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流行が続く風疹。ワクチンを受けたほうがよい人は

流行が続く風疹。子どもの病気と思われがちですが、患者の多くは30~50代の男性や20~30代の女性。まさしく予防接種を受けていないか、免疫を十分に獲得できていない可能性のある人たちです。(*1)最も注意が必要なのは妊婦の感染で、障害をもった赤ちゃんが生まれる可能性があります。ですが、風疹はワクチンで予防できる病気です。風疹にかかったことがない人や予防接種を受けたことがない人、特に妊娠を希望する女性やそのパートナーは積極的に抗体検査を受け、十分な免疫がなければ予防接種を受けましょう。感染の自覚ない人も。風疹の感染経路と症状風疹は、せきやくしゃみなどの飛沫(ひまつ)を吸い込むことで感染し、症状が出るまでの潜伏期間は2~3週間です。発熱や発疹、リンパ節の腫れなどが現れます。また、大人が感染すると、子どもよりも重症化することがあります。一方で、症状が出ない感染者も15%~30%程度いると言われています。(*2)つまり、感染者の中には「風疹にかかった」という自覚がない人がおり、知らないうちに家族や職場の同僚などにうつしてしまうことも少なくありません。感染力はインフルエンザの数倍風疹の感染力はインフルエンザの2~4倍あり、1人の感染者から、免疫がない5~7人に感染させる可能性があります。(*3)風疹は「三日ばしか」という別名のとおり症状は軽めですが、まれに脳炎などの合併症が起こることがあり、決して軽視できない疾患です。なお、自然に感染したりワクチン接種をしたりすることで生涯続く免疫が体内につくられるため、その後は風疹に感染することはないとされています。妊娠中の感染で赤ちゃんに障害も妊婦が感染すると、赤ちゃんが難聴・心疾患・白内障などの障害をもって生まれるおそれがあり、これらの障害を先天性風疹症候群(CRS)といいます。妊娠初期ほどその確率は高くなり、妊娠1カ月で50%以上と言われています。(*4)妊娠したら風疹ワクチンは接種できない妊娠中は予防接種を受けられません。最も大切なことは、妊娠前に風疹ワクチンの接種を受け、免疫を獲得しておくことです。妊娠を希望している女性はもちろん、パートナーや家族、職場の同僚といった周囲の人たちも、ぜひ積極的に予防接種を受けてください。生まれた年で予防接種の機会が違うワクチン接種によって95%以上の人が免疫を獲得することができると言われています。2回の接種を受ければ、1回の接種では免疫がつかなかった人にも免疫をつけることができます。1990年(平成2年)4月2日以降に生まれた男女は、2回の予防接種を受ける機会がありましたが、それより年齢が上の人は受けていても1回だけ。十分な免疫がついていなかった場合、感染の可能性があります。1979年(昭和54年)4月1日以前に生まれた男性にいたっては、接種の機会すらありませんでした。(*5)また過去に風疹にかかったと思っていても、「はしか」など別の病気だったのを勘違いしている可能性もあります。記憶があいまいな場合は、採血による抗体検査を受けてみましょう。抗体検査はどこで受けられる?多くの自治体では、先天性風疹症候群(CRS)の予防のために、妊娠を希望する女性を主な対象とした抗体検査を無料で実施しています。検査といっても簡単で、採血検査のみで抗体価が分かります。無料で受けられるかどうか、どのクリニックで受けられるかなどについては、自治体のホームページでご確認ください。参考文献(*1)風疹急増に関する緊急情報:2018年9月26日現在 – NIID 国立感染症研究所(*2)風疹とは– NIID 国立感染症研究所(*3)風しん・先天性風しん症候群とは?|風しんの感染予防の普及・啓発事業|厚生労働省(*4)先天性風疹症候群とは – NIID 国立感染症研究所(*5)風しんについて|厚生労働省文:Open Doctors編集部

石川 義弘

2019.1.30

これってインフルエンザ……? 初期症状と、かかった場合の治療方法を解説

毎年冬になると流行するインフルエンザ。「ただの風邪だと思っていたら、インフルエンザだった!」なんてことになったら、子どもやお年寄りであれば症状が重くなるリスクもありますし、ウイルスをまき散らすことにもなりかねません。そこで今回は、風邪とインフルエンザの症状の違いを知り、もしインフルエンザにかかっていた場合はどんな治療が必要なのか、おさらいしましょう。風邪とインフルエンザの違いって何?風邪はさまざまなウイルスによって引き起こされる、基本的に自然治癒傾向のある疾患です。多くは、発熱・のどの痛み・鼻汁・くしゃみ・咳などの症状が中心です。一方、インフルエンザはインフルエンザウイルスにより引き起こされる感染症です。38℃以上の発熱・頭痛・関節痛・筋肉痛・全身倦怠感などの症状が比較的急速に現れます。普通の風邪と同じように、のどの痛み・鼻汁・咳などの症状が見られる場合もありますが、特徴的なのは気道の症状だけではなく、全身的な症状が強いということです。「インフルエンザかも」と思ったら?急激な高熱など「インフルエンザかも」と疑いを感じたとき、症状が強い場合やインフルエンザが重症化するリスクのある場合(注)などは、状況に応じて医療機関を受診しましょう。抗インフルエンザウイルス薬の投与により、発熱期間を1日短縮することと、合併症を減らす効果が認められています。インフルエンザの治療方法医療機関でインフルエンザと診断されたら、以下の2つの治療をおこなうことになります。水分・睡眠を十分にとり、安静にするもともと健康な人にとっては、インフルエンザは風邪と同様に自然治癒する疾患です。水分を十分にとり、しっかり眠って安静に過ごしましょう。症状やリスクに応じて薬の服用も高齢者や幼児、妊婦、持病のある人は、健康な人と比べて症状が重くなりやすい傾向にあります。そういった人々や、発熱・頭痛などの症状が重い人などに対しては、医師が必要と判断した場合に抗インフルエンザウイルス薬や解熱鎮痛薬などの薬が処方されます。薬が処方されたら、その効果を最大限に発揮させるために、用法・用量・服用する日数をきちんと守りましょう。抗インフルエンザウイルス薬のもっとも効果的な服用時期は?インフルエンザウイルスは増殖のスピードが速く、発症後48時間以内にウイルス増殖のピークがおとずれます。したがって、抗インフルエンザウイルス薬は“発症から48時間以内に服用”することが望ましいとされていますが、この期間を過ぎても効果がないわけではありません。適切な時期に服用を開始した場合、発熱期間が通常1~2日間短縮され、鼻やのどからのウイルス排出量も減少することが分かっています。処方される主な抗インフルエンザウイルス薬インフルエンザに処方される治療薬は、下記に挙げた抗インフルエンザウイルス薬が代表的なものです。投与する薬は医師が選択しますが、薬の形状や服用回数など、希望があれば伝えておきましょう。タミフル一般名:オセルタミビルリン酸塩。カプセル剤もしくはシロップで、1日2回、5日間投与します。今シーズンからはジェネリック薬(後発薬)も選べるようになりました。リレンザ一般名:ザナミビル水和物。専用の吸入器を用いて吸入し、1日2回、5日間投与します。イナビル一般名:ラニナミビルオクタン酸エステル水和物。専用の吸入器を用いて吸入し、1回のみ投与。今シーズンから、より吸入しやすいように、使用する際に生理食塩液を加え、ジェット式ネブライザで吸入するタイプも使用可能になりました。ゾフルーザ一般名:バロキサビルマルボキシル。錠剤で、規定量を1回のみ投与します。小児(12歳未満)へのゾフルーザの投与については慎重に日本感染症学会は2019年10月24日、抗インフルエンザウイルス薬「ゾフルーザ」について、「12歳以上については臨床データが乏しく推奨/非推奨は決められない」「12歳未満の小児に対しての投与は慎重に検討するべき」との提言を発表しました。12歳未満の子どもにゾフルーザを投与したところ、薬の効きにくい耐性ウイルスの出現頻度が高いという報告が上がっているためです。日本感染症学会は以下の提言を行っています。(1)12~19歳および成人:臨床データが乏しい中で、現時点では、推奨/非推奨は決められない。(2)12歳未満の小児:低感受性株(※編集部注:低感受性株=薬の効きにくい耐性ウイルスのこと)の出現頻度が高いことを考慮し、慎重に投与を検討する。(3)免疫不全患者や重症患者では、単独での積極的な投与は推奨しない。投与が規制されているわけではありませんが、耐性ウイルスにより症状が長引いたり、またその薬の効きにくいウイルスが他の人に移ったりしますので、上記のような提言が出されています。治療薬を服用していなくても現れる?子どもの「異常行動」インフルエンザにかかった際、「急に走り出す」「部屋から飛び出そうとする」などの異常行動が見られる場合があります。これらは、抗インフルエンザウイルス薬を服用しているか否かにかかわらず、発熱から2日以内に見られやすい症状であることが、近年の研究で明らかになっています。また、就学以降の小児・未成年の男性に多く現れることも分かっています。重度の異常行動は、転落事故につながる恐れもあります。小児・未成年者がインフルエンザと診断されたら、事故の危険が少ない場所に寝かせ、少なくとも2日間は1人にしないようにしてください。参考文献・厚生労働省 インフルエンザQ&A・日本感染症学会 日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」文:Open Doctors編集部

