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produced by市民・患者のための健康・医療コミュニケーション学会

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食べてすぐ寝転ぶ……こみ上げる胃液でのどが痛い

逆流性食道炎

50代

男性

2018.11.13

半年前から、週に2回ほど胸やけを自覚していた。特に食後は胸やけが強く、みぞおちのあたりが痛くなり、時に胃もたれのような感覚もあった。ここ数週間は食後に横になっていると、酸っぱくて苦みのある液体が胃の方から口の中にこみ上げてくるようになった。その液体のせいでのどがひりひりする。

食事の最中にひどくなる咳。胸やけや声のかすれも

逆流性食道炎

50代

男性

2018.11.13

2カ月前から咳(せき)が出はじめた。単なる風邪(かぜ)だと思っていたが、なかな治らないので、近所のクリニックを受診した

目のかすみは糖尿病網膜症。腎臓の機能も低下

糖尿病

60代〜

男性

2018.11.8

半年ほど前から足がむくみ、ゴルフシューズがきつくなった。 また、時々目がかすんでよく見えないことがあるため、近所の眼科を受診した。

なぜか1カ月で3kg減。糖尿病の引き金は風邪?

糖尿病

20代

女性

2018.11.6

数日前に風邪をひき、おなかを壊してしまった。腹痛に加え、喉(のど)が渇く感じもある。何を食べても吐いてしまうため、病院を受診した。

降圧薬で治療中。家庭血圧で「早朝高血圧」と判明

高血圧

40代

男性

2018.11.1

娘に血圧計をプレゼントされたことをきっかけに自宅での測定を始めた。すると、外来ではずっと130/80mHg前後だった血圧が、家で起床後に測定してみると162/96mmHg前後になっていた。

飲みすぎた翌日、膝や足の指に激痛。尿酸値は9.2

痛風

50代

男性

2018.10.30

漁師仲間が勇退する日、久しぶりに大きな宴会が催された。 節酒するつもりだったのだが、翌日が休みだったこともあり、ついつい飲みすぎてしまった。帰宅して気分よく寝ていたが、朝方に左膝と両足の親指の激痛で目が覚めた。

脂質異常、高血圧に糖尿病も発覚。食事療法で改善

脂質異常症

50代

女性

2018.10.25

子育ても一区切りついて、家でのんびりとする時間がとれるようになったこともあり、運動量は減る一方、間食の回数は増えていた。たまたま行った健康診断で脂質異常症であるといわれ、心配になって近くの内科を受診した。

息が吐きにくく、血痰が出る。タバコは1日30本

肺がん

60代〜

男性

2018.10.15

1カ月前から息が吐きにくくなった感じがしており、血の混じった痰(たん)が出るようになった。すぐに治まるだろうと思い放置していたが、1カ月たっても治る気配がなく、不安になって来院した。

寝ても覚めても指が痛い! 座薬の鎮痛剤で対処

痛風

40代

男性

2018.10.18

一昨日は21時頃に退社し、同僚と飲んで帰った。昨日の朝、目を覚ますと右の親指がズキズキと痛い。床に足をつくのもやっとというほどのひどい痛みだったが、どうしても片付けなければならない仕事があり、休むわけにはいかなかった。いつもは徒歩通勤だが今日は歩けそうになく、タクシーで会社へ向かった。

