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国立病院機構三重病院 臨床研究部長

谷口 清州

プロフィール

専門は、小児感染症学、感染症疫学。
小児科の医師として日々患者さんに向き合いながら、「なぜそうなるのか」という疑問を持って研究に取り組んでいる。
病気や治療方法については、研究成果や学術論文による医学的な根拠を示しつつ、わかりやすく説明することを心掛けている。

略歴

1984年三重大学医学部卒業後、同大学小児科学教室入局。その後関連病院の小児科勤務を経て、
1996年国立感染症研究所感染症情報センター主任研究官。
2000年世界保健機関(WHO)
2002年国立感染症研究所感染症情報センター室長
2013年より現職。

国立病院機構 三重病院

谷口 清州先生の記事を読む

インフルエンザ(前編)A型とB型、何が違う?

例年1月から3月頃にかけて流行するインフルエンザ。「今期はA型が流行している」とのことですが、そもそもインフルエンザのA型とB型って、何が違うのでしょうか?そんな疑問を解決するべく、感染症の専門家である国立病院機構・三重病院 臨床研究部長の谷口清州先生にお話を伺いました。インフルエンザのウイルスの型・亜型A型とB型の違いについてお話しする前に、まずはウイルスの型(タイプ)と亜型(サブタイプ)についてご説明しましょう。わたしたちがよく耳にするA型、B型などのいわゆる「型」は、インフルエンザウイルスの内部構造によるものです。さらにA型は、「亜型」により細かく分類されていきます。B型はA型に比べて多様性に乏しいので亜型はありませんが、山形系統とビクトリア系統に分類されています。インフルエンザウイルスの表面には、HAタンパク、NAタンパクという2つのスパイク(突起)があり、そのうちHAタンパクのスパイクが喉(のど)の受容体(シアル酸)にくっつくと、インフルエンザに感染します。感染すると、ウイルスは細胞の中でどんどん増えて、最後に細胞から外へ出ていこうとしますが、このときにもHAタンパクは表皮細胞上のシアル酸にくっついてしまい、ウイルスは細胞から離れることができません。それを切り離すのが、NAタンパク。NAタンパクによってHAタンパクとシアル酸の結合が切り離されると、ウイルスは遊離し、次の細胞に感染することができます。このようにして、どんどん気道の中で広がり、インフルエンザのさまざまな症状が出てくるというわけです。NAタンパクを阻害する薬が、皆さんご存じのタミフルやリレンザです。A型インフルエンザウイルスのHAタンパクは16種類、NAタンパクは9種類あるので、H1N1からH16N9まで16×9通りの抗原性の異なる亜型があります。これらすべての亜型はカモなどの水禽類(すいきんるい)の世界に存在しますが、それらがときどき人間の世界に侵入して感染するのです。これまでにH1N1(Aソ連型)やH3N2(A香港型)、H2N2(アジア風邪)が進入、流行したことが知られています。ちなみに、2009年には同じくA型の「H1N1pdm09」が人間界に入っています。当初、メディアでは「豚インフルエンザ」として騒がれたので、覚えておられる方も多いかもしれませんね。インフルエンザウイルスの「保有動物(リザーバー)」ウイルスは、基本的に生き物に寄生して生存していますから、必ずそのための保有動物(リザーバー)がいます。A型インフルエンザウイルスは水鳥(水禽類)界で循環・維持されているので、このウイルスのリザーバーは水禽類をはじめとする鳥たち、ということになります。そのほかの例を挙げると、サルモネラ菌やカンピロバクター、腸管出血性大腸菌(O157)などは、有袋類(ゆうたいるい)の動物が保有していますが、ヒトに感染すると食中毒を起こします。このように、もともと動物がもっていた病原体が人間に感染して起こるものを「人獣共通感染症」といいます。例えば、水禽類の鳥は、鳥インフルエンザの原因となるA型インフルエンザウイルスを腸管にもっていますが、症状が現れることはありません。しかし、鶏などの家禽類(かきんるい)や人間の世界に侵入して何代か経ることで、症状が現れるようになるといわれています。人間の腸管内にも、例えばビフィズス菌や大腸菌などのさまざまな細菌が生息していますが、それらは腸の中で共存関係を作っているため、多くの場合、病原性はありません。しかし、共存できない細菌、例えば腸管出血性大腸菌O157などが人間の体内に侵入すると、感染症をもたらすことになります。病原体にしてみれば、自分たちが生存するために人間の体内で増殖しているだけなのでしょうが、結果として感染症状を引き起こしてしまうのです。