姉も「高コレステロール血症」。もしや遺伝では?
最終更新日:2018.5.28
患者プロフィール
32歳の男性。独身の一人暮らし。身長170cm、体重61kgで、中肉中背。大手企業に勤めており、営業成績は優秀。部下にも慕われており、仕事に意欲的に取り組んでいる。
忙しい毎日だが、父親を病気で亡くしたこともあり、健康・食事には人一倍気を使っている。
家事代行を雇っており、食事はバランスのよいものをとっているつもりである。
受診までの経緯
会社の健康診断を受けるたびに「悪玉コレステロール」とも呼ばれるLDLコレステロールの値が基準値を超えている。気になってはいるが「まだ若いし、揚げ物や肉を食べ過ぎているだけだよな」と自分に言い聞かせ、病院には行っていなかった。
しかし、最近実姉から「高コレステロール血症と診断された」と報告があり「もしかしたら家系なのかもしれない」と思い始めていた。
やはり詳しく調べてもらおうと思い直して、近くの内科を受診した。
診察・検査
医師に健康診断の結果を見せたところ、家族の中に大きな病気をしたことがある人はいないか、と聞かれた。大きな病気かは分からなかったが、姉が高コレステロール血症であることを伝えた。
さらに、詳しくは分からないが、小学生のときに父親が心筋梗塞で突然死していたことも思い出したので、伝えておいた。
医師によると、父親が若くして心筋梗塞で亡くなっていること、実姉にも脂質異常症があること、コレステロールの値以外は問題がないことから、やはり「遺伝性の病気の可能性もあります」と言われた。
また、医師に指摘されて気付いたが、右のまぶたの上に黄色っぽいしこりがあった。これはコレステロールのかたまりなのだという。
ほかにも、アキレス腱(けん)が腫れるというのも家族性の脂質異常症にはよくみられる所見らしいのだが、自分はまだそこまでの状態ではないようだ。
診断・治療方針
家族の病歴や身体診察、血液検査の結果を踏まえて、脂質異常症の中でも遺伝性の病気である「家族性高コレステロール血症」が疑われると診断された。さらに詳しい遺伝子検査などを受ければ確定診断ができるとのことだったが、専門病院まで行かないと調べられないことに加え、今のままでも治療は始められるとのことだった。
放置すれば動脈硬化が進行し、父親のように心筋梗塞で倒れたり、脳梗塞を発症したりする恐れもあるというので、治療を始めてもらうことにした。
治療には飲み薬を使う必要があるそうで、血液中の脂質濃度を下げる薬を処方された。
生活習慣を原因とする軽い脂質異常であれば、まずは薬を使わずに生活習慣の改善を試みることも多い。
しかし、家族性高コレステロール血症は遺伝的な疾患であり、薬での治療がほぼ必須となる。
だからといって生活習慣に気をつけなくてもよいというわけではなく、今までのように健康を意識した生活を続け、より低脂肪の食事を心掛けていくことになった。
治療の経過
脂質異常症に対する薬を1日1錠、毎日服用していたが、なかなかコレステロール値は下がらない。しかし治療を続けることで、脂質異常症が原因で起こってしまう動脈硬化や心臓病のリスクを減らせるので、いまでも薬の服用は続けており、定期的に病院を受診している。
あるとき医師に、「遺伝性の病気ということは、もし子どもができたら、その子も同じ病気になるのですか」と聞いてみたことがある。
医師は「遺伝子検査を受けないと確実なことは言えませんが……」と前置きした上で「おそらく確率は半々で、原因の遺伝子が受け継がれれば発症すると思われます」と説明してくれた。
どういうことなのかと聞いてみると、母親に脂質異常はなく、自分はどうやら軽症のケースのようなので、おそらく遺伝子一つに異常がある「ヘテロ接合体」。
そして40代という若さで心筋梗塞に倒れた父親は重症のケースで、遺伝子二つともに異常がある「ホモ接合体」だったのではないか、と言われた。
医師は「詳しいことは遺伝子検査をしてみないと分かりませんが、検査をするかどうかは慎重に検討してくださいね。ほかのご親族の遺伝情報が、思わぬ形で発覚することもありますから」と付け加えた。
もっと詳しい話を聞きたい場合には、遺伝カウンセラーと呼ばれる専門職の人がいるらしく、紹介してくれるそうだ。
今のところ予定はないが、結婚するときにはそのことも相手に話そう、などと考えつつ帰路についた。
※症例は特定の個人の実症例にもとづいたものではなく、医師の経験から起こりうる症例を作成しています。また、本症例作成時点での情報であり、現時点での標準治療や医療機関で行われている最新治療とは異なる場合があります。
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