劇症1型糖尿病と診断。血液も酸性に傾いていた
最終更新日:2018.11.29
患者プロフィール
45歳の男性。大手家電メーカーで働いており、24歳から毎年、職場の健康診断を受けている。生来健康で、病院にかかったのは40歳のときに痔(じ)の手術を受けたくらいだ。
実父は高血圧、高尿酸血症、糖尿病の治療中なので、自分は生活習慣病になりたくないと思い、普段から食事には気を付けて生活している。
受診までの経緯
2日前、風邪のような症状が現れ、突然のどの渇きやすさを感じ、水分を多めにとるようになった。1日前にはめまいを感じ、熱中症ではないかと思ったためスポーツドリンクを4L飲んだ。
その夜から吐き気を感じ、実際に2回吐いてしまったため、近所の病院を受診した。
診察・検査
身体診察では、体温・呼吸数・脈・血圧を測定。首のあたりを触る診察、聴診器で胸の音を聞き、腹部の診察を受けた。
呼吸数は1分間に22回でやや速い方だというが、ほかに大きな問題はなかった。
血液検査で血糖値が高かったので、大きな病院に救急車で運ばれた。
到着後は血液検査と尿検査を行った。血液検査では、肘(ひじ)の真ん中から行う普通の採血に加え、手首のところから採取する動脈血の検査も行った。
改めて行った血液検査では、血糖610mg/dLと非常に高い値が出た。
だが、直近1~2カ月の血糖値が高かったかどうかを表すHbA1cは6.2%と、あまり上がっていなかった。
尿検査では糖3+だった。これらの結果から、数日もしくは数週間の間に、急に血糖値が上がったと考えられる。
また、白血球1万2300、CRP 1.0mg/dLとなっており、炎症を示す数値が上がっているという。
そして、尿中にはケトン体が出ていた。動脈血のpHは 7.25で、正常より酸性に傾いているという。
診断・治療方針
生活習慣が原因となって発症する2型糖尿病では、血糖値とHbA1cの値が両方とも上昇していることが多いが、今回の場合は血糖値のみ上がっている。これはおそらく、数日もしくは数週間のうちに血糖値が急上昇したためであり、糖尿病の中でも劇症1型糖尿病の診断となった。
1型糖尿病とは、インスリン(血糖値を下げるホルモン)を出す膵(すい)臓の細胞が破壊されてしまうために起こる病気である。
その中でも、「劇症」というのは膵臓の細胞が急速に破壊されるタイプを指す。
血糖値が高く、尿中にケトン体が出ており、動脈血のpHが7.25と酸性に傾いていることから、糖尿病ケトアシドーシスとも診断された。
めまいや吐き気などの症状はおそらくこれが原因だという。
糖尿病によりブドウ糖をうまくエネルギーとして使えなくなると、体は代わりに脂肪を燃焼させてエネルギーを得ようとするが、このときに副産物としてケトン体という物質が作られる。これが体内に蓄積した状態を、糖尿病ケトアシドーシスという。
ケトン体は酸性の性質を持つため、血液が正常よりも酸性になり、その結果として吐き気、腹痛、めまいなどの症状が現れるのだという。
また、糖尿病ケトアシドーシスは、糖分の多い飲み物を多量に飲んだことにより発症することもあるそうで、熱中症だと思ってスポーツドリンクを飲んだのもよくなかったのかもしれないと言われた。
治療方針としてはまず入院して、輸液とインスリン治療を行うことになった。
治療の経過
入院中はこまめに血液検査を行い、血液中に溶けている成分の量に急激な変化がないことを確認しながら治療を続けた。そのうち血糖値は正常に戻り、体調も回復。1週間後に退院となった。
劇症1型糖尿病は、生活習慣病による2型糖尿病よりも糖尿病網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病神経障害などの症状が進行しやすい。
そのため、血糖値のコントロールが何より大切なのだという。
改めて内科に入院し、インスリン治療を開始した。インスリンは毎食後自分で注射しなければならず、血糖値も1日に何度も測る必要があると知った。
注射の仕方や血糖測定器の使い方も入院中に教えてもらった。
退院後は、スマートフォンのアプリで血糖値を記録している。仕事は続けたいので、月に1回の通院は土曜日にして、平日はいつも通り過ごしている。
元気に長生きしたいので、これからはもっと自分の体をいたわってやらねばと考えている。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。
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