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横浜市立大学教授・医学博士

石川 義弘

プロフィール

Open Doctorsの監修医師。
「オープンドクターズ」によって、医療知識の普及が進み、患者さんの理解を助け、病院で働く医師の説明の補助となればと願います。
何よりも、病気になってもあきらめず、未来に希望を持ちながら、積極的に治療を受けていく患者さんの助けにならんことを願います。

略歴

横浜市立大学大学院医学研究科 循環制御医学 教授
エール大学医学部留学を経て横浜市立大学医学部卒業。

マサチューセッツ総合病院科研究員、コロンビア大学、ハーバード大学医学部助教授、ラトガース大学医学部教授・同附属病院指導医(循環器内科)等を経て現職。日本および米国医籍登録(ペンシルバニアおよびニュージャージー)

日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本循環器学会認定循環器専門医、難病指定医、米国内科学会・内科専門医会フェロー(FACP)、米国心臓病学会フェロー(FACC)、アメリカ心臓協会フェロー(FAHA)、英国王立医学協会フェロー(FRSM)、欧州心臓病学会フェロー(FESC)、日本心臓病学会フェロー(FJCC)

横浜市立大学大学院 医学研究科 循環制御医学

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死の危険もある熱中症。早めの対策意識でシャットアウト

毎年、話題になる熱中症。「症状」と「対策」を知り、実践することで、防ぐことが可能です。自分自身だけではなく、家族など周囲の人を守るためにも、熱中症のことをもっと詳しく知っておきましょう。命の危険も。熱中症ってどんな病気?熱中症とは、高温多湿の環境で汗をかいて体内の水分量・塩分量のバランスが崩れたり、暑さで体温調節機能が乱れたりすることによって起こる臓器の障害、体の不調を指します。環境省の熱中症予防情報サイト(*1)では、「重症化すると死に至る可能性のある病態」とも表記されています。熱中症は、命の危険を伴う病気なのです。ただし、予防を実践すれば防ぐことができ、もし発症したとしても、適切な応急処置により重症化を防ぐことが可能な病気でもあります。「3つの工夫」で熱中症予防熱中症予防の基本は「脱水と体温の上昇を抑えること」です。気温が高くなると予想される日は、行動・住まい・衣服の3つの観点で工夫(*2)して生活するよう心掛けてください。その1:行動の工夫①こまめに水分・塩分を補給する②頑張らない、無理をしない③日なた(直射日光)を避けるたとえば、炎天下でのバーベキューなどの際は注意が必要です。タープなどで日陰を作っておくとよいでしょう。意識して「無理をしない」行動が必要です。その2:住まいの工夫①風通しをよくする②カーテンなどで日光を遮断する③エアコン・扇風機を使う単に窓を開けるだけではなく、風の通り道を作ることが大切です。また、「暑い」と感じたら我慢せず、エアコンで室内温度を下げるようにしてください。その3:衣服の工夫①ゆったりした服を着る②襟元をゆるめる③吸汗・速乾素材を活用する④黒色系の素材を避ける⑤日傘や帽子を使う衣服の中や体の表面に風を通すことで汗を冷やし、体から出る熱を逃がします。帽子は熱がこもらないようにときどきはずして、汗を蒸発させてください。重症度別にみる症状と応急処置どんなに対策をしっかりしたとしても、高温の日や日光の下に長時間いたあと、もともと体調がすぐれない場合などは、つねに熱中症の疑いをもって体の調子を確認することが必要です。症状によって重症度はI度~III度の3段階に分けられますので、段階ごとに適切な処置をしましょう。症状と必要な処置(I度)■必要な処置①水分・塩分を補給する②涼しい場所へ移動する③安静にする室内であれば扇風機や冷房を使って室温を下げ、屋外の場合は風通しのよい日陰に移動します。横になり、脚を心臓よりも高い位置に上げることで、心臓に戻る血流を増やすことが大切です。症状と必要な処置(II度)■必要な処置重症度I度の処置を行ったあと、衣服をゆるめて体を冷やします。■適切な体の冷やし方・衣服のボタンをはずし、ベルトやネクタイ、女性の場合は下着もゆるめて風通しをよくする  ・露出させた皮膚に濡らしたタオルやハンカチをあて、うちわや扇風機で扇ぐ・冷たいペットボトルなどを首の付け根の両脇、脇の下、太ももの付け根の前面、股関節部にあてる重症度 II度は緊急度が高まっています。症状が強い場合は医療機関の受診も検討してください。症状と必要な処置(III度)■必要な処置重症度 III度の症状がひとつでも確認できた場合は、すぐに救急車を呼んでください。特に、呼びかけに応えないようであれば、かなり危険な状態です。救急車を待っている間に、涼しい場所に移動させ、体を冷やしてください。水分補給に関しては、意識障害が起こっている場合は気道に流れ込む可能性があるので、救急隊の到着を待ちましょう。暑さのピークとなる8月は意識も高くなりますが、それまでは油断しがちな熱中症対策。事前にしっかりと知識をつけて、突然の猛暑にも慌てないようにしたいですね。参考文献(*1)厚生労働省 熱中症による死亡者数(人口動態統計)(*2)環境省 熱中症予防サイト内「熱中症環境保健マニュアル2018」文:Open Doctors編集部

