逆流性食道炎かと思いきや、胃を全摘出することに
最終更新日:2018.8.2
患者プロフィール
58歳の主婦。同い年の夫と暮らしている。十数年前にリウマチと診断された。今は1カ月に1回ほど病院に通い、薬を飲んでいる。半年ほど前に少し調子が悪くなったが、薬を変更したところリウマチの症状は落ち着いている。
受診までの経緯
2、3カ月前から、みぞおちが痛むようになった。夫に相談したところ「食べすぎなんじゃないか?」と言われてしまった。医者にはかからず様子を見ていたが痛みはおさまらないし、1週間くらい前から胸やけも感じるようになった。そういえば近所の人が「逆流性食道炎になったときに胸やけがあった」と言っていた。60歳前後からなりやすいとも聞いた気がする。ちょうどリウマチの薬をもらいに病院へ行かなければならない時期だったので、ついでに相談してみることにした。
診察・検査
医師は「逆流性食道炎の可能性もありますが、ほかの原因があるかもしれません」と言う。例えば、リウマチで痛み止めの薬を飲んでいる人の15%くらいは、薬で胃が荒れて胃潰瘍(いかいよう)になる可能性があり、検査結果によっては胃がんの可能性も捨てきれないという。
痛み止めの薬を1種類やめて、胃酸を抑える薬を増やすことになった。その日は血液検査を受けて自宅に帰ったが、薬を変えてもみぞおちの痛みは続いていた。
後日、血液検査の結果から、やや貧血気味であることがわかった。胃潰瘍や胃がんから出血し、貧血になっている可能性もあるという。薬を変えても痛みが変わらないことを伝えると、消化器内科の病院で胃カメラ検査を受けることになった。
検査までは「もし胃がんだったら……」と不安に思う日々が続いた。心配した夫も同席してくれるというので、検査結果は2人で聞くことにした。
診断・治療方針
胃カメラの結果、胃がんが見つかった。「胃の上側、食べ物が入ってくるあたりを噴門部(ふんもんぶ)といいます。ここに、がんが見つかりました。」さっきまで「大丈夫だよ」と励ましてくれていた夫も、医師の言葉を聞いて表情を曇らせている。
治療の方針は、がんが胃の外側にまで広がっているかどうかによって変わるという。
がんの広がりを確認するためにCT検査を受けることになった。このときから貧血の治療として、鉄分を補うための薬を飲みはじめた。
CT検査では、がんが胃の外側に広がっていないことが確認された。胃がんのステージIBだった。
がんが胃の入り口近くにあることに加え、胃の固有筋層という部分まで到達しているため、手術では胃をすべて切除しなくてはならないのだという。薬で貧血が改善していれば輸血は必要なく、入院は2週間程度。
手術の結果によっては、追加で抗がん剤の治療が必要になると説明された。
お金のことが不安になったが、事前に手続きを行って高額療養費制度を利用すれば、病院の窓口で支払う入院費用は抑えられるということだった。
治療の経過
手術は順調に終わった。予定通り、切除した胃の代わりに小腸をつなぐRoux-en-Y(ルーワイ)再建という手術と、胃の周りのリンパ節を広範囲にわたって切除する手術を行ったと説明があった。事前に「手術のあとは熱が出る人もいます」と言われていたが、やはり発熱。数日で平熱に戻った。また、「手術後は手術部位の癒着(ゆちゃく)や寝たきりによる筋力低下を防ぐために、なるべく歩いてください」と何度も言われた。
1週間後には、手術で取り出した胃や、胃の周囲にあるリンパ節についての検査結果が出た。これにより、がんがリンパ節には広がっておらず、また現状では取りきれていると考えられるため、追加の抗がん剤治療は不要となった。
退院後の定期的な検査でも、再発は見つかっていない。今ではリウマチの薬も元に戻してもらい、症状は落ち着いている。あんなにおろおろしていた夫も、すっかり元通りである。
今回の手術では、胃をすべて切除した。これにより、一気に大量の食事をとると血の気が引いたり、低血糖になったりしやすくなるようで、食事を複数回に分けてゆっくり食べるように指導されている。また、「ミネラルが足りなくなった場合、サプリメントを飲まなくてはならないことがある」と聞いていたが、食事の量やバランスに気を付けているおかげか、今のところ副作用などは出ていない。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。
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