積極治療は受けないと決意。最期は家族と自宅で

胃がん

60代〜

女性

2018.10.16

6カ月前に肺転移を伴う高度進行胃がんの診断を受けたが、自宅療養を続けている。2週間ほど前から全身がだるく食欲が落ちてきて病院を受診した。

人気記事

原因は「カチカチの血管」だった? 高血圧のQ&A

病気に対する疑問や不安に、横浜市立大学大学院医学研究科 循環制御医学 主任教授の石川義弘先生が答えてくれる「教えて! 石川先生」。第1回の病気は、「高血圧」です。高血圧を放置すると、心臓や血管などのさまざまな臓器に影響を及ぼすことも。しかし、正しい服薬・食生活の改善・定期的な運動・ストレスの軽減などを心がけ、きちんとコントロールすれば、決して怖い病気ではありません。コラム:昔の人に高血圧の人はいなかった!? 高血圧は、生活習慣病のひとつです。その原因について思いをめぐらせると、おそらく昔は高血圧の人は今よりも少なかったはずです。例えば、運動不足。江戸時代には、タクシーもなければバスも地下鉄もありませんでしたから、人びとは毎日10キロ、20キロいう距離を歩いていたはずです。ですから運動不足とは無縁でした。しかし、平成に暮らす私たちが、毎日10キロ歩くのは容易なことではありません。1日中パソコンの前に座っていて、数百メートルしか歩かないということも少なくないはずです。人間の祖先と言われるクロマニョン人やネアンデルタール人の時代には、いったい1日何キロ歩いていたのでしょうね。おなかがすいたら木の実をとるために山の中を歩き回り、肉を食べようと思ったら狩りに出掛け、まずはマンモスを探すところからです。しかし今は、スーパーマーケットに出掛ければ、いろいろな種類の肉が並んでいます。運動しなくても、食べたいときにいつでも肉が食べられるわけです。最近は、カップラーメンやインスタント食品も手軽に食べられるようになりました。しかしこれらが出現してからまだ数十年です。この先、50年、100年とこれらの食品を食べ続けたとき人間の血圧がどうなるのかは、現時点ではまだわかりません。高血圧 Q&A最高、最低がどのくらいになると、高血圧というのですか?日本高血圧学会では、最高血圧(収縮期血圧)140mmHg以上、最低血圧(拡張期血圧)90mmHg以上を高血圧と定義しています。一般的には、最高が120mmHg、最低が80mmHgを正常な血圧としています。どのようにこの基準が設定されたのでしょうか?これらの基準は、統計結果をもとに設定されています。過去に何万、何十万というたくさんの人の血圧を測り、5年、10年たったとき、「どのくらいの血圧の人」が「病気や合併症を起こしにくいか」を調べたのです。しかし極論すれば、一人ひとりの年齢・性別から生活環境・遺伝子まで、何もかもが違うわけですから、同じ140/90mmHgという値であっても、その人にとっては非常に高かったりするかもしれません。また、将来はこの基準も変わるかもしれません。年をとると血圧が高くなると言われています。年齢と共に血圧が高くなるのは、生理的な加齢現象です。血圧の上昇は、ある意味とても物理的な現象です。年齢と共に血圧が上がるのは、血管が硬くなるからです。ゴムホースを血管、流れる水を血液、ポンプを心臓と仮定します。ゴムホース(血管)が柔らかいうちは、多少ポンプ(心臓)を強く押しても、ゴムホース(血管)は柔軟に広がりますから、血圧がそれほど上がりません。しかし、ゴムホース(血管)は、加齢と共にだんだん硬くなって伸展性がなくなりますから、ポンプ(心臓)を強く押すと、血圧も高くなってしまいます。カチカチに硬くなったホース(血管)に強い力をかけると裂けてしまうこともあります。若いときに血圧が正常だった人でも、年をとれば血圧が高くなる可能性が十分にあるということです。さらに血圧は、物理の法則であるオームの法則*によって規定されます。物理学では、抵抗と電流が大きければ、電圧は上がります。血圧でも、血流量が少なければ血管が縮み、逆に多ければ血圧が上がります。これを調整するのが降圧剤です。*V(電圧)=Ω(抵抗)×R(電流):電圧は、電流が大きくなるほど大きくなり、抵抗が大きくなるほど大きくなる日や時間によって、血圧が高かったり、低かったりすることがあります。140/90mmHgという高血圧の基準は、安静状態で測った値です。ですから、ある時間だけ最高血圧が160mmHg だったからといって、慌てることはありません。私も普段は血圧が低いのですが、運動後に測ると最高血圧が160mmHgを超えることは珍しくありません。緊張したり、ストレスがかかったりしたときにも、血圧は上がります。生きている限り、血圧は上がったり下がったりするものなのです。しかし、1日中ずっと高いとなると、ゴムホース(血管)の中に常にたくさんの水(血液)が流れて、ホースがパンパンになっている状態と同じですから、ゴムホース(血管)が劣化したり、破れたりしてしまう可能性があります。血圧を測るのに最適な時間はありますか?個人差はありますが、血圧というのは寝ているときに低く、目が覚めて起きると高くなるのが一般的です。しかし、寝ているときが高くて、起きているときのほうが低いという人もまれにいます。また、日中の血圧は、活動量に応じて上がったり下がったりします。ですから、24時間血圧計を付けて1日の血圧を測れればよいのですが、実際には難しい。そこで患者さんには「起床時と就寝時の2回、血圧を測ってください」と申し上げています。朝起きて血圧を測るときは、まず膀胱(ぼうこう)を空にして緊張をとり、ベッドの上などにしばらく座って、落ち着いてから測るといいでしょう。大事なことは、血圧を測る時間と条件を、毎日同じにすることです。高血圧の治療 Q&A薬を飲まずに、血圧を下げる方法はありますか?血管は、縮まった状態が続くと硬くなって、血圧が高くなります。つまり、血管がしなやかになれば、血圧を下げることができるというわけです。血管には、自らの拡張・収縮を制御する能力があります。人間が運動すると、筋肉にはたくさんの酸素が必要になって、血管は自ら広がります。つまり、人間が定期的に運動すれば、血管も定期的に自らを広げる練習をすることになります。そして、血管を広げるときには、私たちが血圧を下げるために飲んでいるどの薬よりも優秀で、性能のよいホルモンのような物質を出していることがわかっています。運動することで、何よりも効き目のあるお薬が、自分の体内で、それもただで作れますからね。これ以上安上がりな治療方法はないと思います。しかし、ものすごく血圧が高い人がいきなり運動を始めるのは危険ですから、その場合はまずは降圧剤を飲んで、ある程度まで血圧を下げてから運動することをお勧めします。そこから薬を減らしていくことはよくあります。血圧を下げるためには、どのような運動をすればよいのでしょうか?私の言う運動は、普段の生活のなかで可能な、散歩やウォーキング、ストレッチなどです。患者さんにはよく「できる限りの運動をしてください」と申し上げています。「運動をしなさい」と指摘されたからといって、オリンピック選手のようなハードな運動を始める必要はありません。徐々に体を慣らしていって、疲れすぎない程度の運動量を見つければいいと思います。よく「1万歩歩きましょう」と言われますが、決してすべての人に共通するものではありません。ちなみに、力むような運動ではなくて、適度に「ハーハー」と息をする有酸素運動をお勧めします。塩分の摂取を減らしても血圧が下がらない人がいるそうですね。高血圧に関係する遺伝子は、おそらく何十種類も何百種類もあり、そのなかには塩分が血圧に影響するかどうかについての遺伝子があるでしょう。その遺伝子を持っている人もいれば、持っていない人もいるでしょうから、塩を制限することによって血圧が下がる人もいれば、あまり下がらない人もいる、ということになります。しかし「血圧を下げたいなら塩分を控えなさい」と言われます遺伝子の話はさておき、それが患者さんにできる簡単な治療法だからです。例えば、漬物の味を見ないで最初からしょうゆをかける人なら、しょうゆをかけるのを止めるだけで、けっこう塩分を控えることができます。「漬物を食べない」は難しいけれど、しょうゆをかけるのを我慢することならできませんか?「しょうゆを絶対使ってはいけない」「みそ汁を飲むな」とい言われたらつらいかもしれませんが、減塩しょうゆや減塩みそに変えることなら、少し努力すれば、できる範囲なのではないでしょうか?コラム:敵に塩を送る給料をさす「サラリー」の語源は「ソルト」。実は、塩のことなのです。古代ローマでは、給料替わりに当時貴重だった塩を配っていたからだそうです。今の日本人の塩分摂取量は1日10gと言われていますが、古代ローマ人が1日に摂取する塩の量はせいぜい1日3~4g。これは量にして、われわれの半分以下です。おそらく、古代ローマ人は塩分のとりすぎで高血圧になりたくても、それだけの塩を手に入れることはできなかったと考えられます。日本の戦国時代には、「敵に塩を送る」という故事の語源となった、上杉謙信の塩送りという逸話が残っています。今川家により塩を止められた武田信玄の窮状を見かねて、上杉謙信が塩を送ったというものです。人びとの命を守るために、塩がいかに貴重だったのかを表す逸話です。また、昭和の終わり頃までは、塩は日本専売公社が販売していました。政府が管理すべき重要なものだったのですね。高血圧のウワサ Q&A降圧剤を飲み始めたら、一生飲み続けなければいけないのですか?半分本当ですけれど、半分は間違いですね。血圧が高いということには、それなりに原因があるわけです。つまり、血圧を下げたいなら、体重だったり、食生活だったり、座りっぱなしだったり、ストレスだったり、その人の血圧を上げている原因をなくせばいいんです。そういう意味では、降圧剤を一生飲み続けなくてはいけないというのは間違いですね。太っていることが原因なら「痩せる」、塩分が影響しているなら「塩分を制御する」、いつも座りっぱなしなら「ときどき運動する」、仕事にストレスがあるなら「ストレスのない状態にする」などが、血圧を下げる本来の治療方法です。でも、平成のこの世の中ではできないことも多いかも……。となれば、薬の力を借りて血圧を下げるしかありません。自分が努力できないのであれば、降圧剤をずっと飲み続けるという図式になるのは仕方のないことですね。しかし、ものすごく血圧が高い人がいきなり運動を始めるのは危険ですから、その場合はまずは降圧剤を飲んで、ある程度まで血圧を下げてから運動をすることをお勧めします。なかには、最初から血圧が200を超えているほど高いのに、「薬はきらい、努力で治します」という方もいらっしゃいますが、それは危険です。まずは薬の力を借りて、ある程度まで血圧を落とす。その上で運動やダイエットに取り組んだり、ストレスを減らしたりすれば、薬の量はどんどん減らせますから。そうしているうちに薬を飲まなくても良くなったという方は、私の患者さんのなかにもたくさんいらっしゃいます。降圧剤の副作用で、認知症を引き起こすと話題になりました。血圧が下がりすぎると、脳の血流が落ちて認知症になるという話ですね。普段われわれ人間は、頭を上にして生活していますし、血液も下から上に流れるのは難しいので、降圧剤を服用して血圧が下がることで、脳の血圧も低下します。一般的に認知症の方は脳の血流が低下すると言われていますから、心配するのは無理のないことです。しかし、一概に血圧を下げたからといって、それがすぐに認知症につながるとは、言い切れないと思います。下がりすぎれば薬を減らせばよいだけのことです。むしろ高血圧をしっかりと治療したほうが、脳卒中の予防になるなど、はるかに有用です。これだけ医学が進歩しているのですから、もっと簡単に血圧を下げる方法があるのではないでしょうか?腎臓につながる血管の神経を焼き切るといった、いわゆる外科的な方法があります。何をやっても下がらなかった血圧が、劇的に下がったという話もあります。しかしどの人にも絶対的に効果があるとは言えないでしょう。ある人にはとてもドラマチックに効くけど、ある人には全く効かないということです。他にも、自律神経を刺激して、血圧をコントロールする方法もあります。最近は、血圧が悪者のごとく扱われがちですが、血圧はそもそも生命を維持するために絶対的に必要なものであり、その血圧は、自律神経によって制御されているのです。ですから血圧自体は悪者ではありません。医学の世界に「絶対」はありませんから、この方法・薬だったら「100%治る」などということはありません。むしろいろいろな薬や治療を試して、自分に合った治療法を選んでいくことですね。そういった治療を行うことが、専門医の得意とするところでもあります。インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2018.5.28

尿に糖が出るから糖尿病。実は血管も砂糖漬け?

