影響は及んでいますが、とりわけ医師と患者の間には大きな「情報格差」や「コミュニケーションギャップ」が生まれています。その現状をどうとらえて、どう未来へと進んでいくべきか。ここで紹介するのは、これからの医療の課題を見つめ、医師と患者の在り方をよりよくしていこうと考えている医師ばかりです。そんな医師たちを、私たちは「Open Doctors」と呼んでいます。第1回は、整形外科医・和田 啓義(わだ ひろよし)先生にお話を伺いました。和田先生プロフィール医師、医学博士。専門は整形外科、主に脊椎脊髄外科。医療現場でのコミュニケーションギャップを肌で感じ、その改善を目的として日本医療学会の設立に参画。その後も医療現場の一線に立ちながら、情報格差、コミュニケーションギャップの改善方法を模索している。平成6年 東京女子医科大学 整形外科入局平成9年 テキサス大学ヒューストン校 医学部分子医学部門リサーチフェロー平成12年 東京女子医科大学整形外科 助教平成19年 特定非営利活動法人 日本医療推進事業団勤務平成22年 東京女子医科大学整形外科 講師平成23年 東京女子医科大学東医療センター整形外科 講師平成29年 船橋総合病院 整形外科「情報格差」と「コミュニケーションギャップ」まずは、「情報格差」と「コミュニケーションギャップ」という言葉について教えていただけますか?はい。単純に言うと、「情報格差」は、医師と患者さんの持っている情報量と質が違うということで、「コミュニケーションギャップ」は、医師が持っている情報を患者さんに説明したけれど、理解が十分に得られていないこと、ということです。情報量と質の違いに、理解のズレ、ですか。そうです。例えば、外科の手術を行う前に、1時間かけて説明をしたとします。手術のやり方からメリット、デメリット、手術による合併症や薬の副作用、術後のケア……。医師としては、1から10まで全て説明したつもりです。患者さん、家族も納得して手術を受けられた。しかし、手術後に合併症が起こってしまった場合、患者さんは「こんなことは聞いていません」となることがあります。なぜかと言うと、医師が1時間で話した内容のうち、合併症についての話はその一部にすぎません。しかし、合併症が起こったときには、その原因や理由、治療法に今後の対策と、さらにさまざまな情報が必要になります。そのため、合併症についての詳しい情報を追加でお伝えすると、「聞いていません」となるのです。これは情報格差、コミュニケーションギャップの両方が絡み合った問題です。医療には不確実な要素が多く、さまざまな合併症が生じる可能性があります。特に手術治療では、その合併症が「不可逆性」、つまり元に戻せない性質であることが多く、情報格差やコミュニケーションギャップを原因とする問題が起こりやすいと感じています。医師と患者の「共通言語」としての情報医師として一般の人に情報を出していくのは、「医療の不確実性」つまり医療は完全ではなく不確実な要素が多いことを分かっておいてほしいという気持ちがあるからです。現在の医療は、10年前と比べても格段に進歩していると言えます。テレビやネットでは、医療分野における新しい発見や新しい技術が、日々取り上げられています。しかし捉え方を変えれば、「発見されただけ」で「実用化されていない」わけですから、まだまだ分からないことやできないことがたくさんあるとも言えるでしょう。 実際の医療現場では、「現在の医療レベルで適切と言われること」を行っているという現実があります。これは確実なものではなく、「不確実性」をはらんでいます。その「不確実性」の中には、個々の病気の特殊性や個人個人の多様性も含まれていて、結果として先ほどお話ししたような合併症につながってしまうこともあり得ます。医師側と患者側の情報格差を解消するのは非常に難しいことだとは思いますが、できるだけその間を埋めるような努力をしていくべきでしょう。これは、情報を多く持っている側、つまり医師側が努力をしていくことでしか、本質的な解決は望めません。そして、患者さんにとって分かりやすい情報を医師と患者で共有できれば、医師の側にもプラスになるだろうと思っています。 例えば、自分の専門の整形外科領域では、患者さん向けの疾患ガイドブックを日本整形外科学会が作成しています。学会が研究結果に基づき作成した、ある病気についての標準的な診療方針や治療などがまとめられた資料を「ガイドライン」と言うのですが、これは医師向けなので、一般の方にはなじみのない表現や、分かりにくい部分もある。ガイドブックというのは、これを患者さん向けに分かりやすくしたものです。 自分は、診察の現場ではまずガイドブックを用いて病状を説明します。さらに深く知ってもらえるように、本での購入を希望する方には表紙のコピーを渡すか、無料で見ることのできる『Mindsガイドラインライブラリー』というWebサイトを紹介しています。患者さんがどこまでの情報を求めているかは個人によって異なるとは思いますが、自分の命に関わることであれば、やはり多くの情報をもとに自分で決めていきたいだろうと思うんです。でも、中には「先生が決めてください」という患者さんもいるのでは?そうですね。一通り説明しても、決められない。そうすると、よくあるのが「ほかのみなさんはどうしていますか?」という質問です。たとえ今までは周りの人と違うことを選ぼうとしてきた方であっても、医療の話になると「平均」を求める傾向にあります。「平均的なこと」を知るにはガイドラインを読むのが一番なので、ガイドブックが分かりやすい場所にたくさんあることは重要だと思います。患者さんがガイドラインを理解していれば、「自分はどうもこれに当てはまると思いますが、先生はどう思いますか?」「そうですね。この段階ですね。そうなるとこれが標準治療になります。ここをもう1回読んできてくださいね。」となる。そして「この治療になるとこういう合併症が起こる可能性もあります。」などと話していって、「この幅の中でどの治療法を選びますか?」という会話ができるようになるのです。共通言語ができるんですね。そういうことですね。こうなれば、情報格差がなくなります。情報格差がなくなると共通言語が生まれて、ギャップが埋まる。患者さんも「自分で選択」できるわけです。決めてほしい患者、情報を見るなと言う医師しかし、決めてほしい患者さんに対しては、共通言語を持つ、つまり同じ土俵に立ってもらうまでが大変なのかな?という気がするのですが。そうですね。本人の自覚と、時間が必要にはなると思います。情報化社会と言われる前は、『論語』にある「よらしむべし、知らしむべからず」のような考え、つまり「患者は病気や治療について詳しく知らなくても、医師が患者にとってベストと思う治療を行えばよい」と考える医師が多く、それがよしとされてもいたとも思います。患者さんが自分でどの治療を受けるか選択するという文化はほとんどありませんでしたからね。わたしの友人は、乳がんになったときに医師から「一切、ネットで病気の検索をするな」と言われたそうです。どのような状況での発言か分かりませんが、ネットにも病気に関する有用な情報は載っています。