マレーシア旅行から1カ月後、熱が出て体がだるい
最終更新日:2019.2.12
患者プロフィール
10歳の男児。持病などはなく、健康そのもの。春休みにマレーシアへ家族旅行に行き、帰国後も通常の生活を送っていた。
受診までの経緯
マレーシアから帰国して1カ月ほどたった頃、37~38度の発熱が続き、全身のだるさとともに食欲がなくなった。吐き気があり、食べたものを吐いてしまうようになったため、症状が出始めてから2日後に病院を受診。病院では急性胃腸炎と診断され、処方された整腸剤を飲みながら家で様子を見ることになった。その後、熱は下がってきたが食欲は戻らず、全身のだるさと腹痛も続いた。発症から9日後、姉に「白目のところが黄色くなっている」と指摘されたため、心配した母親に連れられ、再度病院を受診することになった。
診察・検査
診察では、全身のだるさはあるものの、痛みなどはなかった。ほかに普段と違うことはなかったかを聞かれたので、尿が濃い褐色になっていたことを伝えた。医師が触診を行ったところ、通常は触れることのない肝臓に4cmほど触れた。
「肝臓に何か異常があって、少し腫れて大きくなっているのかもしれない」とのことだった。
眼球結膜(白目の部分)はやはり黄色になっており、「これは肝臓が十分に働いていないことにより血中にビリルビンという物質がたまってきたことを示す黄疸(おうだん)という徴候です」と言われた。
肝臓などに異常があるかもしれないので、ひとまず血液検査を行うことになった。
診断・治療方針
血液検査の結果、血液中にA型肝炎の抗体が確認されたため、A型肝炎と診断された。A型肝炎とは、A型肝炎ウイルスへの感染によって起こる、急性の肝炎である。
ほかにもAST(GOT)やALT(GPT)といった肝臓の酵素の値が上昇しており、これは肝炎によって肝細胞が壊れてしまったことを示しているのだという。
A型肝炎は、国内でも発症した例はあるが、主に不衛生な環境で調理された水や食べ物により感染するため、中国・インド・東南アジア地域などを旅行した人に多いという。
1カ月前にマレーシアを旅行したことを医師に伝えると、「確かなことは言えませんが、海外で水や氷、生ものを介して感染することは多いですね」と言われた。A型肝炎は潜伏期間が2~6週間と長いために、1カ月後の今になってようやく発症したようだ。
治療方針としては、入院して点滴をしながら様子を見ることになった。嘔吐(おうと)が続いており、食事や水分がきちんととれていないことに加え、まれではあるが劇症肝炎を起こせば命の危険もあるということで、注意深く経過を見ていくことになった。
治療の経過
水分や食事が十分にとれていなかったため、まずは点滴により水分と栄養分の補給を行った。また、同居している家族は全員、A型肝炎のワクチンを接種することになった。
入院から1週間ほどで症状は軽くなり、少しずつではあるが、水分や食事も自分でとれるようになった。
その後2週間ほど経過すると、血液検査でも肝機能に関する項目(AST/ALT)が正常値に近づいてきた。検査数値も改善傾向にあり、水分や食事も十分にとれていると判断されたため、ようやく退院となった。
退院に際して、症状が消えてからも、数週間はウイルスが便に混じって体から排出されるため、ほかの人にうつしてしまう危険があると説明を受けた。
医師からは、トイレ後の手洗いなどの衛生管理をしっかり行い、退院後も体力が元に戻るまでは無理をしないようにと言われている。
A型肝炎は一度感染すれば完璧な免疫ができるため、再びかかることはないそうだが、感染リスクが高い地域へ旅行をする場合は、前もってワクチンによる予防接種を受けることもできるのだという。
まさか1カ月も前の旅行で肝炎ウイルスに感染していた可能性があるなんて、思ってもみなかった。もし友達が海外へ行くことになったら、「肝炎などの感染症が流行している地域に行くなら事前にワクチン接種をし、現地では生水や氷の入った飲み物、不衛生な環境で調理されたと思われる食事は避けたほうがいいよ」と教えてあげるつもりである。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。
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