ピロリ菌は除菌せず。久々の胃カメラでがんを発見
最終更新日:2019.6.24
患者プロフィール
54歳の男性。32歳のとき十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)と診断され、症状が出るたびに胃酸を抑える薬を飲んでいた。5年前にその症状が出たときは胃カメラ検査を受けたが、潰瘍の部分は治っていたので、特に治療はしなかった。また、その際に検査を行ってピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)に感染していることが判明。しかし、そのときは仕事が忙しく、病院に通う時間がないと思ったため、除菌治療は行わなかった。
受診までの経緯
ある日、「ピロリ菌感染を放置すると、がんになる」という記事を読んだ。ここのところ十二指腸潰瘍の症状もないし、胃腸の調子は悪くない。しかし、医師からも同じような話を聞かされていたため、「久しぶりに胃カメラ検査を受けておこうか」という気になった。週末にクリニックを受診して、胃カメラ検査を受けることにした。診察・検査
胃カメラ検査を行うと「胃の下のほう、胃の入り口から離れたところに何かありますね。ちょっと組織をとって調べましょう」と言われてしまった。見つかった病変の組織を採取し、病理検査を行うことになった(生検)。医師によると、がんの可能性もあるという。
医師に「がんの可能性もある」と言われ、急に恐ろしくなった。帰宅して、ピロリ菌や胃がんについてネットで調べてみたところ、ピロリ菌に感染すると胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんになる確率が高くなると書いてある。今からピロリ菌を退治して、胃がんになる確率は下げられるものなのだろうか。
診断・治療方針
1週間後に生検の結果が判明。やはり胃がんと診断され、手術のために大学病院を紹介受診することになった。医師に「5年前はピロリ菌を除菌しませんでしたが、それがいけなかったのでしょうか?」と聞くと、「何とも言えませんが、ピロリ菌が胃がんの原因であることは確かです」と言われた。
大学病院を受診し、CT検査などを受けた。検査の結果、がんはリンパ節にまで広がっていなかったため、ステージIBと診断された。手術では、胃のおよそ3分の2を切除するという。
手術の方法は2つある。1つは開腹手術で、おなかを大きく切るが、手術時間が短く済み、医療費はやや安くなる。もう1つは腹腔(ふくくう)鏡手術で、おなかに開けた小さな穴からカメラを入れて覗きながら、専用の器具で胃を切る方法だ。手術時間はやや長くなるが、手術の傷あとも小さく、回復も早い。
年齢が若く、ほかの臓器の状態も悪くないので、どちらかを選ぶことができるという。悩んだ末、傷が小さく手術後の回復が早い腹腔鏡手術を選んだ。
治療の経過
手術は無事終了し、術後の経過も良好であったため、1週間ほどで退院となった。退院後の外来で、病理検査の結果を聞いた。検査では胃のまわりのリンパ節にがんが広がっていないこと、胃の中でがんが広がっている深さが予想通りであること、手術でがんを取り切れていることなどが確認でき、ステージはIBで確定となった。
リンパ節に広がっていたり、もう少しがんが深くまで広がっていたりすると、術後に抗がん剤治療を行ったほうが治療成績はよくなるそうだが、今回は抗がん剤治療を行う必要はないと言われた。
今は定期的に病院に通い、がんの再発がないことを確認してもらっている。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。
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