お医者さんの知恵をみんなの知恵に Open Doctorsお医者さんの知恵をみんなの知恵に Open Doctors

Open Doctorsは病気についての正しい知識をやさしい言葉で紹介。
お医者さんとの間にある情報の差を解消することで、あなたの意思決定を支援します。

produced by市民・患者のための健康・医療コミュニケーション学会

コラムの一覧

身近な病気や気になるテーマに関する、医師監修のコラム。
日々の健康管理に役立つ情報を掲載しています。

新着記事

どのタイミングで打てばいいの?インフルエンザの予防接種の正しい接種法

毎年冬になると猛威を振るうインフルエンザ。今年は季節性インフルエンザの流行の開始が過去10年で最も早いと言われています。厚生労働省の発表によると9月の時点で昨年同時期より患者数が8.7倍となっており、全国の小中学校では学級閉鎖が急増中。早急な対策が必要とされています。インフルエンザの予防手段といえば、もっともポピュラーなのが予防接種。ここでは、予防接種の正しい接種時期や回数、効果などをご紹介します。インフルエンザワクチンの正しい接種時期は「流行前」日本において、インフルエンザは例年12月~4月頃にかけて流行し、1月末~3月上旬にピークを迎えます。予防手段としては、インフルエンザワクチンの接種がポピュラーな方法の1つです。いわゆる予防接種は、「流行前」に行うのが望ましいとされています。理想は10月中、それが難しい場合も12月中旬までに接種しておくのがよいでしょう。今年は、流行期間が前倒しになっている傾向にあります。なるべく早めに予防接種を受けることをおすすめします。一方で、みなさんが早めに受けようとすると、需要の集中とワクチン在庫の偏りが生じて、一時的にワクチンの不足が起こることがあります。予防接種がまだの方は、近くの小児科に電話で在庫の確認をしておきましょう。昨年予防接種を受けたから、今年は必要ない?前年に予防接種をしたからといって、今年もその効果が持続するわけではありません。一般に、ワクチンの効果は6カ月程度たつと落ちてきます。また、流行するインフルエンザウイルスは毎シーズン少しずつ変異しているので、そのシーズンに流行が予想されるウイルスを用いて、インフルエンザワクチンも毎年作り変えられています。そのため、前年に予防接種を受けた方も、今シーズンの予防のためには今年の予防接種が必要です。予防接種をすれば、インフルエンザにはかからないの?予防接種をしたからといって、インフルエンザに絶対かからないわけではありません。しかし、発熱やのどの痛みなど、発病後の症状をやわらげることはわかっています。(*1)じつは、予防接種のもっとも大きな効果は、症状の重症化を防ぐことなのです。予防接種を受けた方がいい人は?とくにインフルエンザの予防接種が推奨されているのは、症状が重症化しやすい以下の方々です。65歳以上の高齢者ワクチンを接種した場合、死亡の危険が5分の1に、入院の危険が約3分の1から2分の1にまで減少することが期待できるとされています。(*2)生後6カ月~5歳未満の乳幼児予防接種をすると、おおむね20~60%の発病防止効果があるとされています。(*1)妊婦や心疾患、免疫不全など合併症リスクが高い方妊娠している方や、慢性心疾患、慢性肺疾患、糖尿病のある方、免疫不全状態にある方などは、インフルエンザによる合併症リスクが高くなっているため、とくに予防接種しておくことが望ましいとされています。(*3)インフルエンザワクチンの効果的な接種回数は?インフルエンザワクチンの適切な接種回数は、年齢によって異なります。13歳以上の方1回接種が原則です。ただし、医師が2回接種を必要と判断した場合はその限りではありません。13歳未満の方日本では2回接種が原則です。1~4週間隔で接種可能ですが、免疫効果を考慮すると4週間あけて接種するのがもっとも効果的と言われています。「任意接種」と「定期接種」の違い予防接種の受け方には以下の2種類があります。任意接種希望者が接種費用を自己負担して受けるものです。定期接種インフルエンザにかかると重症化しやすい方を対象にした、公費(一部自己負担あり)で受けられる予防接種です。対象者は以下のとおりです。(*1)(1)65歳以上の方。(2)60~64歳で、心臓、腎臓もしくは呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活を極度に制限される方(概ね、身体障害者障害程度等級1級に相当)。(3)60~64歳で、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方(概ね、身体障害者障害程度等級1級に相当)。予防接種が受けられる医療機関については、お住まいの市区町村(保健所・保健センター)、医師会、医療機関、かかりつけ医にお問い合わせください。参考文献(*1)インフルエンザQ&A - 厚生労働省(*2)インフルエンザ(総合ページ)65歳以上の皆様へ - 厚生労働省(*3)重篤化しやすい基礎疾患を有する者等について - 厚生労働省文:Open Doctors編集部

谷口 清州

2019.11.27

濃厚接触による家族内での感染も。医師が語る髄膜炎

前回のコラムでは、日本では珍しい、しかし海外では多数の死者を出している「狂犬病」についてお伝えしました。今回も、国内ではあまり話題にのぼらない「髄膜炎」がテーマです。海外で流行するさまざまな感染症のなかから、谷口先生が髄膜炎を取り上げた理由とは?2020年の東京五輪を控えた今、髄膜炎をめぐる諸問題についても伺います。致死率が高く、ショック状態に陥ると数時間で死亡も━━ 谷口先生は海外に行く前にどんなワクチンを打っていますか?A型肝炎、B型肝炎、破傷風のワクチンは打っています。B型肝炎は医療従事者など血液に触れる可能性のある仕事をしている人はこれまでに接種していると思います。麻疹(はしか)・風疹は自然感染したことがあり、私は十分な抗体を持っていますので打っていません。今は狂犬病感染のリスクのあるところには行かないので打っていませんが、20年前にアフリカに行ったときには狂犬病ワクチンも打っていきました。私は年に4回ほどガーナに行くので、もちろん黄熱病のワクチンは接種しています。また、髄膜炎菌ワクチンも打ちます。アフリカ大陸の西部にあるガーナは「髄膜炎ベルト」と呼ばれる範囲に含まれていまして、流行性脳脊髄膜炎(りゅうこうせいのうせきずいまくえん)の流行地域ですからね。━━ 流行性脳脊髄膜炎というのはどんな病気なのでしょうか?髄膜炎というのは脳の周りにある脳脊髄膜の炎症を指します。膜につつまれている脳にも同時に炎症が起こるので、脳脊髄膜炎と言うのです。この病気を引き起こす病原体にはいろいろありますが、そのうちのひとつである髄膜炎菌は人から人からへ感染するので地域的な流行を起こすことがあります。流行性脳脊髄膜炎と呼ばれており、極めて重症になります。髄膜炎菌が原因なので、髄膜炎菌性髄膜炎とも呼ばれます。原因菌である髄膜炎菌というのは、感染するとヒトの鼻から喉(のど)のあたりにすみつき、飛沫感染によって人から人へ感染します。保菌していても発症する人としない人がいるのですが、何らかの理由でこの菌が血中に入り、増殖して、脳脊髄膜に到達すると、脳脊髄膜炎を発症します。抗菌剤による治療を行っても患者の10~15%は亡くなり、運よく生き残っても10%くらいの人には後遺症が残るという、怖い病気です。━━ そんなに怖い病気なのに、日本で定期予防接種対象に含まれていないのはなぜですか?今の日本では、髄膜炎菌に感染して髄膜炎になる人は年間30人程度だからです。昔は日本でも法定伝染病に指定されており、年間に何千人という方が亡くなっていましたが、今の日本人の保菌率は1%以下です。保菌率が減った理由について、よくわかっていませんが、一般的な衛生状態がよくなったこと、一方では長年国内で抗菌薬が濫用されてきたことと関係しているのではないかという指摘もあります。一方、アメリカやイギリスなどの、日本を除くほとんどの国々は、保菌率が10~20%。10人に1人くらいは菌を持っていることになります。よって、アメリカでは髄膜炎菌ワクチン接種を義務化している州が多いですし、イギリスでも定期接種の対象になっています。寮生活の予定があるなら予防接種の検討を━━ 髄膜炎になるとどんな症状が出るのでしょうか?最初は熱が出て、咳・鼻水・全身倦怠感・頭痛など、風邪のような症状で始まります。やがて血液中に菌が増えると、足や全身の節々がひどく痛み、手足が冷たくなり、紫色の出血斑(しゅっけつはん)が出ます。電撃的なショック状態に陥り、発症してから数時間で亡くなることもあります。以前、宮崎県の高校で、髄膜炎の集団発生がありました。4人が入院し、そのうち1人は亡くなっています。亡くなった子は夕方に発熱して、「ちょっと調子が悪い」と言っていただけだったのに翌朝倒れて、その夜に亡くなってしまいました。ちなみに、アメリカやイギリスにおける予防接種の主な目的は、寮生間での流行を防ぐことです。向こうの学生はほとんどが寮生活なので、飛沫感染が懸念されます。海外留学はもちろん、国内であっても、お子さんが寮生活などをされる場合は接種を検討してください。━━ 2020年の東京五輪では、髄膜炎菌のワクチンを義務化する必要はないのでしょうか?髄膜炎菌ワクチンの接種については、今回のオリンピック・パラリンピックでも議論になっています。例えば会場を案内するボランティアなど、海外からの参加者と濃厚に接触する場合には飛沫感染のおそれがありますから。2018年開催の平昌(ピョンチャン)オリンピックではスタッフに全員打ったそうですから、日本も2020年の東京五輪のときは対策を徹底すべきではないか?という議論がずっと続いています。予防接種は渡航者ワクチン外来やトラベルクリニックで━━ 髄膜炎菌のワクチン、日本ではどこで打てるのでしょうか?一定規模の病院ならば打てるようになっていますので、お近くの渡航者ワクチン外来やトラベルクリニックなどを検索してみてください。私が勤務する三重病院には渡航者ワクチン外来があるので接種可能ですが、1本あたり2~3万円ほど費用がかかります。原価が高く使用期限もあるので、予約制にしている病院が多いと思います。受診の際は事前に確認するようにしてください。家族内での感染も。谷口先生が髄膜炎ワクチンに思うことグローバル化が進んだことにより、海外出張に行かれる方も髄膜炎菌のワクチンを打ちに来られます。でも「会社からお金が出ないから打てない」「費用が高すぎるから打てない」と接種をあきらめて帰る方もいて、複雑な気持ちになることがあります。なぜ私がこんなに髄膜炎菌を気にするかと言うと、過去に悲しい事例を目の当たりにしたことがあるからです。1歳のお子さんが髄膜炎菌性髄膜炎で亡くなってしまったということがあり、調査を行ったところ、亡くなったお子さんと同じ型の髄膜炎菌が、ご家族のお一人から見つかりました。この方は海外へ出張されていたようです。もちろん実際のところはわかりませんが、あちらで保菌して、帰国後に家族内で感染したのかもしれません。そういう事例を見ているので、ワクチンで防げるものなら防ぎたい、という気持ちがあるんです。病原体というのはヒトにくっついて移動しますから、旅行や出張に行けば、その土地の感染症を持って帰ってきてしまう危険がある。ワクチンを打つか打たないかというのはリスクマネジメントで、「めったにないことにどれぐらいお金をかけて備えるか」という話になるのですが、自分の健康とともに、周りの人の健康も考えないといけないというのが難しいところです。参考文献(*1)髄膜炎菌性髄膜炎とは - 国立感染症研究所(NIID)(*2)髄膜炎菌性髄膜炎(ファクトシート) - 厚生労働省検疫所(FORTH)(*3)感染症についての情報「髄膜炎菌性髄膜炎」 - 厚生労働省検疫所(FORTH)

谷口 清州

2019.8.1

発症したら打つ手なし。100%の確率で命を落とす狂犬病

前回のコラムでは、東南アジアなどへ旅行する際に注意したい感染症や、渡航前に打っておきたいワクチンについてご紹介しました。今回のテーマは「狂犬病」。現在、日本では発生していないため、なじみのない方のほうが多いかもしれません。しかし、今も世界では年間5万5000人もの人が命を落としている怖い病気なのです。予防と対策について、国立感染症研究所での勤務経験もある谷口清州先生にお話を伺いました。発症したら100%の確率で死に至る━━ 谷口先生が国立感染症研究所で診た、一番珍しい感染症は何ですか?十数年前 、フィリピンより帰国した男性が、現地で犬に咬まれて狂犬病ウイルスに感染し、国内で発症したことが確認されました。私が直接診たわけではありませんが、国立感染症研究所にて病原体診断が行われました。━━ 狂犬病になった人には、どんな治療が行われるのですか?狂犬病を発症したら、有効な治療はありません。残念ながら亡くなりましたね……。狂犬病の実態は脳炎なのですが、発症するとほぼ100%死に至ります。感染した動物に噛まれると唾液からウイルスが侵入し、神経に入ります。神経をずーっと伝って、脳に到達したウイルスは脳炎を引き起こします。現代の医学では、狂犬病ウイルスによる脳炎になった人を救う方法はありません。噛まれても発症前なら「予防」ができる━━ 狂犬病ウイルスに感染している動物に噛まれたら、もう打つ手はないのでしょうか?いいえ、ウイルスが脳に到達するまでに食い止めればいいので、発症する前であれば噛まれてからでも予防ができます。これを医学用語では「曝露後予防(ばくろごよぼう)」と言います。まず、噛まれたら可能な限りはやく、できれば24時間以内に、狂犬病ウイルスに対する抗体(抗狂犬病ウイルス免疫グロブリン)を咬まれた部位に注射します。抗狂犬病ウイルス免疫グロブリンというのは、狂犬病ウイルスに結合してウイルスを不活化する働きのある血液製剤なので、これによってとりあえずウイルスの動きを封じ込め、それから狂犬病ワクチンを6回接種します。そうすると、脳に到達するまでに自分の体のなかにも抗体ができるので、脳炎の発症を食い止めることができます。狂犬病ウイルスを持っている動物に噛まれる危険性が高い場合は、「曝露前予防(ばくろぜんよぼう)」が必要です。渡航前に3回のワクチン接種を受けてください。狂犬病の動物に噛まれる危険性があるなら予防接種を━━ 市街や観光地を散策するだけであっても、曝露前予防は必要でしょうか?途上国であっても、ごく普通の観光地であれば狂犬病の犬はいないと思います。しかし、野外でキャンプをするとか、野生動物がいるところへハイキングに出掛けるとか、狂犬病の動物に噛まれる危険性があるなら、渡航前にワクチン接種をしてください。アメリカでは、野生のコウモリに噛まれて狂犬病ウイルスに感染したという人もいますから。━━ 犬以外の動物からも感染する危険があるのですか?狂犬病を持っているのは犬だけとは限りません。狂犬病ウイルスは哺乳類に感染しますから、ネコやサル、キツネ、アライグマなどもウイルスを持っている可能性があります。野生動物はもちろん、飼われている動物であっても、不用意に近付かないようにしてください。━━ 狂犬病のワクチン、日本ではどこで打てますか?一定規模の病院ならば打てるようになっていますので、お近くの渡航者ワクチン外来やトラベルクリニックなどを検索してみてください。予約制にしている病院が多いと思いますので、受診の際は事前に確認するようにしてください。まとめ:狂犬病の予防・対策・治療現在、日本は狂犬病発生のない国。一方、今も世界では年間5万5000人もの人が狂犬病によって命を落としていると言われている。狂犬病を発症したら、有効な治療はない。発症するとほぼ100%死に至る。狂犬病ウイルスに感染している動物に噛まれても、ウイルスが脳に到達するまでに食い止めればよい。発症する前であれば「曝露後予防」ができる。狂犬病ウイルスを持っている動物に噛まれる危険性が高い場合は、「曝露前予防」が必要。渡航前に3回のワクチン接種を。市街や観光地を散策するだけという場合、ごく普通の観光地であれば、狂犬病の犬はいないと考えられる。しかし、野外キャンプ、野生動物がいるところでのハイキングなど、狂犬病の動物に噛まれる危険性がある場合、渡航前にワクチン接種を。狂犬病ウイルスは、犬以外の動物からも感染する危険がある。ネコやサル、キツネ、アライグマなどもウイルスを持っている可能性があるため、野生動物はもちろん、飼われている動物であっても、不用意に近付かないようにする。ワクチン接種は渡航者ワクチン外来やトラベルクリニックで受けられる。取り扱いや予約については事前に電話などで確認を。参考文献(*1)狂犬病とは - 国立感染症研究所(NIID)(*2)狂犬病に関するQ&Aについて - 厚生労働省(*3)感染症についての情報「狂犬病」 - 厚生労働省検疫所(FORTH)