一方で民間療法に関するものや、不安をあおって「お金を出せばなんとかなる!」とうたう詐欺まがいのものまであり、何がいいのか分からなくなっちゃう。それを心配して、「見るな」と言われたのかしれませんね。でも「見るな」というのは一つの方法ではあるけれど、このネット社会で「未来永劫(えいごう)見るな」というわけにはいかないと思います。そうですよね。経営コンサルタントの梅田望夫さんが著書『ウェブ人間論』の中で、誤った情報が出てきてしまったとき、それを一つ一つつぶすんじゃなくて、正しい情報をたくさん発信していくことが大事なのだといったことを書かれていました。たくさん発信していくと誤った情報が正しい情報で埋め尽くされていき、結果正しい情報が広まっていくと。確かにそうだと思いましたし、正しい情報を出していくほうが、将来的には社会にはプラスになるんだとも思いました。それによって、医療の質も高くできるかもしれない。そのときに、正しい情報は誰が出すの?と言ったら、やはり医師が出すしかないのではないでしょうか。医師がガイドラインから一歩進んで、より分かりやすい患者向けガイドブックを作ったのは、その一つの流れと思います。医師だけが情報を抱え込む時代は、終わりを迎えつつあるのではないかなと思っています。導き手としての医師では、これから医師はどうあるべきなのでしょうか?先ほどお話したように、患者さんはガイドラインを読んで「わたしはきっとこの状態だ」と知ることはできるのですが、やはり自信が持てないんです。そこで、医師のところに行って検査を行い、画像などの結果を一緒に見ながら医師の判断を聞き、一緒に治療方針を考えていく。そこに医師の立ち位置がある。医師は導き手になる、というのが僕の考えです。そこまで念頭に置いて、「インターネットでどんどん見てください」と僕は言います。その上で、「もし、分からないことがあったら持ってきてください」と言っています。もちろんその前にガイドラインの説明をし、「これは多くの専門医師が多くの論文をもとに、今の一般的な方針を書いたものだから、まずはこれを読んでください。」と言っています。同じものを共有しながら導くのが医師の役割になっていくということですね。病を自分ごととしてとらえるしかし、そのやり方だと治療方針を決めるのにも時間がかかりそうですね。はい。時間はかかります。1回の診察では時間の制限があるので、最初はガイドラインを用いて説明し、さらに自宅で読んで勉強してもらい、次の外来で疑問点に答える。こういう形で、何度かに分けて理解をしてもらっています。でも、この時間があることによって患者さんは自分の病気と向き合い、“自分ごと”として理解するようになっていきます。数日のタイムラグを惜しむより、自分の病気としてしっかりとらえて、自分で決めていくことが大事なんです。そうすると、どんな結果になったとしても、自分が前を向いていけるから。医師の言う通りにしてうまくいかないと「だからやらなければよかった」となりがちです。しかし、自分で考えて選択した場合には、たとえ思った通りの結果にはならなくても、その結果に向き合っていくことができます。治療は一時ですが、結果は一生。どのように病をとらえていくかは、本当に大事なことだと考えています。自分のものとしてとらえることが重要なんですね。でも「自分で決めよう」という気持ちを引き出すのは大変そうです。そうですね。患者さんに「先生だったらどうしますか?」と聞かれることもあります。自分は正直に「僕も悩みます」と答えると「先生、ずるいですね」って言われるんです。(笑)でも、医師は病気を診断することはできても、「医療の不確実性」があるために、その治療結果に絶対はありません。となると、何が本当に大事なのか優先順位を決めていくしかないのですが、その優先順位は個人の価値観や人生観も含めて考えないと分からないのです。ですから、「自分もその場面になって初めて、本当の答えを出すために悩む」というのはうそではないと思っています。以上の言葉を、それこそコミュニケーションギャップのないように伝えた上で、「大事なのは、自分で決めることです」と言っています。「決められない」も「答え」である「自分で決められない」患者さんにはどうされるんですか?実は、「決められない」ということも「答え」なんです。例えば、手術は「決めた」ときにしかできないので、「決められない」というのは「やらない」と決めたことと同じことになるのです。確かにそうですね。だから「決められない」というのも、その人の答えであり、人生観に基づく判断と理解しています。これは、あくまでも自分の考えですので、扱う病気によっても違うかもしれません。自分は整形外科の中でも脊椎外科が専門で、加齢に伴う疾患を多く診ているから「自分で決める」ということについて比較的時間をかけてお話しできるのかもしれませんね。これからの医師の価値とは決めたい人にとっても、決められない人にとっても、このサイトのような情報源は重要な役割になると感じます。そうですね。情報が整備されれば、正しい情報にアクセスする患者さんが増えて、変な情報にアクセスしにくくなる。これだけ情報を出すと、医師に何の価値があるのかなと思われそうですが、逆に医師の価値は「あなたはこういう状態ですよ」と診断をして、次のステップに進む手助けする部分にあると思います。それが先生の言う「導き手」としての医師の姿ですね。はい。ほかにも診療の現場では、これまで言葉だけで説明していたものを、絵や画像、冊子などを使って伝えるなど、患者さんに「残る情報」にしていく工夫もしています。そして、自分が渡しきれない情報をインターネットで見てきてもらい、次回それについて話して、情報を修正する。事実がしっかりとありながら、患者さん側が誤解して受け取っていることもありますからね。Open Doctorsのような情報媒体をどんどん使っていけたらいいのではないかと思っています。これからは、「自分(医師)だけが情報源である」という医療のスタイルから、患者さんがアクセスできる情報がたくさんある中で、医師はその情報を整理してあげる「患者さんのパートナー」的な役割になっていくと考えています。「今のあなたは、その状態ではないから、こちらの情報をもとに考えていきましょう。」などと情報を修正しつつ、お互い理解して進めていく。多くの患者さんを診ている医師だからこそできることと思います。どんなに情報が増えても、その部分は変わらないでしょう。和田先生は、「自分自身が納得した人生を歩むために、自ら選択する。」「医師はその“導き手”であり、“パートナー的存在”になっていく」と語ります。人はいつか必ず死を迎えます。そして、日本の現代社会に暮らす私たちのほとんどが、その手前で健康を損ない、医療を受ける側になります。そのとき私たちは、どんな選択をするのでしょうか。患者としていつか医療に関わる私たちも、健康や医療にもっと関心を持ち、情報化社会の中で賢く学んでいく。そうすることで、いざ医療を受けることになったときも、納得した形で、人生を歩んでいくことができるのではないでしょうか。インタビュー・文:亀山 美千代