谷口 清州

2020.1.8

「健康診断で見つかるがん」は治る? がん入門編

男性の4人に1人、女性の6人に1人が、がんで亡くなる時代です。身の回りにがん闘病中の家族や友人がいるという方も少なくないことでしょう。そんな身近な「がん」ですが、がん細胞ができる原因やがんができにくい臓器など、治療以前の基本的な情報については意外と知られていないようです。今回は「がん入門編」として、石川先生にやさしく解説していただきましょう。そもそも「がん」はなぜできる?がんの原因は?石川先生。いきなりですが、「がん」ってなぜできるんですか?ずばり、がん細胞ができる原因は「細胞分裂のときに起こるミス」ですね。われわれの体の細胞が、毎日生まれては死んで、死んでは生まれているというのはご存じですよね。はい。その「生まれて」というのが、「細胞分裂」のことですよね。そうです。例えば胃の壁を構成している細胞の1つが寿命を迎えても、ほかの元気な細胞の分裂により新しい細胞が生まれることで、胃の壁の働きは保たれています。ちょっと難しい話になりますが、われわれは細胞の一つ一つに「DNA」という体を作る設計図をもっていて、これはアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)という4種類の部品を使って書かれています。細胞分裂をするときには、このA・C・G・Tの組み合わせで書かれた暗号を一言一句間違わずに引き継がなければいけないのですが、細胞分裂のときにミスが起こると、アデニン(A)だったものがシトシン(C)に書き換わってしまったりすることがあります。万が一、がんの発生や抑制に関係する設計図の一部がこのように書き換えられてしまうと、細胞のがん化を止められなくなってしまうのです。どうしてミスが起こってしまうのですか?例えば、1から10までの数を100万回繰り返して書いたとします。そうすれば1回や2回は絶対ミスをするでしょう? 毎日分裂を繰り返しているわれわれの細胞も同じです。疲れていたり、酔っ払っていたり、思考がうまく働いていなかったり……。そういうことが細胞にもあるんですよ。特にミスを起こしやすいのは、細胞の機能が落ちているとき、つまり年をとったときなんです。例えば、15歳くらいの孫と90歳のおじいちゃんの両方が100万回書けば、おじいちゃんのほうがミスをする回数も多いし、それを見逃すことも圧倒的に多くなるんじゃないでしょうか。がんになる臓器、ならない臓器。その違いはここまでの話をまとめると、「細胞が死んだときに新しい細胞を作ろうとするから、がんになる」「不摂生をしている人や年をとった人ほど、新しい細胞を作るときにミスをしやすい」ということになるでしょうか。そういうことです。一方で、「がんにならない臓器」があるのをご存じですか?「がんにならない臓器」……。「細胞が生まれ変わらない臓器」ということでしょうか。そんな臓器があるんですか?あるんですよ、心臓です。「肺がん」や「胃がん」はよく耳にすることがあっても、「心臓がん」って聞いたことないでしょう? あるとしても、ごくまれです。なぜ心臓にがんが発生しないかというと、心臓の細胞は、生まれてから死ぬまでほぼそのままだからです。心筋梗塞のコラムで「死んでしまった心筋を生き返らせることはできない」とお話ししましたよね。最近は「再生医療がもっと発展すれば、細胞も再生できる」という説もありますが、ひとまずその話は置いておくと、心臓の細胞は「おぎゃあ」と生まれてから死ぬまでずっと同じで作り直す必要がないから、がんにはならないというわけです。諸説ありますがね。なるほど! 細胞が死んで新しく生まれ変わる臓器は全てがんになりうるけれど、そうでない臓器にがんはできにくいということですね。そういうことですね。普通ならできそこないの細胞ができても、われわれの体をパトロールしている「免疫くん」がしっかりやっつけてくれています。しかし、不摂生をしたり、高齢になったり、何らかの理由でこの「免疫くん」が疲れてしまうと、できそこないの細胞をやっつけてくれなくなって、そいつをみすみす「がん化」させてしまいます。健康な人も「がん細胞」をもっている?すると先生、できそこないの細胞は誰もがもっているということですか?健康なわれわれの体内でも、がんになる可能性のある細胞がしょっちゅうできていますよ。通常であれば、そいつが小さいうちに「免疫くん」がやっつけてくれているので大ごとにはなりませんが、「誰もが日々がんになっている」と言えるでしょう。それを「免疫くん」がやっつけてくれている!そうです。だから「健康で規則正しい生活をしましょう」と言われるんですね。「免疫くん」が元気でいられるような生活をすることが、がんの予防につながるからです。「免疫くん」が元気なら、できそこないの細胞をやっつけてくれますから。「免疫力を高めることが大切だ」と言われるのはそういうわけなのですね。がんもいろいろ。ざっくり分類すると……がんは進行度合いなどによって、細かく分類されていると聞きました。そうですね、がんにはいろいろな分類があります。がんが疑われる場合は、詳しい検査の結果に基づいて分類を行い、その分類をもとに診断および治療方針を決めていく、という流れになりますね。どんな検査を行うのか、詳しく教えてください。がんが疑われる場合、まずは綿棒などで患部から細胞をこすり取ったり、針やメスなどで組織を採取したりします。これを病理医という細胞・組織診断のプロが顕微鏡で調べるのですが、この検査は「細胞診」や「組織診」と呼ばれます。細胞を調べる場合は「細胞診」。