糖尿病と言うと、「太っている人の病気」と思われがちですが、そんなことはありません。よくない生活習慣を続けていれば、誰もが発症しうる身近な病気です。しかし、なぜ糖尿病になるのか、糖尿病を発症するとどんな不都合があるのかなど、詳しく知っている人はあまり多くないのが現実です。石川先生に詳しく解説していただきましょう。糖尿病とは糖尿病って、どんな病気ですか?文字のとおり、「尿に糖が出る病気」です。糖尿病の人の尿は甘いので、ありが寄ってきます。おそらくそんな様子を見て、昔の人が「糖尿病」と名付けたのかもしれません。糖尿病のなかには、膵臓(すいぞう)にあるβ細胞が壊れてインスリンが分泌されなくなってしまう「1型糖尿病」と、いわゆる成人型糖尿病と言われる「2型糖尿病」があります。後者の2型糖尿病は、ほんの数十年前までは「お金持ち病」と言われていました。それだけ糖がとれるのは、お金持ちだけだったのでしょう。なぜ尿に糖が出てしまうのでしょう?糖は私たちの体にとって大事な成分ですから、本来、尿に流れ出ることはありません。しかし、糖のとりすぎにより、腎臓がコントロールできる量以上の糖が血液中を流れ、結果として尿の中に糖が出てきてしまうのです。糖は体に悪いのでしょうか?糖のとりすぎが体によくないだけで、糖自体は体に悪いものではありません。糖は、生物体・人類にとって最高のエネルギー源です。われわれの体は、糖やグルコース、ブドウ糖などを使って、エネルギー物質であるATP(アデノシン三リン酸)を作っていますから、糖がなければ人間は生きていくことができません。そもそも、糖がなくなってしまうと脳の活動が停止してしまいますから、人間にとっては絶対に必要な成分と言えるでしょう。脳が停止したら、人は死んでしまいますからね。ですから、人間の体には、血糖値がある程度以下にならないよう厳密にコントロールする仕組みも備わっています。糖尿病とインスリン糖尿病とインスリンの関係を教えてください食事をすると血糖値(血液中の糖の濃度)が上がります。インスリンは、この血糖値を一定に保つホルモンで、血液中の糖を筋肉などの組織に取り込む働きがあります。簡単に説明すると、「食事をする⇒血糖値が上がる⇒インスリンが分泌される⇒ブドウ糖が筋肉などの組織に取り込まれる」ということです。本来、インスリンが効かないという人はいませんが、栄養過多や肥満により、取り込まれた糖を蓄えすぎてしまうと、インスリンの働きが悪くなり、血糖値が高い状態が続きます。この状態を医学用語では「インスリン抵抗性」と呼びます。糖尿病は、栄養過多や肥満が大きな原因になるということでしょうか?肥満になると、筋肉に取り込まれなかった多量のインスリンが血液中に流れることになります。インスリンは、膵臓の中にある特種なインスリン分泌細胞(β細胞)で作られています。例えば、ある人が健康なときは、この細胞は10のインスリンを出していたとします。しかし、肥満が進んで血糖値が高くなると、10では増えてしまった糖を筋肉に取り込めなくなりますから、膵臓は、20、30というインスリンを作るようになります。ところがそのうちに、β細胞はインスリンを出すことに疲れてしまい、だんだん分泌も落ちてきてしまうのです。肥満のこの人は、30のインスリンを出さなければ糖が筋肉に取り込めない状態なのですが、疲れてしまった膵臓の細胞は疲れて働きが悪くなっていますから、インスリンの分泌が20、10と減り、糖は組織(筋肉)に取り込まれなくなってしまいます。この状態が糖尿病の発症です。どんな検査をすると「糖尿病」であることが分かるのでしょうか?採血による「空腹時血糖健康診断」、おなかがすいている状態の血糖値を測る方法と、血液検査で過去1~2カ月の平均血糖値である「HbA1c」を測る方法があります。血糖値は、ガムをかんだり、砂糖をなめたり、コーヒーを飲んだりするだけでも変動してしまいますから、過去1カ月の平均血糖値が分かれば、より正確な診断をすることが可能になります。ほかに、砂糖水を飲んだあとの血糖値を測る方法(経口ブドウ糖負荷試験)もあります。ちなみに「HbA1c」というのは、血液中のヘモグロビンと糖が結合したものです。血糖値が高い状態が続くと、体のあちこちに糖が付着し、タンパク質であるヘモグロビンをも変性させてしまうのですね。糖尿病に初期症状はない?糖尿病には初期症状がないと聞きました。多少疲れたり、尿の量が多くなったりすることはありますが、初期の頃には、ほとんど症状はありません。多くの場合、健康診断の結果で、血糖値や「HbA1c」の値が高いと指摘されて気づきます。忙しくて健康診断を受けていなかったら、突然心筋梗塞になって、調べてみたら血糖値が高かったという方も少なくありません。糖尿病になると、糖が体のあちこちに沈着するので、血管も砂糖漬けになり、ボロボロになってしまうのです。血管が砂糖漬け……。やはり、ケーキやおまんじゅうなど甘いものが好きな人は糖尿病になりやすいのでしょうか?基本的には、ケーキを食べても、おにぎりを食べても、私たちの体は、エネルギー物質に変えることができます。だから食べるのはかまいませんが、大切なのは食べ過ぎないことです。一般的には、体重と身長から肥満度を表すBMI(体格指数)による適正体重を保つのがよいとされています。それにプラスして、ご両親が糖尿病であるかなどの遺伝的な背景も考慮する必要があります。ご両親に糖尿病の気がある方があまりよくない生活習慣を続けて太ってしまったら、間違いなく糖尿病を疑うべきでしょう。糖尿病の人は、他の病気になる可能性も高いのですか?糖尿病の人は、血管が砂糖漬けの状態です。すなわち、血管が硬くなったり詰まりやすくなったりするような病気は、おおかた糖尿病に合併すると思って間違いないでしょう。脳の血管なら脳梗塞、心臓なら心筋梗塞、目なら失明など、糖尿病からさまざまな病気が派生します。糖尿病は尿に糖が出てしまう病気ですが、実態は血管病で、全身の血管がだめになってしまうことが問題なのです。とはいえ、どの病気もそう簡単になる病気ではありませんから、1年に1回、必ず健康診断を受けるようにしていれば、心配には及びません。ただし、糖尿病は遺伝性の病気ですから、ご両親のどちらか、または両方が糖尿病だという方は、特に気にかけておく必要がありますね。もし糖尿病になってしまったら?もし糖尿病になってしまったら、どうすればいいのでしょうか?糖尿病は、透析が必要になったり、失明したりというリスクを伴う怖い病気です。しかし、糖尿病の人全員がそうなるわけではありません。糖尿病だと診断されても、しっかり治療を受ければ心配することはありません。糖尿病は治りますか?適切な治療を受けることに加えて、ご自身の生活習慣を改善していくことによって、なかには糖尿病が治るという方もいらっしゃいます。しかし残念ながら、1型糖尿病の方は、膵臓のインスリンを分泌する細胞がだめになっていますから、治すことはできません。つまり、外からインスリンを補うしか方法はないということです。糖尿病に効く薬はありますか?膵臓を刺激してインスリンの働きを高めたり、効果を促進したりする、さまざまな種類の薬が出ています。つい最近だと、余分な糖をわざと尿に出してしまう薬なんていうのも出てきました。しかし、人間がこれらの薬を飲み始めてまだ数十年です。これらの薬をこれから何十年か飲み続けたときに、どんな副作用があるかというのは、誰にも分かりません。新薬が効くことは間違いないのですが、何十年か飲み続けたときに副作用があるかどうかの証明をするのは、やはり不可能です。となると、やはり一番よいのは、昔ながらの、食事制限と運動ということになります。このふたつは何百万年も前から続いていますので、絶対に副作用がないことは間違いありません。コラム:父も糖尿病だったけど長生きした。だから私も…糖尿病の多くは遺伝します。あるとき私の診察を受けにきた患者さんが言いました。「父も糖尿病ですが、85歳の今も元気です。だから私も大丈夫ですよね。」確かに、この患者さんは、お父さんの糖尿病の遺伝子も、85歳まで生きられる遺伝子も持っています。そして案の定、糖尿病になってしまいました。さて、この方はお父さんと同じ85歳まで生きられるでしょうか?答えは、このままの生活を続けていれば、「NO!」です。なぜなら、お父さんがこの患者さんと同じ年齢を生きた時代と、今、患者さんが暮らすこの時代が違うからです。私は患者さんに言います。「あなたは、あなたと同じ年齢のときにお父さんが食べていたのと同じ食事をしていますか?」「あなたは、あなたと同じ年齢のときにお父さんが歩いていたのと同じ距離を歩いていますか?」おそらくお父さんは、この患者さんほどぜいたくな食事はしていなかったでしょうし、車に乗る回数も少なかったでしょう。例えば今から43年前、お父さんが42歳だった1975(昭和50)年には、コンビニエンスストアのひとつローソンは全国に10店舗のみ。それが2016(平成28)年には、1万3111店舗と、なんと1311倍にまで増えています(ローソンホームページより)。こうして私たちは、食べたいときに、数百メートルも歩かずにコンビニエンスストアに出掛け、食べ物を手に入れることができるようになりました。また、昔は今のように輸入牛肉を安く手に入れることは難しく、豪華なステーキを食べられる回数も少なかったことでしょう。1975(昭和50)年に、1604万4338 台だった自動車の保有台数も、2016(平成28)年には、6083万1892台。およそ4倍に増えています(一般社団法人自動車検査登録情報協会ホームページより)。最近では、近くのスーパーマーケットに出掛けるのも車。通勤、通学にも車を利用する人が増えていますから、お父さんの時代に比べて1日に歩く距離が減ったのは明白です。どう考えても、今の人たちのほうが、健康に悪い生活をしているのは一目瞭然。おいしいものを苦労せずに食べられて、おまけに歩く距離も減ったとなれば、お父さんより明らかに健康に悪い生活を送っていることは間違いありません。おまけに仕事が忙しくて、ストレスに追われる毎日を送っています。つまり、「おいしいものを手軽に食べて」「歩かず」「ストレスフルな」環境にいる患者さんは、糖尿病でも85歳まで生きられるはずなのに、「このままの生活を続けていたら厳しい」ということになってしまいます。とはいえ、平成のこの世の中で、昭和の時代と同じように、食事をして、歩いて……という生活するのは、不可能に近いことです。それでも、少しずつ近づけるように努力をしていただいて、足りない分をお薬で補う。今の平成の時代には、昭和の時代に比べたら、はるかによいお薬がたくさんあります。それを使わない手はありません。一番よいやり方は、若い頃のお父さんと同じ生活習慣に戻す努力をすること。それでも足りない分は、現代のお薬で補う。それが本来のやり方だと私は思っています。平成の美食をして、平成の運動習慣もそのままで、悪くなった分を平成の薬で補う。薬を飲めば、確かに血糖値は落ちるかもしれませんが、人間・生物としては一番好ましくない治療方法だと思います。インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2018.6.20

