お医者さんの知恵をみんなの知恵に Open Doctorsお医者さんの知恵をみんなの知恵に Open Doctors

Open Doctorsは病気についての正しい知識をやさしい言葉で紹介。
お医者さんとの間にある情報の差を解消することで、あなたの意思決定を支援します。

produced by市民・患者のための健康・医療コミュニケーション学会

監修医師 和田 啓義の写真

湘南記念病院

和田 啓義

プロフィール

医師、医学博士。専門は整形外科。主に脊椎脊髄外科。
医療現場でのコミュニケーションギャップを肌で感じ、その改善を目的として日本医療学会の設立に参画。その後も医療現場の一線に立ちながら、情報格差、インフォメーションギャップの改善方法を模索している。

略歴

平成6年  東京女子医科大学 整形外科入局
平成9年  テキサス大学ヒューストン校 医学部分子医学部門リサーチフェロー
平成12年 東京女子医科大学整形外科 助教
平成19年 特定非営利活動法人 日本医療推進事業団勤務
平成22年 東京女子医科大学整形外科 講師
平成23年 東京女子医科大学東医療センター整形外科 講師
平成29年 船橋総合病院 整形外科
平成31年 湘南記念病院 整形外科

医療法人湘和会 湘南記念病院

和田 啓義先生の記事を読む

寄り添い導くパートナー。今求められる医師の役割とは

「Open Doctors」とは?今、インターネット上にはたくさんの情報があふれています。当然「医療」にもその影響は及んでいますが、とりわけ医師と患者の間には大きな「情報格差」や「コミュニケーションギャップ」が生まれています。その現状をどうとらえて、どう未来へと進んでいくべきか。ここで紹介するのは、これからの医療の課題を見つめ、医師と患者の在り方をよりよくしていこうと考えている医師ばかりです。そんな医師たちを、私たちは「Open Doctors」と呼んでいます。第1回は、整形外科医・和田 啓義(わだ ひろよし)先生にお話を伺いました。和田先生プロフィール医師、医学博士。専門は整形外科、主に脊椎脊髄外科。医療現場でのコミュニケーションギャップを肌で感じ、その改善を目的として日本医療学会の設立に参画。その後も医療現場の一線に立ちながら、情報格差、コミュニケーションギャップの改善方法を模索している。平成6年 東京女子医科大学 整形外科入局平成9年 テキサス大学ヒューストン校 医学部分子医学部門リサーチフェロー平成12年 東京女子医科大学整形外科 助教平成19年 特定非営利活動法人 日本医療推進事業団勤務平成22年 東京女子医科大学整形外科 講師平成23年 東京女子医科大学東医療センター整形外科 講師平成29年 船橋総合病院 整形外科「情報格差」と「コミュニケーションギャップ」まずは、「情報格差」と「コミュニケーションギャップ」という言葉について教えていただけますか?はい。単純に言うと、「情報格差」は、医師と患者さんの持っている情報量と質が違うということで、「コミュニケーションギャップ」は、医師が持っている情報を患者さんに説明したけれど、理解が十分に得られていないこと、ということです。情報量と質の違いに、理解のズレ、ですか。そうです。例えば、外科の手術を行う前に、1時間かけて説明をしたとします。手術のやり方からメリット、デメリット、手術による合併症や薬の副作用、術後のケア……。医師としては、1から10まで全て説明したつもりです。患者さん、家族も納得して手術を受けられた。しかし、手術後に合併症が起こってしまった場合、患者さんは「こんなことは聞いていません」となることがあります。なぜかと言うと、医師が1時間で話した内容のうち、合併症についての話はその一部にすぎません。しかし、合併症が起こったときには、その原因や理由、治療法に今後の対策と、さらにさまざまな情報が必要になります。そのため、合併症についての詳しい情報を追加でお伝えすると、「聞いていません」となるのです。これは情報格差、コミュニケーションギャップの両方が絡み合った問題です。医療には不確実な要素が多く、さまざまな合併症が生じる可能性があります。特に手術治療では、その合併症が「不可逆性」、つまり元に戻せない性質であることが多く、情報格差やコミュニケーションギャップを原因とする問題が起こりやすいと感じています。医師と患者の「共通言語」としての情報医師として一般の人に情報を出していくのは、「医療の不確実性」つまり医療は完全ではなく不確実な要素が多いことを分かっておいてほしいという気持ちがあるからです。現在の医療は、10年前と比べても格段に進歩していると言えます。テレビやネットでは、医療分野における新しい発見や新しい技術が、日々取り上げられています。しかし捉え方を変えれば、「発見されただけ」で「実用化されていない」わけですから、まだまだ分からないことやできないことがたくさんあるとも言えるでしょう。 実際の医療現場では、「現在の医療レベルで適切と言われること」を行っているという現実があります。これは確実なものではなく、「不確実性」をはらんでいます。その「不確実性」の中には、個々の病気の特殊性や個人個人の多様性も含まれていて、結果として先ほどお話ししたような合併症につながってしまうこともあり得ます。