石川 義弘

2019.7.11

ヒートショックによる突然死にご用心

突然ですが、浴室のヒートショック対策、していますか? もし「自分には関係ない」と思っているなら大間違い。実は、ヒートショックに関連した入浴中の急死者数は、交通事故による死亡者数の4倍とも言われています。(*1)(*2)亡くなる大多数は高齢者の方ですが、寒くなるこれからの季節、高血圧や脂質(コレステロール)異常・糖尿病など、動脈硬化が進行しやすい持病がある方は特に注意が必要です。「ヒートショック」とは一体何なのかヒートショックとは、急激な温度の変化によって血圧が大きく変動するために起こる健康被害のことです。冷たい脱衣所・浴室から熱い湯船に入ったときになどに多く発生しますが、トイレでも下半身が外気にさらされるため注意が必要です。高齢者に多く、浴槽内で失神して溺死することもあれば、不整脈や心筋梗塞・脳梗塞などが起こって突然死につながることもあります。お風呂でヒートショックが起こるメカニズムまず、暖かい部屋から寒い脱衣所へ移動して裸になることで、血管が収縮し、血圧が上昇します。次に、浴室に入って熱いお湯につかり身体が温まると、血管が拡張して血圧が下がります。最後に、温まった身体で寒い脱衣所へ移動することで、血管が収縮し血圧が上昇。このジェットコースターのような激しい血圧の変化が、ヒートショックを引き起こします。当然、夏よりも冬のほうが脱衣所と湯温の温度差は大きくなり、激しい血圧変動を起こします。今日からできる! ヒートショック対策入浴前に脱衣所や浴室を暖める火気には十分に注意しながら、入浴前には暖房器具などで脱衣所を暖めておきましょう。浴室を暖めるには、高い位置に設置したシャワーから給湯し、湯船にお湯をためるのがおすすめです。シャワーの蒸気で浴室全体を暖めることができます。湯温は41度以下、湯船につかる時間は10分まで(*3)寒い冬は熱い湯船が恋しくなりますが、これは急激な血圧低下を招き、ヒートショックの危険性を高めてしまいます。半身浴であっても、長時間入浴すれば体温が上昇する可能性があるので、気をつけましょう。飲酒直後・食後すぐの入浴を控える飲酒直後や食後1時間以内は血圧が下がります。入浴中も血管が拡張して血圧が下がるので、二重に血圧が下がりやすい状態になってしまいます。血圧が下がりすぎると浴槽内で意識を失い(脳貧血)、そのまま溺れてしまうこともあります。忘年会シーズンとはいえ、お酒を飲んでからの入浴はやめましょう。一人での入浴を控えるか、家族に見回ってもらう特に高齢者の場合は、可能であれば一人での入浴を控えたほうがよいでしょう。公衆浴場や日帰り温泉などの入浴施設を活用するのも一案です。高齢者が入浴している間、同居の家族が定期的に見回って、声掛けなどをするのも有効です。ヒートショック予報の活用日本気象協会が運営する天気予報専門メディア「tenki.jp」では、全国の市区町村ごと約1900地点の7日先までの「ヒートショック予報」を提供しており、標準的な戸建住宅における「ヒートショックのリスク目安」を3ランク、5種類のアイコンで表示しています。自身の体調とも相談しつつ、こうした情報をうまく活用するのもよいでしょう。参考文献(*1)(*3)消費者庁 冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!(*2)警察庁 平成29年中の交通事故死者数について e-Statより文:Open Doctors編集部

石川 義弘

2018.12.19

急増する梅毒。感染経路や症状、検査や治療の方法は?