タマネギ・赤ワインの効果は? 動脈硬化のQ&A

病気に対する疑問や不安に、横浜市立大学大学院医学研究科 循環制御医学 主任教授の石川義弘先生が答えてくれる「教えて! 石川先生」。第2回の病気は、「動脈硬化」です。動脈硬化とは、どんな症状の病気なのでしょうか?動脈硬化は、病的に血管が硬くなることをいいます。酸化して変性したコレステロールがプラーク(塊)となって沈着することで、血管に炎症が起こります。そこがこぶのように膨らみ、最後には血管が詰まってしまうのです。血管が硬くなるだけであればそれほどの問題にはなりませんが、変性したコレステロールがたまって血管をふさいでしまうと血液が流れて行かなくなり、その先の臓器が壊死(えし)してしまいます。脳でそれが起これば脳が脳梗塞、心臓で起これば心筋梗塞ということになります。動脈硬化の原因とされるコレステロールとは、どのような物質なのでしょうか?コレステロールは、実は人間の細胞膜の主要成分で、細胞を守ったり外部の物質やエネルギーを出入りさせたりという重要な働きを支える、生物にとって絶対に必要な物質なのです。さらに、コレステロールは、男性ホルモン・女性ホルモンといった性ホルモンの原料でもあります。つまり、体の中にコレステロールがなかったら、われわれは、男であったり女であったりすることはできません。男らしさ、女らしさをうみ出しているのは、コレステロールなのです。どうして、コレステロールは悪者扱いされているのですか?コレステロールそのものが悪いのではなく、コレステロールの素となる脂分をとりすぎることが問題なのです。しかし最近は、脂肪分0の牛乳やヨーグルトも売られています。アメリカでスーパーマーケットに行くと、「コレステロール0」を掲げた食品が山のようにあります。コレステロールには、善玉(HDL)、悪玉(LDL)という2種類があります。LDLは肝臓に蓄えられたコレステロールを全身に配分する役割、HDLは血液中の余分なコレステロールを肝臓に回収する役割を負っています。悪玉コレステロールと呼ばれるLDLですが、LDLがなければ全身にコレステロールが行き渡りませんから、細胞膜も、性ホルモンも作ることができません。問題なのは、とりすぎることです。どうして、コレステロールは酸化したり変性したりするのでしょうか?酸素がある場所では、当然「モノ」は酸化します。われわれ人間は生命を維持するために、酸素を体の中に取り入れています。酸素に触れたコレステロールは「酸化」、つまりさびてしまいます。さびたコレステロールは形が変わります。これが「変性」です。酸素を使って生きているわれわれ人間は、体の中で酸化や変性といった障害や副作用が起こるのを避けることができないのです。また、二酸化炭素を吐き出すときには、細胞の中に、ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー物質がため込まれるのですが、同時に毒をもった酸素、スーパーオキサイドも作られてしまいます。このスーパーオキサイドは活性酸素の一種で、酸化させる力が非常に強いので、コレステロールやたんぱく質・細胞などは、次々と酸化、変性してしまいます。最近、「酸化ストレス」という言葉を耳にすることも増えました。酸化ストレスは、呼吸により体の中に発生した活性酸素が原因です。老化にも、体の構成成分の酸化、変性が深く関わっているといわれています。しかし、もし酸化ストレスを完全になくそうと思うのであれば、呼吸をやめなければなりません。動脈硬化の原因 Q&A40歳以上の日本人のほとんどが動脈硬化の危険因子をもっているといわれています。人類の歴史のなかで、これだけ多くの人類がコレステロールを持て余すようになったのは、ここ数十年の話です。石器時代には、肉を食べようと思ったら狩りに行かなくてはなりませんでした。1カ月の間毎日狩りに出ても、獲物が捕れるのは何日もなかったという話を聞いたことがあります。日本も数十年前までは毎日の食事にさえ困っていて、こんなに簡単に肉を食べることなどできなかったはずです。石器時代の人も昭和の人も、コレステロールをとろうと思っても、そう簡単にはとれなかったのです。しかしここ数十年、肉やチーズなどの乳製品が簡単に手に入るようになったことで脂分を容易に摂取できるようになり、多くの人は、コレステロールをはじめとする栄養分をとりすぎるようになりました。また、脂分などコレステロールそのものをとらなかったとしても、人間の体には糖分からコレステロールを生成する機能がありますから、基本的には食事のカロリー量や摂取する栄養素の量をコントロールすることが必要になります。つまり、現代の時代に生きる私たちは、年齢に関わらず、動脈硬化の危険因子をもっているということになります。食生活も生活環境も、明治・大正・昭和の時代に戻ることができれば、動脈硬化の心配をしなくて済むのですがね……。若い人は動脈硬化にならないって本当ですか?確かに若い人は、動脈硬化にはなりにくいですね。年と共に動脈硬化になる人が増えていることは間違いありません。しかし、若いからといって絶対にならないわけではありません。DNAが酸化してがんになってしまうこともありますから、定期的に検査はしたほうがよいですね。ストレスは、動脈硬化にどのような影響を与えるのでしょうか?ストレスは、人生のスパイスです。よいストレスもあれば悪いストレスもあります。新しい仕事場で新しいプロジェクトが始まって、これまでに経験したことがないくらい勉強したり、話したこともないような人と交渉したりしなくてはならないとします。このようなできごとは強いストレスになるかもしれませんが、うまくいけばとてつもない喜びを感じることもあるでしょう。でも、悪いストレスが続くと、メンタルだけでなく、高血圧や動脈硬化、糖尿病と、体にも悪い影響が起こります。大切なことは、そのストレスが自分にとってプラスなのか、マイナスなのかを見極めることです。そう申し上げると難しく感じるかもしれませんが、実は意外に簡単で、多くの場合、ストレスを感じる時間で判断できます。ストレスにさらされる時間が短ければ体への影響は少ないですし、逆に長い時間ストレスにさらされ続ければ、メンタルにも体にも強いダメージを与えることになります。また、「失恋と厳しい仕事」「離婚と残業が続く仕事」といったように、全く異なったストレスが同時にかかっているかどうかも、ダメージの大きさを判断する基準となります。個人差はありますが、ストレスはうつ病といった心の病だけでなく、高血圧や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こし、時には命を奪ってしまう可能性さえあるのです。動脈硬化の治療 Q&A動脈硬化に効果的な治療方法はありますか?いったんたまってしまったコレステロールのこぶを薬で除去するのは至難の業です。除去できるとしても、時間がかかります。おそらく世界で一番使われているのは「スタチン」という、悪玉コレステロール(LDL)を作る酵素を阻害する薬です。この薬を飲むと、確かにコレステロール値がグッと下がります。余談ですが、アメリカのトランプ大統領も「スタチン」を飲んでいることを公表しています。「スタチン」を飲むとコレステロール値は下がります。しかし、動脈硬化が進んでしまった理由はコレステロール以外にもあるということを忘れてはいけません。例えば、運動不足の人がたくさん食べてストレスをためれば、さまざまな原因から起こる結果の一つとして動脈硬化が進みます。高血圧や糖尿病でも同じです。つまり、すべての原因を見ることなく、コレステロール値が高いということだけを治療しても、他は解決していませんから、われわれの体にとってよいことではありません。「スタチン」が登場したのだって、せいぜい今から30年前です。これから60年、70年と「スタチン」を飲み続けたとき、どのような結果が待っているかは、今の時点ではわかりません。コレステロール値が高い人が「スタチン」を飲み続けることはもちろん必要です。しかしそれ以上に大切なことは、その人の食生活や運動、ストレスなども含めて気を付けることです。高血圧と同じですね。どのような検査で動脈硬化を発見することができるのでしょうか。一つは超音波検査です。動脈の壁が厚くなっていたり、コレステロールがたまって硬くなったプラークができていたりするところが見られます。健康診断や人間ドックのオプションにある頸(けい)動脈の超音波検査がそれに当たります。頸動脈は、体の表面に一番近い太い血管ですから、非常に検査がしやすいのです。また、上向きに寝た状態で、同時に四肢の血圧を測る「血圧脈波測定」という方法もあります。いわゆる「血管年齢」を調べる方法です。自分が動脈硬化であることにはなかなか気付けません。初期の動脈硬化に症状はありませんから、なかなか自分では気付きにくいでしょうね。症状はなくても、動脈硬化を起こしやすい危険因子はあります。血圧やコレステロールが高い方や、糖尿病の方などは、動脈硬化になりやすいことは間違いありません。「気付いたら血管が詰まっていた」では手遅れですから、危険因子をもっている方は、動脈硬化がどの程度進んでいるかを診断するため定期的に採血し、頸動脈の超音波検査をしたり、脈を測定したりすることをお勧めします。動脈硬化にならないために、自分でできることはありますか?定期的に運動することで、ある程度、しなやかな血管を取り戻すことはできます。高血圧の治療 Q&A でも触れていますが、もう一度お話ししましょう。血管は、縮まった状態が続くと硬くなって、血圧が上がりますが、血管がしなやかになれば、血圧は下がります。血管は、自らの拡張・収縮を制御する能力を備えていて、血管の先の筋肉で酸素が必要になると、それを感知して、自ら広がりしなやかな状態を作ります。運動をすると、筋肉にはたくさんの酸素が必要になって、血管は自ら広がります。つまり、人間が定期的に運動すれば、血管も定期的に自らを広げる練習をすることになります。そして、血管を広げるときには、私たちが血圧を下げるために飲んでいるどの薬よりも優秀で、性能のよいホルモンのような物質を出していることがわかっています。運動するだけで、治療効果の高いお薬が、自分で、しかもただで作れるわけです。実践しない手はありませんよね。動脈硬化のウワサ Q&A毎日1杯のオリーブオイルが動脈硬化の抑制に効果的だと聞きました。「地中海ダイエット」に代表される地中海沿岸地方の食事には、植物性脂肪の油である「オリーブオイル」が多く使われています。脂自体の摂取量は変わらないのに、動物性脂肪を多くとるアメリカ人に比べて、オリーブオイルを主とする地中海沿岸地方の人びとには、動脈硬化や心疾患、肥満の人が少ないというのです。オリーブオイルの摂取以外にも、抗酸化作用の高い赤ワインを飲むことで、動脈硬化を抑えることができるといいます。今から15年ほど前、「フレンチパラドックス」として話題になりましたが、「フランス人は、チーズやバター・肉など動物性の脂を好み、カロリーの高い食事しているにも関わらず、ヨーロッパの他の国に比べて動脈硬化の人が少ない」と報告されています。抗酸化作用が高い赤ワインをたっぷり飲むフランス人は、体の中のコレステロールの酸化が抑えられ、動脈硬化になりにくいというわけです。赤ワインは健康に効果があるということですか?「酒は百薬の長」というように、赤ワインに限らず、少量のお酒はHDLコレステロールを増やすといわれています。350ccのビール1缶(純アルコール換算で20cc)が1日の目安です。最近は、お酒の値段が極端に安くなり、手軽に飲めてしまうので、飲み過ぎる人も多くなりました。ビールより赤ワインのほうが体によいといわれますが、ビール好きな人に赤ワインを飲めというのも酷な話です。それよりも量を守ることのほうが大切な気がします。タマネギをたっぷり食べると血液がサラサラになるのでしょうか?「紅茶キノコ」から始まって、今までさまざまな健康法が話題になってきました。しかし、医学的に効果があるかどうかはわかりません。タマネギの効果を確かめるなら、何百人、何千人の人の半分は、決められた量のタマネギを食べる。残りの半分の人は一切食べない。それ以外の食生活はすべて同じ、という条件の下で比較する大規模臨床試験を実施しなければ、医学的に証明はできません。一般的には、タマネギだろうと、紅茶キノコだろうと、酢コンブだろうと、100人に食べさせれば、4、5人「よく効く」という人がいてもおかしくありません。それを健康雑誌で紹介すると、全員に効果があったように受け取られてしまうんですね。動脈硬化の人は、「果物は食べないほうがいい」といわれています。健康によいといわれる果物ですが、果糖という糖分エネルギーが含まれていますから、とりすぎれば動脈硬化に悪影響を与えます。しかし、「野菜をよく食べる」「果物をよく食べる」ことは、どこの国の人にも例外なく「よい」と、世界保健機関(WHO)も推奨しています。野菜も果物も、何万年も前からずっと食べ続けられてきました。もちろん、健康によい影響を与えるからですが、逆に考えると、われわれ人間の体は、何十万年、何百万年前から地球上に存在していて、食べ続けてきたものに適応して発達してきたはずです。もしそれが、体に悪いものだったら、気の遠くなるくらい長い間、食べ続けてくることはなかったと思います。インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2018.5.30

