冠動脈も解離し命の危機。13時間に及ぶ緊急手術
最終更新日:2019.10.8
患者プロフィール
48歳の男性。身長170cmで体重84kg。5年前から会社の健康診断で高血圧とコレステロール値の異常について指摘されていたが、病院を受診していなかった。
受診までの経緯
朝6時、会社に行く準備をしていると、突然背中を引き裂かれるような激しい痛みを覚えた。あまりにも痛かったので救急車を呼ぼうか迷ったが、「しばらくすればよくなるかもしれない」と思い、横になって様子を見ることにした。
しかし、背中の痛みが消える気配はなく、胸まで締め付けられるように苦しくなってきた。
「突然こんなに痛くなるなんておかしい。胸も苦しいということは、心臓の病気かもしれない」と恐ろしくなり、家族の運転する車で近くの救急病院を受診した。
診察・検査
体温は36.8度、脈拍は毎分120回と速くなっており、リズムも一定ではなかった。右腕で計った血圧は148/72mmHgだったが、左腕では194/112mmHgとさらに高くなっており、左右の腕で大きな差があった。
痛みのあまり息苦しく、呼吸数も毎分20回と速くなっていた。
しかし、酸素飽和度(SpO2)の値は98%と、全身に酸素はうまく取り込めているようだった。
じっとりとした冷や汗が止まらない状態であり、心臓病の可能性が高いとのこと。
心電図検査では心筋梗塞を強く疑わせる所見であり、心室期外収縮という不整脈も合併していた。
心臓の超音波(エコー)検査では心臓の一部で動きが悪くなっており、ますます心筋梗塞の可能性が疑われた。
血液検査の結果や症状などと合わせると、大動脈解離に心筋梗塞が合併している可能性が高かったので、確定診断のため、造影剤を用いたCT検査が行われることになった。
診断・治療方針
造影CT検査の結果、上行大動脈(心臓を出てすぐの大動脈)が2層に裂けてしまうスタンフォードA型の大動脈解離という診断が下された。解離は上行大動脈だけでなく、心臓に血液を送る冠動脈の一部にも及んでおり、これにより心臓に行く血液が遮断され、心筋梗塞のような症状が現れているとのこと。
今すぐ緊急手術をしなければ、命に関わると医師に告げられた。
手術は、人工呼吸器と人工心肺を使って心臓の動きを止めてから、大動脈から冠動脈にかけて解離した部分を人工血管に置き換えるというもの。順調にいっても3~4週間の入院が必要になる。
手術の合併症には出血、手術部位の感染、心機能の低下、脳梗塞や心筋梗塞などがあり、一般的な大動脈解離の手術よりもリスクが高いとのことだった。
突然のことで頭が真っ白になったが、命に関わるので迷っている暇はない。そのまま入院し、緊急手術を受けることになった。
治療の経過
およそ13時間かかる大手術で、終わったのは夜22時だった。術後は人工呼吸器につながれたまま集中治療室(ICU)に運ばれた。手術中は出血が多かったため、輸血が行われたという。
麻酔が覚めた後も、しばらく人工呼吸器での治療が続いた。
咳や痰が上手く出せるようになり、深呼吸もできるようになったため、無事、人工呼吸器の管を抜くことができた。
管を抜いた後は水を飲むことからスタートし、徐々に食事を始めていった。
一般病棟へ移動したからは本格的にリハビリを始めた。
「なるべく早く社会復帰したい」と考え、リハビリを頑張った結果、6週間後には退院することができた。
退院後2週間、1カ月の経過観察でも大きな問題はなく、仕事にも復帰することができた。
今後は3カ月ごとに検診を受け、半年から1年に1回CT検査と超音波(エコー)検査を行うことになる。
もともと指摘されていた高血圧とコレステロールについては薬が処方され、忙しくても飲むようにしている。
太りすぎや不摂生が高血圧やコレステロール値の異常につながっているとのことなので、歩く距離を増やしたり、食事に気を付けたりするようにしている。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。