「梅毒」と聞いてみなさんはどんなことを想像するでしょうか? 「昔の病気でしょ?」「風俗店へ行かなければ大丈夫」そんな風に思っている人が多いかもしれません。しかしこの梅毒、じわじわと感染者数が増えていることをご存じでしょうか? そんな梅毒から身を守るため、感染経路や症状、検査、治療についてまとめました。梅毒の原因は? 主な感染経路は性的接触梅毒とは「梅毒トレポネーマ」という病原菌による感染症です。主な感染経路は性行為など粘膜同士の接触で、性感性症のひとつでもあります。性感染症とは性的接触によって感染する病気のことで、ほかにクラミジアや淋病(りんびょう)などが知られています。また、妊婦が感染すると胎盤を通して胎児に感染し、流産や死産になるおそれがあります。生まれた場合でも、臓器の異常などさまざまな障害を抱えることになります(先天梅毒)。なお、梅毒という病名の由来は、症状に見られる赤い発疹が楊梅(ようばい。ヤマモモの漢名)に似ているからだとも言われています。(*4)第1~4期へじわじわ進行。気になる症状は?梅毒は、感染してすぐには症状が現れません。その経過は第1期から第4期に分けられ、長い月日をかけて徐々に全身を侵していきます。まず、感染から3週間ほどの潜伏期間を経て、感染が起きた箇所にしこりができます。これが第1期で、特に治療をしなくても数週間で症状は消えてしまいます。感染から3カ月ほど経過すると第2期となり、全身に赤い発疹が出たり、性器や肛門の周辺に平らなできものが現れたりします。第2期でも症状だけは再び消えてしまいます。感染から3年ほど経過すると第3期となり、ゴムのような弾力のあるできものが、皮膚や筋肉、骨などにもできます。さらに進むと第4期になり、血管や神経まで侵され歩行が困難になるなど、日常生活にも支障を来す可能性があり、場合によっては死に至ることもあります。早期発見のキーワードは「約4週間」梅毒に感染しているかどうかは、血液検査で分かります。しかし、感染から3週間ほどは抗体検査をしても陽性反応が出ないこともあります。症状が出ても、感染したと思われる日から約4週間経過してから検査を受けるようにしてください。梅毒に感染していた場合、自分のパートナーも感染している可能性があります。必要に応じて、一緒に治療を行うことが重要です。治療は抗菌薬(ペニシリン系)の内服第1期や第2期の場合は、抗菌薬(ペニシリン系)の内服で完治します。梅毒は治療しなくても一時的に症状が消えるという特徴があるので、「もう治った」などと自己判断せず、処方された薬をきっちり飲みきることが大事です。また、一度完治しても感染を繰り返す可能性があります。適切な予防策を取らなければ、再感染の危険は十分にあります。自分もパートナーも守る。梅毒の予防策まずは不特定多数の人との性行為を避けること、そして、性行為の際はコンドームを使用することです。しかし、キスやオーラルセックスなどでも感染する可能性があるため、コンドームだけで100%予防できるわけではありません。皮膚や粘膜に異常が出た場合は性的な接触を控え、早めに泌尿器科や婦人科を受診しましょう。参考文献(*1)性感染症報告数 – 厚生労働省(*2)梅毒患者の増加で注意喚起 – 日医on-line(*3)感染症発生動向調査で届出られた梅毒の概要(*4)梅毒に関するQ&A – 厚生労働省文:Open Doctors編集部

