便秘で気付いた大腸がん。肝臓にも転移していた
最終更新日:2019.5.16
患者プロフィール
52歳の男性。妻と息子、娘との4人で暮らしている。仕事は自動車メーカーの営業職。仕事上、外食が多く、脂っこいものを好んで食べてしまう。ストレス発散のため毎日の晩酌は欠かさず、日本酒1日5合ほど飲んでいる。
30年の飲酒歴があるが、これまで大きな病気をしたことはなかった。
受診までの経緯
8カ月前から便秘がちとなり、最近はおなかが全体的に張って、苦しくなってきた。市販の便秘薬などを試してみたが、一向に改善されない。近所の医院を受診したところ、右の肋骨(ろっこつ)の下にある肝臓が、通常よりも大きくなっていると言われた。
腹部の超音波(エコー)検査で肝臓に腫瘍を疑われ、大学病院を紹介受診することになった。
診察・検査
血液検査では肝臓内を流れる胆汁の滞り具合を示すALP(GPT)、γ-GTPの値が高くなっていた。肝臓、心臓、血液などに異常があるときに高くなり、これらの臓器の組織障害を示すLDも基準値を上回っていた。肝臓に腫瘍が疑われるためCT検査を受けると、大腸のS状結腸という部分の壁が厚くなっており、肝臓にも腫瘍が確認できた。また、腕の血管から造影剤を入れて腹部のCTを撮影したところ、肝臓に大小さまざまな黒い影が多数散在してみられ、その周りは白く染まっていた。
大腸カメラ検査では、S状結腸内に中央がくぼんでいて、周囲が盛り上がっている病変が見つかった。悪性の可能性が高いということで、内視鏡で組織を採取して詳しく調べることになった。
診断・治療方針
診察と検査から、大腸がん(S状結腸がん)肝転移と診断された。これは、大腸に発生したがんが肝臓に転移しているということであり、他臓器への転移があればステージIVとなる。
大腸がんの肝転移では、可能であれば手術で肝臓の一部を切除することが推奨されている。だが、がんが多発しているため、現時点では肝臓の切除は難しく、今回の治療方針としては、抗がん剤による化学療法(FOLFOX療法、FOLFIRI療法など)に、ベバシズマブやセツキシマブといった分子標的薬を組み合わせることを提案された。
近年の治療では、がん細胞だけをピンポイントで狙って作用する分子標的薬の有効性も示されてきており、従来の抗がん剤とは副作用のパターンが異なることが多い とのことだった。
治療に先立って、S状結腸にあるがんの組織を用いて遺伝子検査が行われた。
「KRAS」や「NRAS」という遺伝子に変異があると、セツキシマブやパニツムマブといった「抗EGFR抗体薬」と呼ばれる分子標的薬を使っても治療効果を期待できないので、治療の前にこれらの薬を使えるかどうか調べるのだという。
検査の結果、遺伝子に変異があったため、ベバシズマブという分子標的薬を使用することになった。
治療の経過
抗がん剤はFOLFOX療法(フルオロウラシル、l-ロイコボリン、オキサリプラチンを同時使用する)を、分子標的薬はベバシズマブを 採用し、2週間ごとに4回点滴を行った。投与中には吐き気など抗がん剤特有の副作用なども見られたが、副作用を抑える飲み薬を併用して乗り切った。
化学療法終了後のCT検査では、肝臓にあったがんは縮小していた。また、大腸カメラでもS状結腸にあったがんが縮小しており、医師からは「治療効果が得られた」と説明された。
さらに4コースの追加治療を行った結果、肝臓の転移性がんはさらに縮小し、S状結腸のがんもほとんど肉眼的には判別できなくなった。
薬物療法だけでがんを治療することは難しいため、抗がん剤でがんを縮小できた肝臓の部分切除とS状結腸のがんの切除を計画することになった。肝臓には再生能力があるため、正常な肝臓を30~40%程度残せれば、数週間で再生し、ほぼ元の大きさに戻るのだという。
薬物療法から手術までには4~6週程度は空けなければならないということで、2カ月後、手術のために再入院した。
転移した箇所は取り除くことができ、S状結腸も無事切除ができた。術後経過は良好で、9日後に退院となった。
術後の補助化学療法を行うことになり、FOLFOX療法を4コース追加で受けた。
その後は再発もなく1年経過しているが、今後も定期的に検査していく予定である。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。
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