心房細動からの脳梗塞。血栓溶解療法で劇的に改善
最終更新日:2018.5.28
患者プロフィール
60歳の男性。会社員をしており、妻と2人で暮らしている。受診までの経緯
朝6:00ごろ起床し、トイレに行こうと歩き出したところで足に力が入らなくなり、その場に倒れこんでしまった。同じ部屋にいた妻が気付いて呼びかけても、言葉にならない声を発するばかりで意識が混濁しているようだった。
どうやら自分で手足を動かせないようだったので、妻が慌てて119番。近隣の総合病院に救急搬送された。
診察・検査
意識障害があり、両手足には力が入らないようだった。血糖値には異常はなし。心電図検査を行ったところ、心房細動という不整脈を認めた。心房細動を起こすと心臓の拍動のリズムが速く不規則になり、心房の中を流れる血液のスピードが低下。心房の中で血液が固まり、血栓ができやすい状態になる。
脳卒中が強く疑われるということで、脳のCT(コンピューター断層撮影装置)検査、MRI(磁気共鳴画像装置)検査、脳の血管を立体的に映し出すMRA(磁気共鳴血管造影)検査が行われた。
診断・治療方針
CT検査とMRI検査では、明らかな異常は見られなかった。しかし、MRA検査を行ったところ、脳幹に栄養を与えている脳底動脈という血管が詰まってしまっており、意識障害や両手足の麻痺(まひ)といった症状ともつじつまが合うので、脳底動脈閉塞(へいそく)による脳梗塞と診断された。医師によると、「発症間もない脳梗塞は、MRIでも異常を認めないことがある」とのこと。
今回は心房細動で心臓内に血栓ができ、これが剥がれて血流に乗り、脳底動脈に詰まったという発症経緯が最も疑われる、と妻に対して説明があった。
治療方針としては、発症から診断までに約1時間が経過しているが、今ならまだ血栓溶解療法(血栓を溶かす薬を使った治療)を行うことができると診断され、t-PA静注療法(経静脈的血栓溶解療法)が行われた。
治療の経過
t-PA静注療法を行ったあと、しばらくすると症状は劇的に改善。手足を動かせるようになり、言葉を発することもできるようになった。治療開始から数時間後のMRA検査では、脳底動脈の詰まりは解消され、再開通していた。
その後、心房細動による血栓再発予防のため、抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)の内服治療が開始され、目立った後遺症もなく約2週間で退院することができた。
医師から「毎日忘れずに薬を飲むことが重要です」と言われており、退院したあとも忘れず薬を飲み、定期的な通院を続けている。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。
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