急増する「梅毒」。患者数は昨年を上回るペース

「梅毒」と聞いてみなさんはどんなことを想像するでしょうか? 「昔の病気でしょ?」「風俗店へ行かなければ大丈夫」そんな風に思っている人が多いかもしれません。しかしこの梅毒、じわじわと感染者数が増えていることをご存じでしょうか?1990年代以降、梅毒の感染者数は年間1000人を下回っていました。ところが、2011年から増加が始まり、2017年には6000人近くにまで増えました。(*1)2018年は患者数の増加ペースが速く、前年を上回る可能性があります。(*2)男性では20~40代の幅広い年齢層から感染の届け出がありますが、女性では20代前半に多くなっています。(*3)梅毒は、「過去の病気」ではないのです。梅毒の原因は? 主な感染経路は性的接触梅毒とは「梅毒トレポネーマ」という病原菌による感染症です。主な感染経路は性行為など粘膜同士の接触で、性感性症のひとつでもあります。性感染症とは性的接触によって感染する病気のことで、ほかにクラミジアや淋病(りんびょう)などが知られています。また、妊婦が感染すると胎盤を通して胎児に感染し、流産や死産になるおそれがあります。生まれた場合でも、臓器の異常などさまざまな障害を抱えることになります(先天梅毒)。なお、梅毒という病名の由来は、症状に見られる赤い発疹が楊梅(ようばい。ヤマモモの漢名)に似ているからだとも言われています。(*4)第1~4期へじわじわ進行。気になる症状は?梅毒は、感染してすぐには症状が現れません。その経過は第1期から第4期に分けられ、長い月日をかけて徐々に全身を侵していきます。まず、感染から3週間ほどの潜伏期間を経て、感染が起きた箇所にしこりができます。これが第1期で、特に治療をしなくても数週間で症状は消えてしまいます。感染から3カ月ほど経過すると第2期となり、全身に赤い発疹が出たり、性器や肛門の周辺に平らなできものが現れたりします。第2期でも症状だけは再び消えてしまいます。感染から3年ほど経過すると第3期となり、ゴムのような弾力のあるできものが、皮膚や筋肉、骨などにもできます。さらに進むと第4期になり、血管や神経まで侵され歩行が困難になるなど、日常生活にも支障を来す可能性があり、場合によっては死に至ることもあります。早期発見のキーワードは「約4週間」梅毒に感染しているかどうかは、血液検査で分かります。しかし、感染から3週間ほどは抗体検査をしても陽性反応が出ないこともあります。症状が出ても、感染したと思われる日から約4週間経過してから検査を受けるようにしてください。梅毒に感染していた場合、自分のパートナーも感染している可能性があります。必要に応じて、一緒に治療を行うことが重要です。治療は抗菌薬(ペニシリン系)の内服第1期や第2期の場合は、抗菌薬(ペニシリン系)の内服で完治します。梅毒は治療しなくても一時的に症状が消えるという特徴があるので、「もう治った」などと自己判断せず、処方された薬をきっちり飲みきることが大事です。また、一度完治しても感染を繰り返す可能性があります。適切な予防策を取らなければ、再感染の危険は十分にあります。自分もパートナーも守る。梅毒の予防策まずは不特定多数の人との性行為を避けること、そして、性行為の際はコンドームを使用することです。しかし、キスやオーラルセックスなどでも感染する可能性があるため、コンドームだけで100%予防できるわけではありません。皮膚や粘膜に異常が出た場合は性的な接触を控え、早めに泌尿器科や婦人科を受診しましょう。(*1)性感染症報告数 – 厚生労働省(*2)梅毒患者の増加で注意喚起 – 日医on-line(*3)感染症発生動向調査で届出られた梅毒の概要(*4)梅毒に関するQ&A – 厚生労働省文:Open Doctors編集部監修医師:横浜市立大学教授・医学博士/石川 義弘

