腰痛が悪化し、立てない。腰椎が4つも折れていた
最終更新日:2018.5.28
患者プロフィール
92歳の女性。高齢だが、一人暮らしで自立した生活を送っており、何かあるときには娘が手伝ってくれていた。数年前から腰の痛みを覚えるようになっている。
受診までの経緯
日に日に腰痛がひどくなり、とうとう動けなくなった。立ち上がることができず、救急車を呼んで病院へ行った。診察・検査
受診時は、痛みで寝返りもできない状況だった。骨折の可能性があると言われ、まずはエックス線(レントゲン)撮影検査を受けた。起き上がることができず寝たままの検査となり、検査台に移動するのも一苦労。
検査結果は、腰の骨がいくつも変形しており、その中の数カ所は新しく骨折した可能性があると説明された。痛みが強く、帰宅はできず当日入院になった。
翌日、MRI(磁気共鳴画像装置)検査を行った。その結果、第1、2、3、4腰椎の4つの骨が同時に折れていた。痛いわけだと納得しつつ、今後どうなることかと不安になった。
その後、家族を含めて医師から説明があった。転倒もせずに腰椎圧迫骨折が4つの骨に生じており、腰椎の脆弱(ぜいじゃく)性骨折(骨密度の低下などが原因となって、軽い衝撃で起こる骨折)だとのこと。脆弱性骨折が発症した時点で骨粗しょう症の診断にもなり、今後は骨折の治療とともに、骨粗しょう症の治療も行うことになった。
診断・治療方針
通常、腰椎の変形を改善させたり、変形して曲がった背骨を元の形に近づけたりするには手術が必要となる。しかし、骨粗しょう症になった脊椎では合併症が発生しやすく、結果的に状態が悪くなる可能性がある。そのため、骨折の変形はそのまま、もしくは少し進むかもしれないが、手術はせずにコルセットで骨折部分を安定させて、骨がくっついてくるのを待つ保存治療を行うこととなった。
骨粗しょう症については、骨密度とともにほかの脊椎に骨折がないかを調べた上で、今後さらなる骨折を防ぐための治療を行うとのこと。治療の中心は薬物治療で、注射や点滴、飲み薬などいくつか選択肢があるが、年齢や体の状態を考えて、週1回飲み薬による治療を行う方針となった。
しかし、その薬を飲んだあとは30分ほど横になれないため、骨折が安定した段階で治療を開始すると説明を受けた。
治療の経過
まずは骨折の治療のため、体に合わせてコルセットの型取りを行った。完成には数日かかるとのこと。それまでは安静にしているように言われ、排尿排便もすべてベッドの上ですることになった。数日してコルセットが完成。想像より長くて重量感がある。メッシュの部分もあるが一部には金属が入っており、装着すると背骨をまっすぐ起こすことができるようになるが、胸や腰が締め付けられてやや苦しい。
理学療法士の指導のもとリハビリを開始。コルセット装着の練習、起き上がったり立ち上がったりする練習、歩行練習を行った。腰の痛みに対しては痛み止めの薬をもらっているが、いまだに起き上がるときは痛みがある。医師からは、骨折が治るには3カ月ほどかかり、痛みがひくには早くて1~2カ月と説明された。その間は薬で痛みをコントロールしなくてはならないということで、追加の薬を処方された。
理学療法士とともに根気よくリハビリに取り組み、なんとか動けるようになってきたところで、医師から骨粗しょう症の飲み薬をはじめましょうと言われた。週1回、起床時に内服する薬で、起きて30分は座ったままでいて、食事はしないようにとのこと。起きるときの痛みが強いので不安があったが、入院中にはじめれば様子をみることができると看護師から話があった。
入院して3週間。杖(つえ)を使って歩行できるようになってきた。病棟を歩く練習を重ねて、自宅での生活ができるめどが立ったところで、そろそろ退院してもよいと言われた。娘の助けを借りるのは申し訳ない気持ちもあるが、一時のものとして甘えようかと思い、退院を決めた。
退院後は1カ月に1回外来でエックス線検査を行い、骨折の治療が順調かどうかを診てもらった。変形した骨は変形したまま骨として強くなり治ってくるとのことで、エックス線では変形が進んでこないかを確認してもらっている。
当初の痛みは2カ月過ぎから軽くなる感じがあり、長く立っていることもできるようになってきた。
3カ月がたち、エックス線でも変形が進んでいないとの判断で、コルセットをはずして少しずつ動くようにと言われた。以前のように生活ができるようになってきて、コルセットを付け忘れることも多くなった。
骨折して6カ月後の検診では、「骨折はもう大丈夫ですね」と言われた。骨粗しょう症の治療は継続していくとのこと。今後は外来で骨密度の変化を計測するとともに、エックス線検査で新しい骨折が発生していないかをチェックしていくことになった。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。
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