【谷口先生に聞く新型コロナの疑問】「検査しても無意味」は間違い? 自宅待機中に亡くならないためにチェックすべきこととは
最終更新日:2020.5.26

重症化の前兆を見逃さないためにできること
4月29日、厚生労働省は「緊急性の高い13の症状」のリストを発表(※)しました。コロナに感染して陽性だと診断されても、入院できずに自宅で療養している人のために、重症化の前兆となる症状をまとめたものです。(※)軽症患者 緊急性高い13症状のリスト公表 厚労省 新型コロナ - NHKニュース
「顔色が明らかに悪い」「息が荒くなった(呼吸数が多くなった)」「急に息苦しくなった」「胸の痛みがある」「肩で息をしている」「ぼんやりしている(反応が弱い)」「もうろうとしている(返事がない)」などです。これらに該当する項目が1つでもあれば、重症化してしまうおそれがあるので、すぐに受診すべきです。検査を受けていない人でも同じです。
これらの基準に関連する呼吸数や心拍数などは、自宅などで療養している場合でも簡単に自分で測定することができます。呼吸数・心拍数などの目安やバイタルチェックの方法はこちらの記事にまとめていますので、参考にしてみてください。
【谷口先生に聞く新型コロナの疑問】重症化を見逃さないためにチェックすべき3つの数値とは?
容態が急変するのは肺炎の急速な進行が原因と考えられており、実際に突然死した例では、肺に多数の新型コロナウイルスが見つかったという報告がありますが、一方では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、血管内皮に感染し、血液が固まりやすくなるような血液凝固メカニズムにも変化が起こることがわかってきました。まだ、急激に重症化するメカニズムは十分には解明されていませんが、急速に悪化することがありうる病気ということは知っている必要があります。
感染が疑われる人にPCR検査を行ったほうがよい理由
私が、重症ではなくても臨床的に疑われる患者さんに検査を行う意義があると考えるのは、診断がついていれば、その後の経過をある程度予測し、発症から7~10日くらいで急速に悪化するかもしれないことに注意できるからです。自宅で経過を見るにしても、呼吸数や心拍数の変化に気をつけて、特に軽快/重症化の分かれ目である7~10日くらいで体調に異変があったらすぐに病院に来てくださいと言うことができるわけです。また、当然のことながら、診断が確定すれば、濃厚接触者の管理をすることによって、感染の拡大を防止し、クラスタを形成することを予防することにつながります。「軽症の人を検査しても治療法は変わらない」というのは事実です。また、現時点では軽症の人は新型コロナウイルス感染症ではない確率の方が高いでしょう。しかし、検査して陽性であれば、その時点での治療方法は大きく変わりませんが、管理方法が変わります。私たちが病原診断(病気の原因となったウイルスや菌をつきとめること)をしようとするのは、患者さんの状況からある特定の感染症を疑ったときに、病原診断によって患者の経過観察と注意すべき事柄が変わってくることがあるからです。
たとえば、RSウイルス感染症というのは特効薬的な治療はありません。しかしながら、6か月の乳児が最初は鼻水と咳だけであっても、RSウイルス感染症であった場合には重症化のリスクが高く、その後、急速に呼吸困難になることがあるので、あらかじめ注意を払うことができます。そのためには病原診断が必要なのです。
たしかに、コロナの有効な治療法は見つかっていません。しかし、注意をすることはできます。自宅待機をしている間に亡くならないためにも、臨床的に新型コロナ感染が疑われる場合には検査を行って、陽性であれば診断が付きますし、陰性であっても強く疑う場合には、注意深く経過を観察して行く必要があります。
コロナに限らず感染症は、どのような病原体が、どんな体調の人の、どの臓器に感染したかを考えて診断と治療を行います。少なくとも医者が疑ったら検査は行ってほしいと思います。医者はそれなりに理由があって、「病原診断がしたい」と考えています。
症状を疑うようならすみやかに保健所に連絡を
もちろん、大した症状もないのに心配だからという人に検査を受けさせるのは資源の無駄遣いです。症状があっても元気な場合には別の病原体によるものであることが多いでしょう。また、そのような場合に企業が社員に「陰性証明」を求めて検査を受けさせようとするのも困ります。新型コロナ感染を疑う合理的な症状があり、経過を見ていく必要があって、検査が必要だと医者が判断したら、その検査は行うことができるようにするべきだと思います。私どもの病院では、保健所からの指示がなくても、「疑い例」の方が直接病院に来て、検査を行うケースがあります。普通の外来に来ている患者を診察したところ、コロナの疑いがあるという場合、検査を行っています。決して推奨しているわけではありませんが、熱が4日続く人や、一年中咳をしている人はたくさんいるわけです。そういう人たちが病院に来た際には、医者がおかしいと判断すれば検査を行う、ということです。
今後、コロナは一般化していくと思いますので、このようなケースは増えていくと考えられます。症状を見てコロナの疑いを感じたときは、まずは保健所に連絡して相談してみてください。保健所に電話をかけてもつながらないときもありますので、事前に地域の連絡先を調べておくことも大切です。今後は地域での医療体制や検査体制が整備され、地域外来・検査センターなどが設置されてきますので、かかりつけの医療機関に相談されてもよいと思います。
まとめ
- 自宅待機中に急変する可能性も。異変を感じたらすぐに受診を。
- 「検査しても意味がない」は間違い。コロナを疑ったらすぐに検査を。
- 事前にコロナについて相談する連絡先をチェックしておこう。
国立病院機構三重病院 臨床研究部長
国立病院機構三重病院 臨床研究部長。国立感染症研究所客員研究員。専門は小児感染症学、感染症疫学で、2003年にはSARSコロナウイルスの世界流行の対策を経験。三重大学医学部小児科学教室、ガーナ国野口記念医学研究所、国立三重病院小児科、国立感染症研究所感染症情報センター、WHO感染症対策部などを経て2013年より現職。