高血圧治療中の被殻出血。手術せず薬物治療で回復
最終更新日:2019.1.31
患者プロフィール
59歳の男性。塾の講師をしている。責任感が強く、生徒の相談にも熱心に対応するため、帰宅が遅くなることもしばしば。子どもは成人し、妻と2人で暮らしている。お酒が大好きで、毎日ビール2缶と日本酒1合程度をたしなむ。1日1箱程度、タバコも吸っている。肥満体型で、健康診断では軽度の糖尿病と高血圧と言われ病院に通っているが、よく薬を飲み忘れてしまう。
受診までの経緯
1月の集中講義の授業中に、突然「頭が痛い」と言いながら倒れて、気を失ってしまった。塾長が救急車を呼び、病院に搬送された。診察・検査
体温は37.2度。呼吸数は毎分30回と多いが、脈拍は毎分70回と正常で、拍動は一定だった。血圧は190/100mmHgと非常に高かった。搬送先で、2回ほど吐いてしまった。
病院へ駆けつけた妻によると、「普段よりも落ち着きがない。いつもの夫とは違って言葉も荒く、イライラしているようです」とのことだった。
医師が診察のためにいろいろと質問をするが、その答えは的を射ていない状態であった。また、右の腕や手先、足を動かすことができなかった。
脳の病気が疑われたため、頭部CT(コンピューター断層撮影装置)検査を行うこととなった。
診断・治療方針
頭部CTの結果は「被殻(ひかく)」という部分に出血がみられ、「被殻出血」と診断された。即日入院となったが、CTの結果をみる限りでは、出血による血のたまり(血腫)はそれほど大きくないと判断された。そのため、手術はせずに血圧を下げ、脳のむくみを防止する薬を投与して経過をみることになった。
翌日に再度頭部CT検査を行ったところ、出血部分は広がっていなかったため、薬による治療を継続する方針となった。また、脳の機能や全身の筋力がおとろえないようにするため、入院後の早い段階から食事・歩行のリハビリテーションを開始した。
治療の経過
治療開始2日後から頭痛や吐き気が改善し始め、これと同時に会話も成立するようになってきた。1週間後のCT検査でも血腫は大きくなっておらず、状態は安定していると判断されたため、投薬とリハビリによる治療を継続することになった。
入院後1カ月で、リハビリ治療を積極的に行う、回復期病床がある病院に転院。リハビリを継続し、4カ月後には再び1人で歩けるようになった。手や足の動かしにくさは少し残ったものの、1年後には再び塾講師として教壇に立てるまでに回復した。
今後は、脳出血の再発を予防するために、生活習慣を見直すことにした。高血圧の治療薬を内服しながら、塩分を控えた食事を心がけ、酒量も減らした。タバコはきっぱりとやめ、ウォーキングを始めることにした。近頃は、週末に妻との散歩を楽しんでいる。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。