かゆみを伴う多数の「いぼ」は「がん」のサイン?
最終更新日:2018.12.26
患者プロフィール
66歳の男性。趣味は歴史小説を読むこと。定年退職後は小説を読もうと、図書館に通っている。妻と2人で暮らしている。
受診までの経緯
3カ月ほど前から、胸や背中に平たい「いぼ」ができてきた。最初は高齢者に多いシミに見えたが、かゆい上に短期間で増え、大きくなった。かゆみ止めの薬か何か処方してもらえないだろうかと思い、皮膚科を受診した。
診察・検査
これは脂漏性角化症(しろうせいかくかしょう)というものだった。年をとると増える「いぼ」のようなもので、皮膚の老化現象とのことだった。ただ、自分のように急に増えてかゆみを伴うような場合は、「レーザー・トレラ徴候」という、内臓にがんがあることを示す現象かもしれないと言われた。血液検査をして帰宅し、1週間後に結果を聞くことになった。血液検査の結果は、ややタンパクの値が低いのに加え、CEAという数値が高いという。CEAという物質は腫瘍(しゅよう)マーカーというものの一種であり、この数値が高いとがんの可能性があるのだという。
胃カメラ検査をするため、消化器内科に紹介状を書いてもらった。
まさか、この「いぼ」が「がん」の存在を示している可能性があるとは……。不安に思いながら家路についた。
帰って妻に話すと、たいそう心配して「絶対に病院に行かなきゃダメよ」と言う。自分ではまだ半信半疑で、「胃カメラなんて受けたくないな……」という心境だったが、「私も行く」と妻に押し切られ、一緒に消化器内科を受診した。
診断・治療方針
「何もなければそれで一件落着ですし、こうやって、がんが見つかった結果、早くに治療できた人もいますよ」と言われ、胃カメラ検査を受けた。しかし胃カメラの結果、やはり胃がんだろうと言われた。
いつもの妻なら「ほら言ったじゃないの」と小言のひとつも言うところだが、しんみりとうつむいている。
がんの広がりを調べてから治療方針が決まると言うことで、CT検査を受けることになった。
CT検査の結果から、がんはリンパ節に広がっておらず、ステージはIIAということだった。
手術の方針としては、「幽門側(ゆうもんそく)胃切除術+D2郭清(かくせい)術」という、胃の下側3分の2と周りのリンパ節を切除する手術を受けることとなった。「胃を残せるんですか」と聞いてみると、今回はこの方法ならがんの周囲に2cm余裕を持って取り去ることができるそうで、胃をすべて摘出しなくてもよいとのこと。
全摘でないと聞いて、少しほっとした。
治療の経過
手術は無事終わった。手術で胃に入れた管は翌日に抜いてもらい、手術後2日目には食事を開始した。最初は重湯が出され、毎日徐々に固形の食事へと変わっていった。手術から続けていた点滴の針も術後5日目には抜くことができ、手術から2週間で退院となった。退院から2週間後、最初の外来で血液検査を受けたが異常はなく、次は3カ月後ということになった。
あれから半年ほどたって「いぼ」も大体消えてきており、やはりがんが影響していたのだなと納得した。
今は定期的に通院し、がんが再発していないかの検査を受けている。
手術から半年の検査ではCTを撮ったが再発はしておらず、次は半年後に胃カメラ検査を受けることになっている。
生活の上では、食事をするときに一気にたくさん食べないように気をつけていれば、特に不都合を感じることはない。
一見関係ないように思えた「いぼ」と胃がんだが、あのとき妻の言う通り胃カメラを受けておいて、本当によかった。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。
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