ウイルス性肝炎
最終更新日:2019.12.12
ウイルス性肝炎とは

日本での肝臓の病気の約90%は肝炎ウイルスが原因といわれており、主な肝炎ウイルスには、A~E型の5種類がありますが、日本では A・B・C 型がほとんどです。
肝炎ウイルスは、肝細胞内に侵入・増殖し、肝炎、肝硬変などを引き起こします。
刺青やボディーピアス、注射針の共用、複数のセックスパートナーをもつなどの特定の行為は、肝炎の発生リスクを高めます。
病気が進行してコントロールできなくなり、慢性化してしまうと、肝硬変・肝がんに進行する危険性が高くなってしまいます。そのため、ウイルス性肝炎治療の目標は、肝硬変・肝がんへの進行を抑えることとなります。
慢性化しやすいC型肝炎に対する飲み薬も開発され、治療法は進化していますが、治療後も定期的な肝臓の検査を怠らないようにすることが大切です。
受診のめやす
・発熱とともに、皮膚や白目が黄色くなる黄疸(おうだん)が見られたとき・検診で肝機能の異常を指摘されたとき
最初に受診する診療科
・かかりつけ医や、近くの消化器内科を受診してください。ウイルス性肝炎の症状
・熱やのどの痛み・黄疸
・食欲不振
・だるさ
・吐き気
など
ウイルス性肝炎の検査
(1)医師による問診、診察本人の症状や生活習慣を聞いたうえで、ウイルスに感染するようなきっかけがなかったかを確認します。A・E型のウイルスは水や食べ物から感染するため、東南アジアなどへの旅行歴について聞きます。一方、B・C・D型は血液や体液から感染する(入れ墨・ピアス、性的接触、注射の回し打ちなど)と言われているため、きっかけになりそうな出来事がなかったか、詳しく聞き取りを行います。
(2)血液検査
肝機能の確認、肝炎ウイルスマーカー検査などを行い、原因ウイルスの特定と現在の重症度を判定します。
(3)肝生検
病気の進展度を正確に知るために行う検査です。
超音波で位置を確認しながら腹部に針を刺し、肝臓の組織の一部を採取して詳しく調べます。急性肝炎の診断がついている場合には肝生検は行わないことが多いです。
急性肝炎とは肝細胞に急性の炎症が起こる病気で、全身のだるさや黄疸、発熱などの症状が出たり、血液検査で肝臓の酵素が多く検出されたりします。
一方、慢性肝炎が急激に悪化したものと区別しなければならない場合や、肝炎ウイルスマーカーが検出されずに原因が分からない場合には肝生検を行います。
(4)腹腔鏡検査
腹部に内視鏡(カメラ)を入れて肝臓を観察します。病気が進行するにつれて、肝臓の表面は滑らか→凹む→凹凸に見えます。また、肝細胞が壊死することで肝臓の表面に赤色の斑点が見えます。
ウイルス性肝炎の治療
(1)それぞれの原因に対する治療A・B・E型肝炎は急性肝炎で発症し、慢性化することなく、多くが2~3カ月で治ります。安静と十分な栄養摂取が最も大切です。
一方、C型肝炎と一部の重症化したB型肝炎は、慢性化するリスクがあり、抗ウイルス薬を使った治療を行います。現在は新しい飲み薬が開発されたため、治療成績も格段に上がっています。ただし専門医による治療となるため、専門の医療機関に紹介されてから治療を開始することになります。
抗ウイルス薬は、まだ新しい薬であるために副作用などの報告が少なく、これから判明する副作用があるかもしれないので注意が必要です。
また、急性肝炎よりもさらに重症な劇症肝炎になることもあります。B型、次いでA型に多く、その場合には、肝臓だけでなく、全身に対する治療が必要になります。
(2)肝庇護(ひご)薬
肝臓の細胞が壊れるのを防ぐ薬です。(1)のような原因に対する治療に加えて、肝臓の機能をこれ以上低下させないために、飲み薬や点滴による薬物治療が行われることも多いです。
(3)生活習慣の改善
原因に関わらず、肝臓に負担のかからない生活習慣を心掛けることが大切です。重症度によって違いはありますが、肝硬変に進んでいない肝炎の場合は、適切なカロリー摂取と栄養バランスの取れた食事が基本となります。