谷口 清州

2019.7.25

「旅行者下痢症」って? 海外で気をつけたい感染症

海外の旅行先で体調を崩すと、せっかくの旅行も楽しめません。今回のコラムでは、よくある下痢症を防ぐために現地でできることや、日本ではめったにかからない感染症から身を守る方法をご紹介します。今回は日本からの渡航者が多い東南アジアの感染症について、国立病院機構・三重病院 臨床研究部長の谷口清州先生にお話を伺いました。感染症のプロでも完全に防ぐのは難しい「旅行者下痢症」━━ 谷口先生が診ることの多い渡航者の病気は何ですか?私がよく診るのは、やっぱり下痢症ですかね。一般的に、海外旅行でかかる下痢症を「旅行者下痢症」といいます。硬水(ミネラル分がたくさん含まれた水)が身体に合わないこともありますし、香辛料など食べ物によるものもありますが、病原体に汚染された水や食品の摂取によって起こる感染性の下痢には注意をしておくべきでしょう。これらの病原体は腸管病原性大腸菌・サルモネラ・ノロウイルス・赤痢・コレラなど多種にわたりますが、一番多いのは腸管病原性大腸菌によるものでしょうか。東南アジアなんかでは屋台で食事をとることもありますよね。私はベトナムで屋台のフォーを食べていて、上にのっけてもらった香草にイモムシがついていて、スープに沈めたらそれが浮いてきたことがあります。しっかり洗っていなかったということでしょうから、他の病原体が付いていても不思議はないですね。━━ 現地で食事をする場合には、どんなことに気をつけたらいいでしょうか?本気で下痢を防ぎたいなら、非加熱のものは一切口にしないほうがいいでしょうね。生水はもちろんダメですし、飲み物にいれる氷も避けた方がよいと思います。必ずミネラルウォーターなど、ボトルに入ったものを飲むようにしてください。ミネラルウォーターでも、ビールやジュースであっても、目の前で栓を抜いてもらうのがいいでしょう。あと、ベトナムの屋台でフォーを注文するとき、現地のことをよく分かっている人は「(トッピングの)香草も湯通しして」と言っていましたね。どこで何を食べるにしても、ちゃんと中まで火が通っているものを食べるようにしてください。━━ 非加熱のものを一切取らないようにすれば、下痢を完全に防げるのでしょうか?加熱したものであっても、加熱後や盛り付け後、あるいは徐々に冷めていく途中で、病原体が混入することもありますし、ミネラルウォーターを注いだグラス、お箸や自分の手など、非加熱のものを食べる以外にも病原体が体に入ってくるルートはありますから、下痢症を完全に防ぐのは難しいと思います。基本を守って、危ういものは避けておくことだろうと思います。それでも下痢をした場合、本当にたまたま当たったとしか言いようがありませんね。楽しいことにはある程度のリスクも伴うものでしょう。━━ 谷口先生も旅行者下痢症に悩まされた経験はありますか?もちろんありますよ。私は仕事上、ガーナに行くことが多いのですが、向こうで欧米人と同じように生野菜のサラダを食べたら、「これはどう考えてもコレラだな」という症状が出ましたね。いわゆる米のとぎ汁状の、大量の水溶性下痢症です。ミントと氷の入った「モヒート」というカクテルで、発熱と下痢に悩まされた後輩もいます。幸い周りはみんな感染症の医者だったので、「これはどう考えても感染性の下痢だから、抗菌薬で様子を見よう」と。それで無事に治って帰ってきました。あとで本人は、きっとミントの葉が汚染されていたのだろうと言っていました。━━ 下痢症になったとき、現地で病院に行ったほうがよいと判断する目安は?水溶性の下痢が続くときや脱水・嘔吐(おうと)が激しいとき、血の混じった下痢が出るときは、病院に行かれたほうがよいと思います。下痢は重症になると一日に何リットルも出ます。そういうときに水分が十分とれない、水分をとってもすべて出てしまうという場合、脱水によって命を落とすこともあります。また、下痢に血が混じっているような場合は抗菌薬が必要ですから、きちんと医療機関にかかって治療を受けてください。途上国からの帰国者に多い感染症は、マラリア・デング熱・腸チフス・A型肝炎━━ 東南アジアなどの途上国では、下痢症以外にどんな感染症が多いですか?やはり風邪、つまりウイルス性上気道炎(ウイルスせいじょうきどうえん)のような、一般的なものが最も多いです。ただ、風邪であれば数日で自然に治ってしまうので、病院にはあまり行きませんよね。病院に来るのは、一向に熱が下がらないとか、発疹が出てきたとか、「いかにも重症感のある場合」だと思います。一般的に、東南アジアやアフリカなどの途上国から帰ってきて熱が下がらないというときは、マラリア・デング熱・腸チフス。この3つは考えておくべきです。これらの病気の潜伏期間は数日のこともありますが、非常に長いときもあります。デング熱の潜伏期間は長いと約2週間、マラリアや腸チフスでは約4週間になることもあります。潜伏期間が長いといえば、A型肝炎も東南アジアの渡航者に多い病気です。こちらも症状が出るまでに約1カ月かかることがあります。帰国してしばらくたっていても、病院を受診した際には、いつごろ、どこへ渡航し、どのような行動をとったかをお伝え頂くことが重要です。━━ マラリア・デング熱・腸チフス・A型肝炎はどんな病気なのでしょうか?マラリアは蚊が媒介する感染症で、38~39度台、時には40度の高い熱が出て、不定期に上がったり下がったりします。かかった人はみな「これまで経験したことがないほど体がだるい」と言いますね。何度もかかれば次第に症状は軽くなっていくのですが、初めてかかったときは重症になりがちなので、とても苦しいようです。デング熱も蚊が媒介する感染症です。症状としてはまず発熱、そしてこの病気は別名「骨折熱」と言われるほど、手足の関節が痛みます。あとは頭痛、特に目の奥が痛くなります。しばらくすると発疹や、出血疹が出てくることもあります。腸チフスも同様に40度近い熱が続きます。チフス菌に汚染された食べ物や水から感染し、おなかが痛くなったり、食欲がなくなったりしますが、どちらかというと便秘気味になり、必ずしも下痢になるわけではありません。途中で「ばら疹」という発疹が出てくることもあります。A型肝炎は『まんがカルテ』の「海外旅行から1カ月後、発熱があり全身だるい(10歳男児)」でも取り上げましたが、症状としては全身のだるさ・発熱・食欲不振・嘔吐・黄疸(おうだん)などです。腸チフスもA型肝炎も、屋台や市場などで菌やウイルスに汚染された食べ物を口にして感染することが多いと思います。━━ どの病気も初期症状は風邪やインフルエンザに似ていますが、受診のタイミングは?そうですね、なかなか熱が下がらないと言って受診される方や、あるいはマラリアなどを心配して受診される方が多いです。海外に渡航された後に体調を崩し、3日以上発熱が続く場合や、体がとってもだるい、咳が激しい、呼吸が苦しい、眼が黄色いなど、いつもの風邪と違うなというときには早めに受診されるのがよいと思います。それから、意外に思われるかもしれませんが、夏の海外旅行でインフルエンザに感染することも結構あります。亜熱帯気候の地域では、雨季にインフルエンザが流行します。雨季は11~1月と6~8月の2回あるので、インフルエンザの流行も1年に2回。そのため、日本の真夏に東南アジアへ行った場合、帰ってきたらインフルエンザだった、ということがあるわけです。出発前にできる対策は? リスクに応じて必要な予防接種を━━ マラリア・デング熱・腸チフス・A型肝炎を予防する方法はありますか?マラリアとデング熱は蚊が媒介する感染症ですから、とにかく蚊に刺されないよう防御することが大切です。できることなら長袖や長ズボンを着用して、なるべく肌を露出しないようにしてください。虫よけスプレーも有効ですが、効果が持続する時間は商品によってまちまちなので、こまめに塗りなおす必要があります。また、マラリアには予防薬がありますので、マラリア流行地へ渡航する際は、医師の診察を受け、リスクを勘案して予防薬を処方してもらってください。腸チフスとA型肝炎に関しては、旅行者下痢症と同様に、汚染されている可能性がある水や食べ物を非加熱のまま口にすることは避けてください。A型肝炎にはワクチンがありますので、感染リスクの高い流行地域に行かれる場合は接種が勧められます、特に1カ月以上滞在される場合は接種された方がよいでしょう。腸チフスには国内で承認されたワクチンはありませんが、特に感染リスクの高い地域、滞在・生活形態の場合には、輸入ワクチン接種を検討することが可能です。━━ A型肝炎以外に、出発前に打って行ったほうがよいワクチンはありますか?今(2019年6月時点)だと、どこへ行くにしても麻疹(ましん/はしか)と風疹のワクチン(通常「麻しん・風しんワクチン」という一つのワクチンです)は、小学生未満では年齢に応じた回数、小学生以降であれば2回接種されていることを確認してください。麻しんになったことがない方、麻しんの予防接種を受けたことがない方、ワクチンを1回しか接種していない方、または予防接種を受けたかどうかが分からない方には、ワクチン接種をお勧めします。また、A型肝炎ワクチンは2~4週間隔で最低2回の接種が必要ですので、渡航前に余裕をもってワクチン接種ができるように計画してください。ワクチン接種後に発熱することもありますので、渡航直前にワクチンを接種することはお勧めできません。とはいえ、渡航先によって受けておいたほうがよい予防接種は異なりますから、『厚生労働省検疫所(FORTH)』などの情報を確認してください。まずは『国・地域別情報』で渡航先を選び、気をつけたい感染症や打っておきたいワクチンに関する情報を入手したら、『予防接種実施機関の探し方』から、お住まいの地域で予防接種が可能な医療機関を探すこともできます。これまでお話してきた感染症に対するリスクは個人個人で異なります。最近は渡航者外来や予防接種外来を設置している医療機関も多いので、そこで相談されることが一番です。ワクチンが必要な病気に感染するというのは、そんなに頻繁に起こることではありません。しかし、起こったときは長い治療が必要になり、命にかかわることもあります。リスクに応じて必要な対策を講じるには、まず「相手を知る」こと。行く先で、今まさにどんな病気が流行しているのかなど、最新情報をつかんでください。参考文献(*1)厚生労働省 検疫所 FORTH(*2)NIID 国立感染症研究所

谷口 清州

2019.7.18

死の危険もある熱中症。早めの対策意識でシャットアウト

毎年、話題になる熱中症。「症状」と「対策」を知り、実践することで、防ぐことが可能です。自分自身だけではなく、家族など周囲の人を守るためにも、熱中症のことをもっと詳しく知っておきましょう。命の危険も。熱中症ってどんな病気?熱中症とは、高温多湿の環境で汗をかいて体内の水分量・塩分量のバランスが崩れたり、暑さで体温調節機能が乱れたりすることによって起こる臓器の障害、体の不調を指します。環境省の熱中症予防情報サイト(*1)では、「重症化すると死に至る可能性のある病態」とも表記されています。熱中症は、命の危険を伴う病気なのです。ただし、予防を実践すれば防ぐことができ、もし発症したとしても、適切な応急処置により重症化を防ぐことが可能な病気でもあります。「3つの工夫」で熱中症予防熱中症予防の基本は「脱水と体温の上昇を抑えること」です。気温が高くなると予想される日は、行動・住まい・衣服の3つの観点で工夫(*2)して生活するよう心掛けてください。その1:行動の工夫①こまめに水分・塩分を補給する②頑張らない、無理をしない③日なた(直射日光)を避けるたとえば、炎天下でのバーベキューなどの際は注意が必要です。タープなどで日陰を作っておくとよいでしょう。意識して「無理をしない」行動が必要です。その2:住まいの工夫①風通しをよくする②カーテンなどで日光を遮断する③エアコン・扇風機を使う単に窓を開けるだけではなく、風の通り道を作ることが大切です。また、「暑い」と感じたら我慢せず、エアコンで室内温度を下げるようにしてください。その3:衣服の工夫①ゆったりした服を着る②襟元をゆるめる③吸汗・速乾素材を活用する④黒色系の素材を避ける⑤日傘や帽子を使う衣服の中や体の表面に風を通すことで汗を冷やし、体から出る熱を逃がします。帽子は熱がこもらないようにときどきはずして、汗を蒸発させてください。重症度別にみる症状と応急処置どんなに対策をしっかりしたとしても、高温の日や日光の下に長時間いたあと、もともと体調がすぐれない場合などは、つねに熱中症の疑いをもって体の調子を確認することが必要です。症状によって重症度はI度~III度の3段階に分けられますので、段階ごとに適切な処置をしましょう。症状と必要な処置(I度)■必要な処置①水分・塩分を補給する②涼しい場所へ移動する③安静にする室内であれば扇風機や冷房を使って室温を下げ、屋外の場合は風通しのよい日陰に移動します。横になり、脚を心臓よりも高い位置に上げることで、心臓に戻る血流を増やすことが大切です。症状と必要な処置(II度)■必要な処置重症度I度の処置を行ったあと、衣服をゆるめて体を冷やします。■適切な体の冷やし方・衣服のボタンをはずし、ベルトやネクタイ、女性の場合は下着もゆるめて風通しをよくする  ・露出させた皮膚に濡らしたタオルやハンカチをあて、うちわや扇風機で扇ぐ・冷たいペットボトルなどを首の付け根の両脇、脇の下、太ももの付け根の前面、股関節部にあてる重症度 II度は緊急度が高まっています。症状が強い場合は医療機関の受診も検討してください。症状と必要な処置(III度)■必要な処置重症度 III度の症状がひとつでも確認できた場合は、すぐに救急車を呼んでください。特に、呼びかけに応えないようであれば、かなり危険な状態です。救急車を待っている間に、涼しい場所に移動させ、体を冷やしてください。水分補給に関しては、意識障害が起こっている場合は気道に流れ込む可能性があるので、救急隊の到着を待ちましょう。暑さのピークとなる8月は意識も高くなりますが、それまでは油断しがちな熱中症対策。事前にしっかりと知識をつけて、突然の猛暑にも慌てないようにしたいですね。参考文献(*1)厚生労働省 熱中症による死亡者数(人口動態統計)(*2)環境省 熱中症予防サイト内「熱中症環境保健マニュアル2018」文:Open Doctors編集部