医師側と患者側の情報格差を解消するのは非常に難しいことだとは思いますが、できるだけその間を埋めるような努力をしていくべきでしょう。これは、情報を多く持っている側、つまり医師側が努力をしていくことでしか、本質的な解決は望めません。そして、患者さんにとって分かりやすい情報を医師と患者で共有できれば、医師の側にもプラスになるだろうと思っています。。 例えば、自分の専門の整形外科領域では、患者さん向けの疾患ガイドブックを日本整形外科学会が作成しています。学会が研究結果に基づき作成した、ある病気についての標準的な診療方針や治療などがまとめられた資料を「ガイドライン」と言うのですが、これは医師向けなので、一般の方にはなじみのない表現や、分かりにくい部分もある。ガイドブックというのは、これを患者さん向けに分かりやすくしたものです。 自分は、診察の現場ではまずガイドブックを用いて病状を説明します。さらに深く知ってもらえるように、本での購入を希望する方には表紙のコピーを渡すか、無料で見ることのできる『Mindsガイドラインライブラリー』というWebサイトを紹介しています。患者さんがどこまでの情報を求めているかは個人によって異なるとは思いますが、自分の命に関わることであれば、やはり多くの情報をもとに自分で決めていきたいだろうと思うんです。でも、中には「先生が決めてください」という患者さんもいるのでは?そうですね。一通り説明しても、決められない。そうすると、よくあるのが「ほかのみなさんはどうしていますか?」という質問です。たとえ今までは周りの人と違うことを選ぼうとしてきた方であっても、医療の話になると「平均」を求める傾向にあります。「平均的なこと」を知るにはガイドラインを読むのが一番なので、ガイドブックが分かりやすい場所にたくさんあることは重要だと思います。患者さんがガイドラインを理解していれば、「自分はどうもこれに当てはまると思いますが、先生はどう思いますか?」「そうですね。この段階ですね。そうなるとこれが標準治療になります。ここをもう1回読んできてくださいね。」となる。そして「この治療になるとこういう合併症が起こる可能性もあります。」などと話していって、「この幅の中でどの治療法を選びますか?」という会話ができるようになるのです。共通言語ができるんですね。そういうことですね。こうなれば、情報格差がなくなります。情報格差がなくなると共通言語が生まれて、ギャップが埋まる。患者さんも「自分で選択」できるわけです。決めてほしい患者、情報を見るなと言う医師しかし、決めてほしい患者さんに対しては、共通言語を持つ、つまり同じ土俵に立ってもらうまでが大変なのかな?という気がするのですが。そうですね。本人の自覚と、時間が必要にはなると思います。情報化社会と言われる前は、『論語』にある「よらしむべし、知らしむべからず」のような考え、つまり「患者は病気や治療について詳しく知らなくても、医師が患者にとってベストと思う治療を行えばよい」と考える医師が多く、それがよしとされてもいたとも思います。患者さんが自分でどの治療を受けるか選択するという文化はほとんどありませんでしたからね。わたしの友人は、乳がんになったときに医師から「一切、ネットで病気の検索をするな」と言われたそうです。どのような状況での発言か分かりませんが、ネットにも病気に関する有用な情報は載っています。一方で民間療法に関するものや、不安をあおって「お金を出せばなんとかなる!」とうたう詐欺まがいのものまであり、何がいいのか分からなくなっちゃう。それを心配して、「見るな」と言われたのかしれませんね。でも「見るな」というのは一つの方法ではあるけれど、このネット社会で「未来永劫(えいごう)見るな」というわけにはいかないと思います。そうですよね。経営コンサルタントの梅田望夫さんが著書『ウェブ人間論』の中で、誤った情報が出てきてしまったとき、それを一つ一つつぶすんじゃなくて、正しい情報をたくさん発信していくことが大事なのだといったことを書かれていました。たくさん発信していくと誤った情報が正しい情報で埋め尽くされていき、結果正しい情報が広まっていくと。確かにそうだと思いましたし、正しい情報を出していくほうが、将来的には社会にはプラスになるんだとも思いました。それによって、医療の質も高くできるかもしれない。そのときに、正しい情報は誰が出すの?と言ったら、やはり医師が出すしかないのではないでしょうか。医師がガイドラインから一歩進んで、より分かりやすい患者向けガイドブックを作ったのは、その一つの流れと思います。医師だけが情報を抱え込む時代は、終わりを迎えつつあるのではないかなと思っています。導き手としての医師では、これから医師はどうあるべきなのでしょうか?先ほどお話したように、患者さんはガイドラインを読んで「わたしはきっとこの状態だ」と知ることはできるのですが、やはり自信が持てないんです。そこで、医師のところに行って検査を行い、画像などの結果を一緒に見ながら医師の判断を聞き、一緒に治療方針を考えていく。そこに医師の立ち位置がある。医師は導き手になる、というのが僕の考えです。そこまで念頭に置いて、「インターネットでどんどん見てください」と僕は言います。その上で、「もし、分からないことがあったら持ってきてください」と言っています。