細胞の大きさや形などから細胞の悪性度を調べ、I~Vまでの「クラス(Class)」に分類します。一方、組織を調べる場合は「組織診」と言いますが、これはいわゆる「生検」のことです。細胞の大きさ、形、並び方などから組織の性質を調べ、1~5までの「グループ(Group)」に分類します。なお、組織診は細胞診よりも正確な判断ができることから、細胞診をしないケースも増えています。こういった検査を行うことで、「がんなのかどうか」や「どれぐらい悪いがんなのか」が分かります。ここで「がんである」と判明した場合、初めて「ステージ(Stage)」という分類が出てきます。「ステージI」、「ステージIV」といった言い回しはよく聞きます。どのように分類をするのですか?ステージ分類では、がんがどこまで進んでいるかを判断し、進行度合いによって分類します。例えば胃がんなら、がんが胃の粘膜の一番内側にいるのか、粘膜の下の層にいるのか、胃の筋肉まで進んでいるのか、胃の一番外側、漿膜(しょうまく)まで到達しているのか、もしくはそれも突き破ってほかの臓器にまで広がってしまっているのか。どこでどれくらいの大きさになっているかなどを調べます。なお、がんができた臓器によって分類の仕方は異なります。「ほかの臓器に広がる」というのが、いわゆる「転移」ですか?そのとおり。転移とは、細胞が血液やリンパの流れに乗ってほかの臓器に行くことです。リンパの流れは「リンパ節」という関門を通過しないと次の臓器に行けないので、がんもまずリンパ節に転移することになります。ですから、転移しているリンパ節の数や遠さ、あるいはリンパ節を突破してほかの臓器に転移しているか否かというのも、ステージ分類の判断材料になります。胃がんの場合は、がんが胃の粘膜にとどまってリンパ節に転移していなければ、手術による治療で完治することも少なくありませんよ。健康診断で見つかるのは「治るがん」?がんは早期発見すれば治る病気だとも言われていますよね。がんには「見つけやすくて、たいてい治療することで治るがん」と「見つけにくくて、治療しても治すのが難しいがん」があります。あくまでも一般論ですが、健康診断の項目に入っているようながんは簡単な検査でも見つけやすいうえに、見つかってすぐに治療をすればたいてい治ります。だから検査をして見つけているのです。「治すのが難しいがん」ですか……。そうです。例えば、健康診断の検査項目にはない膵臓(すいぞう)がん。これは簡単な検査で見つけるのが難しいうえに、見つかっても完治させるのが非常に難しい。一方、健康診断で必ずと言っていいほど行われる胃バリウム検査や検便は、胃がんや大腸がんを発見するためのものです。これらのがんは検査も簡単で見つけやすい。そして、早期に治療すればかなりの高い確率で治ります。治る可能性が高いがんを早く発見して、治療しようということですね。そう、「見つかったら治るがん」を見つけようとしているのです。そこに健康診断の重要性があります。多くの人が「検便を出すのは恥ずかしい」とか、「めんどうくさい」とかおっしゃいますが、検査に出さないなんてすごくもったいないと思います。なぜなら、検便で見つかる大腸がんは、他のがんに比べてわりと進行がゆっくりで、「便に血が付いているから検査しましょう」という段階であっても、治せる可能性がとても高いんです。がんの進行が遅ければ、治療して治る可能性も高い。だから検便!早い時期に見つけて、切ってしまえば治ります。だから検便はやったほうがいい。だって見つかったら治るのですから。検便はとても意義のある検査だと思いますよ。便だけで分かるんですから。便を出すだけなら、バリウム検査や採血よりもずっと楽で簡単だと思うんですがねえ。インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2018.9.18

健康診断の3日前から断酒する人が「残念」な理由

身体が元気でも、健康診断の結果、数値に異常が見つかったら、かかりつけのお医者さんに相談したり、精密検査を受けたりしてください。健康診断は、車検と一緒です。愛車を車検に出して、業者の人から「エンジンが壊れていましたよ」とか「タイヤがすり減っていましたね」と言われたのに、「直しませんでした」と言われてそのまま車が戻ってきたら、みなさんどう思いますか?「検査で異常が見つかったのに、どうして直さないの?」と思うのではないでしょうか。健康診断で数値に異常が見つかったのに精密検査に行かないのは、車検で異常が見つかった車にそのまま乗っているのと同じことです。また、健康診断は「自分の身体の通信簿」です。毎年もらえる通信簿と考えてください。自分の子どもには通信簿を見せろというのに、パートナーには自分の健康診断の結果を隠す、なんて人はいませんか? 数値といえば、健康診断のとき、「3日前から断酒してコンディションを仕上げてきました」とドヤ顔をする方がいます。これは二重の意味で残念です。まず、健康診断は数値を競うオリンピックではありません。その日に良い数値を出せばいいというわけではないのです。日頃の身体の状態を知ることが重要なので、良い数値を出そうと3日前から努力しても意味がありません。もう一つ、3日前からでは数値は変わりません。特にお酒に関係する項目のγ-GTPは100だった値が50になるまで3週間かかります。だから、飲んでいるのはバレバレなのです。数字は嘘をつきません。γ-GTPの値を下げたいなら、日頃から断酒、節酒したほうがいいでしょう。健康診断は身体の悪いところを見つけて治すために行うものです。ぜひ活用してください。