石川 義弘

2019.7.11

手足口病が流行中。子どもの三大夏風邪を解説

「真夏であっても、ちょっと油断すると子どもが熱を出してしまう」と悩んでいる親御さんも多いのでは? お子さんの目が赤く充血していたり、 「喉(のど)が痛い」と食事を拒んだりする場合は、もしかしたら冬にかかった風邪とはちょっと違うウイルスに感染しているかもしれません。夏に流行する「子どもの三大夏風邪」について、感染症の専門家である国立病院機構・三重病院 臨床研究部長の谷口清州先生に伺いました。「夏の風邪」と「冬の風邪」の違い━━ 夏に流行する風邪と冬に流行する風邪には、どんな違いがあるのでしょうか?一般的に「風邪は冬にひくもの」というイメージが強いですからね。風邪を引き起こすウイルスと流行時期について大まかに説明すると、9月から増加し始めるライノウイルス、それに続いて冬はRSウイルス、インフルエンザウイルス、コロナウイルスなどが流行します。そして、春にかけてヒトメタニューモウイルスが地域的に流行します。アデノウイルスやエンテロウイルスは一年中みられますが、夏から秋にかけてしばしば流行します。このアデノとエンテロ、2つのウイルスによる感染症が、いわゆる「夏風邪」と呼ばれるものです。「子どもの三大夏風邪」の特徴と共通点━━ 「子どもの三大夏風邪」とはどんな病気を指すのでしょう?多くの親御さんが悩まれる夏風邪というと、大きく分けて「咽頭結膜熱(いんとうけつまくねつ)」「ヘルパンギーナ」「手足口病」の3つになるでしょう。・咽頭結膜熱咽頭結膜熱は、アデノウイルスによる感染症です。年間を通して発症しますが、初夏に流行することが多い疾患です。主な症状は高熱と、のどの痛み(咽頭炎)と目の充血(結膜炎)で、数日間続くことが特徴ですが、目の充血がないこともあります。アデノウイルスには60種類以上の型があり、それぞれで症状が異なることが知られています。例えば8・ 19・ 37型は流行性角結膜炎を起こします。・ヘルパンギーナヘルパンギーナの名前の由来は、口蓋垂(こうがいすい)、いわゆる「のどちんこ」の周囲の炎症を「アンギーナ」といい、そこにヘルペスのような水疱ができるので「ヘルパンギーナ」と呼ばれるようになりました。主にエンテロウイルス属の一種であるコクサッキーウイルスの感染により発症します。症状としては、突然の高い熱、次に喉の痛みがでます。水分も、ごはんも摂取しにくくなり、特に子どもの場合には痛みのため水分をとらなくなると、脱水症のリスクもあります。・手足口病手足口病というのは、発熱とともに、口周囲や口の中の粘膜、手のひら、足の裏や足の甲などに2~3mmの水疱性発疹(水ぶくれ)が出現します。時に肘(ひじ)、膝(ひざ)、おしりなどにも出現することもあり、特に最近流行することの多い、コクサッキーウイルスA6に感染すると、手・足・口だけではなく、背中やお尻、大腿部(太もも)に水疱疹がでることもあります。発熱は約3分の1で見られますが軽度であり、38℃以下のことが多いとされています。━━ 三大夏風邪の共通点や、特徴について教えてください。共通点は、夏の流行が多いこと。それから、感染後に症状が消えてもウイルスを排出し続けること、つまり感染期間が長いということも共通点ですね。ウイルスは咽頭から3~4週、便中には5~6週以上にわたって検出されることが知られています。ウイルスが最も急速に増え、大量に排出されるのは急性期(病気になりはじめた時期)です。その後、回復期(症状がおさまり快方に向かう時期)になると排出されるウイルスの量は減ってきますが、便からはまだまだウイルスが排出されているため、一見治ったように見えても、便を介して感染が広がってしまうのです。例えばアデノウイルスに感染して治った人は、症状がなくなっても便中にまだたくさんウイルスがでています。かつてはこの疾患がプールでよく広がったので、プールに入る前に腰まで消毒液の入った洗体槽に浸かるという予防策が行われていました。一定以上の年齢層の方は経験したことがあるかもしれません。現在はウイルスが広がらないように、プールの水の塩素濃度は1ppm以上という基準ができています。便以外でも、これらのウイルスは、咳やくしゃみ、唾液や鼻水が付着した手指を介して広がります。症状がおさまってからもウイルスは出ますので、患者との接触後は手洗い・手指の消毒が大切になってきます。夏風邪で注意したい合併症━━ 「夏風邪は長引く」とも言われますが、本当ですか?特に冬に比べて長引くということはないと思いますが、合併症のために長引くということはあります。手足口病の原因となるウイルスのひとつにエンテロウイルス71型というのがあり、これは髄膜炎や脳炎などの合併症を起こすことがあります。今シーズンは、これまでのところ、このウイルスはあまりみられていません。(2019年7月時点)2016年にエンテロウイルスD68型が流行して、喘息発作や呼吸困難、さらに弛緩性麻痺(しかんせいまひ:筋肉を動かすことができず、麻痺している箇所がダランとしている状態)などを引き起こしたことは記憶に新しいと思います。エンテロウイルスのなかには中枢神経に感染するウイルスがおり、最初は夏風邪の症状だけであっても、場合によっては合併症を引き起こす可能性があります。ただ、これらのウイルスに感染した人の90%以上は、無症候性感染(病原体に感染しても症状が出ず、健康にみえる状態のこと)あるいは軽症の発熱性疾患に終わります。━━ 症状が出ない方も多数いらっしゃるんですね。そういう方から感染が拡がるのでしょうか?そうですね。多くは軽症例あるいは無症候例の便を介して感染が広がりますが、一般的に症状が出るのは5歳までの小児が多いですね。赤ちゃんがかかると重症になります。とくに新生児は抵抗力が弱いですから、注意が必要です。━━ 手足口病では髄膜炎や脳症になることもあると伺いましたが、ほかに注意が必要な合併症はありますか?手足口病の原因となるコクサッキーウイルスB群の場合は筋肉に炎症が起こることがあります。ときに、先にも述べた無菌性髄膜炎や脳炎・肝炎・心筋炎や心膜炎を引き起こすことがあります。心筋炎を起こして心臓のポンプ機能が悪くなると心不全の状態に陥ります。そうすると、心臓で十分な循環ができないために浮腫(むくみ)が出てきたり、おしっこの量が減ってきたりします。心筋の収縮力が落ちるために、心拍数が早くなることもあり、それに伴い息もはやくなります。場合によっては不整脈が出るときもあり、突然死の原因にもなり得ます。見た目では元気がなくなります。普段ならば熱があっても遊ぶのにぐったりしているとか、親の感覚で「おかしい、普段と違う」という気付きは大切です。赤ちゃんは熱があっても興味のあることには積極的ですから、いつものような動きがなければおかしいと考えて注意しなければなりません。特に夏は、暑くて汗をかきやすいですから、脱水状態になることがあります。自分の熱をコントロールする方法は汗をかくことです。しかし、体内の水分がもともと少ない状態で汗をかくことができないと熱がどんどん高くなるリスクもあります。━━ 夏は風邪をひいた子が熱中症になることもあるということですか?風邪による発熱は体が自ら「体温を上げろ」と命令した結果なのですが、熱中症というのは自分で体温が調節できなくなって体温が上がってしまう状態を指すので、異なる概念です。しかしながら、風邪による発熱も熱中症も「脱水が伴う」という状況は似ています。ただでさえ気温が高くて、脱水により熱があがりやすい環境ですから、十分な水分補給を心掛けたいところです。予防の基本は「手洗い」「接触を避ける」こと━━ 夏風邪はどう予防すればよいのでしょうか?基本的には患者と接触しないようにすることです。しかし、実際のところ家庭内で接触しないようにするというのは難しいでしょうから、家族内感染率は結構高いです。例えば上のお子さんが保育園でもらってきて、お母さんにうつして、さらに下の子にうつして……というケースはよくあります。多くは患者の糞便を介しての直接・間接接触による感染ですが、咳やくしゃみによってウイルスが飛んで感染することもあります。風邪予防に「うがい」は必要?日本では古来より「風邪の予防にはうがい」と言われてきましたが、実際の予防効果はほとんどないということが分かっています。うがいをしすぎることで、喉にある種々の感染を防御する物質が少なくなり、感染しやすくなるということも言われています。風邪の予防にうがいを推奨するのは世界中で日本だけなのですが、昔からの習慣なので、なかなか変えることは難しい面もあるのかもしれません。治療の基本は「よく休み」「よく食べる」こと━━ 夏風邪に対する治療薬はあるのでしょうか?夏かぜのウイルスに効果がある治療薬はありません。もちろん、「抗生物質」と呼ばれているような抗菌薬のたぐいも、ウイルスには効きません。ウイルスを自分で排除する、免疫力を高めるということ以外に有効な対応方法はないというのが現状です。感染症というのは、基本的に病原体(ウイルスや菌)とヒトとの戦いです。病原体が弱いものであっても、身体の免疫力が弱ければ病原体の方が勝ちます。治療には、「いかにして身体の状態をよくするか」ということも含まれるわけです。例えば相手が細菌であれば有効な抗菌薬で叩くこともできますが、アデノウイルスやエンテロウイルスなどのウイルスにはその方法がありません。市販の解熱薬、口内炎の薬、目薬などを使用される方も多いと思いますが、あくまでも症状を鎮める薬であって、ウイルスに直接作用するものではありません。よく睡眠をとって、身体を休めて、栄養のあるものを食べるという方法が一番なのです。━━ 休息や栄養をとることが大切ということですが、もしも自分の子どもが夏風邪にかかったら、何を食べさせればよいのでしょうか?まずは水分を十分に飲ませて、次にタンパク質をとらせてください。食べられるならば、バランスの取れた普通のごはんがよいのですが、ヘルパンギーナは喉が痛くて食べられないことも多いですから、水やジュース、あるいはヨーグルトやプリンなど、喉を通りやすいものになるでしょう。ただ、酸っぱいとしみますのでオレンジジュースなどは避け、冷たいスープなどを飲ませるのもよいと思います。基本的には3~4日で治ることが多いので、その間に体力を落とさないよう、しっかり休ませることも大切です。━━ 3日以上熱が続くときは、もう一度病院を受診したほうがよいのでしょうか?そうですね。そして、頭が痛いとか、嘔吐(おうと)する、水分がとれない、咳が強くなる、熱が一向に下がらずにむしろ高くなってしまうなど、新たな症状がでるような場合は病院へ行ったほうがよいでしょう。保育園や学校、解熱後48時間は連れて行かないで━━ ウイルスが長い間排出されるというお話がありましたが、保育園や学校へ行かせても大丈夫なのでしょうか?症状がなくなっても4~6週間程度は体からウイルスがでてきます。三大夏風邪のどれも同様です。症状があるときのウイルス量は多く、症状がなくなればだいぶ減ります。ですから熱が下がってから48時間は保育園などの施設には連れていかないよう、親御さんに伝えます。一般的に症状がおさまってから48時間経過するとウイルス量が少なくなることがわかっているからです。また、咽頭結膜熱は、主要な症状が消えたあと2日経過するまで出席停止、手足口病とヘルパンギーナに関しては、急性期は出席停止ですが、回復期は全身状態が改善すれば登校可となっています。(学校保健安全法による)もちろん仕事などの事情があることもわかりますが、お子さんの体力も十分回復していない状況で保育園などに連れて行くのは避けたほうがよいと思います。体力が落ちているので、別の感染症をもらってくることもありますし、オムツを取り替えるときに手などに付着して、それがきれいに洗い落とせていなかった場合、保育園などで集団発生するということもあります。繰り返しになりますが、特効薬がない現状では「手洗い」「接触をさける」という予防が大切で、かかってしまった場合はよく休み、睡眠をとり、栄養を十分にとるということが一番です。参考文献(*1)手足口病に関するQ&A – 厚生労働省(*2)ヘルパンギーナとは – 国立感染症研究所(*3)手足口病、ヘルパンギーナ、咽頭結膜熱が増加しています -【感染症エクスプレス@厚労省】Vol.303(2017年06月30日) - 国立保健医療科学院(*4)咽頭結膜熱とは – 国立感染症研究所(*5)学校保健安全法施行規則 - e-Gov [イーガブ](*6)エンテロウイルスD68型流行期における小児気管支喘息発作例の全国調査(IASR Vol. 37 p. 31-33: 2016年2月号) - 国立感染症研究所

谷口 清州

2019.7.25

つらい花粉症。セルフケアの方法と治療の選択肢

「鼻水が止まらない」「目がかゆい」今の時期、花粉症に悩む人も多いのではないでしょうか。今年の花粉の飛散量は例年より多い(*1)ようです。花粉症を学んでセルフケアをしっかりと行うとともに、来年の対策についても考えておきましょう。基本情報:花粉症とは?花粉症とは、花粉に対して人間の体が起こすアレルギー反応のこと。鼻水や涙が出るのは、花粉に過剰に反応してしまうためです。地域により特徴的な花粉の種類は異なりますが、スギ花粉症は2〜3月、ヒノキは4〜5月、シラカンバは4〜6月、カモガヤは5〜8月、ブタクサやヨモギは8〜10月ごろとされています。(*2)(*2.1)対策で大事なのはセルフケア人によっては複数の強い症状が現れることもあり、重症化しているようであれば専門機関の受診をお勧めしますが、そうでない場合はアレルギー対策の基本は「抗原回避」です。つまり、できるだけ花粉に触れないこと。外出時などは特に下記のことに注意しましょう。花粉の飛散情報をチェックテレビやインターネットで花粉の飛散情報を知ることができます。花粉が多い日や雨上がりのときには花粉が着きにくい衣類にするなどして外出しましょう。マスク(+メガネ)マスクやメガネは花粉の量が多いときは特に効果を発揮する防御策です。マスク・メガネの有無で鼻の中の花粉量に6倍の差が確認されたというデータもあります。(*3)ただし、お子さんの場合は花粉用のメガネをしたまま運動すると、転倒したときに危険ですので注意が必要です。自宅の環境整備帰宅時には家の中に入る前に花粉を払う、カーペットよりはフローリングにして掃除しやすくする、窓を開けない、布団を外に干さない、などして家の中に花粉が入らないようにしましょう。ただし、いずれも効果には個人差があり、厚生労働省の花粉対策でも「症状の緩和が期待される」とされています。花粉症の薬に関して花粉飛散前や症状が軽いうちに服薬を始めるとあまり強い症状にならずにすむと言われています。内服の抗ヒスタミン薬が代表的ですが、第二世代といわれる、眠気の少ないものを選ぶとよいでしょう。最近、「貼る」抗ヒスタミン薬も発売されました。内服のロイコトリエン受容体拮抗(きっこう)薬は、いわゆる鼻づまりに効果があると言われていますが眠気はありません。局所療法としては、鼻症状に対して鼻噴霧用ステロイド薬、眼症状に対して抗ヒスタミン薬の点眼があります。それでも治りにくい場合には、ステロイドの点眼薬、免疫抑制薬の点眼薬なども用いられます。根治を目指す免疫療法もスギ花粉症で困っている方には治療法の一つに根治を目指すアレルゲン免疫療法があります。これは、皮下免疫療法と舌下免疫療法があり、いずれも5歳くらいから受けることができます。「皮下免疫療法」は、アレルギー反応が起きないところまで濃度を下げた花粉の抽出液を注射して、その後少しずつ濃度を上げていくことで花粉抗原の免疫を獲得させる方法です。3年以上続ける必要がありますが、軽症化や無症状化などの改善例が8割以上と報告されています。「舌下免疫療法」は治療薬を舌の下に投与するとすぐに溶けるため、定められた時間保持したあとに飲み込むものです。毎日、自宅で服用するのですが症状がない季節にも根気よく続ける必要があるため、よく理解してから始めましょう。こんな対策も:インナーマスク環境省が使用を推奨しているインナーマスクはご存じでしょうか。市販のマスクの内側に装てんすることで、どんなマスクでも99%以上の花粉除去率になります。(*4)インナーマスクの作り方と使い方必要なもの・市販のガーゼ・化粧用のコットン手順① ガーゼを縦横10cm程度に切り、2枚用意② 化粧用のコットンを丸めて、1枚のガーゼでくるむ(インナーマスク)③ 市販の不織布のマスクにもう1枚のガーゼを4つ折りにしてあてる④ 鼻の下にガーゼでくるんだコットン(インナーマスク)を置く⑤ ③のガーゼをあてたマスクを装着する⑥ 息が苦しい場合にはコットンの厚さを半分にする参考文献(*1)日本気象協会 2019年 春の花粉飛散予測(第4報)(*2)厚生労働省 花粉症Q&A集(平成22年度)(*2.1)アレルギーポータル(*3)的確な花粉症の治療のために(PDF)(*4)環境省 花粉症環境保健マニュアル 2014(PDF)文:Open Doctors編集部監修医師独立行政法人国立病院機構 三重病院 院長藤澤 隆夫 先生独立行政法人国立病院機構 三重病院 アレルギー疾患治療開発研究室長長尾 みづほ 先生

2019.3.27

「風邪という病気はない」って本当?

