激務と荒れた食生活。糖尿病で視力・腎機能が低下
最終更新日:2018.5.28
患者プロフィール
33歳の男性。システムエンジニアとして平日は終電近くまで働き、多忙な日々を送っている。食生活は不規則で、職場でコンビニのお弁当を食べて済ませてしまうことが多く、日によっては深夜に食べることもある。視力はもともとよくはないが、コンタクトレンズを装着すれば、生活に支障はない。
23歳のとき、就職前の健康診断で尿に糖が出ていると言われたことがあるが、「糖尿病は太った人がなる病気であり、自分は関係ない」と思っていた。自覚症状もないため、病院に行かずに放置していた。なお、父親は糖尿病で治療中である。
受診までの経緯
半年前から目が見えにくい気がしていた。仕事のせいで目が疲れているのだろうと思い、アイマスクをしたり市販の目薬をさしたりして対処していたが、なかなか改善しない。視力が下がったのかもしれないと思い、コンタクトの度数を変えようと眼科を受診した。診察・検査
眼底検査を行ったところ、眼底に異常があると言われたため、血圧検査と血液検査、そして尿検査を行った。血圧は176/92mmHgで、高血圧と言われた。血液検査と尿検査の結果が出るまで、血圧を下げる薬と目の疲れをほぐす目薬で様子を見て、1週間後に再度受診することになった。
診断・治療方針
検査の結果、空腹時の血糖値は176mg/dLと高く、直近1カ月間の血糖値が高かったかどうかを表すHbA1cという数値も8.5%と高かった。尿検査では尿糖が3+だった。空腹時血糖もHbA1cも高いことから、糖尿病と診断された。
目が見えにくくなったことも糖尿病網膜症によるものと診断された。糖尿病網膜症とは、糖尿病患者の目の血管が、過剰な糖分にさらされて弱くなり、目が見えにくくなる病気である。
腎臓の機能を調べるクレアチニンも1.8mg/dLと高く、高いほど腎機能が低下しているのだという。尿検査では尿タンパク4+という結果であったが、腎臓が悪いと老廃物とそれ以外を取捨選択できなくなり、尿タンパクが陽性になるのだという。
糖尿病性腎症という、糖尿病によって腎臓の血管が糖分にさらされて弱くなり、腎臓の機能が悪くなる病気が疑われるということで、紹介状を書いてもらい腎臓内科も受診した。
後日、腎臓内科では糖尿病性腎症の3期と診断された。悪くなると人工透析が必要になり、1回4時間、週に3回病院に通わないといけないのだという。
さらに、透析を始めてからの5年生存率は約50%と聞き、少しでも透析を始めるのを遅くするために、糖尿病の治療を頑張ることにした。
糖尿病網膜症を発症した場合、運動によって悪化することがあるそうなのだが、食事療法は有効だと言われたので、食事療法を始めることにした。
血圧が高いため塩分制限を行い、腎臓の負担を軽減するためにタンパク質も制限しなければならない。食事の量がどの程度か把握するためにも「教育入院」という形で入院し、1週間病院食を食べることにした。
また、糖尿病がこれ以上悪くならないように、血糖値を下げる効果のあるインスリン治療も始めた。糖尿病は、胃の近くにある膵(すい)臓という臓器からインスリンが出にくくなり、血糖値を下げることができなくなる病気だが、インスリン治療で足りないインスリンを補うことで、血糖値が高くなりすぎないように調節できるのだという。
退院後に使うインスリンの量を決めるために、入院中に少しずつ量を調整してもらうことになった。急に血糖が下がると糖尿病網膜症が悪化する危険性があるため、少量から始めるそうだ。また、インスリン治療は毎日行う必要があるため、退院後は自分で注射する必要があるという。
入院中に注射する薬剤の量を調節する方法や、打ち方、打つ場所などを教えてもらい、インスリンの量も定まったので退院となった。また、腎臓の機能低下を食い止めるために、降圧薬の内服も始まった。
治療の経過
退院後は職場にもインスリンの注射を持っていき、毎食後トイレで注射をしている。また、食事にも気を付けるようになり、仕事が忙しくても3食規則正しく食べ、塩分が多くならないように昼食は自作のお弁当を持参している。仕事については、会社に診断書を提出し、産業医とも相談しながら生活リズムを保(たも)てる程度に減らしてもらった。
糖尿病内科の病院に定期的に通い、血液検査や尿検査を受けている。腎臓が悪くなると、むくみや体重増加がみられることがあると言われたので、毎日体重も量っている。
今のところは、日々の心がけと治療によりなんとか糖尿病の悪化を防げており、血圧も安定し、むくみも出ていない。もちろん、透析になってしまうかもという恐怖はあるが、仕事も日常生活も充実しており、少しでも今の生活を保つことができるように治療を続けていこうと思う。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。