A型は大きな変異で免疫を逃れ、パンデミックを起こす型や亜型についての話が済んだところで、いよいよA型とB型の違いについてお話ししていくことにしましょう。繰り返しになりますが、A型インフルエンザウイルスには、HAタンパクとNAタンパクの組み合わせにより、144通りの抗原性の異なる亜型があります。A型インフルエンザは、数十年に一度、亜型が変わるという大変異を起こすことが知られています。突然別の亜型ウイルスが出現して、従来の亜型ウイルスにとって代わることがあるのです。もしそれが、人間が接したことのないウイルスだった場合、人間界の誰も免疫をもっていないので、たくさんの人が急速に感染、重症化し、パンデミック(世界的大流行)に陥ります。パンデミックが起こるのは、大きな変異を起こしやすいA型インフルエンザウイルスだけです。今のところ、これら144通りのA型インフルエンザ亜型のうち、人間界でパンデミックを起こしたのは、H1N1(Aソ連型)、H2N2(アジア風邪)、H3N2(A香港型)、H1N1pdm09などに限られています。ちなみに、ソ連型や香港型というのは、最初に流行した地名に由来しており、H1N1pdm09の「pdm」は「パンデミック」、「09」は「2009年」という意味です。また、先ほど「突然出てきた亜型ウイルスが、従来の亜型ウイルスにとって代わることがある」と言いましたが、突然現れたH1N1pdm09が人間界に定着してからは、不思議なことにH1N1(Aソ連型)の流行は見られなくなりました。人間界に適応したB型は、治りかけたころ他人にうつしやすい一方、B型インフルエンザは、50年くらい前に人間の世界に侵入し、今では完全に人間に適応しています。なぜなら、B型インフルエンザウイルスは、通常ヒトにしか感染しないからです。その点がA型と大きく異なります。「A型とB型と何が違うのか?」という質問をときどき受けることがありますが、その症状を見ただけではA型とB型を区別することはできません。しかし、データを読み解いてみると、A型は「熱が出るときに一番ウイルス量が多く」、B型は「症状がおさまってくる後半にウイルスが多い」ことが報告されています。つまり、他人にうつさないように、より注意が必要なのはB型なのです。なぜなら、ちょうど治りかけて、活動を始めるころにウイルス量が多くなるから。「もう治った」と思っていても、周りの人にうつしてしまう可能性が高いということです。ヒトからヒトに感染しなければ自分たちが生きられないことを、ウイルスはわかっているのでしょうか。こうした性質から、B型インフルエンザはよりヒトとの共存に適応したウイルスだといわれます。インフルエンザは根絶できるか? ウイルスたちの生存戦略A型インフルエンザは何十年かに一度大変異を起こすと言いましたが、A型であってもB型であっても、インフルエンザウイルスは毎年小さな変異を起こして、わたしたちの免疫機構を逃れています。だから毎年、たとえワクチンを打ったとしても、インフルエンザにかかる人がいるのです。それだけにとどまらず、彼らは自分が生存するためにヒトの免疫を抑制する遺伝子をもっているので、何度インフルエンザにかかっても、「完璧な免疫」というのはできません。すばやく変異し、ヒトの免疫を抑制し、何度も感染するというのが、インフルエンザウイルスの生存戦略です。わたしたちの免疫機構は、今のところインフルエンザウイルスの生存戦略を超越できるようなものではありません。つまり、人間界からインフルエンザを根絶することはできない、ということです。続く後編ではワクチンや治療薬について取り上げ、そんなインフルエンザとうまく付き合っていくためにはどうすればよいかを考えていきたいと思います。消えたウイルス「インフルエンザウイルスは根絶できない」と言いましたが、ヒトに感染するもので、今までに人類が根絶に成功したウイルスが1つだけあります。それが天然痘(痘そう)です。紀元前から「死に至る病」と恐れられ、生きながらえても顔にひどい瘢痕(はんこん)が残ってしまう天然痘。このウイルスはワクチンによってすでに根絶され、自然界には存在しません。しかし、実はアメリカやロシア(旧ソ連)の研究施設に、今もウイルスは存在します。もしもそのウイルスが、外部に流出するようなことがあったら……。今や、誰も免疫をもたない天然痘ウイルスは、バイオテロに使われる危険性をも秘めているということです。天然痘は非常に症状が重く死亡者も多い疾患でしたから、当時根絶は「絶対に必要なこと」だったのでしょう。しかし、病気を根絶するということは、免疫をもつ人がいなくなるということ。こうした側面があることも、忘れてはいけないと思います。