石川 義弘

2019.1.30

流行が続く風疹。ワクチンを受けたほうがよい人は

流行が続く風疹。子どもの病気と思われがちですが、患者の多くは30~50代の男性や20~30代の女性。まさしく予防接種を受けていないか、免疫を十分に獲得できていない可能性のある人たちです。(*1)最も注意が必要なのは妊婦の感染で、障害をもった赤ちゃんが生まれる可能性があります。ですが、風疹はワクチンで予防できる病気です。風疹にかかったことがない人や予防接種を受けたことがない人、特に妊娠を希望する女性やそのパートナーは積極的に抗体検査を受け、十分な免疫がなければ予防接種を受けましょう。感染の自覚ない人も。風疹の感染経路と症状風疹は、せきやくしゃみなどの飛沫(ひまつ)を吸い込むことで感染し、症状が出るまでの潜伏期間は2~3週間です。発熱や発疹、リンパ節の腫れなどが現れます。また、大人が感染すると、子どもよりも重症化することがあります。一方で、症状が出ない感染者も15%~30%程度いると言われています。(*2)つまり、感染者の中には「風疹にかかった」という自覚がない人がおり、知らないうちに家族や職場の同僚などにうつしてしまうことも少なくありません。感染力はインフルエンザの数倍風疹の感染力はインフルエンザの2~4倍あり、1人の感染者から、免疫がない5~7人に感染させる可能性があります。(*3)風疹は「三日ばしか」という別名のとおり症状は軽めですが、まれに脳炎などの合併症が起こることがあり、決して軽視できない疾患です。なお、自然に感染したりワクチン接種をしたりすることで生涯続く免疫が体内につくられるため、その後は風疹に感染することはないとされています。妊娠中の感染で赤ちゃんに障害も妊婦が感染すると、赤ちゃんが難聴・心疾患・白内障などの障害をもって生まれるおそれがあり、これらの障害を先天性風疹症候群(CRS)といいます。妊娠初期ほどその確率は高くなり、妊娠1カ月で50%以上と言われています。(*4)妊娠したら風疹ワクチンは接種できない妊娠中は予防接種を受けられません。最も大切なことは、妊娠前に風疹ワクチンの接種を受け、免疫を獲得しておくことです。妊娠を希望している女性はもちろん、パートナーや家族、職場の同僚といった周囲の人たちも、ぜひ積極的に予防接種を受けてください。生まれた年で予防接種の機会が違うワクチン接種によって95%以上の人が免疫を獲得することができると言われています。2回の接種を受ければ、1回の接種では免疫がつかなかった人にも免疫をつけることができます。1990年(平成2年)4月2日以降に生まれた男女は、2回の予防接種を受ける機会がありましたが、それより年齢が上の人は受けていても1回だけ。十分な免疫がついていなかった場合、感染の可能性があります。1979年(昭和54年)4月1日以前に生まれた男性にいたっては、接種の機会すらありませんでした。(*5)また過去に風疹にかかったと思っていても、「はしか」など別の病気だったのを勘違いしている可能性もあります。記憶があいまいな場合は、採血による抗体検査を受けてみましょう。抗体検査はどこで受けられる?多くの自治体では、先天性風疹症候群(CRS)の予防のために、妊娠を希望する女性を主な対象とした抗体検査を無料で実施しています。検査といっても簡単で、採血検査のみで抗体価が分かります。無料で受けられるかどうか、どのクリニックで受けられるかなどについては、自治体のホームページでご確認ください。参考文献(*1)風疹急増に関する緊急情報:2018年9月26日現在 – NIID 国立感染症研究所(*2)風疹とは– NIID 国立感染症研究所(*3)風しん・先天性風しん症候群とは?|風しんの感染予防の普及・啓発事業|厚生労働省(*4)先天性風疹症候群とは – NIID 国立感染症研究所(*5)風しんについて|厚生労働省文:Open Doctors編集部