和田 啓義

2018.6.27

健康診断と人間ドックはどう違うの?

健康診断と人間ドックはどう違うのかといいますと、実はあまり大きくは変わりません。違いがあるとすれば、人間ドックのほうが検査の項目が多いことでしょうか。たとえば、腹部エコー(腹部に超音波をあてて調べる検査)は、人間ドックでは行うことが多いです。あとは眼圧検査という緑内障などを調べる検査があります。さらにオプションを付けて、いろいろ細かな検査を受けることができます。とはいえ、検査の項目が多くても、それがどういう意味を持つ検査なのか知らなかったり、検査結果を見ても意味がわからなかったりしたら、人間ドックも健康診断もあまり変わらないということになります。人間ドックは自分の意思で受ける「任意型健診」ですが、健康診断は雇用形態にもよりますが、一般には会社員の方なら会社によって年に1回受けることが義務付けられています。また、人間ドックの費用は自己負担ですが、健康診断はほとんどの場合、費用は会社負担です。人間ドックでも、会社がある程度お金を負担してくれることがあるので、興味がある方は総務部などに問い合わせてみてください。人間ドックに比べると、健康診断の方が受ける機会が多く、費用面から見ても受けやすいということは言えると思います。大切なのは、健康診断にせよ人間ドックにせよ、その結果がどういう意味を持つのか、知ろうとすること。せっかくお金をかけてもらったフィードバックを改善に生かさず、ただ捨ててしまうのでは、あまりにもったいないと思いませんか?このコラムでは、健康診断の結果でみなさんが疑問に思われるであろうことを詳しく解説していきます。次回も続けて読んでくださいね。

梅村 将就

2020.3.5

Open Doctorsは病気についての正しい知識をやさしい言葉で紹介。お医者さんとの間にある情報の差を解消することで、あなたの意思決定を支援します。

produced by
市民・患者のための健康・医療コミュニケーション学会