ネット情報を信じピロリ菌を放置。5年後胃がんに
最終更新日:2019.5.15
患者プロフィール
56歳の男性。郊外で野菜の栽培農家を営んでいる。5年前、胃に痛みがあり、近所のクリニックで胃カメラ検査を受けた。胃炎との診断で、ピロリ菌が陽性だったため、医師からは除菌を勧められた。
しかし、ネット上には「ピロリ菌の除菌を行うと食道がんになる」という情報があり、その後症状も自然によくなったため、除菌は行わず放置している。
受診までの経緯
特に気になる症状はなかったが、母親が胃がんで亡くなったことをきっかけに、家族から胃がん検診を受けるよう勧められたため病院を受診した。診察・検査
検診では胃バリウム検査か胃カメラ検査かを選べるようになっていた。5年前の検査もそれほどつらくなかったので、近くのクリニックで胃カメラ検査を受けることにした。内視鏡を入れてみると胃の粘膜に異常が見られたため、その部分の組織を採取し、生検を行うことになった。生検の結果は1週間後に出るということで、後日再受診することになった。
診断・治療方針
診断は早期の胃がんであった。医師によると、開腹手術をせずに内視鏡を使って治療できるとのこと。総合病院を紹介受診する運びとなった。クリニックの医師からは、胃がんの原因はほとんどがピロリ菌であり、幼少期に飲んだ井戸水や、親からの口移しなどにより感染すると説明を受けた。
医師に「ピロリ菌の除菌によって食道がんになるのでは」と聞くと、日本人で除菌により食道がんは増えたというデータはないという。それよりも、ピロリ菌による胃がんのリスクのほうが高いので、除菌による胃がんの予防はデメリットよりもメリットのほうが大きいと言われているのだと説明があった。また、除菌により胃がんの再発が抑制されるので、治療が終わったらピロリ菌の除菌をしたほうがよいとのことだった。
後日、紹介状を持って総合病院を受診。入院し、内視鏡による治療を行うことになった。
治療の経過
入院し、内視鏡的粘膜下層切除術(ESD)という治療を受けた。手術は胃カメラ検査と同じように口から内視鏡を入れる方法で、1時間ほどで終了。開腹手術ではないため術後の痛みも軽く、入院期間も1週間で済んだ。
退院から2週間後、病理検査の結果を聞くために外来を受診した。がんはすべて取りきれており、血管やリンパ管への浸潤もなく、ステージIAの状態と考えられるとのこと。
その後、1週間をかけて飲み薬によるピロリ菌の除菌治療を行った。医師によれば、1回目の除菌が失敗することもあるそうで、その場合は違う薬で2回目の除菌を行うことになるのだと言う。まれに2回とも除菌に失敗し、3次除菌へ進む人もいるそうだ。
幸い自分は1回目の治療で除菌に成功。治療もこれで完了だが、除菌をしても今後の胃がんリスクはゼロにはならないので、定期的に検査を受ける必要があると言われた。今後は6カ月に1回は外来を受診して、経過観察を続けていくことになった。
現在は畑仕事にも復帰し、以前とまったく変わらない生活を送ることができている。
今回のことで、たとえがんと診断されたとしても、早期に治療すれば元の暮らしに戻れるのだということがわかった。これからはほかのがん検診も受けて、家族のためにも長生きしなくては、と思っている。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。
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