石川 義弘

2019.1.30

「健康診断で見つかるがん」は治る? がん入門編

男性の4人に1人、女性の6人に1人が、がんで亡くなる時代です。身の回りにがん闘病中の家族や友人がいるという方も少なくないことでしょう。そんな身近な「がん」ですが、がん細胞ができる原因やがんができにくい臓器など、治療以前の基本的な情報については意外と知られていないようです。今回は「がん入門編」として、石川先生にやさしく解説していただきましょう。そもそも「がん」はなぜできる?がんの原因は?石川先生。いきなりですが、「がん」ってなぜできるんですか?ずばり、がん細胞ができる原因は「細胞分裂のときに起こるミス」ですね。われわれの体の細胞が、毎日生まれては死んで、死んでは生まれているというのはご存じですよね。はい。その「生まれて」というのが、「細胞分裂」のことですよね。そうです。例えば胃の壁を構成している細胞の1つが寿命を迎えても、ほかの元気な細胞の分裂により新しい細胞が生まれることで、胃の壁の働きは保たれています。ちょっと難しい話になりますが、われわれは細胞の一つ一つに「DNA」という体を作る設計図をもっていて、これはアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)という4種類の部品を使って書かれています。細胞分裂をするときには、このA・C・G・Tの組み合わせで書かれた暗号を一言一句間違わずに引き継がなければいけないのですが、細胞分裂のときにミスが起こると、アデニン(A)だったものがシトシン(C)に書き換わってしまったりすることがあります。万が一、がんの発生や抑制に関係する設計図の一部がこのように書き換えられてしまうと、細胞のがん化を止められなくなってしまうのです。どうしてミスが起こってしまうのですか?例えば、1から10までの数を100万回繰り返して書いたとします。そうすれば1回や2回は絶対ミスをするでしょう? 毎日分裂を繰り返しているわれわれの細胞も同じです。疲れていたり、酔っ払っていたり、思考がうまく働いていなかったり……。そういうことが細胞にもあるんですよ。特にミスを起こしやすいのは、細胞の機能が落ちているとき、つまり年をとったときなんです。例えば、15歳くらいの孫と90歳のおじいちゃんの両方が100万回書けば、おじいちゃんのほうがミスをする回数も多いし、それを見逃すことも圧倒的に多くなるんじゃないでしょうか。がんになる臓器、ならない臓器。その違いはここまでの話をまとめると、「細胞が死んだときに新しい細胞を作ろうとするから、がんになる」「不摂生をしている人や年をとった人ほど、新しい細胞を作るときにミスをしやすい」ということになるでしょうか。そういうことです。一方で、「がんにならない臓器」があるのをご存じですか?「がんにならない臓器」……。「細胞が生まれ変わらない臓器」ということでしょうか。そんな臓器があるんですか?あるんですよ、心臓です。「肺がん」や「胃がん」はよく耳にすることがあっても、「心臓がん」って聞いたことないでしょう? あるとしても、ごくまれです。なぜ心臓にがんが発生しないかというと、心臓の細胞は、生まれてから死ぬまでほぼそのままだからです。心筋梗塞のコラムで「死んでしまった心筋を生き返らせることはできない」とお話ししましたよね。最近は「再生医療がもっと発展すれば、細胞も再生できる」という説もありますが、ひとまずその話は置いておくと、心臓の細胞は「おぎゃあ」と生まれてから死ぬまでずっと同じで作り直す必要がないから、がんにはならないというわけです。諸説ありますがね。なるほど! 細胞が死んで新しく生まれ変わる臓器は全てがんになりうるけれど、そうでない臓器にがんはできにくいということですね。そういうことですね。普通ならできそこないの細胞ができても、われわれの体をパトロールしている「免疫くん」がしっかりやっつけてくれています。しかし、不摂生をしたり、高齢になったり、何らかの理由でこの「免疫くん」が疲れてしまうと、できそこないの細胞をやっつけてくれなくなって、そいつをみすみす「がん化」させてしまいます。健康な人も「がん細胞」をもっている?すると先生、できそこないの細胞は誰もがもっているということですか?健康なわれわれの体内でも、がんになる可能性のある細胞がしょっちゅうできていますよ。通常であれば、そいつが小さいうちに「免疫くん」がやっつけてくれているので大ごとにはなりませんが、「誰もが日々がんになっている」と言えるでしょう。それを「免疫くん」がやっつけてくれている!そうです。だから「健康で規則正しい生活をしましょう」と言われるんですね。「免疫くん」が元気でいられるような生活をすることが、がんの予防につながるからです。