QOL維持のため緩和ケア導入。最期は在宅医療で
最終更新日:2018.5.28
50代/男性
大腸がん
患者プロフィール
58歳の男性。家族と4人で暮らしている。高校の教師をしていて、サッカー部の顧問を務めており、休日もサッカーの練習や試合に顔を出している。受診までの経緯
1年ほど前から、便に血液が付着していることに気付いていた。気になってはいたが、仕事が忙しく、病院にいく時間もないため放置してしまった。ここ1カ月は何をしても体がだるい感じがして、体重も少し落ちてきた。家族の勧めもあり、病院を受診することにした。
診察・検査
貧血などの症状はない。腹部の右側を手で押すと肝臓を4cmほど触れることができ、肝臓が大きくなっている様子であった。血液検査を行ったところ、肝臓などの異常により上昇するALPという検査値が690 IU/L(通常260 IU/L以下)まで上昇していた。また、胃がんや大腸がんの時に上昇するCEAという検査値も32ng/dL(通常5ng/dL以下)と高くなっていた。
下部消化管内視鏡(大腸カメラ)検査を行ったところ、上行結腸に腫瘍が見つかったため、組織を採取して病理検査を行った。
胸のエックス線(レントゲン)撮影では肺に白い影があり、腹部のCT(コンピューター断層撮影装置)検査では肝臓に黒いかたまりが見つかったため、がんの転移が疑われる結果となった。
診断・治療方針
上行結腸がんという診断であった。さらに肺や肝臓にまでがんが転移していて、進行度分類でいうステージIV期にあるため、手術を行うことはできないとのこと。抗がん剤を数種類組み合わせた全身化学療法で、少しでも長く生きることを目指して治療を進めることになった。同時に、がんによる痛みや不安を軽減して生活の質(QOL)を保つために、緩和ケア療法を行う方針となった。治療計画としては、まず1週間ほど入院し、1回抗がん剤治療を行ったあと、外来で通院して治療を継続していくことになった。
治療の経過
全身化学療法は副作用も強く、脱毛、吐き気、下痢などの症状を伴うことが多い。髪が抜けることに関しては諦めがついたが、吐き気と下痢がひどく、吐き気止めや下痢止めを用いても改善しないため、一日中横になっていることもあった。それでも、残された時間で自分がどんなことができるか、家族や生徒たちに対して何を残せるかを考えながら、前向きに闘病生活を送った。緩和ケア療法では、病気に対しての不安や落ち込みに対して、心的ケアの専門医などが親身に話を聞いてくれた。また、痛みに関しては担当医や看護師がこまめに痛みの程度を確認してくれて、十分な量の痛み止めを処方してくれため、あまり気にならなかった。
抗がん剤治療は一時的には効果があり、がんが小さくなる。しかし、数カ月すると効果が薄れてがんが再度大きくなるため、薬剤を変えて治療を継続することの繰り返しであった。ステージIV期のがんと宣告されて3年が過ぎたころ、徐々に体力が衰え、食べてもすぐ吐いてしまうようになった。体重は、元気だったころと比べて15kgも減ってしまった。医師からは「治療にも関わらずがんは進行してきており、抗がん剤はこれ以上使用しても治療効果がない。費用や副作用の問題もあるため、これ以上の抗がん剤治療は勧められない。今後は緩和ケアを中心にした治療を行っていきましょう」と説明を受けた。
「最期は自宅で迎えたい」という思いから、在宅医療を受けることにした。在宅主治医を選ぶにあたっては現在の主治医に相談し、自宅近くで訪問診療を行っている診療所を紹介してもらった。そのほか、介護保険の申し込み、ケアマネージャー探しなどの手続きは、妻や子供たちがいつの間にか進めてくれていた。最期の1カ月は自宅で穏やかに過ごし、多臓器不全で亡くなった。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。