目のかすみは糖尿病網膜症。腎臓の機能も低下
最終更新日:2018.11.8
患者プロフィール
60歳の男性。妻と息子との3人で暮らしており、メーカーでの仕事は定年まで続けようと思っている。外食はそれほど多くなく、普段は妻の手料理を食べているが、ついつい食べすぎてしまうことが多い。
月に1回、友人とゴルフに行くのが趣味である。
数年前から尿糖陽性、血糖高値と高血圧を指摘されていたが、仕事が忙しいこともあり病院には行っていない。
受診までの経緯
半年ほど前から、「ゴルフシューズがきつくなったな」と感じていた。どうやら足がむくんでいるようだ。また、時々目がかすんで、飛んでいるボールがよく見えないことがある。職場のパソコンも見にくくなってきた。
眼科に行くか内科に行くか迷ったが、目の見え方のほうが深刻だったので、近所の眼科を受診した。
診断は、糖尿病網膜症。糖尿病が原因で網膜が障害を受け、視力が低下する病気で、中でも増殖網膜症という最も進んだ状態だという。
糖尿病の治療をすれば目の症状の進行を遅らせることができるかもしれないと言われたので、糖尿病内科を紹介受診することにした。
診察・検査
血圧を測定したところ、158/92mmHgと高かった。尿検査では尿タンパクも尿糖も陽性。血液検査では血糖が280mg/dLと高く、直近1カ月間の血糖値が高かったかどうかを示すHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)という値も9.5と高かった。腎臓の機能に関する尿素窒素、クレアチニンの値も悪いと言われた。
診察では、足のむくみは糖尿病からくるもので、腎臓や肝臓、心臓までもが悪くなっている可能性があると言われてしまった。
診断・治療方針
血糖値もHbA1cの値も両方高いため、糖尿病と診断された。「今からでも、治療を始めれば今後よりよい生活を送れますよ」と言われ、食事療法を始めることにした。食事療法を行えば、飲む薬の量も減らせる可能性があるという。1日の摂取カロリーを1800kcal程度に抑え、お酒は飲まない、塩分控えめ、肉類の食べすぎにも注意と指示された。そんなにたくさんの制限を守れるか不安だと正直に打ち明けると、糖尿病の知識を身につけるだけでなく、食事療法や運動療法を体験できる「教育入院」というものがあるとのこと。
仕事が心配だったが、こんなに体のいろいろな部分が悪くなるまで放置してしまったことだし、食生活と向き合ういい機会かもしれないと思った。妻の後押しもあって、教育入院をすることに決めた。
腎臓と心臓については腎臓内科と循環器内科の紹介状を書いてもらい、入院中に受診することになった。入院までは、妻に味付けを薄めに作ってもらい、ご飯は茶わん少なめ1杯にして、血圧の薬を飲んで生活するよう言われた。
治療の経過
4泊5日の教育入院が始まった。教育入院では、糖尿病がどのような病気なのかについて詳しく教えてもらい、食事内容に関する指導も受けた。血糖コントロールのために、糖尿病の内服療法も続けた。運動療法については、糖尿病性網膜症や糖尿病腎症が疑われる場合は控えたほうがいいということで、今回は行わなかった。
糖尿病の本当の怖さは合併症にあって、目が見えなくなったり、透析治療が必要になったりして、日常生活が大きく変わってしまう可能性があるという。
透析治療とは、尿に老廃物を出せなくなった腎臓の代わりに、老廃物を取り除く治療である。太めの採血の針のようなものを2カ所の血管に刺し、1回4時間、週に3回病院に通う必要があるという。
糖尿病について詳しく知ったことで、目のかすみや足のむくみが出ていることを考えると、合併症が重くなるのは時間の問題だということが分かった。
食事に気を付けなければならないと思う一方、食事の指導として病院で出される食事では物足りず、つい病院の売店で売っているお菓子に手が伸びてしまう。
食事療法の効果があまり見られず入院延長になったある日、お菓子を食べているところを看護師に見られ、厳しく注意を受けた。
その上、眼科では「糖尿病網膜症で失明する可能性もあります」と説明されて、いよいよ怖くなった。
糖尿病のコントロールがうまくいったら、糖尿病網膜症の手術ができる可能性があると言われ、治療をしながら検討することにした。
それからは間食もきっぱりとやめ、退院後も2週間に1回は眼科に通院している。
腎臓内科では、このまま悪化すると透析治療が必要になるかもしれないと言われたが、少なくとも仕事を定年退職するまでは透析を始めなくていいようにしたい。
心臓には今のところ大きな問題はないが、いつ悪くなってもおかしくないというので、血圧の薬を飲み忘れないように心がけている。
退院後は食生活に気を付けながら仕事に復帰したが、通院のため週3日の勤務にした。
かすんでいた目は、全体的にどんどんぼやけてきていて、見えにくいものについては妻に教えてもらうことが増えた。
手術を受ける心の準備はできたので、次の眼科外来で医師に相談してみようと思っている。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。