以前は「高カロリー・高タンパク・低脂肪の食事が必要」と言われていた時代もありましたが、肝臓に負担をかけてしまうため、現在では推奨されていません。
ウイルス性肝炎の治療と生活
治療に要する期間
急性期を乗り越えても、肝臓の機能を安定させるために、健康診断や定期的な受診、飲み薬による治療(場合による)は生涯を通して必要になります。また、B・C型肝炎ウイルスが原因だった場合には、ほかの病気の治療で免疫抑制薬を使う際に、重症化を防ぐための治療を行うことがあります。
治療中に気をつけたいこと
年に一度は健康診断を受け、定期的に病院で肝臓の検査を続けることで治療効果を確認し、肝炎が慢性化していないかを調べましょう。治癒したあとも治療中と同様、肝臓への負担を少なくするような生活習慣を心掛けることが大切です。
また、一度ウイルスに感染すると免疫が作られ再感染しないことがほとんどですが、C型肝炎は一度感染したことがあっても、再度感染することがあります。
病気の進行を防ぐために
肝臓の数値に異常が認められても、初めのうちはほとんど症状がなく、気にしない人も多くいます。しかし、早い段階で原因を特定しないと、気がついたときには肝硬変に進んでしまっているということもあります。特に慢性ウイルス肝炎では自覚症状がない場合が多いです。原因は1つではないので、治療後であったとしても、健康診断などで詳しい検査を勧められた際には、必ず受診することが大事です。
また、他の病気の治療により肝炎ウイルスが再活性化することがあるので、ウイルスに対する治療が終わっても油断は禁物です。医療機関を受診する際には、必ず「ウイルス性の肝炎にかかったことがある」と伝えるようにしましょう。
その他
献血時、職場・地域検診、人間ドックなどで気付くことが多いため、定期検診を受診しましょう。A・B型肝炎については、ワクチンでの予防が可能です。A型肝炎は熱帯地域で流行しているので、渡航前はワクチンを接種しましょう。B型肝炎は子どもの定期予防接種に含まれているので、忘れずに接種しておきましょう。
C型肝炎と言えば、少し前までは血液製剤による感染が問題になっていました。
現在は輸血前検査の精度が上がり、医療行為による感染はほぼなくなっていますが、輸血後の検査は受けた方がよいでしょう。
E型肝炎は若いブタのレバー、イノシシ・シカの生肉による感染が目立ちます。これらを食べる際にはよく火を通すようにしましょう。妊娠後期にE型肝炎ウイルスに感染すると10~20%で重症化や劇症化が見られるため、注意が必要です。
また最近は、もともと日本にはあまりなかった型のウイルスが増えてきており、特に若年の感染者での報告が多いです。他人のカミソリ・歯ブラシを使わないことや、性的接触の際にはコンドームの使用を徹底する必要があります。また、針刺し事故により、肝炎ウイルスに感染することもあります。
B・C型、特にB型ウイルスの感染率は20~40%と高いので注意が必要です。いずれも感染が疑われる場合には、ウイルスの侵入が疑われる箇所を十分に水洗いし、その後は定期的な肝機能検査を受けるようにしてください。
D型肝炎ウイルスは世界中で見られ、特に地中海・中東・南米に多いですが、日本では有病率は低いです。
合併症
・肝炎後再生不良性貧血再生不良性貧血は、血液中の白血球、赤血球、血小板のすべてが減少する病気です。
頻度としてはC型が最も多いですが、すべての急性ウイルス性肝炎で起こる可能性があります。
・腎障害
A型では腎不全に至ることもあります。
B型ではタンパク尿などの症状が出る膜性腎症を起こすことがあります。
C型ではタンパク尿や血尿の症状が出る膜性増殖性腎炎を起こすことがあります。
・皮疹
B型肝炎の初期に、顔や手足に発疹が出ることがあります。
参考文献
MDSマニュアル病気が見える 肝・胆・膵
year note 肝・胆・膵
ハリソン内科学第5版
日本肝臓学会編 慢性肝炎・肝硬変の診療ガイド
日本肝臓学会編 肝臓病の理解のために, 2015