手足に紫色の斑点。歯ぐきからの出血も止まらない
最終更新日:2018.5.28
患者プロフィール
24歳女性。家族と4人暮らし。会社員。入社2年目となって後輩もでき、成果を求められるようになった。仕事は忙しくなり、ストレスを感じることも増えてきた。受診までの経緯
3日前に、手や足の皮膚に紫色の小さなあざが複数あることに気づいた。昨日からは歯ぐきからの出血が止まらず、心配になって受診した。診察・検査
体温は37.5度。両方の腕と足のすねあたりに、点状の出血と直径1cmの紫斑(しはん)が散在している。まぶたの裏側は白く、貧血の症状がみられる。口の中をみてみると、歯ぐきからの出血は続いており、頬の粘膜からも点状の出血がみられた。血液検査では、貧血に加えて、白血球の減少(白血球数5600)、血小板の減少(血小板数1万2000)が確認できた。また、フィブリノゲン120mg/dL(基準値は200~400 mg/dL)、血清FDP 34μg/mL(基準値は10μg/mL以下)となっており、血を固める成分が使われ過ぎてしまい、生産が追い付いてない状況であることがわかった。
「何か血液の病気が隠れているかもしれない」ということで、すぐに大きな病院の血液内科を紹介された。
不安に思いながら血液内科を受診。診察のあと、「骨髄検査」という検査を受けることになった。これは腰のあたりの骨に針を刺し、血液を作っている「骨髄(こつずい)」から骨髄液を抜いて、どのような血球が作られているか調べる検査なのだという。針を刺す際には事前に麻酔をするので、途中痛むことがあったら遠慮なく言ってほしいと言われた。
まずはうつぶせになり、そのあと麻酔をしてもらった。麻酔の間は多少の痛みがあったが徐々に効いてきて、実際に検査用の針を進めるときの痛みはほとんどなかった。しかし、骨髄液を抜く瞬間の痛みは麻酔ではとれないらしく、やはり引っ張られるような痛みがあった。検査のあとは針を刺した部分からの出血を抑えるために自分の体重を使って止血を行うのだそうで、あおむけになって1時間ほど寝ているように言われた。
診断・治療方針
採取した骨髄液について、安静にしている間に早速顕微鏡での確認が行われた。その結果、白血病細胞というがん化した成長過程の白血球が確認された。さらに、その白血病細胞に「アズール顆粒(かりゅう)」という物質がみられたため、急性骨髄性白血病のなかでも「急性前骨髄性白血病」が疑われるということであった。ただし、確定診断をするには特徴的な遺伝子異常や染色体異常の確認が必要であり、それには1週間近くかかってしまうということであった。
急性前骨髄性白血病では、血液の凝固成分がなくなるため、ほかの白血病と比べて非常に出血しやすい特徴があると説明を受けた。その点でも、この病気を強く疑うということであったが、このまま放っておくとどんどん病気が進行してしまう可能性があり、診断がつくまで治療を待っているわけにはいかない病状であるという。そのため、確定診断を待たずに、すぐに治療を開始することになった。
この病気には、白血球を分化・成熟させて死滅させる「分化誘導薬」が有効であり、点滴の抗がん剤とあわせて治療を開始した。また、血液の凝固成分の不足がさらに進んだ場合には、不足した成分を補充するために血液製剤を使用することもあると言われた。
治療の経過
幸いにも治療を開始したあとの反応は良好であり、1カ月ほどたったころ行った骨髄検査でも、白血病細胞をコントロールできている「寛解」という状態まで回復しており、治療効果が確認できたということだった。医師からは、今まで行っていた治療を「寛解導入療法」と呼び、これからは再発を防ぐための「地固め療法」を行うと説明を受けた。まだあと計3回も抗がん剤治療をやらなければならないと聞いてあぜんとしたが、治療の合間には1週間ほど退院することができた。
治療を開始して4カ月ほどで「寛解導入療法」と「地固め療法」を終えることができた。医師からは遺伝子レベルでも白血病細胞は認められていないという説明を受けたが、この病気は再発するリスクが高い病気ということで、引き続き外来で「維持療法」という治療を続けることになった。今後は再発していないかを確認しながら通院で治療を続けていくことになった。
突然大病を患い、仕事を長く休むことになってしまった。病気になったことに落ち込み、「これからどうなるのだろう」と毎日心配でたまらなかった。しかし、家族や友人、職場の同僚らが何度もお見舞いに来て励ましてくれたこともあり、だんだんと病気のことを受け入れることができるようになってきた。
現在は「寛解」という症状が落ち着いた状態まで進むことができ、ようやく今後の生活が見えてきた。まだまだ社会人になって2年、闘病中に支えてくれた周りの人たちに感謝しながら、仕事も趣味も楽しく頑張っていきたいと前向きに考えている。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。
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