梅村 将就

2020.3.12

不整脈が起これば死も。増える心筋梗塞の危険因子

心筋梗塞というと、死ぬほど胸が痛い、必ず死に至る……、そんな怖いイメージを持つ人も多いのでは。今は優れた薬や治療法のおかげで、早期に治療を開始すれば命を落とすことはなくなってきました。しかし現代の生活において、心筋梗塞の危険因子は確実に増えているようです。心筋梗塞ってなに?今回のテーマは「心筋梗塞」です。心筋梗塞という単語はニュースなどでよく耳にしますが、実際のところどのような病気なのでしょう?心筋梗塞の「梗塞」は、「血管が詰まる」という意味なんです。血管が詰まると、その先の筋肉に血液が流れていかなくなります。これが心臓で起こるのが「心筋梗塞」で、脳で起これば「脳梗塞」ということになりますね。なるほど、「心筋梗塞」は心臓の血管が詰まる病気なんですね。心臓には右冠動脈、左冠動脈(前下行枝)、左冠動脈(回旋枝)という3本の大きな血管(冠動脈)があって、心臓のすべての筋肉に血液を送っています。しかし、動脈硬化などが原因で3本のうちの心臓の血管のどれかが詰まってしまうと、その先にある心臓の筋肉(心筋)は酸素を受け取ることができず壊死(えし)、つまり死んで動かなくなってしまいます。心不全についてのコラムでもお伝えしましたが、心臓は全身に血液を送るポンプの役割を果たしています。心筋の一部が動かなくなるというのはポンプの故障と同じなので、血液を全身にうまく送れなくなってしまうのです。心筋梗塞になると何が起こるの?「ポンプの故障」ですか。そうです。このポンプの故障は多くの場合「不整脈」として現れますが、この不整脈が心筋の縮む順番をめちゃくちゃにしてしまうと、最悪の場合死に至ります。運よく不整脈が起こらず生きながらえたとしても、死んでしまった心筋を生き返らせることはできないので、ポンプの一部が壊れたままになります。前々回(心不全)のおさらいになりますが、このように心臓のポンプ能力が低下している状態を「心不全」というのです。不整脈が原因で死んでしまうこともあるのですか?心臓の筋肉が死んでしまうことによって起こる不整脈ですからね。心筋の縮む順番がおかしくなって全身に血液が行き渡らなくなることもあれば、心臓自体が動かなくなってしまうこともあります。普通の人にも起こるような、ときどきリズムが狂うくらいの不整脈だったら死に至ることはありません。ところで、人間の心臓って、1日に何回くらい動いているかわかりますか?1分間の脈拍を大体70回とすると、1時間で4200回、1日で……。そう、その計算だと約10万回になりますね。私たちが寝ている間も休みなく動いています。10万回動いていたら、機械だって1回や2回のミスはありますよね。つまり、誰にでも「たちの悪くない不整脈」は起きるということです。心筋梗塞は、心臓で「たちの悪い不整脈」が起きた状態ということなのですね。そう。心臓の血管が詰まって心筋が死に、「たちの悪い不整脈」が起きて心臓がうまく動かなくなるということです。繰り返しになりますが、ポンプ能力が低下して心不全の状態に陥っても、「たちの悪い不整脈」が起こらなければ、生き残ることもあります。私たちは、どんな症状が現れたとき、心筋梗塞に気付けるのでしょう?狭心症や糖尿病などの持病があったり、血圧が高かったりと、血管に負荷がかかるような疾患を治療中の方が、胸に今まで経験したことのないような強い痛みを感じたときは、すぐに救急車を呼んで病院に行くことをお勧めします。健康な人が「胸がちょっと苦しい」とか「痛い」とかいうのは、ほとんどの場合心筋梗塞ではありませんよ。心筋梗塞の治療法心筋梗塞になったら必ず命を落とす、というわけではないのでしょうか。昔は助からない人がほとんどでしたが、今は優れた薬や治療法がたくさんありますから、早い段階で病院に行けば、ほとんどの人が助かりますよ。心筋梗塞の治療にはどんな方法があるのでしょうか?多くの場合、動脈からカテーテルという細い管を入れ、血管の詰まった部分を風船で広げる「風船治療」や、これを応用して血管内で金網を広げる「ステント治療」を行います。血栓を溶かす薬の投与だけで回復する場合もあります。これらは治療時間も短く、体への負担もそれほど大きくないですし、ほとんど後遺症もありません。カテーテル治療ではどうにもならないというときは、血流の迂回(うかい)路を作る「バイパス手術」を行うこともありますが、こちらは体への負担が大きくなり、回復にも時間がかかります。どういう人が心筋梗塞になりやすい?心筋梗塞になりやすい人っているのでしょうか?心筋梗塞を起こした人の話を聞くと、それなりの理由があります。多くは高血圧や高コレステロール、糖尿病など、もともと持っていた病気や基礎疾患をちゃんと治療していなかった人です。その人たちが心筋梗塞になって、たまたま早い段階で病院に行って命が助かったとしても、その原因となっている基礎疾患を放っておいたら、また心筋梗塞を起こすことになります。普段健康に何も問題のない人が、ある日突然心筋梗塞を起こすということは、めったにありません。心筋梗塞が遺伝することはありますか?心筋梗塞そのものは遺伝しません。しかし遺伝的にコレステロールが高かったり、血圧が高かったり、糖尿病になりやすかったりという家系はあります。心筋梗塞は遺伝しないけれど、なりやすい体質は遺伝するということですね。心筋梗塞を防ぐには心筋梗塞になりやすい体質の人は、どんなことに気を付けて予防すればいいのでしょう?糖尿病の回でも話しましたが、もう一度おさらいしましょう。例えばご両親が糖尿病なら、何もしなければその子どもは多分糖尿病になると思います。仮に今あなたが50代で、ご両親は80代で糖尿病だったとすると、若いころのご両親は今のあなたより医学的によい暮らしをしていたはずだからです。「医学的によい暮らし」ですか?ご両親が若かったころは、今のあなたのように、気軽にタクシーやバスに乗っていたでしょうか? お酒も毎日は飲めなかったでしょうし、牛肉なども簡単に手に入らなかったのではないでしょうか。近所にコンビニエンスストアだってなかったはずです。今のほうが生活するには便利ですが、医学的には昔のほうがよい暮らしだったのではないか、と思うのです。今は、便利だけれど、健康に悪い生活をしているということ……。そう。あなたはご両親と同じ遺伝子を持っていることに加えて、医学的には悪い環境で暮らしているのですから、ご両親以上に、普段の健康や生活習慣に気を付けなくてはいけないということです。心筋梗塞の治療成績は上がっていますが、危険因子はご両親のころに比べると圧倒的に増えているということです。インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2018.7.18

