1型糖尿病。糖尿病ケトアシドーシスで意識障害に
カルテ
- 症状
最終更新日:2018.11.20
患者プロフィール
19歳の女性。両親と3人暮らしの大学生。身長161cm、体重45kgの細身な体型である。吹奏楽のサークルでトランペットを吹いている。
もともと細いほうだったが、2カ月前からさらにやせて、現在の体重は40kg。
サークルの頑張りすぎではないかと家族に心配されてしまったので、スタミナをつけるためにも最近は食事の量を増やしている。
1年前の健康診断で異常はなかったが、2週間前の健康診断の結果は空腹時血糖256mg/dLであった。
健康診断で異常があると言われたのは初めてなので、近いうちに病院に行かなくてはと思っていた。
受診までの経緯
ある朝、母親はいつものように朝ごはんの支度をしていたが、通学の時間になっても娘が起きてこない。部屋に行って起こそうとしたが、声をかけて揺さぶってぼやっと目を開ける程度で、明らかにいつもと様子が違う。
車で病院に連れて行こうと思ったが、娘を背負って階段を下りられないと思い、救急車を呼んだ。
診察・検査
救急車内で救命救急士が意識レベル・呼吸数・心電図・血圧・血糖値を測定した。意識レベルは大声で呼びかければ目を開ける程度で、話しかけてもまともな受け答えは返ってこない。
呼吸数は毎分22回で息が荒い。
心電図は問題なく、血圧も122/88mmgで問題なかったが、血糖値は832mg/dL(正常値は空腹時で70~109mg/dL)と極めて高かった。
診断・治療方針
病院に着いてから血液検査と尿検査を行ったところ、どちらの検査でもケトン体が認められた。pH値が下がっており、血液が酸性に傾いていた。
2週間前の健康診断で高血糖だったことも踏まえて、糖尿病ケトアシドーシスと診断された。
糖尿病ケトアシドーシスとは、糖尿病が原因で血液が酸性になり、意識障害などを生じる病気である。
糖尿病によりインスリンが不足し、ブドウ糖をうまくエネルギーとして使えなくなった結果、体は代わりに脂肪を燃焼してエネルギーを得ようとする。
そのときにケトン体という酸性の物質が産生されるが、これが体内に蓄積すると血液が酸性になり、脳がダメージを受けて意識障害などが起こるのだという。
母親が医師に「19歳という若さでも糖尿病になるのですか?」と聞くと、「娘さんはおそらく1型糖尿病です。血糖値を下げるホルモンであるインスリンを出す細胞が破壊されてしまうタイプで、これは年齢に関係なく発症します」とのことだった。
治療方針については、まずは脱水症状に対して輸液を行い、高血糖にはインスリンの投与治療を行うことになった。
治療の経過
集中治療室(ICU)に入室し、1時間に1回血液検査を行いながら治療を続けたところ、6時間後に目を覚ました。症状が落ち着いてからは糖尿病内科の病棟に移り、1型糖尿病の検査入院となった。
血液検査の結果、やはり診断は1型糖尿病。インスリン治療を始めることとなった。
現状、自分でインスリンを出せなくなっている状態だが、注射によりそれを補うことで、血糖値が上がりすぎたり、ケトン体がたまったりするのを防げるという。インスリン治療は毎日自分で注射しないといけないということだが、注射の方法を教えてもらい、退院後も自分で打つことになった。
インスリン治療を行っているときは、インスリンが効きすぎて血糖が下がり、低血糖症状が出てくることもあるという。
低血糖のときは、心臓が「ドクドク」とする、汗が異常に出る、手が震える、顔色が青白くなるなどの症状があるそうだ。そういったときのために、いつもブドウ糖のあめをカバンに入れている。
治療後、激しい運動は避けたほうがいいと言われていたが、医師に「トランペットを吹いてもいいですか」と確認したら「問題ない」とのことで、サークル活動にも復帰した。もちろん、合奏中もブドウ糖のあめを常備している。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。
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