【谷口先生に聞く新型コロナの疑問】重症化を見逃さないためにチェックすべき3つの数値とは?
最終更新日:2020.5.15

誰にでも重症化リスク、前兆となる症状に注意
重症化するリスクが高いのは、高齢者、基礎疾患のある人、妊婦、1歳未満の乳児などといわれています。とはいえ、若い人が重症化しないかというとそんなことはありません。若い人でも重症化して亡くなった人はいます。今のところ、なぜ軽症で済むのか、なぜ重症化するのかは、科学的にわかっていません。ウイルスの曝露量(ウイルスを浴びた量)によるとも言われています。ただ、現象として上記のような人たちが重症化しやすいことはわかっています。それを知った上で、誰にでも重症化するリスクはあると覚えておくといいでしょう。
4月29日、厚生労働省は軽症患者が注意すべき「緊急性の高い13の症状」 を発表しました。「顔色が明らかに悪い」「唇が紫色になっている」「息が荒くなった(呼吸数が多くなった)」「急に息苦しくなった」「胸の痛みがある」など、重症化の前兆となる症状を一つでも感じたら、すぐに保健所などに連絡してください。また、一般的には、発症後5~10日くらいで重症化することが多いので、特にこの時期は注意してください。
自宅待機中は「バイタルサイン」をチェックしよう
重症化しないために一番大事なことは、規則正しい生活をして、3食しっかり食べて、夜はちゃんと寝て、なるべくストレスをためないことです。健全な生活をすることが一番大事だと思います。実はインフルエンザにも同じことが言えます。インフルエンザが重症化して入院する中学生や高校生は、クラブの試合のために体が疲れきっていたり、受験勉強のストレスがあったりします。重症化するかしないかは、体調やストレスも大きくかかわっているようです。
軽症と診断されて自宅で過ごすときは、重症化を早期に発見するために「バイタルサイン」を計測するといいでしょう。「バイタルサイン」とは「生命の兆候」という意味で、呼吸数、脈拍(心拍数)、血圧、体温の4つを指します。医師はこれらの数値情報で患者の状況を把握します。
コロナの場合、特に注意しておきたいのは呼吸数、心拍数、体温の3つの数値です。たとえば、安静時の呼吸数が時とともにだんだん増えていったら、それは異常な兆候です。医師に連絡して相談してみてください。なお、この際には、普段の自分の状況を把握しておくと変化がよくわかりますから、今何も気になる症状がなければためしに測定してみるのもいいでしょう。
記録するコツは、病院でもらえる「熱計表」を使うことです。インターネットで検索すれば、ダウンロードもできます。熱計表は記録をグラフにできるので、1日3回測って、数値が上がり傾向か下がり傾向かなどをチェックしてみてください。
なお、呼吸数は年齢によって異なります。成人は1分間に16~18回ですが、幼児は20~30回、乳児は30~40回と多くなり 、逆に高齢者は少なくなるので目安にしてください。
受診の目安として挙げられていた倦怠感や息切れなどは自覚症状なので、個人の感覚によって異なることがあります。一方、呼吸数、心拍数、体温は、感情などに左右されないので、信頼度が高い数値だと言えます。病院のような機器がなくても、1分間当たりの心拍数や呼吸数ぐらいなら簡単に測ることができます。
コロナに限らず病気になったときは、経過観察をすることが大事になります。よく、医者が「様子を見てみましょう」と言いますが、これは要するに「症状の経過を観察しましょう」ということです。そのためには必要な数値は見ておかなければいけません。「自宅で安静にする」ときに最も大切なのは「何もしない」ではなく「経過を見ること」なのです。
コロナは後遺症があるのか?
コロナの後遺症について、詳しいことは今のところわかっていません。重症になった人は間質性肺炎を起こすわけですから、肺に一定の傷あとを残すことはありえます。わからないといえば、このウイルス自体もよくわかっていないので、検査で2回陰性が出たからといって本当にウイルスが体内から排除できているのかわからない部分があります。実際、PCR検査で2回陰性になって退院し、自宅に戻ってから急激に悪化して亡くなった方の肺からウイルスが検出されたという報告もあります。
このウイルスはかなり人間に適応していて、人間の世界と共存できるようになりつつあるようです。すでに共存できるようになっているのかもしれません。最近、このウイルスが血管の内皮細胞に感染することもわかってきており、これが急激に重症化する原因とも考えられています。
まだまだよくわからないウイルスに対して、われわれが今できることは、いかに感染しないかを考えることです。手洗いと密接・密集・密閉の「3密」を避けることを徹底しましょう。
まとめ
- 重症化しやすいのは高齢者、基礎疾患のある人、妊婦、乳児。若い人も重症化しないとは限らない。
- 大切なのは、3食しっかり食べて、夜はちゃんと寝て、なるべくストレスをためないこと。
- 自宅療養中の経過観察では呼吸数、心拍数、体温の3つに注意。異常な兆候があれば医師に相談を。
- コロナにはまだわからないことが多い。大切なのは「手洗い」と「3密」を避けること。
国立病院機構三重病院 臨床研究部長
国立病院機構三重病院 臨床研究部長。国立感染症研究所客員研究員。専門は小児感染症学、感染症疫学で、2003年にはSARSコロナウイルスの世界流行の対策を経験。三重大学医学部小児科学教室、ガーナ国野口記念医学研究所、国立三重病院小児科、国立感染症研究所感染症情報センター、WHO感染症対策部などを経て2013年より現職。