「おくすりの基本」クイズに挑戦!『めざせ! おくすりマスター』

薬はジュースで飲んでもいい?「食間」ってどういう意味?薬を飲み忘れたら、2回分を一気に飲めばいいの?知っているようで知らない「おくすりのキホン」。横浜市立大学附属病院 薬剤部長のサハシ先生と一緒に、おさらいしてみましょう!薬を飲みたいけど水がない……。ジュースや牛乳で飲んでもいい?くすりは水で飲みましょう。薬はコップ1杯(180ml)以上の水またはぬるま湯で飲んでください。また、グレープフルーツジュースや牛乳などで飲むと、薬がちゃんと効かなくなることも。お酒で飲むのはもっといけません。効果が強く出すぎてしまうことがあります。その他、サプリメントや納豆なども、薬の効果に影響を与える可能性があります。食べ合わせ、飲み合わせが気になったら、気軽に薬剤師に相談してみてくださいね。「食間に飲んでください」→ 食事中に飲めばいい?食間=食事中ではありません!食間というのは「食事と食事の間」という意味で、食事の約2~3時間後を指します。例えば昼ごはんを12時に食べる人なら、食間の薬を飲むタイミングは14~16時ぐらいがベスト!食べ物や胃酸の影響を避けたい薬は食前、空腹時のほうが吸収がよい薬は食間、胃に負担をかける薬は食後……というように、薬の服用時間にはちゃんと理由があるのです。決められた服用時間を守ってくださいね。薬を飲み忘れちゃった!2回分を一気に飲んでもいい?2回分を一気に飲まないで!薬を飲み忘れたときは、薬の種類や気付いた時間で対応が違います。すぐに気付いた場合は、気付いた時点で服用します。それが1日3回飲む薬なら、次の薬まで4時間以上あけてください。次の服用時間の近くで気付いた場合は、その回をあきらめて、次回から正しく服用すれば大丈夫。忘れたからと言って2回分飲むのはダメ!副作用が出てしまう危険があります。あらかじめ、飲み忘れたときの対応を薬剤師に聞いておくと安心ですね。体調がおかしいような……。このまま薬を飲み続けていい?不安なことは薬剤師・医師に相談を。「なんだか身体の様子がいつもと違う……?」もし薬を飲み始めてから何か不調を感じているなら、副作用が出ている可能性も。眠気や食欲低下、便秘・下痢など、薬の種類によって副作用の出方もさまざまです。副作用は、薬を飲み始めて1カ月以内に起こることがほとんど。飲み始めの1カ月は特に注意しましょう。長い間飲んでいる薬であっても、もし何か不調を感じたら、すぐに医師・薬剤師に相談することが大切です。おくすりマスター5か条薬はコップ1杯(180ml)以上の水またはぬるま湯で飲もう。食間=「食事と食事の間」。食間の薬は食事の約2~3時間後に飲もう。薬を飲み忘れたとき、2回分を一気に飲んではいけません。飲み始めの1カ月は特に、副作用が出ていないか注意しよう。気になることがあればなんでも医師・薬剤師に相談しよう。作画:金田啓介監修:横浜市立大学附属病院 薬剤部長 佐橋幸子

佐橋 幸子

2020.4.3

健康診断の一番の目的は「動脈硬化の進行を遅らせる」こと

健康診断では身体のいろいろな部分を検査しますが、もっとも重要な目的は「動脈硬化の進展を遅らせる」ことです。動脈硬化とは、動脈が肥厚して硬くなった状態のことを言います。動脈硬化によって引き起こされるさまざまな病態を動脈硬化症と呼びます。動脈をチクワのように縦切りにしてみましょう。動脈硬化がひどくなると、血管の内側にコレステロールが溜まってコブになります。これをアテローム硬化と言います。コブはだんだん内側にせり出してくるので、血液が流れにくくなります。川幅が狭くなると川の水が流れにくくなるのと一緒です。今度はチクワ(動脈)を輪切りにしてみます。血管の内側にコレステロールが溜まっているのがよくわかると思います。血液が流れるところが、これぐらい細くなってしまうこともあるのです。動脈は体中にはりめぐらされている血管です。ということは、身体のどこで動脈硬化が起こってもおかしくありません。動脈硬化が心臓の表面にある冠動脈で起こり、血液の流れが悪くなれば狭心症、コレステロールを覆っている膜が何かの拍子に破れて血液が固まり、冠動脈が詰まれば心筋梗塞になります。これが頭で起こると脳梗塞です。足の血管に動脈硬化が起これば、閉塞性動脈硬化症になります。足の血流が悪くなるため、長時間歩くと足が痛くなってしまい、休み休みでないと歩けなくなります。これらの原因はすべて、動脈硬化なのです。脳梗塞や心筋梗塞は命にかかわる病気です。リハビリも大変ですし、生活の質が低下する可能性も大きくなります。健康な生活をおくるには、動脈硬化を防がなければいけません。そのために非常に役に立つのが健康診断なのです。健康診断で行う、心電図、眼底検査、上腕動脈と足関節上部で測定する血圧の比、脈拍の触れ方、左右差、頸動脈エコーなどの検査結果によって、動脈硬化の進展具合がわかります。これらの検査については、あらためて別のコラムで説明していきますので、ぜひお読みください。また、動脈硬化の危険因子(原因)についても、あらためて解説します。健康診断とこの健診コラムを活用して、動脈硬化を防ぎましょう。

