20年の間に2型糖尿病が進行。目や腎臓にも異変
最終更新日:2019.4.2
患者プロフィール
53歳の女性。子どもは独立し、夫と2人で暮らしている。仲間と旅行に出掛け、景勝地をめぐるのが一番の楽しみである。33歳のときに健康診断で2型糖尿病と言われ、38歳のときから糖尿病の薬を飲んでいるが、通院をやめたりして薬を飲まなかったことも多かった。
足のむくみがひどく、寝る前はむくみ解消体操が欠かせない。また、1カ月前から階段を上るときに息切れしやすくなり、2週間前の旅行で山に登ったときは、友人より明らかに疲れやすいのを感じていたが、もともと疲れやすいほうだと思っていたのであまり気にしていなかった。
受診までの経緯
1週間ほど前から、なんだか目がかすんでよく見えないときがある。ただの疲れ目だろうと思ったが、せっかく旅行に行っても景色を楽しめないのではつまらない。
目薬か何か処方してもらおうと思い、眼科を受診した。
診察・検査
まず眼底の検査を行ったところ、異常が見つかった。問診で糖尿病があると伝えると、「目のかすみは糖尿病のせいかもしれない」と言われてしまった。
血圧を測定すると、162/102mmHg。高血圧と言える値だった。
血液検査と尿検査の結果を聞くため、1週間後に再診することになった。その日は、降圧薬(血圧を下げる薬)を処方されて帰宅した。
診断・治療方針
1週間後、検査の結果が出た。血液検査では空腹時血糖が220mg/dLと高くなっており、直近1カ月間の血糖値が高かったかどうかを表すHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)も8.9%と高かった。これは糖尿病の悪化を示しているのだという。
目のかすみは、糖尿病網膜症によるものと診断された。
長い間糖にさらされた網膜の血管が障害を受け、視力が低下してしまうのだという。初めて糖尿病と診断された時も医師から説明があったような気はしたが、すっかり忘れてしまっていた。
また、尿素窒素が52mg/dLと高く、クレアチニンの値も5.6mg/dLと高くなっていた。クレアチニンから計算したeGFR(腎臓の働きを示す数値)は7.0mL/分/1.73㎡と低下していた。尿検査では尿タンパクが陽性(2+)。どれも腎機能が悪くなっていることを表す。また、貧血の値を表すヘモグロビンは8.0g/dLと低く、貧血がみられた。
以上の検査結果から、糖尿病性腎症が疑われるとのことで、もともと通っている糖尿病内科と同じ病院の腎臓内科へ紹介状を書いてもらった。
腎臓内科では、糖尿病になってから15年以上経過していること、尿タンパクが陽性であること、クレアチニンの値が高くなっていること、eGFRの値が下がっていることなどから糖尿病性腎症と診断された。医師によると、自分の腎臓はかなり悪くなっており、このまま進行すると人工透析も考えなくてはならないかもしれないという。
貧血は、腎機能が悪くなったことが原因として考えられるという。
少しでも透析導入を遅くすることを目標に、まずは腎臓に負担をかけないように食事療法を開始することになった。
入院して栄養士の指導も受けることになるという。
糖尿病の薬は今まで飲んでいた錠剤の薬では弱いため、自己注射によるインスリン治療を行う。
高血圧についても、薬をきちんと飲んで血圧をコントロールしていくことになった。
治療開始にあたって1週間ほど糖尿病内科に入院し、改めて糖尿病についての知識を身につけることになった。
治療の経過
入院中は、糖尿病の基礎知識をはじめ、運動・食事療法などについても詳しく説明を受けた。以前糖尿病と診断された際にも同じような説明を聞いたはずなのだが、忘れてしまっていることも多かった。糖尿病では、血糖値を下げる効果のあるインスリンというホルモンがうまく出せなくなったことが原因で血糖値が下がりにくくなっているが、インスリン治療でそのホルモンを補うことで、血糖値を下げることができるとのこと。
最初は自分の皮膚に針を刺すのが怖かったが、看護師のサポートを受け、一人でもすばやく注射を打てるようになった。
退院後も毎日自分でインスリンを注射しており、食事はタンパク質を取りすぎないように、肉類を避けている。
定期的に眼科と内科を受診しているが、糖尿病網膜症については、これ以上の悪化するのを防ぐため、病気により変化した網膜の部位をレーザー光で凝固させる治療を行った。
今はゆくゆく人工透析を受けることも覚悟しながら、インスリン治療や食事制限を続けている。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。