「免疫くん」が元気なら、できそこないの細胞をやっつけてくれますから。「免疫力を高めることが大切だ」と言われるのはそういうわけなのですね。がんもいろいろ。ざっくり分類すると……がんは進行度合いなどによって、細かく分類されていると聞きました。そうですね、がんにはいろいろな分類があります。がんが疑われる場合は、詳しい検査の結果に基づいて分類を行い、その分類をもとに診断および治療方針を決めていく、という流れになりますね。どんな検査を行うのか、詳しく教えてください。がんが疑われる場合、まずは綿棒などで患部から細胞をこすり取ったり、針やメスなどで組織を採取したりします。これを病理医という細胞・組織診断のプロが顕微鏡で調べるのですが、この検査は「細胞診」や「組織診」と呼ばれます。細胞を調べる場合は「細胞診」。細胞の大きさや形などから細胞の悪性度を調べ、I~Vまでの「クラス(Class)」に分類します。一方、組織を調べる場合は「組織診」と言いますが、これはいわゆる「生検」のことです。細胞の大きさ、形、並び方などから組織の性質を調べ、1~5までの「グループ(Group)」に分類します。なお、組織診は細胞診よりも正確な判断ができることから、細胞診をしないケースも増えています。こういった検査を行うことで、「がんなのかどうか」や「どれぐらい悪いがんなのか」が分かります。ここで「がんである」と判明した場合、初めて「ステージ(Stage)」という分類が出てきます。「ステージI」、「ステージIV」といった言い回しはよく聞きます。どのように分類をするのですか?ステージ分類では、がんがどこまで進んでいるかを判断し、進行度合いによって分類します。例えば胃がんなら、がんが胃の粘膜の一番内側にいるのか、粘膜の下の層にいるのか、胃の筋肉まで進んでいるのか、胃の一番外側、漿膜(しょうまく)まで到達しているのか、もしくはそれも突き破ってほかの臓器にまで広がってしまっているのか。どこでどれくらいの大きさになっているかなどを調べます。なお、がんができた臓器によって分類の仕方は異なります。「ほかの臓器に広がる」というのが、いわゆる「転移」ですか?そのとおり。転移とは、細胞が血液やリンパの流れに乗ってほかの臓器に行くことです。リンパの流れは「リンパ節」という関門を通過しないと次の臓器に行けないので、がんもまずリンパ節に転移することになります。ですから、転移しているリンパ節の数や遠さ、あるいはリンパ節を突破してほかの臓器に転移しているか否かというのも、ステージ分類の判断材料になります。胃がんの場合は、がんが胃の粘膜にとどまってリンパ節に転移していなければ、手術による治療で完治することも少なくありませんよ。健康診断で見つかるのは「治るがん」?がんは早期発見すれば治る病気だとも言われていますよね。がんには「見つけやすくて、たいてい治療することで治るがん」と「見つけにくくて、治療しても治すのが難しいがん」があります。あくまでも一般論ですが、健康診断の項目に入っているようながんは簡単な検査でも見つけやすいうえに、見つかってすぐに治療をすればたいてい治ります。だから検査をして見つけているのです。「治すのが難しいがん」ですか……。そうです。例えば、健康診断の検査項目にはない膵臓(すいぞう)がん。これは簡単な検査で見つけるのが難しいうえに、見つかっても完治させるのが非常に難しい。一方、健康診断で必ずと言っていいほど行われる胃バリウム検査や検便は、胃がんや大腸がんを発見するためのものです。これらのがんは検査も簡単で見つけやすい。そして、早期に治療すればかなりの高い確率で治ります。治る可能性が高いがんを早く発見して、治療しようということですね。そう、「見つかったら治るがん」を見つけようとしているのです。そこに健康診断の重要性があります。多くの人が「検便を出すのは恥ずかしい」とか、「めんどうくさい」とかおっしゃいますが、検査に出さないなんてすごくもったいないと思います。なぜなら、検便で見つかる大腸がんは、他のがんに比べてわりと進行がゆっくりで、「便に血が付いているから検査しましょう」という段階であっても、治せる可能性がとても高いんです。がんの進行が遅ければ、治療して治る可能性も高い。だから検便!早い時期に見つけて、切ってしまえば治ります。だから検便はやったほうがいい。だって見つかったら治るのですから。検便はとても意義のある検査だと思いますよ。便だけで分かるんですから。便を出すだけなら、バリウム検査や採血よりもずっと楽で簡単だと思うんですがねえ。インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2018.9.18

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