「実は風邪という疾患はない」今回のコラムは、そんな「!」から始まり、改めて「風邪」についてのウソ・ホントに迫る内容となっています。お話ししてくださるのは、感染症の専門家で、国立病院機構・三重病院 臨床研究部長の谷口清州先生です。「風邪は万病の元」と言われるわけ一般的に「風邪をひく」とは、どのような状態を指すのでしょうか?実は、「風邪」という疾患はありません。一般的に私たちが普段「風邪」と呼んでいる疾患は「風邪症候群」というもので、自然治癒傾向があるウイルス性の上気道(※1)炎をまとめてそのように呼んでいます。(※1)上気道:鼻から鼻腔(びくう)、鼻咽腔(びいんくう)・咽頭(いんとう)・喉頭(こうとう)までの呼吸器をいう。通常、医師は、鼻水や喉(のど)の痛み、咳(せき)、発熱といった上気道炎の症状がそろっているかどうか、それらの経過はどうなのかに加え、全身状態をみて風邪(症候群・以下風邪)と診断します。これは先ほど申し上げた通り、ウイルス性の上気道炎ですから、本来は抗菌薬などを使うことなく自然に治癒する疾患です。ですから、自然に治らない場合は風邪ではないということです。風邪と同じような上気道炎の症状をきたす疾患には、マイコプラズマ感染症、麻疹(はしか)などをはじめとして、川崎病や伝染性単核症など多くの疾患があります。初期症状は風邪と区別がつきませんが、徐々にそれぞれの疾患の特徴が出てきて、診断がつくようになります。昔は、これらの病気にかかっても原因が特定できず、風邪がひどくなったように見えたのでしょう。それで「風邪は万病の元」「風邪をこじらせる」などと言われるようになったのかもしれませんね。「風邪」が治らない場合に初めて、別の疾患を疑うわけですね。もちろん、最初が風邪症状であっても、ほかの症状や身体所見によって最初から別の疾患が疑われることもありますが、最初は風邪症状しかなく、全身状態が良好であれば、経過をみて考えていきます。「風邪であれば3日程度で熱は下がる」ということで、小児科には「風邪3日」ということばがあるんです。ですから、発熱が3日以上続く場合には、必ずほかの病気を考えてみます。それぞれの疾患によって経過が違いますから、それをみて診断するということですね。例えば、マイコプラズマ肺炎の場合は、最初は高熱が出て、ほとんど咳は出ません。しかし、2日目、3日目と時間が経過するとともに、だんだん咳が強くなるという特徴があります。マイコプラズマにはマクロライド系の抗菌剤が効果的ですが、自然治癒傾向もありますので、全身状態に応じてこの抗菌薬を使用します。また、患者さんの喉をのぞいてみたときに、扁桃(へんとう)が真っ赤に腫れて、膿(うみ)がつき、軟口蓋(なんこうがい)、いわゆる「のどちんこ」の上のあたりに赤い発疹がいっぱいあれば、溶連菌感染症と診断します。風邪であれば抗菌薬は処方しませんが、この疾患は溶連菌による感染症であり、きちんと治療しないと後遺症を残すことがありますので、必ず抗菌薬による治療を行います。風邪を治す薬はない?風邪のときは抗菌薬を処方しないのですか?ええ。大前提として、抗菌薬は細菌に効果があるのであって、ウイルスが原因の風邪には効きません。効果がない抗菌薬を飲み続けて、アレルギーや肝障害などの副反応が出たり、腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう。いわゆる「腸内フローラ」)が乱れて下痢などが起こったりすれば、かえって免疫力が落ち、風邪も治りにくくなります。そのうえ、その人の体内にいる細菌が、投与された抗菌薬に対して耐性を持つようになってしまうリスクがあります。耐性菌が出現すれば、それが新たな感染症の原因になることもありますし、それが地域にまん延すれば、抗菌剤の効かない病原体が増加してしまって、将来「感染症の治療に使う抗菌剤がない」という状況になってしまうことが危惧されます。では「風邪に効く薬」とはどんなものなのでしょうか?世の中で「風邪に効く」と言われている薬の効果は、あくまでも症状の緩和にすぎません。例えば、チペピジンヒベンズ酸塩(商品名アスベリン)という成分の入った咳止め薬を飲めば咳を緩和することができますが、風邪が治ったわけではありませんから、薬の効果が切れればまた咳が出てきます。たとえ薬を飲まなくても、風邪であれば3日ほどでそういった症状は治まってくるでしょう。ただ、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)という観点から考えると、症状を抑えることで身体が楽になるのであれば、薬を使うという選択肢もあるかもしれません。重要な会議のときに咳をしていては、周りの人も嫌でしょうし、何より集中できませんからね。ドラッグストアなどで売られている「風邪薬」はどう活用すればよいのでしょうか。ドラッグストアなどで気軽に買える風邪薬は、基本的に症状を抑えるための薬です。ですから、市販薬で症状を抑えているあいだに十分な食事と睡眠をとって、自分の自然治癒力を高めるという考え方を持ちましょう。3日たっても症状が悪化傾向にあればすぐ病院へ風邪をひいたら、どのタイミングでお医者さんに行くのがいいでしょうか。風邪は自然治癒が前提ですから、そんなに心配して病院に駆け込む必要はありません。大切なのは、風邪なのか別の疾患なのかを見極めることです。お医者さんに行く判断の目安となるのは、3日以上高熱が持続するとか、他の症状も含めて悪化傾向にあるときです。5日以上発熱が続くようなら、絶対におかしいと思ってください。市販薬などの対症療法薬を使うかどうかに限らず、症状が悪化傾向にあったり、いつもの風邪と違う症状が出てきたりしたときは、必ず病院に行ってください。咳や鼻水がしばらく続くことはありますが、全身状態が悪くて、発熱が3日以上続くのは要注意です。病院に来てくれた患者さんにも「熱が続くようならほかの疾患や合併症も疑わなくてはなりませんから、そのときはもう一度来院してください」と伝えています。3日過ぎても症状が変わらない、逆にどんどん強くなっていくとなれば、風邪以外の病気を考えておかねばなりません。子どもで高熱が続けば川崎病や伝染性単核症、咳が2週間以上続けば、肺炎や百日咳、成人では肺結核の可能性も考えなければなりません。感染症専門医の風邪予防と対策感染症の専門医だからといって、私も特別なことをしているわけではありません。インフルエンザや風邪が流行する冬季に患者さんと接するときは、常にマスクをして、手洗いを徹底しています。でも一番大事なのは、日頃から、ビタミンを多く含む食品やヨーグルトなどの乳製品を取り入れつつバランスのよい食事を心掛けたり、適度な運動、睡眠をとったりして、規則正しい日常生活を送ることですね。風邪をひいてしまったら、本来ならゆっくり寝て身体を休めたいところなのですが、そうはいかないこともありますよね。私の場合には、自分の体力で治せるように漢方系の栄養ドリンクを飲んだり、身体を温める作用のある葛根湯(かっこんとう)や麻黄湯(まおうとう)などを使ったりすることもあります。それでも症状が強くてつらいときは、解熱鎮痛剤や咳止めなどの対症薬を飲みつつ、ほかの疾患の可能性を考慮するようにしています。このとき、最も気をつけているのは、もちろん「ほかの人にうつさない」ということです。

谷口 清州

2019.2.18

インフルエンザ(後編)抗ウイルス薬・解熱剤は使うべき?

感染症の専門家である谷口清州先生に、身近な感染症についてやさしく解説していただくこのコーナー。前編「【谷口先生の感染症講座】インフルエンザ(前編)A型とB型、何が違う?」では、インフルエンザウイルスの型の違いについてご紹介しました。後編はワクチンや治療薬についてのお話です。インフルエンザにかかる人、かからない人世の中には「ワクチンを打っていないけれど、インフルエンザには全くかからない」という人が確かに存在します。一方、「毎年必ずかかって5日間寝込む」という人もいます。この違いは、それぞれがこれまでに獲得した免疫の内容によるものです。インフルエンザウイルスに対する免疫はピラミッドのように積み重なっていきますから、かかればかかるほど、いろいろなウイルスに対する抗体ができて、かかりにくくなります。となると、毎年インフルエンザにかかる人のほうが、より強固な免疫機構を持っているはずです。それなのに、なぜ毎年のようにインフルエンザに感染してしまうのでしょうか?もちろん、毎年流行するタイプが違うことに加え、ウイルスが少しずつ変異するために「完璧な免疫」を作れないから、ということもありますし、これまでに獲得した免疫が邪魔をして、流行中のウイルスに対して十分な免疫を作れないということもわかっています。また、人間はひとりひとりが違いますので、生まれ持った免疫の反応性、そのときの体調(栄養状態が偏っていたり、睡眠不足だったり)によって、免疫の働きが低下していることもあります。もちろん、流行中のウイルスに接触する機会の多さや、個人の手洗い・マスクなどの予防習慣も影響します。そのほか、「ワクチンを打っても抗体ができにくい人」というのも存在します。ヒトの免疫反応は受け継いだ遺伝子によって大きく異なり、例えば麻疹(ましん、はしか)ワクチンの場合、日本の人口の3%は抗体ができません。つまりこの人たちはワクチンを打っても、麻疹にかかってしまうことになります。インフルエンザウイルスに対しても、同じように個人の反応性の違いというものも想定されており、もともと抗体ができにくいという可能性もあります。インフルエンザワクチンは「ハズレ」でも意味がある?現行のインフルエンザワクチンには、A型とB型それぞれのウイルスで、その年に流行しそうな4種類が入っています。はずれることはもちろんありますが、もしはずれたとしても、その人が持っている抗体で対処できるようなウイルスが流行すれば防御が可能となり、軽症化が期待できます。最近のアメリカのデータによれば、多少流行とマッチしていなくても、ワクチンを打った人は、打たない人に比べて肺炎や心筋梗塞・脳梗塞など、重い合併症のリスクを軽減できるということが報告されています。つまり、「はずれたとしてもワクチンには意味がある」と言ってよいでしょう。抗インフルエンザウイルス薬との付き合い方「インフルエンザに感染したら、病院で抗ウイルス薬をもらって飲んだほうがいいか?」という話題は、感染症関連の学会でもよく議論されます。少なくとも欧米では、本来インフルエンザというのは、健康であれば自然に治る疾患と考えられています。そのため、やたらに薬を使わず、外出を控えて家で寝ていればよいと言われています。これまでのところ、抗ウイルス薬の効果というのは、「使わないときに比べて熱を1日早く下げること」とされています。薬を飲むことによって、3日間続くはずだった熱が、2日で下がるということです。つまり、「薬を飲んだほうがいいか」というのは、この「1日の発熱期間の短縮」をどう考えるかということになります。とはいえ、子どもや高齢者など一定数の人たちには重症化のリスクがあります。アメリカのデータによれば、基礎疾患がなくても、5歳以下の子どもであればインフルエンザ発症による死亡リスクがあると言われていますし、インフルエンザウイルスに対する免疫は、ある程度の年齢になると急激に衰えることも知られています。子どもや高齢者、基礎疾患がある方などに対しては、薬を使うメリットはあると言えるでしょう。一方、薬を使うことによるデメリットもあります。タミフルやリレンザなどを服用すれば熱は2日で下がりますから、お勤めされている人は仕事に出掛けたくなるでしょうし、子どもであれば外で遊びたいと言い出すかもしれません。しかし、熱が下がったからと言って人の多い場所へ出掛けると、ほかの人にうつしてしまう可能性があります。症状が治まってもウイルスはまだ体の中に存在しているからです。また、当然のことながら、抗ウイルス薬を使用することによって薬の効かない耐性ウイルスが出現するおそれがあるということも、頭に入れておくべきでしょう。熱が高いと脳炎・脳症になる? 解熱剤は飲むべきなのか特に子どもがインフルエンザウイルスに感染すると、「熱が高いと脳炎や脳症になるかもしれないから、解熱剤を飲ませたい」とおっしゃる親御さんが多くいらっしゃいます。しかし、「高熱が原因で脳炎や脳症になる」という認識は誤りで、「脳炎・脳症になったから高熱が続く」のです。脳炎というのは、ウイルスが脳細胞に侵入・増殖して、脳の中枢神経に障害が出て、けいれんや意識障害などの神経症状がでることを言います。例えば日本脳炎などのウイルスは脳で増え、脳の中枢をダメにしてしまいますから、体温の調節ができなくなり、42度を超える熱が出ることもあります。「熱が高いと脳炎になる」のではなく、「脳炎になったから熱が高くなる」のです。一方、脳症というのは、脳以外で起きている感染によって、炎症作用や生体機能の調節などに関わる伝達物質が過剰に分泌されることにより、間接的に脳に障害が起こることを指します。この過剰な防御反応により、必要以上の高熱が出るのです。すなわち、脳炎・脳症の原因というのは、発熱していることではなく、その発熱を起こしている疾患や病原体なのです。そもそも、熱が出るのは体の防衛反応です。免疫を活性化して、ウイルスの増殖を抑制するために、免疫機構が自ら発熱を引き起こしているのです。だからといって、子どもが高熱でつらそうにしていても解熱剤を使ってはいけない、ということではありません。解熱剤は病気を治すわけではなく、あくまでも一時的に症状を抑えるだけ。しかしながら、高熱のためにとてもつらい思いをしているとき、あるいは水分や食事がとれないときは、解熱剤で少しでも楽になって水分などが取れれば、それは決して悪いことではないのです。もちろん、お子さん自身が元気なら、熱が38.5度あったとしても無理やり下げる必要はありません。ただし、熱性けいれんを起こしたことがあるとか、発熱が悪影響を及ぼすような疾患がある場合には、この限りではありません。もし、インフルエンザで解熱剤を使う場合、アスピリン製剤を使用するとライ脳症という重篤な神経疾患を引き起こすことがありますので、アスピリンは決して使ってはいけません。通常、解熱剤にはアセトアミノフェン製剤を使用するよう勧告されています。ただし、お子さんの場合は体重によって使用量が異なりますので、以前に処方されたものなどを安易に使用するべきではありません。

谷口 清州

2019.2.1

インフルエンザ(前編)A型とB型、何が違う?

例年1月から3月頃にかけて流行するインフルエンザ。「今期はA型が流行している」とのことですが、そもそもインフルエンザのA型とB型って、何が違うのでしょうか?そんな疑問を解決するべく、感染症の専門家である国立病院機構・三重病院 臨床研究部長の谷口清州先生にお話を伺いました。インフルエンザのウイルスの型・亜型A型とB型の違いについてお話しする前に、まずはウイルスの型(タイプ)と亜型(サブタイプ)についてご説明しましょう。わたしたちがよく耳にするA型、B型などのいわゆる「型」は、インフルエンザウイルスの内部構造によるものです。さらにA型は、「亜型」により細かく分類されていきます。B型はA型に比べて多様性に乏しいので亜型はありませんが、山形系統とビクトリア系統に分類されています。インフルエンザウイルスの表面には、HAタンパク、NAタンパクという2つのスパイク(突起)があり、そのうちHAタンパクのスパイクが喉(のど)の受容体(シアル酸)にくっつくと、インフルエンザに感染します。感染すると、ウイルスは細胞の中でどんどん増えて、最後に細胞から外へ出ていこうとしますが、このときにもHAタンパクは表皮細胞上のシアル酸にくっついてしまい、ウイルスは細胞から離れることができません。それを切り離すのが、NAタンパク。NAタンパクによってHAタンパクとシアル酸の結合が切り離されると、ウイルスは遊離し、次の細胞に感染することができます。このようにして、どんどん気道の中で広がり、インフルエンザのさまざまな症状が出てくるというわけです。NAタンパクを阻害する薬が、皆さんご存じのタミフルやリレンザです。A型インフルエンザウイルスのHAタンパクは16種類、NAタンパクは9種類あるので、H1N1からH16N9まで16×9通りの抗原性の異なる亜型があります。これらすべての亜型はカモなどの水禽類(すいきんるい)の世界に存在しますが、それらがときどき人間の世界に侵入して感染するのです。これまでにH1N1(Aソ連型)やH3N2(A香港型)、H2N2(アジア風邪)が進入、流行したことが知られています。ちなみに、2009年には同じくA型の「H1N1pdm09」が人間界に入っています。当初、メディアでは「豚インフルエンザ」として騒がれたので、覚えておられる方も多いかもしれませんね。インフルエンザウイルスの「保有動物(リザーバー)」ウイルスは、基本的に生き物に寄生して生存していますから、必ずそのための保有動物(リザーバー)がいます。A型インフルエンザウイルスは水鳥(水禽類)界で循環・維持されているので、このウイルスのリザーバーは水禽類をはじめとする鳥たち、ということになります。そのほかの例を挙げると、サルモネラ菌やカンピロバクター、腸管出血性大腸菌(O157)などは、有袋類(ゆうたいるい)の動物が保有していますが、ヒトに感染すると食中毒を起こします。このように、もともと動物がもっていた病原体が人間に感染して起こるものを「人獣共通感染症」といいます。例えば、水禽類の鳥は、鳥インフルエンザの原因となるA型インフルエンザウイルスを腸管にもっていますが、症状が現れることはありません。しかし、鶏などの家禽類(かきんるい)や人間の世界に侵入して何代か経ることで、症状が現れるようになるといわれています。人間の腸管内にも、例えばビフィズス菌や大腸菌などのさまざまな細菌が生息していますが、それらは腸の中で共存関係を作っているため、多くの場合、病原性はありません。しかし、共存できない細菌、例えば腸管出血性大腸菌O157などが人間の体内に侵入すると、感染症をもたらすことになります。病原体にしてみれば、自分たちが生存するために人間の体内で増殖しているだけなのでしょうが、結果として感染症状を引き起こしてしまうのです。A型は大きな変異で免疫を逃れ、パンデミックを起こす型や亜型についての話が済んだところで、いよいよA型とB型の違いについてお話ししていくことにしましょう。繰り返しになりますが、A型インフルエンザウイルスには、HAタンパクとNAタンパクの組み合わせにより、144通りの抗原性の異なる亜型があります。A型インフルエンザは、数十年に一度、亜型が変わるという大変異を起こすことが知られています。突然別の亜型ウイルスが出現して、従来の亜型ウイルスにとって代わることがあるのです。もしそれが、人間が接したことのないウイルスだった場合、人間界の誰も免疫をもっていないので、たくさんの人が急速に感染、重症化し、パンデミック(世界的大流行)に陥ります。パンデミックが起こるのは、大きな変異を起こしやすいA型インフルエンザウイルスだけです。今のところ、これら144通りのA型インフルエンザ亜型のうち、人間界でパンデミックを起こしたのは、H1N1(Aソ連型)、H2N2(アジア風邪)、H3N2(A香港型)、H1N1pdm09などに限られています。ちなみに、ソ連型や香港型というのは、最初に流行した地名に由来しており、H1N1pdm09の「pdm」は「パンデミック」、「09」は「2009年」という意味です。また、先ほど「突然出てきた亜型ウイルスが、従来の亜型ウイルスにとって代わることがある」と言いましたが、突然現れたH1N1pdm09が人間界に定着してからは、不思議なことにH1N1(Aソ連型)の流行は見られなくなりました。人間界に適応したB型は、治りかけたころ他人にうつしやすい一方、B型インフルエンザは、50年くらい前に人間の世界に侵入し、今では完全に人間に適応しています。なぜなら、B型インフルエンザウイルスは、通常ヒトにしか感染しないからです。その点がA型と大きく異なります。「A型とB型と何が違うのか?」という質問をときどき受けることがありますが、その症状を見ただけではA型とB型を区別することはできません。しかし、データを読み解いてみると、A型は「熱が出るときに一番ウイルス量が多く」、B型は「症状がおさまってくる後半にウイルスが多い」ことが報告されています。つまり、他人にうつさないように、より注意が必要なのはB型なのです。なぜなら、ちょうど治りかけて、活動を始めるころにウイルス量が多くなるから。「もう治った」と思っていても、周りの人にうつしてしまう可能性が高いということです。ヒトからヒトに感染しなければ自分たちが生きられないことを、ウイルスはわかっているのでしょうか。こうした性質から、B型インフルエンザはよりヒトとの共存に適応したウイルスだといわれます。インフルエンザは根絶できるか? ウイルスたちの生存戦略A型インフルエンザは何十年かに一度大変異を起こすと言いましたが、A型であってもB型であっても、インフルエンザウイルスは毎年小さな変異を起こして、わたしたちの免疫機構を逃れています。だから毎年、たとえワクチンを打ったとしても、インフルエンザにかかる人がいるのです。それだけにとどまらず、彼らは自分が生存するためにヒトの免疫を抑制する遺伝子をもっているので、何度インフルエンザにかかっても、「完璧な免疫」というのはできません。すばやく変異し、ヒトの免疫を抑制し、何度も感染するというのが、インフルエンザウイルスの生存戦略です。わたしたちの免疫機構は、今のところインフルエンザウイルスの生存戦略を超越できるようなものではありません。つまり、人間界からインフルエンザを根絶することはできない、ということです。続く後編ではワクチンや治療薬について取り上げ、そんなインフルエンザとうまく付き合っていくためにはどうすればよいかを考えていきたいと思います。消えたウイルス「インフルエンザウイルスは根絶できない」と言いましたが、ヒトに感染するもので、今までに人類が根絶に成功したウイルスが1つだけあります。それが天然痘(痘そう)です。紀元前から「死に至る病」と恐れられ、生きながらえても顔にひどい瘢痕(はんこん)が残ってしまう天然痘。このウイルスはワクチンによってすでに根絶され、自然界には存在しません。しかし、実はアメリカやロシア(旧ソ連)の研究施設に、今もウイルスは存在します。もしもそのウイルスが、外部に流出するようなことがあったら……。今や、誰も免疫をもたない天然痘ウイルスは、バイオテロに使われる危険性をも秘めているということです。天然痘は非常に症状が重く死亡者も多い疾患でしたから、当時根絶は「絶対に必要なこと」だったのでしょう。しかし、病気を根絶するということは、免疫をもつ人がいなくなるということ。こうした側面があることも、忘れてはいけないと思います。