梅村 将就

2020.3.26

寄り添い導くパートナー。今求められる医師の役割とは

「Open Doctors」とは?今、インターネット上にはたくさんの情報があふれています。当然「医療」にもその影響は及んでいますが、とりわけ医師と患者の間には大きな「情報格差」や「コミュニケーションギャップ」が生まれています。その現状をどうとらえて、どう未来へと進んでいくべきか。ここで紹介するのは、これからの医療の課題を見つめ、医師と患者の在り方をよりよくしていこうと考えている医師ばかりです。そんな医師たちを、私たちは「Open Doctors」と呼んでいます。第1回は、整形外科医・和田 啓義(わだ ひろよし)先生にお話を伺いました。和田先生プロフィール医師、医学博士。専門は整形外科、主に脊椎脊髄外科。医療現場でのコミュニケーションギャップを肌で感じ、その改善を目的として日本医療学会の設立に参画。その後も医療現場の一線に立ちながら、情報格差、コミュニケーションギャップの改善方法を模索している。平成6年 東京女子医科大学 整形外科入局平成9年 テキサス大学ヒューストン校 医学部分子医学部門リサーチフェロー平成12年 東京女子医科大学整形外科 助教平成19年 特定非営利活動法人 日本医療推進事業団勤務平成22年 東京女子医科大学整形外科 講師平成23年 東京女子医科大学東医療センター整形外科 講師平成29年 船橋総合病院 整形外科「情報格差」と「コミュニケーションギャップ」まずは、「情報格差」と「コミュニケーションギャップ」という言葉について教えていただけますか?はい。単純に言うと、「情報格差」は、医師と患者さんの持っている情報量と質が違うということで、「コミュニケーションギャップ」は、医師が持っている情報を患者さんに説明したけれど、理解が十分に得られていないこと、ということです。情報量と質の違いに、理解のズレ、ですか。そうです。例えば、外科の手術を行う前に、1時間かけて説明をしたとします。手術のやり方からメリット、デメリット、手術による合併症や薬の副作用、術後のケア……。医師としては、1から10まで全て説明したつもりです。患者さん、家族も納得して手術を受けられた。しかし、手術後に合併症が起こってしまった場合、患者さんは「こんなことは聞いていません」となることがあります。なぜかと言うと、医師が1時間で話した内容のうち、合併症についての話はその一部にすぎません。しかし、合併症が起こったときには、その原因や理由、治療法に今後の対策と、さらにさまざまな情報が必要になります。そのため、合併症についての詳しい情報を追加でお伝えすると、「聞いていません」となるのです。これは情報格差、コミュニケーションギャップの両方が絡み合った問題です。医療には不確実な要素が多く、さまざまな合併症が生じる可能性があります。特に手術治療では、その合併症が「不可逆性」、つまり元に戻せない性質であることが多く、情報格差やコミュニケーションギャップを原因とする問題が起こりやすいと感じています。医師と患者の「共通言語」としての情報医師として一般の人に情報を出していくのは、「医療の不確実性」つまり医療は完全ではなく不確実な要素が多いことを分かっておいてほしいという気持ちがあるからです。現在の医療は、10年前と比べても格段に進歩していると言えます。テレビやネットでは、医療分野における新しい発見や新しい技術が、日々取り上げられています。しかし捉え方を変えれば、「発見されただけ」で「実用化されていない」わけですから、まだまだ分からないことやできないことがたくさんあるとも言えるでしょう。 実際の医療現場では、「現在の医療レベルで適切と言われること」を行っているという現実があります。これは確実なものではなく、「不確実性」をはらんでいます。その「不確実性」の中には、個々の病気の特殊性や個人個人の多様性も含まれていて、結果として先ほどお話ししたような合併症につながってしまうこともあり得ます。医師側と患者側の情報格差を解消するのは非常に難しいことだとは思いますが、できるだけその間を埋めるような努力をしていくべきでしょう。これは、情報を多く持っている側、つまり医師側が努力をしていくことでしか、本質的な解決は望めません。そして、患者さんにとって分かりやすい情報を医師と患者で共有できれば、医師の側にもプラスになるだろうと思っています。。 例えば、自分の専門の整形外科領域では、患者さん向けの疾患ガイドブックを日本整形外科学会が作成しています。学会が研究結果に基づき作成した、ある病気についての標準的な診療方針や治療などがまとめられた資料を「ガイドライン」と言うのですが、これは医師向けなので、一般の方にはなじみのない表現や、分かりにくい部分もある。ガイドブックというのは、これを患者さん向けに分かりやすくしたものです。 自分は、診察の現場ではまずガイドブックを用いて病状を説明します。さらに深く知ってもらえるように、本での購入を希望する方には表紙のコピーを渡すか、無料で見ることのできる『Mindsガイドラインライブラリー』というWebサイトを紹介しています。患者さんがどこまでの情報を求めているかは個人によって異なるとは思いますが、自分の命に関わることであれば、やはり多くの情報をもとに自分で決めていきたいだろうと思うんです。でも、中には「先生が決めてください」という患者さんもいるのでは?そうですね。一通り説明しても、決められない。そうすると、よくあるのが「ほかのみなさんはどうしていますか?」という質問です。たとえ今までは周りの人と違うことを選ぼうとしてきた方であっても、医療の話になると「平均」を求める傾向にあります。「平均的なこと」を知るにはガイドラインを読むのが一番なので、ガイドブックが分かりやすい場所にたくさんあることは重要だと思います。患者さんがガイドラインを理解していれば、「自分はどうもこれに当てはまると思いますが、先生はどう思いますか?」「そうですね。この段階ですね。そうなるとこれが標準治療になります。ここをもう1回読んできてくださいね。」となる。そして「この治療になるとこういう合併症が起こる可能性もあります。」などと話していって、「この幅の中でどの治療法を選びますか?」という会話ができるようになるのです。共通言語ができるんですね。そういうことですね。こうなれば、情報格差がなくなります。情報格差がなくなると共通言語が生まれて、ギャップが埋まる。患者さんも「自分で選択」できるわけです。決めてほしい患者、情報を見るなと言う医師しかし、決めてほしい患者さんに対しては、共通言語を持つ、つまり同じ土俵に立ってもらうまでが大変なのかな?という気がするのですが。そうですね。本人の自覚と、時間が必要にはなると思います。情報化社会と言われる前は、『論語』にある「よらしむべし、知らしむべからず」のような考え、つまり「患者は病気や治療について詳しく知らなくても、医師が患者にとってベストと思う治療を行えばよい」と考える医師が多く、それがよしとされてもいたとも思います。患者さんが自分でどの治療を受けるか選択するという文化はほとんどありませんでしたからね。わたしの友人は、乳がんになったときに医師から「一切、ネットで病気の検索をするな」と言われたそうです。