卵巣がん?と思いきや、胃がんから転移していた
最終更新日:2018.5.28
患者プロフィール
32歳女性。初経は13歳。生理も28日周期で安定しており、経血の量も普通である。3人の子どもがいる。現在妊娠している可能性はない。体重は普通の範囲内。
受診までの経緯
3カ月前から、おなかの下の方が張っているような感じがあった。また、この3カ月で体重が1kgほど増えている。食欲に変化があったわけでも、お通じがないわけでもない。原因が思い当たらないものの、徐々にその程度がひどくなっているので、近所の婦人科を訪れた。
診察・検査
脈拍は正常、血圧は正常高値。診察したところ、心臓や肺に異常はなかった。リンパ節の腫れもなかったが、股(また)にある恥骨のやや上を押すと、かたまりがあると言われた。
婦人科の病気の可能性を考えて、内診(膣(ちつ)の内部からの診察)も行った。子宮については、大きさにも固さにも異常はなかった。しかし、卵巣に拳(こぶし)ほどのかたまりがあり、腹部に水がたまっていると言う。
血液検査をしたところ、やや貧血気味で、血液中のタンパクが少なくなっていた。栄養が足りていないときや肝臓、腎臓が悪いときに起こるようだが、肝臓や腎臓の障害を表す数値は高くない。ほかにも、がんがあるときに高くなる「腫瘍マーカー」という物質が2種類見つかったと言われた。CEA 6.0ng/dL、CA125 70IUというのがそれにあたると説明を受けた。
卵巣にあるかたまりは、漿(しょう)液性腺がん、もしくは他の内臓にできたがんが転移してきた可能性などが考えられ、まだどれか決まらないと言う。がんでなくても、これらの数値が高くなってしまうことがあるようで、詳しい検査が必要とのこと。
CT検査を行うことになった。
診断・治療方針
CTの検査結果から、手術をすることになった。手術でおなかを開けてみれば、がんであるかどうか、がんであればその種類が何か分かるということだった。がんの場合には、両側の卵巣、卵管、子宮と、大網という膜のような組織を切る予定だった。32歳で卵巣や子宮を摘出することになってしまった自分に、医師は配慮の言葉をかけてくれた。子どもは3人と決めていたので、「納得するしかない」と自分に言い聞かせるが、やはりやりきれない気持ちである。
「おなかを開けてみないと分からない部分もあります。状況によっては途中でやめになることもあるかもしれません。手術の終了時刻は、がんが広がって組織がくっついていると夜までかかる場合もありますし、もう少し早く終わるかもしれません。」と説明を受けた。
卵巣を切ってみると、卵巣にあるかたまりは、印環(いんかん)細胞がんという種類である可能性が高かった。正式には、病理検査結果(がん細胞を顕微鏡で見て行う検査)を待って治療するが、印環細胞がんの場合は、胃がんの転移の可能性が高いと説明された。
まだ手術の傷が痛む中、胃カメラ、甲状腺や乳腺の検査もすることになった。胃カメラで胃にがんがないかどうか調べたところ、がんが疑われるような部分があったので、胃の組織を少し削り取って検査をすることになった。
正式な病理検査の結果は、およそ3週間後に出た。結果は、やはり印環細胞がんだった。卵巣がんだと思っていたものは胃がんの転移で、ステージはIVという診断となった。
もともとは胃がんだったものが卵巣に出てきたものであり、体のどこかにも目に見えないがん細胞が潜んでいる可能性があると言う。手術で目に見える部分を切除しても、がん細胞はどこかに残ってしまうため、遠隔転移に対して手術は行わず、体全体に効果がある抗がん剤や放射線治療を行う方針となった。
治療の経過
手術を受ける前、もし卵巣がんだった場合にも、手術後には抗がん剤による治療を行うと言われていたが、実際は胃がんの遠隔転移だったため、結局、内科で抗がん剤治療を行うことになった。医師によると、抗がん剤を用いた化学療法で完全治癒を目指すことは困難だそうで、がんの進行に伴う症状が出るのを遅らせることと、生存期間の延長とが当面の治療目標となっている。最初は卵巣がんだと信じていたのに、胃がんで、しかもステージIVだなんて、考えてもみなかった。少しでも長く子どもたちの成長を見守っていられるよう、前向きに抗がん剤治療に取り組むつもりである。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。
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