もちろんその前にガイドラインの説明をし、「これは多くの専門医師が多くの論文をもとに、今の一般的な方針を書いたものだから、まずはこれを読んでください。」と言っています。同じものを共有しながら導くのが医師の役割になっていくということですね。病を自分ごととしてとらえるしかし、そのやり方だと治療方針を決めるのにも時間がかかりそうですね。はい。時間はかかります。1回の診察では時間の制限があるので、最初はガイドラインを用いて説明し、さらに自宅で読んで勉強してもらい、次の外来で疑問点に答える。こういう形で、何度かに分けて理解をしてもらっています。でも、この時間があることによって患者さんは自分の病気と向き合い、“自分ごと”として理解するようになっていきます。数日のタイムラグを惜しむより、自分の病気としてしっかりとらえて、自分で決めていくことが大事なんです。そうすると、どんな結果になったとしても、自分が前を向いていけるから。医師の言う通りにしてうまくいかないと「だからやらなければよかった」となりがちです。しかし、自分で考えて選択した場合には、たとえ思った通りの結果にはならなくても、その結果に向き合っていくことができます。治療は一時ですが、結果は一生。どのように病をとらえていくかは、本当に大事なことだと考えています。自分のものとしてとらえることが重要なんですね。でも「自分で決めよう」という気持ちを引き出すのは大変そうです。そうですね。患者さんに「先生だったらどうしますか?」と聞かれることもあります。自分は正直に「僕も悩みます」と答えると「先生、ずるいですね」って言われるんです。(笑)でも、医師は病気を診断することはできても、「医療の不確実性」があるために、その治療結果に絶対はありません。となると、何が本当に大事なのか優先順位を決めていくしかないのですが、その優先順位は個人の価値観や人生観も含めて考えないと分からないのです。ですから、「自分もその場面になって初めて、本当の答えを出すために悩む」というのはうそではないと思っています。以上の言葉を、それこそコミュニケーションギャップのないように伝えた上で、「大事なのは、自分で決めることです」と言っています。「決められない」も「答え」である「自分で決められない」患者さんにはどうされるんですか?実は、「決められない」ということも「答え」なんです。例えば、手術は「決めた」ときにしかできないので、「決められない」というのは「やらない」と決めたことと同じことになるのです。確かにそうですね。だから「決められない」というのも、その人の答えであり、人生観に基づく判断と理解しています。これは、あくまでも自分の考えですので、扱う病気によっても違うかもしれません。自分は整形外科の中でも脊椎外科が専門で、加齢に伴う疾患を多く診ているから「自分で決める」ということについて比較的時間をかけてお話しできるのかもしれませんね。これからの医師の価値とは決めたい人にとっても、決められない人にとっても、このサイトのような情報源は重要な役割になると感じます。そうですね。情報が整備されれば、正しい情報にアクセスする患者さんが増えて、変な情報にアクセスしにくくなる。これだけ情報を出すと、医師に何の価値があるのかなと思われそうですが、逆に医師の価値は「あなたはこういう状態ですよ」と診断をして、次のステップに進む手助けする部分にあると思います。それが先生の言う「導き手」としての医師の姿ですね。はい。ほかにも診療の現場では、これまで言葉だけで説明していたものを、絵や画像、冊子などを使って伝えるなど、患者さんに「残る情報」にしていく工夫もしています。そして、自分が渡しきれない情報をインターネットで見てきてもらい、次回それについて話して、情報を修正する。事実がしっかりとありながら、患者さん側が誤解して受け取っていることもありますからね。Open Doctorsのような情報媒体をどんどん使っていけたらいいのではないかと思っています。これからは、「自分(医師)だけが情報源である」という医療のスタイルから、患者さんがアクセスできる情報がたくさんある中で、医師はその情報を整理してあげる「患者さんのパートナー」的な役割になっていくと考えています。「今のあなたは、その状態ではないから、こちらの情報をもとに考えていきましょう。」などと情報を修正しつつ、お互い理解して進めていく。多くの患者さんを診ている医師だからこそできることと思います。どんなに情報が増えても、その部分は変わらないでしょう。和田先生は、「自分自身が納得した人生を歩むために、自ら選択する。」「医師はその“導き手”であり、“パートナー的存在”になっていく」と語ります。人はいつか必ず死を迎えます。そして、日本の現代社会に暮らす私たちのほとんどが、その手前で健康を損ない、医療を受ける側になります。そのとき私たちは、どんな選択をするのでしょうか。患者としていつか医療に関わる私たちも、健康や医療にもっと関心を持ち、情報化社会の中で賢く学んでいく。そうすることで、いざ医療を受けることになったときも、納得した形で、人生を歩んでいくことができるのではないでしょうか。インタビュー・文:亀山 美千代

和田 啓義

2018.6.27

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