谷口 清州

2019.2.7

ノロウイルスに感染。消毒薬の作り方

食中毒を起こす原因には、ウイルス・細菌・自然毒・化学物質などがありますが、最も多いのがノロウイルスによるものです。1年を通して発生し、例年11月くらいから件数が増え始めます。ピークは12月から1月頃となり、学校や職場などで集団発生につながることがありますので注意が必要です。症状は? 子どもや高齢者は重症化のおそれも主な症状は吐き気・おう吐・下痢・腹痛であり、発熱は軽度です。潜伏期間は24~48時間で、発症から1~2日で症状はおさまります。(*1)健康な人は軽症で回復しますが、子どもや高齢者などは重症化しないよう注意が必要です。また、間接的ではありますが、おう吐物を誤って気道に詰まらせて死亡する例もみられます。感染経路は「人→人」「食品→人」の2つ感染経路は大きく分けると2つ。1つは、人から人への感染です。感染者のおう吐物や便の中に含まれるウイルスが手などに付着して起こる経口感染や、おう吐物による飛沫(ひまつ)感染にも注意が必要です。もう1つは、食品から人への感染です。感染者の調理したものを食べる、もしくはウイルスに汚染された二枚貝を、加熱が不十分な状態で食べるといったことによって感染します。予防のポイントはトイレのあと、調理の前便からのウイルスの排出は2週間以上続くことも。感染を防ぐためにも手洗いを徹底するようにしましょう。トイレを使用したあと、調理の前などは必ず手を洗ってください。石けんを使い30秒ほどこすり洗いし、水で流すことにより、ウイルスは大幅に減少します。(*2)指先や爪の間・手のしわは洗い残しの多い箇所なので、特に注意して洗いましょう。また、共用タオルで手を拭くのも避けてください。食品中のウイルスの感染力をなくすには一般的にウイルスは熱に弱く、85~90度で90秒間以上加熱すると感染力を失うとされています。(*3)感染報告の多い二枚貝でも、しっかりと加熱すればウイルスの脅威はなくなります。ワクチンはない 脱水症状に注意を現状、ノロウイルスにはワクチンがなく、治療は症状を軽減する対症療法のみです。つまり、下痢・嘔吐による脱水を補うための「水分補給」、そして「安静」により、症状がおさまるのを待つしかありません。おう吐物の正しい処理方法室内でおう吐などがあった場合は、二次感染を防ぐためにも必ず消毒が必要です。ただし、ノロウイルスの消毒は、殺菌目的の石けん(逆性石けん)はもちろん、アルコール(消毒用エタノール)では十分な効果が得られません。適切な道具をそろえ、正しいやり方で消毒しましょう。また、廃棄用のビニール袋にも塩素消毒液を入れておくとさらによいでしょう。なお、おう吐物は想像以上に遠くまで飛び散るので、広い範囲を消毒してください。消毒に必須となる「塩素消毒液」の作り方は次項で解説します。「塩素消毒液」の作り方次亜塩素酸ナトリウムを含む「塩素系漂白剤」と水で「塩素消毒液」を作ることができます。配合は、作りたい消毒液の濃度や、使用する漂白剤の濃度によって異なります。表を参考に漂白剤を希釈してください。台所用塩素系漂白剤(塩素濃度6%)を使う場合哺乳瓶用塩素系漂白剤(塩素濃度1%)を使う場合(*4)すみやかな特定が二次感染を防ぐおなかを下しただけでは深刻に考えずに学校や会社に行ってしまいがちですが、吐き気・おう吐・下痢・腹痛などの症状が強い人や、集団生活をする必要がある人、あるいは調理に従事する人などは、状況に応じて医療機関に相談しましょう。医療機関では「ノロウイルス抗原検査」が可能ですが、感染者の30%は無症候性とされていますので、流行期には常に手洗いを心がけてください。感染者を増やさないことが、巡り巡って自分の身を守ることにもなります。参考文献(*1)厚生労働省 ノロウイルスに関するQ&A(*2)東京都福祉保険局 防ごう!ノロウイルス感染(*3)厚生労働省 冬は特にご注意! ノロウイルスによる食中毒(*4)消毒液(塩素系漂白剤)の作り方 目黒区文:Open Doctors編集部

谷口 清州

2018.12.26

インフルエンザが流行中。感染経路・潜伏期間・症状は?