谷口 清州

2019.2.7

ノロウイルスに感染。消毒薬の作り方

食中毒を起こす原因には、ウイルス・細菌・自然毒・化学物質などがありますが、最も多いのがノロウイルスによるものです。1年を通して発生し、例年11月くらいから件数が増え始めます。ピークは12月から1月頃となり、学校や職場などで集団発生につながることがありますので注意が必要です。症状は? 子どもや高齢者は重症化のおそれも主な症状は吐き気・おう吐・下痢・腹痛であり、発熱は軽度です。潜伏期間は24~48時間で、発症から1~2日で症状はおさまります。(*1)健康な人は軽症で回復しますが、子どもや高齢者などは重症化しないよう注意が必要です。また、間接的ではありますが、おう吐物を誤って気道に詰まらせて死亡する例もみられます。感染経路は「人→人」「食品→人」の2つ感染経路は大きく分けると2つ。1つは、人から人への感染です。感染者のおう吐物や便の中に含まれるウイルスが手などに付着して起こる経口感染や、おう吐物による飛沫(ひまつ)感染にも注意が必要です。もう1つは、食品から人への感染です。感染者の調理したものを食べる、もしくはウイルスに汚染された二枚貝を、加熱が不十分な状態で食べるといったことによって感染します。予防のポイントはトイレのあと、調理の前便からのウイルスの排出は2週間以上続くことも。感染を防ぐためにも手洗いを徹底するようにしましょう。トイレを使用したあと、調理の前などは必ず手を洗ってください。石けんを使い30秒ほどこすり洗いし、水で流すことにより、ウイルスは大幅に減少します。(*2)指先や爪の間・手のしわは洗い残しの多い箇所なので、特に注意して洗いましょう。また、共用タオルで手を拭くのも避けてください。食品中のウイルスの感染力をなくすには一般的にウイルスは熱に弱く、85~90度で90秒間以上加熱すると感染力を失うとされています。(*3)感染報告の多い二枚貝でも、しっかりと加熱すればウイルスの脅威はなくなります。ワクチンはない 脱水症状に注意を現状、ノロウイルスにはワクチンがなく、治療は症状を軽減する対症療法のみです。つまり、下痢・嘔吐による脱水を補うための「水分補給」、そして「安静」により、症状がおさまるのを待つしかありません。おう吐物の正しい処理方法室内でおう吐などがあった場合は、二次感染を防ぐためにも必ず消毒が必要です。ただし、ノロウイルスの消毒は、殺菌目的の石けん(逆性石けん)はもちろん、アルコール(消毒用エタノール)では十分な効果が得られません。適切な道具をそろえ、正しいやり方で消毒しましょう。また、廃棄用のビニール袋にも塩素消毒液を入れておくとさらによいでしょう。なお、おう吐物は想像以上に遠くまで飛び散るので、広い範囲を消毒してください。消毒に必須となる「塩素消毒液」の作り方は次項で解説します。「塩素消毒液」の作り方次亜塩素酸ナトリウムを含む「塩素系漂白剤」と水で「塩素消毒液」を作ることができます。配合は、作りたい消毒液の濃度や、使用する漂白剤の濃度によって異なります。表を参考に漂白剤を希釈してください。台所用塩素系漂白剤(塩素濃度6%)を使う場合哺乳瓶用塩素系漂白剤(塩素濃度1%)を使う場合(*4)すみやかな特定が二次感染を防ぐおなかを下しただけでは深刻に考えずに学校や会社に行ってしまいがちですが、吐き気・おう吐・下痢・腹痛などの症状が強い人や、集団生活をする必要がある人、あるいは調理に従事する人などは、状況に応じて医療機関に相談しましょう。医療機関では「ノロウイルス抗原検査」が可能ですが、感染者の30%は無症候性とされていますので、流行期には常に手洗いを心がけてください。感染者を増やさないことが、巡り巡って自分の身を守ることにもなります。参考文献(*1)厚生労働省 ノロウイルスに関するQ&A(*2)東京都福祉保険局 防ごう!ノロウイルス感染(*3)厚生労働省 冬は特にご注意! ノロウイルスによる食中毒(*4)消毒液(塩素系漂白剤)の作り方 目黒区文:Open Doctors編集部

谷口 清州

2018.12.26

ヒートショックによる突然死にご用心

突然ですが、浴室のヒートショック対策、していますか? もし「自分には関係ない」と思っているなら大間違い。実は、ヒートショックに関連した入浴中の急死者数は、交通事故による死亡者数の4倍とも言われています。(*1)(*2)亡くなる大多数は高齢者の方ですが、寒くなるこれからの季節、高血圧や脂質(コレステロール)異常・糖尿病など、動脈硬化が進行しやすい持病がある方は特に注意が必要です。「ヒートショック」とは一体何なのかヒートショックとは、急激な温度の変化によって血圧が大きく変動するために起こる健康被害のことです。冷たい脱衣所・浴室から熱い湯船に入ったときになどに多く発生しますが、トイレでも下半身が外気にさらされるため注意が必要です。高齢者に多く、浴槽内で失神して溺死することもあれば、不整脈や心筋梗塞・脳梗塞などが起こって突然死につながることもあります。お風呂でヒートショックが起こるメカニズムまず、暖かい部屋から寒い脱衣所へ移動して裸になることで、血管が収縮し、血圧が上昇します。次に、浴室に入って熱いお湯につかり身体が温まると、血管が拡張して血圧が下がります。最後に、温まった身体で寒い脱衣所へ移動することで、血管が収縮し血圧が上昇。このジェットコースターのような激しい血圧の変化が、ヒートショックを引き起こします。当然、夏よりも冬のほうが脱衣所と湯温の温度差は大きくなり、激しい血圧変動を起こします。今日からできる! ヒートショック対策入浴前に脱衣所や浴室を暖める火気には十分に注意しながら、入浴前には暖房器具などで脱衣所を暖めておきましょう。浴室を暖めるには、高い位置に設置したシャワーから給湯し、湯船にお湯をためるのがおすすめです。シャワーの蒸気で浴室全体を暖めることができます。湯温は41度以下、湯船につかる時間は10分まで(*3)寒い冬は熱い湯船が恋しくなりますが、これは急激な血圧低下を招き、ヒートショックの危険性を高めてしまいます。半身浴であっても、長時間入浴すれば体温が上昇する可能性があるので、気をつけましょう。飲酒直後・食後すぐの入浴を控える飲酒直後や食後1時間以内は血圧が下がります。入浴中も血管が拡張して血圧が下がるので、二重に血圧が下がりやすい状態になってしまいます。血圧が下がりすぎると浴槽内で意識を失い(脳貧血)、そのまま溺れてしまうこともあります。忘年会シーズンとはいえ、お酒を飲んでからの入浴はやめましょう。一人での入浴を控えるか、家族に見回ってもらう特に高齢者の場合は、可能であれば一人での入浴を控えたほうがよいでしょう。公衆浴場や日帰り温泉などの入浴施設を活用するのも一案です。高齢者が入浴している間、同居の家族が定期的に見回って、声掛けなどをするのも有効です。ヒートショック予報の活用日本気象協会が運営する天気予報専門メディア「tenki.jp」では、全国の市区町村ごと約1900地点の7日先までの「ヒートショック予報」を提供しており、標準的な戸建住宅における「ヒートショックのリスク目安」を3ランク、5種類のアイコンで表示しています。自身の体調とも相談しつつ、こうした情報をうまく活用するのもよいでしょう。参考文献(*1)(*3)消費者庁 冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!(*2)警察庁 平成29年中の交通事故死者数について e-Statより文:Open Doctors編集部

石川 義弘

2018.12.19

インフルエンザが流行中。感染経路・潜伏期間・症状は?

例年12月から3月にかけて流行するインフルエンザ。感染経路、潜伏期間、症状、予防策などについてまとめました。インフルエンザの感染経路・潜伏期間・症状は?インフルエンザは「インフルエンザウイルス」に感染することで起こる病気です。主な感染経路は、咳(せき)やくしゃみの際に口から発生する小さな水滴による飛沫(ひまつ)感染。1~3日間ほどの潜伏期間を経て、38度以上の発熱、頭痛や関節・筋肉痛などの症状が急に現れるのが特徴です。子どもではまれに急性脳症を、高齢者や免疫力の低下している人では肺炎を伴うなど、重症化することがあります。(*1)「うつさない、もらわない」3つの予防策インフルエンザウイルスの感染を予防する主な方法として、以下の3つが挙げられます。1つ目は「流行前のワクチン接種」高齢者では死亡の危険が5分の1に、入院の危険が約3分の1から2分の1にまで減少することが期待できるとされています。(*2)2つ目は「手洗い」の励行流水・せっけんによる手洗いは、手や指などについたウイルスを物理的に除去する方法として有効です。アルコール製剤による消毒も効果があります。3つ目は「咳エチケット」を心がけることほかの人に向けて咳などをしない。咳やくしゃみが出るときはマスクをする。手のひらで受け止めたらすぐに手を洗う。飛沫を浴びないようにすれば、感染の機会は大きく減少します。去年も予防接種を受けたから、今年は必要ない?インフルエンザワクチンは、そのシーズンに流行が予想されるウイルスを用いて、毎年作り変えられています。前年にワクチン接種を受けた人でも、改めて接種を検討したほうがよいでしょう。重症化しやすい65歳以上の人などは、定期予防接種の対象となっていますので、希望する方は医師に相談しましょう。ちなみに、インフルエンザウイルスには大きく分けてA型・B型・C型の3つの型があり、流行的な広がりを見せるのはA型とB型です。「インフルエンザワクチンは打っても意味がない」は本当かワクチン接種をすれば絶対にインフルエンザにかからない、というわけではありません。しかし、発病や発病後の重症化を予防することには一定の効果があり、「打っても意味がない」というのは誤解です。最も期待される効果は、重症化の予防。特に基礎疾患のある人や高齢者では重症化する可能性が高いと考えられています。肺炎や脳症などの重い合併症を防ぐためにも、ワクチン接種の意義は大きいと言えるでしょう。抗インフルエンザウイルス薬は、早めの服用が効果的本来、インフルエンザは自然治癒傾向のある疾患ですが、これまでの研究では発症から2日(48時間)以内に抗インフルエンザウイルス薬を服用すると、発熱期間は1~2日間短縮され、鼻やのどからのウイルス排出量も減少することが報告されています。(*3)抗インフルエンザ薬には、内服薬のタミフルや吸入薬のリレンザなどがあります。発症から2日以内に服用を開始するのが効果的ですので、慌てることはありませんが、特に乳幼児や基礎疾患のある人などは早めの受診を心がけましょう。薬を飲まなくても注意! 子どもの「異常行動」以前、抗インフルエンザウイルス薬の服用後に、急に走りだす、部屋から飛び出そうとするなどの異常行動が報告されていましたが、最近の調査により必ずしも抗インフルエンザウイルス薬を服用していなくても異常行動が現れることが判明しており、服用の有無にかかわらず注意が必要です。小児・未成年がインフルエンザと診断されたら、少なくとも2日間は1人にさせないようにしてください。件数はわずかですが、転落等による死亡事例もあります。参考文献(*1)国立感染症研究所 インフルエンザとは(*2)厚生労働省 インフルエンザ(総合ページ) 65歳以上の皆様へ(*3)厚生労働省 インフルエンザQ&A文:Open Doctors編集部

谷口 清州

2019.1.30

急増する梅毒。感染経路や症状、検査や治療の方法は?