2018.10.31

悪魔にやりで突付かれるほど痛い? 痛風のQ&A

病気に対する疑問や不安に、横浜市立大学大学院医学研究科 循環制御医学 主任教授の石川義弘先生が答えてくれる「教えて! 石川先生」。第3回の病気は、「痛風」です。「風が吹くだけでも痛い」と痛風の患者さんが話しているのを聞いたことがあります。石川先生も「今まで経験したことのないくらい痛いですよ」と言います。平成28(2016)年の国民生活基礎調査によれば、男性の痛風による通院者率(人口千対)は、60代で36.8%、3人に1人が痛風であることがわかります。痛風は「ぜいたく病」と言われることもありますが……?そうですね。日本では「徳川家の歴代将軍も加賀百万石の殿様も、誰ひとりとして痛風になった人はいない」と言われているからでしょうか。よく痛風の患者さんに「名誉ある病気になれて、あなたはなんてラッキーなのでしょう。徳川家康よりもぜいたくな暮らしをされているんですね。」とお話しします。痛風はどんな病気なのでしょう?DNAの代謝物質である尿酸が体内にたまりすぎてしまうと、さまざまな病気を引き起こします。まず、血液中の尿酸の濃度が高まると、高尿酸血症といわれる状態になります。たまりすぎた尿酸が関節の中で結晶化し、炎症が起きた状態を痛風と言います。一番多い症状は痛風結節といって、特に足の親指の付け根あたりが痛くなります。他にも、腎臓がやられてしまったり、結石のような石になったりするケースもあります。「痛風は痛い」とよく耳にしますが、どのくらい痛いのでしょう?あなたが男性なら過去に経験したどんな痛みより痛いですよ。男性である私は経験したことがないけれど、お産くらい痛いとも言われています。足の親指の付け根あたりがパンパンに腫れあがって、患者さんいわく、「風が吹いただけでも痛い」そうです。グルメの国フランスでは、かなり昔から痛風があったようですが、その当時の医学漫画には、やりを持った悪魔が痛風患者の足を突っついている様子が描かれています。キャビア、めんたいこ、白子、あん肝などのいわゆるグルメ食と言われる魚卵や、プリン体が多く含まれるビールは、痛風の原因になります。日本やアジア諸国の食生活がヨーロッパに近づいたということでしょうね。あくまでも食べ過ぎや飲み過ぎがいけないのであって、食べてはいけないということではありませんよ。プリン体0というビールならいくら飲んでも大丈夫なのでしょうか?いいえ。プリン体0でも、飲み過ぎれば肝臓や腎臓などの代謝系機能に障害が起きてしまいます。確かに痛風の患者さんにはビール好きの方が多いので、「飲むのならプリン体0の方がいいですよ」とお話ししますが、あくまでも程度問題です。飲み過ぎたらだめですよ。痛風の痛みを忘れるためにお酒を飲んでいるという人もいましたけどね(笑)。痛風になってしまったらどうすればよいのでしょうか?痛風は、年がら年中痛いわけではなくて、ときどき起きる発作が痛いんですね。その発作が起こると1週間くらいは、痛くて歩けなるようなこともありますが、それ以外のときは症状がありません。ですから、痛風発作を起こさないように、まず食生活を見直すこと。そして、薬を服用して、ある程度まで尿酸値を下げておくことが大切です。最近は痛風によく効く薬もあると聞きます。確かに最近は、尿酸の排せつを促進したり、尿酸の産生を抑制したりと、さまざまな効能を持つ薬があります。しかし、薬を飲んでいるからといって、あん肝をつまみにビールを飲んでいたら、本末転倒です。ずばり、痛風は治りますか?痛風は、尿酸値をコントロールできれば発症しません。しかし、痛風になりやすい体質の方も少なくありませんから、やはり正しい食生活や生活習慣を心がけることが基本になります。痛風が悪化するとどうなるのでしょうか?なかには、足の関節が変形して、歩けなくなってしまうほどひどい症状の方もいらっしゃいますよ。痛風が他の病気につながっていくことはありますか?例えばですが、梅毒にかかっている患者さんが診察にいらしたとき、どのような検査をすると思いますか? 医師はまず、梅毒にかかっているなら、淋病(りんびょう)やクラミジア、時にはエイズもと、さまざまな性病の可能性を考えます。つまり、この患者さんには、「梅毒にかかるような生活習慣があったのではないか?」と考えるんです。それと同じで、痛風の患者さんを診るときには、「この人は痛風になるような生活習慣なのかな」と考えてみるわけです。もしそうだとしたら、そのうち、糖尿病や高血圧などの生活習慣病になってもおかしくありません。なかには遺伝が強く関わっているケースもありますが、大体の病気は、表面に現れている症状だけではなくて、原因となる生活習慣にも目を向ける必要があるということです。ぜいたくな生活をしていたら、痛風以外の病気が起きてもおかしくありませんよね(笑)。痛風になるような人は、その生活習慣を見直していかなければ、きっと高血圧にもなるし、糖尿病にもなるし、動脈硬化にもなるでしょう。どんどんつながっていってしまいますよ。ストレスも痛風に影響しているのですか?ストレスがかかると、過食に走る人も多いです。過食という生活習慣の結果、痛風につながることもあるかもしれません。決して、ストレスだけが独立して痛風の原因になっているというわけではないと思います。生活習慣は、食べるものであり、仕事の仕方であり、生活のリズムであり、運動習慣でもあります。その昔、家に電灯などなかった頃は、暗くなったら仕事は終わりという人が多かったことでしょう。それがここ数十年間で、当然のように深夜まで残業をするようになってしまいました。こういった生活習慣の変化がストレスとなり、ストレスがまた生活習慣を悪化させ、痛風の発症に関わっているという可能性は、大いにあるでしょうね。参考文献:平成28年国民生活基礎調査インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2018.6.13