どのような状況での発言か分かりませんが、ネットにも病気に関する有用な情報は載っています。一方で民間療法に関するものや、不安をあおって「お金を出せばなんとかなる!」とうたう詐欺まがいのものまであり、何がいいのか分からなくなっちゃう。それを心配して、「見るな」と言われたのかしれませんね。でも「見るな」というのは一つの方法ではあるけれど、このネット社会で「未来永劫(えいごう)見るな」というわけにはいかないと思います。そうですよね。経営コンサルタントの梅田望夫さんが著書『ウェブ人間論』の中で、誤った情報が出てきてしまったとき、それを一つ一つつぶすんじゃなくて、正しい情報をたくさん発信していくことが大事なのだといったことを書かれていました。たくさん発信していくと誤った情報が正しい情報で埋め尽くされていき、結果正しい情報が広まっていくと。確かにそうだと思いましたし、正しい情報を出していくほうが、将来的には社会にはプラスになるんだとも思いました。それによって、医療の質も高くできるかもしれない。そのときに、正しい情報は誰が出すの?と言ったら、やはり医師が出すしかないのではないでしょうか。医師がガイドラインから一歩進んで、より分かりやすい患者向けガイドブックを作ったのは、その一つの流れと思います。医師だけが情報を抱え込む時代は、終わりを迎えつつあるのではないかなと思っています。導き手としての医師では、これから医師はどうあるべきなのでしょうか?先ほどお話したように、患者さんはガイドラインを読んで「わたしはきっとこの状態だ」と知ることはできるのですが、やはり自信が持てないんです。そこで、医師のところに行って検査を行い、画像などの結果を一緒に見ながら医師の判断を聞き、一緒に治療方針を考えていく。そこに医師の立ち位置がある。医師は導き手になる、というのが僕の考えです。そこまで念頭に置いて、「インターネットでどんどん見てください」と僕は言います。その上で、「もし、分からないことがあったら持ってきてください」と言っています。もちろんその前にガイドラインの説明をし、「これは多くの専門医師が多くの論文をもとに、今の一般的な方針を書いたものだから、まずはこれを読んでください。」と言っています。同じものを共有しながら導くのが医師の役割になっていくということですね。病を自分ごととしてとらえるしかし、そのやり方だと治療方針を決めるのにも時間がかかりそうですね。はい。時間はかかります。1回の診察では時間の制限があるので、最初はガイドラインを用いて説明し、さらに自宅で読んで勉強してもらい、次の外来で疑問点に答える。こういう形で、何度かに分けて理解をしてもらっています。でも、この時間があることによって患者さんは自分の病気と向き合い、“自分ごと”として理解するようになっていきます。数日のタイムラグを惜しむより、自分の病気としてしっかりとらえて、自分で決めていくことが大事なんです。そうすると、どんな結果になったとしても、自分が前を向いていけるから。医師の言う通りにしてうまくいかないと「だからやらなければよかった」となりがちです。しかし、自分で考えて選択した場合には、たとえ思った通りの結果にはならなくても、その結果に向き合っていくことができます。治療は一時ですが、結果は一生。どのように病をとらえていくかは、本当に大事なことだと考えています。自分のものとしてとらえることが重要なんですね。でも「自分で決めよう」という気持ちを引き出すのは大変そうです。そうですね。患者さんに「先生だったらどうしますか?」と聞かれることもあります。自分は正直に「僕も悩みます」と答えると「先生、ずるいですね」って言われるんです。(笑)でも、医師は病気を診断することはできても、「医療の不確実性」があるために、その治療結果に絶対はありません。となると、何が本当に大事なのか優先順位を決めていくしかないのですが、その優先順位は個人の価値観や人生観も含めて考えないと分からないのです。ですから、「自分もその場面になって初めて、本当の答えを出すために悩む」というのはうそではないと思っています。以上の言葉を、それこそコミュニケーションギャップのないように伝えた上で、「大事なのは、自分で決めることです」と言っています。「決められない」も「答え」である「自分で決められない」患者さんにはどうされるんですか?実は、「決められない」ということも「答え」なんです。例えば、手術は「決めた」ときにしかできないので、「決められない」というのは「やらない」と決めたことと同じことになるのです。確かにそうですね。だから「決められない」というのも、その人の答えであり、人生観に基づく判断と理解しています。これは、あくまでも自分の考えですので、扱う病気によっても違うかもしれません。自分は整形外科の中でも脊椎外科が専門で、加齢に伴う疾患を多く診ているから「自分で決める」ということについて比較的時間をかけてお話しできるのかもしれませんね。これからの医師の価値とは決めたい人にとっても、決められない人にとっても、このサイトのような情報源は重要な役割になると感じます。そうですね。情報が整備されれば、正しい情報にアクセスする患者さんが増えて、変な情報にアクセスしにくくなる。これだけ情報を出すと、医師に何の価値があるのかなと思われそうですが、逆に医師の価値は「あなたはこういう状態ですよ」と診断をして、次のステップに進む手助けする部分にあると思います。それが先生の言う「導き手」としての医師の姿ですね。はい。ほかにも診療の現場では、これまで言葉だけで説明していたものを、絵や画像、冊子などを使って伝えるなど、患者さんに「残る情報」にしていく工夫もしています。そして、自分が渡しきれない情報をインターネットで見てきてもらい、次回それについて話して、情報を修正する。事実がしっかりとありながら、患者さん側が誤解して受け取っていることもありますからね。Open Doctorsのような情報媒体をどんどん使っていけたらいいのではないかと思っています。これからは、「自分(医師)だけが情報源である」という医療のスタイルから、患者さんがアクセスできる情報がたくさんある中で、医師はその情報を整理してあげる「患者さんのパートナー」的な役割になっていくと考えています。「今のあなたは、その状態ではないから、こちらの情報をもとに考えていきましょう。」などと情報を修正しつつ、お互い理解して進めていく。多くの患者さんを診ている医師だからこそできることと思います。どんなに情報が増えても、その部分は変わらないでしょう。和田先生は、「自分自身が納得した人生を歩むために、自ら選択する。」「医師はその“導き手”であり、“パートナー的存在”になっていく」と語ります。人はいつか必ず死を迎えます。そして、日本の現代社会に暮らす私たちのほとんどが、その手前で健康を損ない、医療を受ける側になります。そのとき私たちは、どんな選択をするのでしょうか。患者としていつか医療に関わる私たちも、健康や医療にもっと関心を持ち、情報化社会の中で賢く学んでいく。そうすることで、いざ医療を受けることになったときも、納得した形で、人生を歩んでいくことができるのではないでしょうか。インタビュー・文:亀山 美千代