「梅毒」と聞いてみなさんはどんなことを想像するでしょうか? 「昔の病気でしょ?」「風俗店へ行かなければ大丈夫」そんな風に思っている人が多いかもしれません。しかしこの梅毒、じわじわと感染者数が増えていることをご存じでしょうか? そんな梅毒から身を守るため、感染経路や症状、検査、治療についてまとめました。梅毒の原因は? 主な感染経路は性的接触梅毒とは「梅毒トレポネーマ」という病原菌による感染症です。主な感染経路は性行為など粘膜同士の接触で、性感性症のひとつでもあります。性感染症とは性的接触によって感染する病気のことで、ほかにクラミジアや淋病(りんびょう)などが知られています。また、妊婦が感染すると胎盤を通して胎児に感染し、流産や死産になるおそれがあります。生まれた場合でも、臓器の異常などさまざまな障害を抱えることになります(先天梅毒)。なお、梅毒という病名の由来は、症状に見られる赤い発疹が楊梅(ようばい。ヤマモモの漢名)に似ているからだとも言われています。(*4)第1~4期へじわじわ進行。気になる症状は?梅毒は、感染してすぐには症状が現れません。その経過は第1期から第4期に分けられ、長い月日をかけて徐々に全身を侵していきます。まず、感染から3週間ほどの潜伏期間を経て、感染が起きた箇所にしこりができます。これが第1期で、特に治療をしなくても数週間で症状は消えてしまいます。感染から3カ月ほど経過すると第2期となり、全身に赤い発疹が出たり、性器や肛門の周辺に平らなできものが現れたりします。第2期でも症状だけは再び消えてしまいます。感染から3年ほど経過すると第3期となり、ゴムのような弾力のあるできものが、皮膚や筋肉、骨などにもできます。さらに進むと第4期になり、血管や神経まで侵され歩行が困難になるなど、日常生活にも支障を来す可能性があり、場合によっては死に至ることもあります。早期発見のキーワードは「約4週間」梅毒に感染しているかどうかは、血液検査で分かります。しかし、感染から3週間ほどは抗体検査をしても陽性反応が出ないこともあります。症状が出ても、感染したと思われる日から約4週間経過してから検査を受けるようにしてください。梅毒に感染していた場合、自分のパートナーも感染している可能性があります。必要に応じて、一緒に治療を行うことが重要です。治療は抗菌薬(ペニシリン系)の内服第1期や第2期の場合は、抗菌薬(ペニシリン系)の内服で完治します。梅毒は治療しなくても一時的に症状が消えるという特徴があるので、「もう治った」などと自己判断せず、処方された薬をきっちり飲みきることが大事です。また、一度完治しても感染を繰り返す可能性があります。適切な予防策を取らなければ、再感染の危険は十分にあります。自分もパートナーも守る。梅毒の予防策まずは不特定多数の人との性行為を避けること、そして、性行為の際はコンドームを使用することです。しかし、キスやオーラルセックスなどでも感染する可能性があるため、コンドームだけで100%予防できるわけではありません。皮膚や粘膜に異常が出た場合は性的な接触を控え、早めに泌尿器科や婦人科を受診しましょう。参考文献(*1)性感染症報告数 – 厚生労働省(*2)梅毒患者の増加で注意喚起 – 日医on-line(*3)感染症発生動向調査で届出られた梅毒の概要(*4)梅毒に関するQ&A – 厚生労働省文:Open Doctors編集部

石川 義弘

2019.1.30

流行が続く風疹。ワクチンを受けたほうがよい人は

流行が続く風疹。子どもの病気と思われがちですが、患者の多くは30~50代の男性や20~30代の女性。まさしく予防接種を受けていないか、免疫を十分に獲得できていない可能性のある人たちです。(*1)最も注意が必要なのは妊婦の感染で、障害をもった赤ちゃんが生まれる可能性があります。ですが、風疹はワクチンで予防できる病気です。風疹にかかったことがない人や予防接種を受けたことがない人、特に妊娠を希望する女性やそのパートナーは積極的に抗体検査を受け、十分な免疫がなければ予防接種を受けましょう。感染の自覚ない人も。風疹の感染経路と症状風疹は、せきやくしゃみなどの飛沫(ひまつ)を吸い込むことで感染し、症状が出るまでの潜伏期間は2~3週間です。発熱や発疹、リンパ節の腫れなどが現れます。また、大人が感染すると、子どもよりも重症化することがあります。一方で、症状が出ない感染者も15%~30%程度いると言われています。(*2)つまり、感染者の中には「風疹にかかった」という自覚がない人がおり、知らないうちに家族や職場の同僚などにうつしてしまうことも少なくありません。感染力はインフルエンザの数倍風疹の感染力はインフルエンザの2~4倍あり、1人の感染者から、免疫がない5~7人に感染させる可能性があります。(*3)風疹は「三日ばしか」という別名のとおり症状は軽めですが、まれに脳炎などの合併症が起こることがあり、決して軽視できない疾患です。なお、自然に感染したりワクチン接種をしたりすることで生涯続く免疫が体内につくられるため、その後は風疹に感染することはないとされています。妊娠中の感染で赤ちゃんに障害も妊婦が感染すると、赤ちゃんが難聴・心疾患・白内障などの障害をもって生まれるおそれがあり、これらの障害を先天性風疹症候群(CRS)といいます。妊娠初期ほどその確率は高くなり、妊娠1カ月で50%以上と言われています。(*4)妊娠したら風疹ワクチンは接種できない妊娠中は予防接種を受けられません。最も大切なことは、妊娠前に風疹ワクチンの接種を受け、免疫を獲得しておくことです。妊娠を希望している女性はもちろん、パートナーや家族、職場の同僚といった周囲の人たちも、ぜひ積極的に予防接種を受けてください。生まれた年で予防接種の機会が違うワクチン接種によって95%以上の人が免疫を獲得することができると言われています。2回の接種を受ければ、1回の接種では免疫がつかなかった人にも免疫をつけることができます。1990年(平成2年)4月2日以降に生まれた男女は、2回の予防接種を受ける機会がありましたが、それより年齢が上の人は受けていても1回だけ。十分な免疫がついていなかった場合、感染の可能性があります。1979年(昭和54年)4月1日以前に生まれた男性にいたっては、接種の機会すらありませんでした。(*5)また過去に風疹にかかったと思っていても、「はしか」など別の病気だったのを勘違いしている可能性もあります。記憶があいまいな場合は、採血による抗体検査を受けてみましょう。抗体検査はどこで受けられる?多くの自治体では、先天性風疹症候群(CRS)の予防のために、妊娠を希望する女性を主な対象とした抗体検査を無料で実施しています。検査といっても簡単で、採血検査のみで抗体価が分かります。無料で受けられるかどうか、どのクリニックで受けられるかなどについては、自治体のホームページでご確認ください。参考文献(*1)風疹急増に関する緊急情報:2018年9月26日現在 – NIID 国立感染症研究所(*2)風疹とは– NIID 国立感染症研究所(*3)風しん・先天性風しん症候群とは?|風しんの感染予防の普及・啓発事業|厚生労働省(*4)先天性風疹症候群とは – NIID 国立感染症研究所(*5)風しんについて|厚生労働省文:Open Doctors編集部

石川 義弘

2019.1.30

「健康診断で見つかるがん」は治る? がん入門編

男性の4人に1人、女性の6人に1人が、がんで亡くなる時代です。身の回りにがん闘病中の家族や友人がいるという方も少なくないことでしょう。そんな身近な「がん」ですが、がん細胞ができる原因やがんができにくい臓器など、治療以前の基本的な情報については意外と知られていないようです。今回は「がん入門編」として、石川先生にやさしく解説していただきましょう。そもそも「がん」はなぜできる?がんの原因は?石川先生。いきなりですが、「がん」ってなぜできるんですか?ずばり、がん細胞ができる原因は「細胞分裂のときに起こるミス」ですね。われわれの体の細胞が、毎日生まれては死んで、死んでは生まれているというのはご存じですよね。はい。その「生まれて」というのが、「細胞分裂」のことですよね。そうです。例えば胃の壁を構成している細胞の1つが寿命を迎えても、ほかの元気な細胞の分裂により新しい細胞が生まれることで、胃の壁の働きは保たれています。ちょっと難しい話になりますが、われわれは細胞の一つ一つに「DNA」という体を作る設計図をもっていて、これはアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)という4種類の部品を使って書かれています。細胞分裂をするときには、このA・C・G・Tの組み合わせで書かれた暗号を一言一句間違わずに引き継がなければいけないのですが、細胞分裂のときにミスが起こると、アデニン(A)だったものがシトシン(C)に書き換わってしまったりすることがあります。万が一、がんの発生や抑制に関係する設計図の一部がこのように書き換えられてしまうと、細胞のがん化を止められなくなってしまうのです。どうしてミスが起こってしまうのですか?例えば、1から10までの数を100万回繰り返して書いたとします。そうすれば1回や2回は絶対ミスをするでしょう? 毎日分裂を繰り返しているわれわれの細胞も同じです。疲れていたり、酔っ払っていたり、思考がうまく働いていなかったり……。そういうことが細胞にもあるんですよ。特にミスを起こしやすいのは、細胞の機能が落ちているとき、つまり年をとったときなんです。例えば、15歳くらいの孫と90歳のおじいちゃんの両方が100万回書けば、おじいちゃんのほうがミスをする回数も多いし、それを見逃すことも圧倒的に多くなるんじゃないでしょうか。がんになる臓器、ならない臓器。その違いはここまでの話をまとめると、「細胞が死んだときに新しい細胞を作ろうとするから、がんになる」「不摂生をしている人や年をとった人ほど、新しい細胞を作るときにミスをしやすい」ということになるでしょうか。そういうことです。一方で、「がんにならない臓器」があるのをご存じですか?「がんにならない臓器」……。「細胞が生まれ変わらない臓器」ということでしょうか。そんな臓器があるんですか?あるんですよ、心臓です。「肺がん」や「胃がん」はよく耳にすることがあっても、「心臓がん」って聞いたことないでしょう? あるとしても、ごくまれです。なぜ心臓にがんが発生しないかというと、心臓の細胞は、生まれてから死ぬまでほぼそのままだからです。心筋梗塞のコラムで「死んでしまった心筋を生き返らせることはできない」とお話ししましたよね。最近は「再生医療がもっと発展すれば、細胞も再生できる」という説もありますが、ひとまずその話は置いておくと、心臓の細胞は「おぎゃあ」と生まれてから死ぬまでずっと同じで作り直す必要がないから、がんにはならないというわけです。諸説ありますがね。なるほど! 細胞が死んで新しく生まれ変わる臓器は全てがんになりうるけれど、そうでない臓器にがんはできにくいということですね。そういうことですね。普通ならできそこないの細胞ができても、われわれの体をパトロールしている「免疫くん」がしっかりやっつけてくれています。しかし、不摂生をしたり、高齢になったり、何らかの理由でこの「免疫くん」が疲れてしまうと、できそこないの細胞をやっつけてくれなくなって、そいつをみすみす「がん化」させてしまいます。健康な人も「がん細胞」をもっている?すると先生、できそこないの細胞は誰もがもっているということですか?健康なわれわれの体内でも、がんになる可能性のある細胞がしょっちゅうできていますよ。通常であれば、そいつが小さいうちに「免疫くん」がやっつけてくれているので大ごとにはなりませんが、「誰もが日々がんになっている」と言えるでしょう。それを「免疫くん」がやっつけてくれている!そうです。だから「健康で規則正しい生活をしましょう」と言われるんですね。「免疫くん」が元気でいられるような生活をすることが、がんの予防につながるからです。「免疫くん」が元気なら、できそこないの細胞をやっつけてくれますから。「免疫力を高めることが大切だ」と言われるのはそういうわけなのですね。がんもいろいろ。ざっくり分類すると……がんは進行度合いなどによって、細かく分類されていると聞きました。そうですね、がんにはいろいろな分類があります。がんが疑われる場合は、詳しい検査の結果に基づいて分類を行い、その分類をもとに診断および治療方針を決めていく、という流れになりますね。どんな検査を行うのか、詳しく教えてください。がんが疑われる場合、まずは綿棒などで患部から細胞をこすり取ったり、針やメスなどで組織を採取したりします。これを病理医という細胞・組織診断のプロが顕微鏡で調べるのですが、この検査は「細胞診」や「組織診」と呼ばれます。細胞を調べる場合は「細胞診」。細胞の大きさや形などから細胞の悪性度を調べ、I~Vまでの「クラス(Class)」に分類します。一方、組織を調べる場合は「組織診」と言いますが、これはいわゆる「生検」のことです。細胞の大きさ、形、並び方などから組織の性質を調べ、1~5までの「グループ(Group)」に分類します。なお、組織診は細胞診よりも正確な判断ができることから、細胞診をしないケースも増えています。こういった検査を行うことで、「がんなのかどうか」や「どれぐらい悪いがんなのか」が分かります。ここで「がんである」と判明した場合、初めて「ステージ(Stage)」という分類が出てきます。「ステージI」、「ステージIV」といった言い回しはよく聞きます。どのように分類をするのですか?ステージ分類では、がんがどこまで進んでいるかを判断し、進行度合いによって分類します。例えば胃がんなら、がんが胃の粘膜の一番内側にいるのか、粘膜の下の層にいるのか、胃の筋肉まで進んでいるのか、胃の一番外側、漿膜(しょうまく)まで到達しているのか、もしくはそれも突き破ってほかの臓器にまで広がってしまっているのか。どこでどれくらいの大きさになっているかなどを調べます。なお、がんができた臓器によって分類の仕方は異なります。「ほかの臓器に広がる」というのが、いわゆる「転移」ですか?そのとおり。転移とは、細胞が血液やリンパの流れに乗ってほかの臓器に行くことです。リンパの流れは「リンパ節」という関門を通過しないと次の臓器に行けないので、がんもまずリンパ節に転移することになります。ですから、転移しているリンパ節の数や遠さ、あるいはリンパ節を突破してほかの臓器に転移しているか否かというのも、ステージ分類の判断材料になります。胃がんの場合は、がんが胃の粘膜にとどまってリンパ節に転移していなければ、手術による治療で完治することも少なくありませんよ。健康診断で見つかるのは「治るがん」?がんは早期発見すれば治る病気だとも言われていますよね。がんには「見つけやすくて、たいてい治療することで治るがん」と「見つけにくくて、治療しても治すのが難しいがん」があります。あくまでも一般論ですが、健康診断の項目に入っているようながんは簡単な検査でも見つけやすいうえに、見つかってすぐに治療をすればたいてい治ります。だから検査をして見つけているのです。「治すのが難しいがん」ですか……。そうです。例えば、健康診断の検査項目にはない膵臓(すいぞう)がん。これは簡単な検査で見つけるのが難しいうえに、見つかっても完治させるのが非常に難しい。一方、健康診断で必ずと言っていいほど行われる胃バリウム検査や検便は、胃がんや大腸がんを発見するためのものです。これらのがんは検査も簡単で見つけやすい。そして、早期に治療すればかなりの高い確率で治ります。治る可能性が高いがんを早く発見して、治療しようということですね。そう、「見つかったら治るがん」を見つけようとしているのです。そこに健康診断の重要性があります。多くの人が「検便を出すのは恥ずかしい」とか、「めんどうくさい」とかおっしゃいますが、検査に出さないなんてすごくもったいないと思います。なぜなら、検便で見つかる大腸がんは、他のがんに比べてわりと進行がゆっくりで、「便に血が付いているから検査しましょう」という段階であっても、治せる可能性がとても高いんです。がんの進行が遅ければ、治療して治る可能性も高い。だから検便!早い時期に見つけて、切ってしまえば治ります。だから検便はやったほうがいい。だって見つかったら治るのですから。検便はとても意義のある検査だと思いますよ。便だけで分かるんですから。便を出すだけなら、バリウム検査や採血よりもずっと楽で簡単だと思うんですがねえ。インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2018.9.18