「健康診断で見つかるがん」は治る? がん入門編

男性の4人に1人、女性の6人に1人が、がんで亡くなる時代です。身の回りにがん闘病中の家族や友人がいるという方も少なくないことでしょう。そんな身近な「がん」ですが、がん細胞ができる原因やがんができにくい臓器など、治療以前の基本的な情報については意外と知られていないようです。今回は「がん入門編」として、石川先生にやさしく解説していただきましょう。そもそも「がん」はなぜできる?石川先生。いきなりですが、「がん」ってなぜできるんですか?ずばり、がん細胞ができる原因は「細胞分裂のときに起こるミス」ですね。われわれの体の細胞が、毎日生まれては死んで、死んでは生まれているというのはご存じですよね。はい。その「生まれて」というのが、「細胞分裂」のことですよね。そうです。例えば胃の壁を構成している細胞の1つが寿命を迎えても、ほかの元気な細胞の分裂により新しい細胞が生まれることで、胃の壁の働きは保たれています。ちょっと難しい話になりますが、われわれは細胞の一つ一つに「DNA」という体を作る設計図をもっていて、これはアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)という4種類の部品を使って書かれています。細胞分裂をするときには、このA・C・G・Tの組み合わせで書かれた暗号を一言一句間違わずに引き継がなければいけないのですが、細胞分裂のときにミスが起こると、アデニン(A)だったものがシトシン(C)に書き換わってしまったりすることがあります。万が一、がんの発生や抑制に関係する設計図の一部がこのように書き換えられてしまうと、細胞のがん化を止められなくなってしまうのです。どうしてミスが起こってしまうのですか?例えば、1から10までの数を100万回繰り返して書いたとします。そうすれば1回や2回は絶対ミスをするでしょう? 毎日分裂を繰り返しているわれわれの細胞も同じです。疲れていたり、酔っ払っていたり、思考がうまく働いていなかったり……。そういうことが細胞にもあるんですよ。特にミスを起こしやすいのは、細胞の機能が落ちているとき、つまり年をとったときなんです。例えば、15歳くらいの孫と90歳のおじいちゃんの両方が100万回書けば、おじいちゃんのほうがミスをする回数も多いし、それを見逃すことも圧倒的に多くなるんじゃないでしょうか。がんになる臓器、ならない臓器。その違いはここまでの話をまとめると、「細胞が死んだときに新しい細胞を作ろうとするから、がんになる」「不摂生をしている人や年をとった人ほど、新しい細胞を作るときにミスをしやすい」ということになるでしょうか。そういうことです。一方で、「がんにならない臓器」があるのをご存じですか?「がんにならない臓器」……。「細胞が生まれ変わらない臓器」ということでしょうか。そんな臓器があるんですか?あるんですよ、心臓です。「肺がん」や「胃がん」はよく耳にすることがあっても、「心臓がん」って聞いたことないでしょう? あるとしても、ごくまれです。なぜ心臓にがんが発生しないかというと、心臓の細胞は、生まれてから死ぬまでほぼそのままだからです。心筋梗塞のコラムで「死んでしまった心筋を生き返らせることはできない」とお話ししましたよね。最近は「再生医療がもっと発展すれば、細胞も再生できる」という説もありますが、ひとまずその話は置いておくと、心臓の細胞は「おぎゃあ」と生まれてから死ぬまでずっと同じで作り直す必要がないから、がんにはならないというわけです。諸説ありますがね。なるほど! 細胞が死んで新しく生まれ変わる臓器は全てがんになりうるけれど、そうでない臓器にがんはできにくいということですね。そういうことですね。普通ならできそこないの細胞ができても、われわれの体をパトロールしている「免疫くん」がしっかりやっつけてくれています。しかし、不摂生をしたり、高齢になったり、何らかの理由でこの「免疫くん」が疲れてしまうと、できそこないの細胞をやっつけてくれなくなって、そいつをみすみす「がん化」させてしまいます。健康な人も「がん細胞」をもっている?すると先生、できそこないの細胞は誰もがもっているということですか?健康なわれわれの体内でも、がんになる可能性のある細胞がしょっちゅうできていますよ。通常であれば、そいつが小さいうちに「免疫くん」がやっつけてくれているので大ごとにはなりませんが、「誰もが日々がんになっている」と言えるでしょう。それを「免疫くん」がやっつけてくれている!そうです。だから「健康で規則正しい生活をしましょう」と言われるんですね。「免疫くん」が元気でいられるような生活をすることが、がんの予防につながるからです。「免疫くん」が元気なら、できそこないの細胞をやっつけてくれますから。「免疫力を高めることが大切だ」と言われるのはそういうわけなのですね。がんもいろいろ。ざっくり分類すると……がんは進行度合いなどによって、細かく分類されていると聞きました。そうですね、がんにはいろいろな分類があります。がんが疑われる場合は、詳しい検査の結果に基づいて分類を行い、その分類をもとに診断および治療方針を決めていく、という流れになりますね。まずはどんな検査を行うのか、詳しく教えてください。がんが疑われる場合、まずは綿棒などで患部から細胞をこすり取ったり、針やメスなどで組織を採取したりします。これを病理医という細胞・組織診断のプロが顕微鏡で調べるのですが、この検査は「細胞診」や「組織診」と呼ばれます。細胞を調べる場合は「細胞診」。細胞の大きさや形などから細胞の悪性度を調べ、I~Vまでの「クラス(Class)」に分類します。一方、組織を調べる場合は「組織診」と言いますが、これはいわゆる「生検」のことです。細胞の大きさ、形、並び方などから組織の性質を調べ、1~5までの「グループ(Group)」に分類します。なお、組織診は細胞診よりも正確な判断ができることから、細胞診をしないケースも増えています。こういった検査を行うことで、「がんなのかどうか」や「どれぐらい悪いがんなのか」が分かります。ここで「がんである」と判明した場合、初めて「ステージ(Stage)」という分類が出てきます。「ステージI」、「ステージIV」といった言い回しはよく聞きます。どのように分類をするのですか?ステージ分類では、がんがどこまで進んでいるかを判断し、進行度合いによって分類します。例えば胃がんなら、がんが胃の粘膜の一番内側にいるのか、粘膜の下の層にいるのか、胃の筋肉まで進んでいるのか、胃の一番外側、漿膜(しょうまく)まで到達しているのか、もしくはそれも突き破ってほかの臓器にまで広がってしまっているのか。どこでどれくらいの大きさになっているかなどを調べます。なお、がんができた臓器によって分類の仕方は異なります。「ほかの臓器に広がる」というのが、いわゆる「転移」ですか?そのとおり。転移とは、細胞が血液やリンパの流れに乗ってほかの臓器に行くことです。リンパの流れは「リンパ節」という関門を通過しないと次の臓器に行けないので、がんもまずリンパ節に転移することになります。ですから、転移しているリンパ節の数や遠さ、あるいはリンパ節を突破してほかの臓器に転移しているか否かというのも、ステージ分類の判断材料になります。胃がんの場合は、がんが胃の粘膜にとどまってリンパ節に転移していなければ、手術で完治することも少なくありませんよ。健康診断で見つかるのは「治るがん」?がんは早期発見すれば治る病気だとも言われていますよね。がんには「見つけやすくて、たいてい治るがん」と「見つけにくくて、治すのが難しいがん」があります。あくまでも一般論ですが、健康診断の項目に入っているようながんは簡単な検査でも見つけやすいうえに、見つかってすぐに治療をすればたいてい治ります。だから検査をして見つけているのです。「治すのが難しいがん」ですか……。そうです。例えば、健康診断の検査項目にはない膵臓(すいぞう)がん。これは簡単な検査で見つけるのが難しいうえに、見つかっても完治させるのが非常に難しい。一方、健康診断で必ずと言っていいほど行われる胃バリウム検査や検便は、胃がんや大腸がんを発見するためのものです。これらのがんは検査も簡単で見つけやすい。そして、早期に治療すればかなりの高い確率で治ります。治る可能性が高いがんを早く発見して、治療しようということですね。そう、「見つかったら治るがん」を見つけようとしているのです。そこに健康診断の重要性があります。多くの人が「検便を出すのは恥ずかしい」とか、「めんどうくさい」とかおっしゃいますが、検査に出さないなんてすごくもったいないと思います。なぜなら、検便で見つかる大腸がんは、他のがんに比べてわりと進行がゆっくりで、「便に血が付いているから検査しましょう」という段階であっても、治せる可能性がとても高いんです。がんの進行が遅ければ、治る可能性も高い。だから検便!早い時期に見つけて、切ってしまえば治ります。だから検便はやったほうがいい。だって見つかったら治るのですから。検便はとても意義のある検査だと思いますよ。便だけで分かるんですから。便を出すだけなら、バリウム検査や採血よりもずっと楽で簡単だと思うんですがねえ。インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2018.9.18