例年12月から3月にかけて流行するインフルエンザ。感染経路、潜伏期間、症状、予防策などについてまとめました。インフルエンザの感染経路・潜伏期間・症状は?インフルエンザは「インフルエンザウイルス」に感染することで起こる病気です。主な感染経路は、咳(せき)やくしゃみの際に口から発生する小さな水滴による飛沫(ひまつ)感染。1~3日間ほどの潜伏期間を経て、38度以上の発熱、頭痛や関節・筋肉痛などの症状が急に現れるのが特徴です。子どもではまれに急性脳症を、高齢者や免疫力の低下している人では肺炎を伴うなど、重症化することがあります。(*1)「うつさない、もらわない」3つの予防策インフルエンザウイルスの感染を予防する主な方法として、以下の3つが挙げられます。1つ目は「流行前のワクチン接種」高齢者では死亡の危険が5分の1に、入院の危険が約3分の1から2分の1にまで減少することが期待できるとされています。(*2)2つ目は「手洗い」の励行流水・せっけんによる手洗いは、手や指などについたウイルスを物理的に除去する方法として有効です。アルコール製剤による消毒も効果があります。3つ目は「咳エチケット」を心がけることほかの人に向けて咳などをしない。咳やくしゃみが出るときはマスクをする。手のひらで受け止めたらすぐに手を洗う。飛沫を浴びないようにすれば、感染の機会は大きく減少します。去年も予防接種を受けたから、今年は必要ない?インフルエンザワクチンは、そのシーズンに流行が予想されるウイルスを用いて、毎年作り変えられています。前年にワクチン接種を受けた人でも、改めて接種を検討したほうがよいでしょう。重症化しやすい65歳以上の人などは、定期予防接種の対象となっていますので、希望する方は医師に相談しましょう。ちなみに、インフルエンザウイルスには大きく分けてA型・B型・C型の3つの型があり、流行的な広がりを見せるのはA型とB型です。「インフルエンザワクチンは打っても意味がない」は本当かワクチン接種をすれば絶対にインフルエンザにかからない、というわけではありません。しかし、発病や発病後の重症化を予防することには一定の効果があり、「打っても意味がない」というのは誤解です。最も期待される効果は、重症化の予防。特に基礎疾患のある人や高齢者では重症化する可能性が高いと考えられています。肺炎や脳症などの重い合併症を防ぐためにも、ワクチン接種の意義は大きいと言えるでしょう。抗インフルエンザウイルス薬は、早めの服用が効果的本来、インフルエンザは自然治癒傾向のある疾患ですが、これまでの研究では発症から2日(48時間)以内に抗インフルエンザウイルス薬を服用すると、発熱期間は1~2日間短縮され、鼻やのどからのウイルス排出量も減少することが報告されています。(*3)抗インフルエンザ薬には、内服薬のタミフルや吸入薬のリレンザなどがあります。発症から2日以内に服用を開始するのが効果的ですので、慌てることはありませんが、特に乳幼児や基礎疾患のある人などは早めの受診を心がけましょう。薬を飲まなくても注意! 子どもの「異常行動」以前、抗インフルエンザウイルス薬の服用後に、急に走りだす、部屋から飛び出そうとするなどの異常行動が報告されていましたが、最近の調査により必ずしも抗インフルエンザウイルス薬を服用していなくても異常行動が現れることが判明しており、服用の有無にかかわらず注意が必要です。小児・未成年がインフルエンザと診断されたら、少なくとも2日間は1人にさせないようにしてください。件数はわずかですが、転落等による死亡事例もあります。参考文献(*1)国立感染症研究所 インフルエンザとは(*2)厚生労働省 インフルエンザ(総合ページ) 65歳以上の皆様へ(*3)厚生労働省 インフルエンザQ&A文:Open Doctors編集部

谷口 清州

2019.1.30

Open Doctorsは病気についての正しい知識をやさしい言葉で紹介。お医者さんとの間にある情報の差を解消することで、あなたの意思決定を支援します。

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市民・患者のための健康・医療コミュニケーション学会