不整脈が起これば死も。増える心筋梗塞の危険因子

心筋梗塞というと、死ぬほど胸が痛い、必ず死に至る……、そんな怖いイメージを持つ人も多いのでは。今は優れた薬や治療法のおかげで、早期に治療を開始すれば命を落とすことはなくなってきました。しかし現代の生活において、心筋梗塞の危険因子は確実に増えているようです。心筋梗塞ってなに?今回のテーマは「心筋梗塞」です。心筋梗塞という単語はニュースなどでよく耳にしますが、実際のところどのような病気なのでしょう?心筋梗塞の「梗塞」は、「血管が詰まる」という意味なんです。血管が詰まると、その先の筋肉に血液が流れていかなくなります。これが心臓で起こるのが「心筋梗塞」で、脳で起これば「脳梗塞」ということになりますね。なるほど、「心筋梗塞」は心臓の血管が詰まる病気なんですね。心臓には右冠動脈、左冠動脈(前下行枝)、左冠動脈(回旋枝)という3本の大きな血管(冠動脈)があって、心臓のすべての筋肉に血液を送っています。しかし、動脈硬化などが原因で3本のうちの心臓の血管のどれかが詰まってしまうと、その先にある心臓の筋肉(心筋)は酸素を受け取ることができず壊死(えし)、つまり死んで動かなくなってしまいます。心不全についてのコラムでもお伝えしましたが、心臓は全身に血液を送るポンプの役割を果たしています。心筋の一部が動かなくなるというのはポンプの故障と同じなので、血液を全身にうまく送れなくなってしまうのです。心筋梗塞になると何が起こるの?「ポンプの故障」ですか。そうです。このポンプの故障は多くの場合「不整脈」として現れますが、この不整脈が心筋の縮む順番をめちゃくちゃにしてしまうと、最悪の場合死に至ります。運よく不整脈が起こらず生きながらえたとしても、死んでしまった心筋を生き返らせることはできないので、ポンプの一部が壊れたままになります。前々回(心不全)のおさらいになりますが、このように心臓のポンプ能力が低下している状態を「心不全」というのです。不整脈が原因で死んでしまうこともあるのですか?心臓の筋肉が死んでしまうことによって起こる不整脈ですからね。心筋の縮む順番がおかしくなって全身に血液が行き渡らなくなることもあれば、心臓自体が動かなくなってしまうこともあります。普通の人にも起こるような、ときどきリズムが狂うくらいの不整脈だったら死に至ることはありません。ところで、人間の心臓って、1日に何回くらい動いているかわかりますか?1分間の脈拍を大体70回とすると、1時間で4200回、1日で……。そう、その計算だと約10万回になりますね。私たちが寝ている間も休みなく動いています。10万回動いていたら、機械だって1回や2回のミスはありますよね。つまり、誰にでも「たちの悪くない不整脈」は起きるということです。心筋梗塞は、心臓で「たちの悪い不整脈」が起きた状態ということなのですね。そう。心臓の血管が詰まって心筋が死に、「たちの悪い不整脈」が起きて心臓がうまく動かなくなるということです。繰り返しになりますが、ポンプ能力が低下して心不全の状態に陥っても、「たちの悪い不整脈」が起こらなければ、生き残ることもあります。私たちは、どんな症状が現れたとき、心筋梗塞に気付けるのでしょう?狭心症や糖尿病などの持病があったり、血圧が高かったりと、血管に負荷がかかるような疾患を治療中の方が、胸に今まで経験したことのないような強い痛みを感じたときは、すぐに救急車を呼んで病院に行くことをお勧めします。健康な人が「胸がちょっと苦しい」とか「痛い」とかいうのは、ほとんどの場合心筋梗塞ではありませんよ。心筋梗塞の治療法心筋梗塞になったら必ず命を落とす、というわけではないのでしょうか。昔は助からない人がほとんどでしたが、今は優れた薬や治療法がたくさんありますから、早い段階で病院に行けば、ほとんどの人が助かりますよ。心筋梗塞の治療にはどんな方法があるのでしょうか?多くの場合、動脈からカテーテルという細い管を入れ、血管の詰まった部分を風船で広げる「風船治療」や、これを応用して血管内で金網を広げる「ステント治療」を行います。血栓を溶かす薬の投与だけで回復する場合もあります。これらは治療時間も短く、体への負担もそれほど大きくないですし、ほとんど後遺症もありません。カテーテル治療ではどうにもならないというときは、血流の迂回(うかい)路を作る「バイパス手術」を行うこともありますが、こちらは体への負担が大きくなり、回復にも時間がかかります。どういう人が心筋梗塞になりやすい?心筋梗塞になりやすい人っているのでしょうか?心筋梗塞を起こした人の話を聞くと、それなりの理由があります。多くは高血圧や高コレステロール、糖尿病など、もともと持っていた病気や基礎疾患をちゃんと治療していなかった人です。その人たちが心筋梗塞になって、たまたま早い段階で病院に行って命が助かったとしても、その原因となっている基礎疾患を放っておいたら、また心筋梗塞を起こすことになります。普段健康に何も問題のない人が、ある日突然心筋梗塞を起こすということは、めったにありません。心筋梗塞が遺伝することはありますか?心筋梗塞そのものは遺伝しません。しかし遺伝的にコレステロールが高かったり、血圧が高かったり、糖尿病になりやすかったりという家系はあります。心筋梗塞は遺伝しないけれど、なりやすい体質は遺伝するということですね。心筋梗塞を防ぐには心筋梗塞になりやすい体質の人は、どんなことに気を付けて予防すればいいのでしょう?糖尿病の回でも話しましたが、もう一度おさらいしましょう。例えばご両親が糖尿病なら、何もしなければその子どもは多分糖尿病になると思います。仮に今あなたが50代で、ご両親は80代で糖尿病だったとすると、若いころのご両親は今のあなたより医学的によい暮らしをしていたはずだからです。「医学的によい暮らし」ですか?ご両親が若かったころは、今のあなたのように、気軽にタクシーやバスに乗っていたでしょうか? お酒も毎日は飲めなかったでしょうし、牛肉なども簡単に手に入らなかったのではないでしょうか。近所にコンビニエンスストアだってなかったはずです。今のほうが生活するには便利ですが、医学的には昔のほうがよい暮らしだったのではないか、と思うのです。今は、便利だけれど、健康に悪い生活をしているということ……。そう。あなたはご両親と同じ遺伝子を持っていることに加えて、医学的には悪い環境で暮らしているのですから、ご両親以上に、普段の健康や生活習慣に気を付けなくてはいけないということです。心筋梗塞の治療成績は上がっていますが、危険因子はご両親のころに比べると圧倒的に増えているということです。インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2018.7.18

寄り添い導くパートナー。今求められる医師の役割とは

「Open Doctors」とは?今、インターネット上にはたくさんの情報があふれています。当然「医療」にもその影響は及んでいますが、とりわけ医師と患者の間には大きな「情報格差」や「コミュニケーションギャップ」が生まれています。その現状をどうとらえて、どう未来へと進んでいくべきか。ここで紹介するのは、これからの医療の課題を見つめ、医師と患者の在り方をよりよくしていこうと考えている医師ばかりです。そんな医師たちを、私たちは「Open Doctors」と呼んでいます。第1回は、整形外科医・和田 啓義(わだ ひろよし)先生にお話を伺いました。和田先生プロフィール医師、医学博士。専門は整形外科、主に脊椎脊髄外科。医療現場でのコミュニケーションギャップを肌で感じ、その改善を目的として日本医療学会の設立に参画。その後も医療現場の一線に立ちながら、情報格差、コミュニケーションギャップの改善方法を模索している。平成6年 東京女子医科大学 整形外科入局平成9年 テキサス大学ヒューストン校 医学部分子医学部門リサーチフェロー平成12年 東京女子医科大学整形外科 助教平成19年 特定非営利活動法人 日本医療推進事業団勤務平成22年 東京女子医科大学整形外科 講師平成23年 東京女子医科大学東医療センター整形外科 講師平成29年 船橋総合病院 整形外科「情報格差」と「コミュニケーションギャップ」まずは、「情報格差」と「コミュニケーションギャップ」という言葉について教えていただけますか?はい。単純に言うと、「情報格差」は、医師と患者さんの持っている情報量と質が違うということで、「コミュニケーションギャップ」は、医師が持っている情報を患者さんに説明したけれど、理解が十分に得られていないこと、ということです。情報量と質の違いに、理解のズレ、ですか。そうです。例えば、外科の手術を行う前に、1時間かけて説明をしたとします。手術のやり方からメリット、デメリット、手術による合併症や薬の副作用、術後のケア……。医師としては、1から10まで全て説明したつもりです。患者さん、家族も納得して手術を受けられた。しかし、手術後に合併症が起こってしまった場合、患者さんは「こんなことは聞いていません」となることがあります。なぜかと言うと、医師が1時間で話した内容のうち、合併症についての話はその一部にすぎません。しかし、合併症が起こったときには、その原因や理由、治療法に今後の対策と、さらにさまざまな情報が必要になります。そのため、合併症についての詳しい情報を追加でお伝えすると、「聞いていません」となるのです。これは情報格差、コミュニケーションギャップの両方が絡み合った問題です。医療には不確実な要素が多く、さまざまな合併症が生じる可能性があります。特に手術治療では、その合併症が「不可逆性」、つまり元に戻せない性質であることが多く、情報格差やコミュニケーションギャップを原因とする問題が起こりやすいと感じています。医師と患者の「共通言語」としての情報医師として一般の人に情報を出していくのは、「医療の不確実性」つまり医療は完全ではなく不確実な要素が多いことを分かっておいてほしいという気持ちがあるからです。現在の医療は、10年前と比べても格段に進歩していると言えます。テレビやネットでは、医療分野における新しい発見や新しい技術が、日々取り上げられています。しかし捉え方を変えれば、「発見されただけ」で「実用化されていない」わけですから、まだまだ分からないことやできないことがたくさんあるとも言えるでしょう。 実際の医療現場では、「現在の医療レベルで適切と言われること」を行っているという現実があります。これは確実なものではなく、「不確実性」をはらんでいます。その「不確実性」の中には、個々の病気の特殊性や個人個人の多様性も含まれていて、結果として先ほどお話ししたような合併症につながってしまうこともあり得ます。医師側と患者側の情報格差を解消するのは非常に難しいことだとは思いますが、できるだけその間を埋めるような努力をしていくべきでしょう。これは、情報を多く持っている側、つまり医師側が努力をしていくことでしか、本質的な解決は望めません。そして、患者さんにとって分かりやすい情報を医師と患者で共有できれば、医師の側にもプラスになるだろうと思っています。。 例えば、自分の専門の整形外科領域では、患者さん向けの疾患ガイドブックを日本整形外科学会が作成しています。学会が研究結果に基づき作成した、ある病気についての標準的な診療方針や治療などがまとめられた資料を「ガイドライン」と言うのですが、これは医師向けなので、一般の方にはなじみのない表現や、分かりにくい部分もある。ガイドブックというのは、これを患者さん向けに分かりやすくしたものです。 自分は、診察の現場ではまずガイドブックを用いて病状を説明します。さらに深く知ってもらえるように、本での購入を希望する方には表紙のコピーを渡すか、無料で見ることのできる『Mindsガイドラインライブラリー』というWebサイトを紹介しています。患者さんがどこまでの情報を求めているかは個人によって異なるとは思いますが、自分の命に関わることであれば、やはり多くの情報をもとに自分で決めていきたいだろうと思うんです。でも、中には「先生が決めてください」という患者さんもいるのでは?そうですね。一通り説明しても、決められない。そうすると、よくあるのが「ほかのみなさんはどうしていますか?」という質問です。たとえ今までは周りの人と違うことを選ぼうとしてきた方であっても、医療の話になると「平均」を求める傾向にあります。「平均的なこと」を知るにはガイドラインを読むのが一番なので、ガイドブックが分かりやすい場所にたくさんあることは重要だと思います。患者さんがガイドラインを理解していれば、「自分はどうもこれに当てはまると思いますが、先生はどう思いますか?」「そうですね。この段階ですね。そうなるとこれが標準治療になります。ここをもう1回読んできてくださいね。」となる。そして「この治療になるとこういう合併症が起こる可能性もあります。」などと話していって、「この幅の中でどの治療法を選びますか?」という会話ができるようになるのです。共通言語ができるんですね。そういうことですね。こうなれば、情報格差がなくなります。情報格差がなくなると共通言語が生まれて、ギャップが埋まる。患者さんも「自分で選択」できるわけです。決めてほしい患者、情報を見るなと言う医師しかし、決めてほしい患者さんに対しては、共通言語を持つ、つまり同じ土俵に立ってもらうまでが大変なのかな?という気がするのですが。そうですね。本人の自覚と、時間が必要にはなると思います。情報化社会と言われる前は、『論語』にある「よらしむべし、知らしむべからず」のような考え、つまり「患者は病気や治療について詳しく知らなくても、医師が患者にとってベストと思う治療を行えばよい」と考える医師が多く、それがよしとされてもいたとも思います。患者さんが自分でどの治療を受けるか選択するという文化はほとんどありませんでしたからね。わたしの友人は、乳がんになったときに医師から「一切、ネットで病気の検索をするな」と言われたそうです。どのような状況での発言か分かりませんが、ネットにも病気に関する有用な情報は載っています。一方で民間療法に関するものや、不安をあおって「お金を出せばなんとかなる!」とうたう詐欺まがいのものまであり、何がいいのか分からなくなっちゃう。それを心配して、「見るな」と言われたのかしれませんね。でも「見るな」というのは一つの方法ではあるけれど、このネット社会で「未来永劫(えいごう)見るな」というわけにはいかないと思います。そうですよね。経営コンサルタントの梅田望夫さんが著書『ウェブ人間論』の中で、誤った情報が出てきてしまったとき、それを一つ一つつぶすんじゃなくて、正しい情報をたくさん発信していくことが大事なのだといったことを書かれていました。たくさん発信していくと誤った情報が正しい情報で埋め尽くされていき、結果正しい情報が広まっていくと。確かにそうだと思いましたし、正しい情報を出していくほうが、将来的には社会にはプラスになるんだとも思いました。それによって、医療の質も高くできるかもしれない。そのときに、正しい情報は誰が出すの?と言ったら、やはり医師が出すしかないのではないでしょうか。医師がガイドラインから一歩進んで、より分かりやすい患者向けガイドブックを作ったのは、その一つの流れと思います。医師だけが情報を抱え込む時代は、終わりを迎えつつあるのではないかなと思っています。導き手としての医師では、これから医師はどうあるべきなのでしょうか?先ほどお話したように、患者さんはガイドラインを読んで「わたしはきっとこの状態だ」と知ることはできるのですが、やはり自信が持てないんです。そこで、医師のところに行って検査を行い、画像などの結果を一緒に見ながら医師の判断を聞き、一緒に治療方針を考えていく。そこに医師の立ち位置がある。医師は導き手になる、というのが僕の考えです。そこまで念頭に置いて、「インターネットでどんどん見てください」と僕は言います。その上で、「もし、分からないことがあったら持ってきてください」と言っています。もちろんその前にガイドラインの説明をし、「これは多くの専門医師が多くの論文をもとに、今の一般的な方針を書いたものだから、まずはこれを読んでください。」と言っています。同じものを共有しながら導くのが医師の役割になっていくということですね。病を自分ごととしてとらえるしかし、そのやり方だと治療方針を決めるのにも時間がかかりそうですね。はい。時間はかかります。1回の診察では時間の制限があるので、最初はガイドラインを用いて説明し、さらに自宅で読んで勉強してもらい、次の外来で疑問点に答える。こういう形で、何度かに分けて理解をしてもらっています。でも、この時間があることによって患者さんは自分の病気と向き合い、“自分ごと”として理解するようになっていきます。数日のタイムラグを惜しむより、自分の病気としてしっかりとらえて、自分で決めていくことが大事なんです。そうすると、どんな結果になったとしても、自分が前を向いていけるから。医師の言う通りにしてうまくいかないと「だからやらなければよかった」となりがちです。しかし、自分で考えて選択した場合には、たとえ思った通りの結果にはならなくても、その結果に向き合っていくことができます。治療は一時ですが、結果は一生。どのように病をとらえていくかは、本当に大事なことだと考えています。自分のものとしてとらえることが重要なんですね。でも「自分で決めよう」という気持ちを引き出すのは大変そうです。そうですね。患者さんに「先生だったらどうしますか?」と聞かれることもあります。自分は正直に「僕も悩みます」と答えると「先生、ずるいですね」って言われるんです。(笑)でも、医師は病気を診断することはできても、「医療の不確実性」があるために、その治療結果に絶対はありません。となると、何が本当に大事なのか優先順位を決めていくしかないのですが、その優先順位は個人の価値観や人生観も含めて考えないと分からないのです。ですから、「自分もその場面になって初めて、本当の答えを出すために悩む」というのはうそではないと思っています。以上の言葉を、それこそコミュニケーションギャップのないように伝えた上で、「大事なのは、自分で決めることです」と言っています。「決められない」も「答え」である「自分で決められない」患者さんにはどうされるんですか?実は、「決められない」ということも「答え」なんです。例えば、手術は「決めた」ときにしかできないので、「決められない」というのは「やらない」と決めたことと同じことになるのです。確かにそうですね。だから「決められない」というのも、その人の答えであり、人生観に基づく判断と理解しています。これは、あくまでも自分の考えですので、扱う病気によっても違うかもしれません。自分は整形外科の中でも脊椎外科が専門で、加齢に伴う疾患を多く診ているから「自分で決める」ということについて比較的時間をかけてお話しできるのかもしれませんね。これからの医師の価値とは決めたい人にとっても、決められない人にとっても、このサイトのような情報源は重要な役割になると感じます。そうですね。情報が整備されれば、正しい情報にアクセスする患者さんが増えて、変な情報にアクセスしにくくなる。これだけ情報を出すと、医師に何の価値があるのかなと思われそうですが、逆に医師の価値は「あなたはこういう状態ですよ」と診断をして、次のステップに進む手助けする部分にあると思います。それが先生の言う「導き手」としての医師の姿ですね。はい。ほかにも診療の現場では、これまで言葉だけで説明していたものを、絵や画像、冊子などを使って伝えるなど、患者さんに「残る情報」にしていく工夫もしています。そして、自分が渡しきれない情報をインターネットで見てきてもらい、次回それについて話して、情報を修正する。事実がしっかりとありながら、患者さん側が誤解して受け取っていることもありますからね。Open Doctorsのような情報媒体をどんどん使っていけたらいいのではないかと思っています。これからは、「自分(医師)だけが情報源である」という医療のスタイルから、患者さんがアクセスできる情報がたくさんある中で、医師はその情報を整理してあげる「患者さんのパートナー」的な役割になっていくと考えています。「今のあなたは、その状態ではないから、こちらの情報をもとに考えていきましょう。」などと情報を修正しつつ、お互い理解して進めていく。多くの患者さんを診ている医師だからこそできることと思います。どんなに情報が増えても、その部分は変わらないでしょう。和田先生は、「自分自身が納得した人生を歩むために、自ら選択する。」「医師はその“導き手”であり、“パートナー的存在”になっていく」と語ります。人はいつか必ず死を迎えます。そして、日本の現代社会に暮らす私たちのほとんどが、その手前で健康を損ない、医療を受ける側になります。そのとき私たちは、どんな選択をするのでしょうか。患者としていつか医療に関わる私たちも、健康や医療にもっと関心を持ち、情報化社会の中で賢く学んでいく。そうすることで、いざ医療を受けることになったときも、納得した形で、人生を歩んでいくことができるのではないでしょうか。インタビュー・文:亀山 美千代

