乳房を温存し、手術後は放射線照射とホルモン療法
最終更新日:2018.7.3
患者プロフィール
58歳の女性。いままでに大きな病気をしたことはなく、健康そのもの。夫との2人暮らしで、子どもはいない。6年前、52歳で閉経した。週に3回、スーパーで働いている。
受診までの経緯
テレビ番組で乳がんの自己検診を紹介していたので、お風呂に入ったときに自分の乳房を触ってみたところ、左側の乳房に小さくて少しゴツゴツしたものを見つけた。右側の乳房には、同じようなものはなかった。詳しくみてもらうため、近くのレディースクリニックを受診。医師が触診をしたところ、乳がんの可能性があると言われたので、翌日大きな病院の乳腺外科を紹介受診した。
診察・検査
医師が視診と触診をしたところ、しこりは左乳房の中でも左上の方にあり、大きさは1.3 cm程度で、やはり表面がゴツゴツしていることがわかった。乳頭(乳首)や皮膚はへこんだり、ひきつれたりしていない。わきの下のリンパ節(腋窩(えきか)リンパ節)には触ることができなかった。
さらに、マンモグラフィーと超音波の検査を行った。どちらの検査でも、しこりが触れる部分に細かくて白いつぶつぶしたものが確認でき、これは微小石灰化と考えられた。
表面がゴツゴツしていること、微小石灰化がみられることから、しこりは乳がんである可能性が高いとのこと。
乳房に針を刺して、しこりの細胞の一部を採取する検査(生検)を行った。
診断・治療方針
針生検の結果、乳がんの診断となった。乳がんの中でも浸潤性乳がんという、乳がんの中で一番多いタイプだった。腫瘍は2 cmよりも小さいため、乳房を温存し、がんを切除する手術(乳房温存手術)を行うことになった。
がん細胞がしこりの中にとどまっているか、リンパ節まで広がっているかは、実際にリンパ節をとって検査してみないとわからないため、手術中にセンチネルリンパ節生検(乳房内から乳がん細胞が最初にたどりつくリンパ節を摘出し顕微鏡で調べる検査)を行い、そこにがん細胞が見つかれば、残りの腋窩リンパ節をすべて取り除くことになった。
手術後は、通院での放射線治療を毎日、5週間にわたって行うことになった。加えて、がんの性質がホルモン受容体陽性のがんであったため、手術後5年間はホルモンを抑える薬を飲んで、がん細胞の再発を予防する治療を行う方針となった。
治療の経過
手術中に行ったセンチネルリンパ節生検が陽性であったため、乳房部分切除に加え、腋窩リンパ節も切除する手術を行った。手術でとった腋窩リンパ節を顕微鏡で調べる検査を行ったところ、腋窩リンパ節の1つに転移が見つかった。
手術前にはリンパ節転移がないと考えられたためステージIの診断だったが、腋窩リンパ節に転移があったため、手術後の診断ではステージIIAの診断となった。
手術の1カ月後から放射線の治療と、ホルモン治療として、タモキシフェンというホルモンを抑える薬の服用が始まった。
放射線は平日毎日、5週間の予定で、タモキシフェンは毎日1錠を忘れずに飲むようにとのことだった。
放射線の治療は特に副作用もなく終えることができた。その後はパートにも復帰し、元通りの生活を送っていた。
手術後、3年ほどたったある日、魚をさばいてトレーに乗せる作業をしていたところ、誤って左手の指先を切ってしまった。
傷自体は小さく、ばんそうこうを貼って様子をみていたら、1週間ほどでよくなった。
ところが、その後、左腕が右腕よりもむくんで太くなってきて、動かしにくくなった。
定期受診の際に相談したところ、リンパ浮腫(ふしゅ)という状態とのこと。手術の影響で腕のリンパの流れが悪くなっているため、感染が起きたときなどに、むくみが起こるのだという。
治療としては、きつめのストッキングで腕を圧迫するとよいとのことだった。
手術から3年もたってこんな後遺症が出るとは思いもよらなかったが、今後はリンパ浮腫治療のため、リハビリテーション科に通うことになった。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。
この症例に関連する病気