和田 啓義

2018.6.27

ノロウイルスに感染。消毒薬の作り方

食中毒を起こす原因には、ウイルス・細菌・自然毒・化学物質などがありますが、最も多いのがノロウイルスによるものです。1年を通して発生し、例年11月くらいから件数が増え始めます。ピークは12月から1月頃となり、学校や職場などで集団発生につながることがありますので注意が必要です。症状は? 子どもや高齢者は重症化のおそれも主な症状は吐き気・おう吐・下痢・腹痛であり、発熱は軽度です。潜伏期間は24~48時間で、発症から1~2日で症状はおさまります。(*1)健康な人は軽症で回復しますが、子どもや高齢者などは重症化しないよう注意が必要です。また、間接的ではありますが、おう吐物を誤って気道に詰まらせて死亡する例もみられます。感染経路は「人→人」「食品→人」の2つ感染経路は大きく分けると2つ。1つは、人から人への感染です。感染者のおう吐物や便の中に含まれるウイルスが手などに付着して起こる経口感染や、おう吐物による飛沫(ひまつ)感染にも注意が必要です。もう1つは、食品から人への感染です。感染者の調理したものを食べる、もしくはウイルスに汚染された二枚貝を、加熱が不十分な状態で食べるといったことによって感染します。予防のポイントはトイレのあと、調理の前便からのウイルスの排出は2週間以上続くことも。感染を防ぐためにも手洗いを徹底するようにしましょう。トイレを使用したあと、調理の前などは必ず手を洗ってください。石けんを使い30秒ほどこすり洗いし、水で流すことにより、ウイルスは大幅に減少します。(*2)指先や爪の間・手のしわは洗い残しの多い箇所なので、特に注意して洗いましょう。また、共用タオルで手を拭くのも避けてください。食品中のウイルスの感染力をなくすには一般的にウイルスは熱に弱く、85~90度で90秒間以上加熱すると感染力を失うとされています。(*3)感染報告の多い二枚貝でも、しっかりと加熱すればウイルスの脅威はなくなります。ワクチンはない 脱水症状に注意を現状、ノロウイルスにはワクチンがなく、治療は症状を軽減する対症療法のみです。つまり、下痢・嘔吐による脱水を補うための「水分補給」、そして「安静」により、症状がおさまるのを待つしかありません。おう吐物の正しい処理方法室内でおう吐などがあった場合は、二次感染を防ぐためにも必ず消毒が必要です。ただし、ノロウイルスの消毒は、殺菌目的の石けん(逆性石けん)はもちろん、アルコール(消毒用エタノール)では十分な効果が得られません。適切な道具をそろえ、正しいやり方で消毒しましょう。また、廃棄用のビニール袋にも塩素消毒液を入れておくとさらによいでしょう。なお、おう吐物は想像以上に遠くまで飛び散るので、広い範囲を消毒してください。消毒に必須となる「塩素消毒液」の作り方は次項で解説します。「塩素消毒液」の作り方次亜塩素酸ナトリウムを含む「塩素系漂白剤」と水で「塩素消毒液」を作ることができます。配合は、作りたい消毒液の濃度や、使用する漂白剤の濃度によって異なります。表を参考に漂白剤を希釈してください。台所用塩素系漂白剤(塩素濃度6%)を使う場合哺乳瓶用塩素系漂白剤(塩素濃度1%)を使う場合(*4)すみやかな特定が二次感染を防ぐおなかを下しただけでは深刻に考えずに学校や会社に行ってしまいがちですが、吐き気・おう吐・下痢・腹痛などの症状が強い人や、集団生活をする必要がある人、あるいは調理に従事する人などは、状況に応じて医療機関に相談しましょう。医療機関では「ノロウイルス抗原検査」が可能ですが、感染者の30%は無症候性とされていますので、流行期には常に手洗いを心がけてください。感染者を増やさないことが、巡り巡って自分の身を守ることにもなります。参考文献(*1)厚生労働省 ノロウイルスに関するQ&A(*2)東京都福祉保険局 防ごう!ノロウイルス感染(*3)厚生労働省 冬は特にご注意! ノロウイルスによる食中毒(*4)消毒液(塩素系漂白剤)の作り方 目黒区文:Open Doctors編集部

谷口 清州

2018.12.26

どのタイミングで打てばいいの?インフルエンザの予防接種の正しい接種法

毎年冬になると猛威を振るうインフルエンザ。今年は季節性インフルエンザの流行の開始が過去10年で最も早いと言われています。厚生労働省の発表によると9月の時点で昨年同時期より患者数が8.7倍となっており、全国の小中学校では学級閉鎖が急増中。早急な対策が必要とされています。インフルエンザの予防手段といえば、もっともポピュラーなのが予防接種。ここでは、予防接種の正しい接種時期や回数、効果などをご紹介します。インフルエンザワクチンの正しい接種時期は「流行前」日本において、インフルエンザは例年12月~4月頃にかけて流行し、1月末~3月上旬にピークを迎えます。予防手段としては、インフルエンザワクチンの接種がポピュラーな方法の1つです。いわゆる予防接種は、「流行前」に行うのが望ましいとされています。理想は10月中、それが難しい場合も12月中旬までに接種しておくのがよいでしょう。今年は、流行期間が前倒しになっている傾向にあります。なるべく早めに予防接種を受けることをおすすめします。一方で、みなさんが早めに受けようとすると、需要の集中とワクチン在庫の偏りが生じて、一時的にワクチンの不足が起こることがあります。予防接種がまだの方は、近くの小児科に電話で在庫の確認をしておきましょう。昨年予防接種を受けたから、今年は必要ない?前年に予防接種をしたからといって、今年もその効果が持続するわけではありません。一般に、ワクチンの効果は6カ月程度たつと落ちてきます。また、流行するインフルエンザウイルスは毎シーズン少しずつ変異しているので、そのシーズンに流行が予想されるウイルスを用いて、インフルエンザワクチンも毎年作り変えられています。そのため、前年に予防接種を受けた方も、今シーズンの予防のためには今年の予防接種が必要です。予防接種をすれば、インフルエンザにはかからないの?予防接種をしたからといって、インフルエンザに絶対かからないわけではありません。しかし、発熱やのどの痛みなど、発病後の症状をやわらげることはわかっています。(*1)じつは、予防接種のもっとも大きな効果は、症状の重症化を防ぐことなのです。予防接種を受けた方がいい人は?とくにインフルエンザの予防接種が推奨されているのは、症状が重症化しやすい以下の方々です。65歳以上の高齢者ワクチンを接種した場合、死亡の危険が5分の1に、入院の危険が約3分の1から2分の1にまで減少することが期待できるとされています。(*2)生後6カ月~5歳未満の乳幼児予防接種をすると、おおむね20~60%の発病防止効果があるとされています。(*1)妊婦や心疾患、免疫不全など合併症リスクが高い方妊娠している方や、慢性心疾患、慢性肺疾患、糖尿病のある方、免疫不全状態にある方などは、インフルエンザによる合併症リスクが高くなっているため、とくに予防接種しておくことが望ましいとされています。(*3)インフルエンザワクチンの効果的な接種回数は?インフルエンザワクチンの適切な接種回数は、年齢によって異なります。13歳以上の方1回接種が原則です。ただし、医師が2回接種を必要と判断した場合はその限りではありません。13歳未満の方日本では2回接種が原則です。1~4週間隔で接種可能ですが、免疫効果を考慮すると4週間あけて接種するのがもっとも効果的と言われています。「任意接種」と「定期接種」の違い予防接種の受け方には以下の2種類があります。任意接種希望者が接種費用を自己負担して受けるものです。定期接種インフルエンザにかかると重症化しやすい方を対象にした、公費(一部自己負担あり)で受けられる予防接種です。対象者は以下のとおりです。(*1)(1)65歳以上の方。(2)60~64歳で、心臓、腎臓もしくは呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活を極度に制限される方(概ね、身体障害者障害程度等級1級に相当)。(3)60~64歳で、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方(概ね、身体障害者障害程度等級1級に相当)。予防接種が受けられる医療機関については、お住まいの市区町村(保健所・保健センター)、医師会、医療機関、かかりつけ医にお問い合わせください。参考文献(*1)インフルエンザQ&A - 厚生労働省(*2)インフルエンザ(総合ページ)65歳以上の皆様へ - 厚生労働省(*3)重篤化しやすい基礎疾患を有する者等について - 厚生労働省文:Open Doctors編集部

谷口 清州

2019.11.27

Open Doctorsは病気についての正しい知識をやさしい言葉で紹介。お医者さんとの間にある情報の差を解消することで、あなたの意思決定を支援します。

produced by
市民・患者のための健康・医療コミュニケーション学会