和田 啓義

2018.6.27

初期症状がでにくい糖尿病。栄養の取りすぎが病気の原因に。

糖尿病と言うと、「太っている人の病気」と思われがちですが、そんなことはありません。よくない生活習慣を続けていれば、誰もが発症しうる身近な病気です。しかし、なぜ糖尿病になるのか、糖尿病を発症するとどんな不都合があるのかなど、詳しく知っている人はあまり多くないのが現実です。石川先生に詳しく解説していただきましょう。糖尿病とは糖尿病って、どんな病気ですか?文字のとおり、「尿に糖が出る病気」です。糖尿病の人の尿は甘いので、ありが寄ってきます。おそらくそんな様子を見て、昔の人が「糖尿病」と名付けたのかもしれません。なぜ尿に糖が出てしまうのでしょう?糖は私たちの体にとって大事な成分ですから、本来、尿に流れ出ることはありません。しかし、糖のとりすぎにより、腎臓がコントロールできる量以上の糖が血液中を流れ、結果として尿の中に糖が出てきてしまうのです。糖は体に悪いのでしょうか?糖のとりすぎが体によくないだけで、糖自体は体に悪いものではありません。糖は、生物体・人類にとって最高のエネルギー源です。われわれの体は、ブドウ糖、つまりグルコースを使って動いており、糖がなければ人間は生きていくことができません。糖がなくなってしまうと脳の活動が停止してしまいますから、人間にとっては絶対に必要な成分と言えるでしょう。ですから、人間の体には、血糖値がある程度以下にならないよう厳密にコントロールする仕組みが備わっています。ここで登場するのが、血糖値が高くなりすぎないようにコントロールする「インスリン」というホルモンです。糖尿病の原因とインスリン糖尿病とインスリンの関係を教えてください。食事をすると血糖値(血液中の糖の濃度)が上がります。インスリンは、上昇した血糖値を下げるホルモンで、血液中の糖を筋肉などの組織に取り込ませることで血糖値を一定に保つ働きがあります。簡単に説明すると、「食事をする⇒血糖値が上がる⇒インスリンが分泌される⇒ブドウ糖が筋肉などの組織に取り込まれる⇒血糖値が下がる」ということです。本来、インスリンが効かないという人はいませんが、運動不足や栄養過多が続くとインスリンの働きが悪くなり、血糖の取り込みが上手にいかなくなります。これを医学用語では「インスリン抵抗性」と呼びます。糖尿病のなかには、膵臓(すいぞう)にあるβ細胞が壊れてインスリンが分泌されなくなってしまう「1型糖尿病」と、いわゆる成人型糖尿病と言われる「2型糖尿病」があります。後者の2型糖尿病は、ほんの数十年前までは「お金持ち病」と言われていました。それだけ糖がとれるのは、お金持ちだけだったのでしょう。糖尿病には、栄養過多や肥満が大きな原因になるということでしょうか?肥満になると、筋肉に取り込まれなかった多量の糖が血液中に流れることになります。これが糖尿病の原因となります。インスリンは、膵臓の中にある特殊なインスリン分泌細胞(β細胞)で作られています。健康なときは、糖を筋肉に取り込むために十分な量のインスリンが分泌されますが、肥満が進んで血糖値が高くなると、増えてしまった糖を筋肉に取り込むために、さらにたくさんのインスリンが分泌されるようになります。ところが、そのうちにβ細胞はインスリンを出すことに疲れてしまい、だんだん分泌が落ちてきてしまう(インスリン分泌障害)。インスリンの分泌が落ちているのに、肥満のまま、糖をたくさん摂取し続けていると、糖は筋肉に取り込まれなくなって血中にあふれてしまいます。この状態を糖尿病と呼びます。糖尿病に初期症状はない?糖尿病になるとどんな症状が出るのでしょうか?糖尿病には初期症状がほとんどありません。多少疲れやすくなったり、尿の量が多くなったりすることがあるぐらいです。多くの場合、健康診断で血糖値やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の値が高いとか、尿に糖が出ていると指摘されて気づきます。糖尿病を見つけるために、どのような検査があるのでしょうか?「空腹時血糖健康診断」という空腹時の血糖値を測る方法と、血液検査で過去1~2カ月の平均血糖値であるHbA1cを測る方法があります。血糖値は、ガムをかんだり、砂糖をなめたり、コーヒーを飲んだりするだけでも変動してしまいますから、過去1カ月の平均血糖値が分かれば、より正確な診断をすることが可能になります。ほかに、尿検査や砂糖水を飲んだあとの血糖値を測る方法(経口ブドウ糖負荷試験)もあります。ちなみにHbA1cというのは、血液中のヘモグロビンと糖が結合したものです。血糖値が高い状態が続くと、体のあちこちに糖が付着し、タンパク質であるヘモグロビンをも変性させてしまいます。忙しくて健康診断を受けていなかったら、突然心筋梗塞になって、調べてみたら血糖値が高かったという方も少なくありません。糖尿病になると、糖が体のあちこちに沈着するので、血管も砂糖漬けになり、ボロボロになってしまうのです。血管が砂糖漬け……。やはり、ケーキやおまんじゅうなど甘いものが好きな人は糖尿病になりやすいのでしょうか?基本的には、ケーキを食べても、おにぎりを食べても、私たちの体はエネルギー物質に変えることができます。だから食べるのはかまいませんが、大切なのは食べ過ぎないことです。一般的には、体重と身長から肥満度を表すBMI(体格指数)による適正体重を保つのがよいとされています。それにプラスして、ご両親が糖尿病であるかなどの遺伝的な背景も考慮する必要があります。ご両親に糖尿病の気がある方があまりよくない生活習慣を続けて太ってしまったら、間違いなく糖尿病を疑うべきでしょう。糖尿病はどのような問題を引き起こすのでしょうか?糖尿病の人は、血管が砂糖漬けの状態です。すなわち、血管が硬くなったり詰まりやすくなったりするような病気は、おおかた糖尿病に合併すると思って間違いないでしょう。脳の血管なら脳梗塞、心臓なら心筋梗塞、目なら失明など、糖尿病からさまざまな病気が派生します。糖尿病は尿に糖が出てしまう病気ですが、実態は血管病で、全身の血管がだめになってしまうことが問題なのです。とはいえ、どの病気もそう簡単になる病気ではありませんから、1年に1回、必ず健康診断を受けるようにしていれば、心配には及びません。もし糖尿病になってしまったら?もし糖尿病になってしまったら、どうすればいいのでしょうか?糖尿病は、透析が必要になったり、失明したりというリスクを伴う怖い病気です。しかし、糖尿病の人全員がそうなるわけではありません。糖尿病だと診断されても、しっかり治療を受ければ心配することはありません。1型糖尿病の方は膵臓からインスリンが分泌されなくなっているので、外からインスリンを補うしか方法はありませんが、2型糖尿病の方は、適切な治療を受けることに加えて、ご自身の生活習慣を改善していくことによって糖尿病が治るという方もいらっしゃいます。薬を正しく服用するのとともに、生活習慣を改善していくことが大切なのですね。膵臓を刺激してインスリンの働きを高めたり、効果を促進したりする、さまざまな種類の薬が出ています。つい最近だと、余分な糖をわざと尿に出してしまう薬も出てきました。しかし、人間がこれらの薬を飲み始めてまだ数十年です。新薬が効くことは間違いないのですが、これらの薬をこれから何十年か飲み続けたときに、どんな副作用があるかというのは、誰にも分かりません。となると、やはり一番よいのは、昔ながらの、食事制限と運動ということになります。このふたつは何百万年も前から続いていますので、絶対に副作用はありませんからね。父も糖尿病だったけど長生きした。だから私も…糖尿病の多くは遺伝します。あるとき私の診察を受けにきた患者さんが言いました。「父も糖尿病ですが、85歳の今も元気です。だから私も大丈夫ですよね。」確かに、この患者さんは、お父さんの糖尿病の遺伝子も、85歳まで生きられる遺伝子も持っています。そして案の定、糖尿病になってしまいました。さて、この方はお父さんと同じ85歳まで生きられるでしょうか?答えは、このままの生活を続けていれば、「NO!」です。なぜなら、お父さんがこの患者さんと同じ年齢を生きた時代と、今、患者さんが暮らすこの時代が違うからです。私は患者さんにお聞きします。「あなたは、あなたと同じ年齢のときにお父さんが食べていたのと同じ食事をしていますか?」「あなたは、あなたと同じ年齢のときにお父さんが歩いていたのと同じ距離を歩いていますか?」どう考えても、今の人たちのほうが、健康に悪い生活をしているのは一目瞭然。おいしいものを苦労せずに食べられて、おまけに歩く距離も減ったとなれば、お父さんより明らかに健康に悪い生活を送っていることは間違いありません。おまけに仕事が忙しくて、ストレスに追われる毎日を送っています。つまり、お父さんの世代なら糖尿病でも85歳まで生きられても、「おいしいものを手軽に食べられて」「歩かず」「ストレスフルな」環境にいる患者さんは、このままの生活を続けていたら厳しい、ということになってしまいます。とはいえ、現代において、昭和の時代と同じように、食事をして、歩いて……という生活するのは、不可能に近いことです。それでも、少しずつ若い頃のお父さんと同じ生活習慣に戻す努力をしていただいて、足りない分を現代のお薬で補うというのが、本来のやり方ではないでしょうか。現代の美食をして、現代の運動習慣もそのままで、悪くなった分も現代の薬で補う。薬を飲めば、確かに血糖値は下がるかもしれませんが、人間・生物としては一番好ましくない治療方法だと思います。インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2019.10.10

痛風ってどんな痛み? プリン体が多い食事に注意 痛風のQ&A

病気に対する疑問や不安に、横浜市立大学大学院医学研究科 循環制御医学 主任教授の石川義弘先生が答えてくれる「教えて! 石川先生」。第3回の病気は、「痛風」です。「風が吹くだけでも痛い」と痛風の患者さんが話しているのを聞いたことがあります。石川先生も「今まで経験したことのないくらい痛いですよ」と言います。平成28(2016)年の国民生活基礎調査によれば、男性の痛風による通院者率(人口千対)は、60代で36.8%、3人に1人が痛風であることがわかります。痛風は「ぜいたく病」と言われることも……?そうですね。日本では「徳川家の歴代将軍も加賀百万石の殿様も、誰ひとりとして痛風になった人はいない」と言われているからでしょうか。よく痛風の患者さんに「名誉ある病気になれて、あなたはなんてラッキーなのでしょう。徳川家康よりもぜいたくな暮らしをされているんですね。」とお話しします。痛風とはどんな病気?DNAの代謝物質である尿酸が体内にたまりすぎてしまうと、さまざまな病気を引き起こします。まず、血液中の尿酸の濃度が高まると、高尿酸血症といわれる状態になります。たまりすぎた尿酸が関節の中で結晶化し、炎症が起きた状態を痛風と言います。一番多い症状は痛風結節といって、特に足の親指の付け根あたりが痛くなります。他にも、腎臓がやられてしまったり、結石のような石になったりするケースもあります。「痛風は痛い」?どのくらいの痛み?あなたが男性なら過去に経験したどんな痛みより痛いですよ。男性である私は経験したことがないけれど、お産くらい痛いとも言われています。足の親指の付け根あたりがパンパンに腫れあがって、患者さんいわく、「風が吹いただけでも痛い」そうです。グルメの国フランスでは、かなり昔から痛風があったようですが、その当時の医学漫画には、やりを持った悪魔が痛風患者の足を突っついている様子が描かれています。キャビア、めんたいこ、白子、あん肝などのいわゆるグルメ食と言われる魚卵や、プリン体が多く含まれるビールは、痛風の原因になります。日本やアジア諸国の食生活がヨーロッパに近づいたということでしょうね。あくまでも食べ過ぎや飲み過ぎがいけないのであって、食べてはいけないということではありませんよ。プリン体0というビールならいくら飲んでも大丈夫?いいえ。プリン体0でも、飲み過ぎれば肝臓や腎臓などの代謝系機能に障害が起きてしまいます。確かに痛風の患者さんにはビール好きの方が多いので、「飲むのならプリン体0の方がいいですよ」とお話ししますが、あくまでも程度問題です。飲み過ぎたらだめですよ。痛風の痛みを忘れるためにお酒を飲んでいるという人もいましたけどね(笑)。痛風になったらどんな治療をする?痛風は、年がら年中痛いわけではなくて、ときどき起きる発作が痛いんですね。その発作が起こると1週間くらいは、痛くて歩けなるようなこともありますが、それ以外のときは症状がありません。ですから、痛風発作を起こさないように、まず食生活を見直すこと。そして、薬を服用して、ある程度まで尿酸値を下げておくことが大切です。痛風によく効く薬はある?確かに最近は、尿酸の排せつを促進したり、尿酸の産生を抑制したりと、さまざまな効能を持つ薬があります。しかし、薬を飲んでいるからといって、あん肝をつまみにビールを飲んでいたら、本末転倒です。ずばり、痛風は治療すれば治る?痛風は、尿酸値をコントロールできれば発症しません。しかし、痛風になりやすい体質の方も少なくありませんから、やはり正しい食生活や生活習慣を心がけることが基本になります。痛風が悪化するとどうなる?なかには、足の関節が変形して、歩けなくなってしまうほどひどい症状の方もいらっしゃいますよ。痛風が他の病気につながることは?例えばですが、梅毒にかかっている患者さんが診察にいらしたとき、どのような検査をすると思いますか? 医師はまず、梅毒にかかっているなら、淋病(りんびょう)やクラミジア、時にはエイズもと、さまざまな性病の可能性を考えます。つまり、この患者さんには、「梅毒にかかるような生活習慣があったのではないか?」と考えるんです。それと同じで、痛風の患者さんを診るときには、「この人は痛風になるような生活習慣なのかな」と考えてみるわけです。もしそうだとしたら、そのうち、糖尿病や高血圧などの生活習慣病になってもおかしくありません。なかには遺伝が強く関わっているケースもありますが、大体の病気は、表面に現れている症状だけではなくて、原因となる生活習慣にも目を向ける必要があるということです。ぜいたくな生活をしていたら、痛風以外の病気が起きてもおかしくありませんよね(笑)。痛風になるような人は、その生活習慣を見直していかなければ、きっと高血圧にもなるし、糖尿病にもなるし、動脈硬化にもなるでしょう。どんどんつながっていってしまいますよ。ストレスが痛風に影響する?ストレスがかかると、過食に走る人も多いです。過食という生活習慣の結果、痛風につながることもあるかもしれません。決して、ストレスだけが独立して痛風の原因になっているというわけではないと思います。生活習慣は、食べるものであり、仕事の仕方であり、生活のリズムであり、運動習慣でもあります。その昔、家に電灯などなかった頃は、暗くなったら仕事は終わりという人が多かったことでしょう。それがここ数十年間で、当然のように深夜まで残業をするようになってしまいました。こういった生活習慣の変化がストレスとなり、ストレスがまた生活習慣を悪化させ、痛風の発症に関わっているという可能性は、大いにあるでしょうね。参考文献:平成28年国民生活基礎調査インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2019.10.29

Open Doctorsは病気についての正しい知識をやさしい言葉で紹介。お医者さんとの間にある情報の差を解消することで、あなたの意思決定を支援します。

produced by
市民・患者のための健康・医療コミュニケーション学会