不整脈が起これば死も。増える心筋梗塞の危険因子

心筋梗塞というと、死ぬほど胸が痛い、必ず死に至る……、そんな怖いイメージを持つ人も多いのでは。今は優れた薬や治療法のおかげで、早期に治療を開始すれば命を落とすことはなくなってきました。しかし現代の生活において、心筋梗塞の危険因子は確実に増えているようです。心筋梗塞ってなに?今回のテーマは「心筋梗塞」です。心筋梗塞という単語はニュースなどでよく耳にしますが、実際のところどのような病気なのでしょう?心筋梗塞の「梗塞」は、「血管が詰まる」という意味なんです。血管が詰まると、その先の筋肉に血液が流れていかなくなります。これが心臓で起こるのが「心筋梗塞」で、脳で起これば「脳梗塞」ということになりますね。なるほど、「心筋梗塞」は心臓の血管が詰まる病気なんですね。心臓には右冠動脈、左冠動脈(前下行枝)、左冠動脈(回旋枝)という3本の大きな血管(冠動脈)があって、心臓のすべての筋肉に血液を送っています。しかし、動脈硬化などが原因で3本のうちのどれかが詰まってしまうと、その先にある心臓の筋肉(心筋)は酸素を受け取ることができず壊死(えし)、つまり死んで動かなくなってしまいます。心不全についてのコラムでもお伝えしましたが、心臓は全身に血液を送るポンプの役割を果たしています。心筋の一部が動かなくなるというのはポンプの故障と同じなので、血液を全身にうまく送れなくなってしまうのです。心筋梗塞になると何が起こるの?「ポンプの故障」ですか。そうです。このポンプの故障は多くの場合「不整脈」として現れますが、この不整脈が心筋の縮む順番をめちゃくちゃにしてしまうと、最悪の場合死に至ります。運よく不整脈が起こらず生きながらえたとしても、死んでしまった心筋を生き返らせることはできないので、ポンプの一部が壊れたままになります。前々回(心不全)のおさらいになりますが、このように心臓のポンプ能力が低下している状態を「心不全」というのです。不整脈が原因で死んでしまうこともあるのですか?心臓の筋肉が死んでしまうことによって起こる不整脈ですからね。心筋の縮む順番がおかしくなって全身に血液が行き渡らなくなることもあれば、心臓自体が動かなくなってしまうこともあります。普通の人にも起こるような、ときどきリズムが狂うくらいの不整脈だったら死に至ることはありません。ところで、人間の心臓って、1日に何回くらい動いているかわかりますか?1分間の脈拍を大体70回とすると、1時間で4200回、1日で……。そう、その計算だと約10万回になりますね。私たちが寝ている間も休みなく動いています。10万回動いていたら、機械だって1回や2回のミスはありますよね。つまり、誰にでも「たちの悪くない不整脈」は起きるということです。心筋梗塞は、心臓で「たちの悪い不整脈」が起きた状態ということなのですね。そう。心臓の血管が詰まって心筋が死に、「たちの悪い不整脈」が起きて心臓がうまく動かなくなるということです。繰り返しになりますが、ポンプ能力が低下して心不全の状態に陥っても、「たちの悪い不整脈」が起こらなければ、生き残ることもあります。私たちは、どんな症状が現れたとき、心筋梗塞に気付けるのでしょう?狭心症や糖尿病などの持病があったり、血圧が高かったりと、血管に負荷がかかるような疾患を治療中の方が、胸に今まで経験したことのないような強い痛みを感じたときは、すぐに救急車を呼んで病院に行くことをお勧めします。健康な人が「胸がちょっと苦しい」とか「痛い」とかいうのは、ほとんどの場合心筋梗塞ではありませんよ。心筋梗塞の治療法心筋梗塞になったら必ず命を落とす、というわけではないのでしょうか。昔は助からない人がほとんどでしたが、今は優れた薬や治療法がたくさんありますから、早い段階で病院に行けば、ほとんどの人が助かりますよ。心筋梗塞の治療にはどんな方法があるのでしょうか?多くの場合、動脈からカテーテルという細い管を入れ、血管の詰まった部分を風船で広げる「風船治療」や、これを応用して血管内で金網を広げる「ステント治療」を行います。血栓を溶かす薬の投与だけで回復する場合もあります。これらは治療時間も短く、体への負担もそれほど大きくないですし、ほとんど後遺症もありません。カテーテル治療ではどうにもならないというときは、血流の迂回(うかい)路を作る「バイパス手術」を行うこともありますが、こちらは体への負担が大きくなり、回復にも時間がかかります。どういう人が心筋梗塞になりやすい?心筋梗塞になりやすい人っているのでしょうか?心筋梗塞を起こした人の話を聞くと、それなりの理由があります。多くは高血圧や高コレステロール、糖尿病など、もともと持っていた病気や基礎疾患をちゃんと治療していなかった人です。その人たちが心筋梗塞になって、たまたま早い段階で病院に行って命が助かったとしても、その原因となっている基礎疾患を放っておいたら、また心筋梗塞を起こすことになります。普段健康に何も問題のない人が、ある日突然心筋梗塞を起こすということは、めったにありません。心筋梗塞が遺伝することはありますか?心筋梗塞そのものは遺伝しません。しかし遺伝的にコレステロールが高かったり、血圧が高かったり、糖尿病になりやすかったりという家系はあります。心筋梗塞は遺伝しないけれど、なりやすい体質は遺伝するということですね。心筋梗塞を防ぐには心筋梗塞になりやすい体質の人は、どんなことに気を付ければいいのでしょう?糖尿病の回でも話しましたが、もう一度おさらいしましょう。例えばご両親が糖尿病なら、何もしなければその子どもは多分糖尿病になると思います。仮に今あなたが50代で、ご両親は80代で糖尿病だったとすると、若いころのご両親は今のあなたより医学的によい暮らしをしていたはずだからです。「医学的によい暮らし」ですか?ご両親が若かったころは、今のあなたのように、気軽にタクシーやバスに乗っていたでしょうか? お酒も毎日は飲めなかったでしょうし、牛肉なども簡単に手に入らなかったのではないでしょうか。近所にコンビニエンスストアだってなかったはずです。今のほうが生活するには便利ですが、医学的には昔のほうがよい暮らしだったのではないか、と思うのです。今は、便利だけれど、健康に悪い生活をしているということ……。そう。あなたはご両親と同じ遺伝子を持っていることに加えて、医学的には悪い環境で暮らしているのですから、ご両親以上に、普段の健康や生活習慣に気を付けなくてはいけないということです。心筋梗塞の治療成績は上がっていますが、危険因子はご両親のころに比べると圧倒的に増えているということです。インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2018.7.18

心不全は「病名」じゃない? 心筋梗塞との違いは

テレビの報道などでもよく耳にする「心不全」。実は病名ではないって、ご存じでしたか? 心臓の病気だと思われがちですが、「心不全」とは病名ではなく、心臓の働きが悪くなった結果起こる状態を指しています。石川先生に詳しく解説していただきましょう。心不全って病気? それとも?心不全とは病名ですか?「心不全」はポンプである心臓の能力が落ちてしまった状態で、病名ではありません。よく比較される「心筋梗塞」は、「心不全」の原因のひとつですね。「心筋梗塞」が起きたけれど、心臓の筋肉は死なずに生き残った。しかし、心臓のポンプ機能は低下してしまった、という状態を「心不全」といいます。心筋梗塞の他にも心不全の原因はあるのですか?以前は高血圧が心不全の大きな原因でしたが、血圧を下げるよい薬が出てきたこともあって、この20年くらいは心筋梗塞を原因とする心不全が増えています。高血圧が心臓に悪さをしているということですか?そう。例えば、われわれが重たいバーベルを毎日持ち上げていると、筋肉隆々になりますよね。それと同じで、血圧が高いと、心臓はその高い血圧に逆らって血液を送り続けなくてはならないから、心臓の筋肉が太ってしまう。それを「心肥大」と呼ぶんです。心臓が太るとどうして心不全になってしまうのですか?心臓が肥大すると、血液を送る力は強くなりますが、高血圧のまま血液を送り続けていると、そのうち心臓が疲れて、へばっちゃうんです。そうすると、ポンプそのものの能力が落ちてしまいます。原因が心筋梗塞でも高血圧でも、心不全のポイントは心臓のポンプの能力が弱くなってしまうということです。心不全になるとどんなことが起きるの?どんな検査をすると心不全であることがわかるのでしょうか。エックス線(レントゲン)検査で心臓の大きさを、超音波検査で心臓の動きを確認することができます。また最近は、血液検査で、心臓に負担がかかると分泌されるBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)というホルモンを測ることで、心不全や心肥大を発見できるようになりました。どんな症状が現れたら、心不全を疑えばいいのでしょうか?高血圧や動脈硬化、糖尿病の方は、手足がむくむ、息切れがする、ちょっと動いて息切れがするなどの症状が出たら、できるだけ早く受診してください。特に、高血圧が長く続くと心臓がへばってしまって、命に関わる重度の心不全になることがあります。そうならないためにも、普段からしっかり血圧をコントロールしておくことが重要です。心不全になってしまったら心不全になってしまったら、どんな治療をするのでしょうか?利尿剤と交感神経への刺激を抑える薬の2種類を組み合わせて飲むことが多いですね。心不全になり、心臓のポンプの働きが落ちると、全身にうまく血液が巡らないので、腎臓で尿が作られにくくなります。そうすると、本来外へ出るはずの尿が、水分として体の中にたまっていきます。利尿剤を使ってその水分を外に出すことで、心臓への負担を減らします。交感神経への刺激を抑える薬というのはどういう薬ですか?心不全になって心臓の動きが悪くなると、われわれの脳は心臓に「もっと働け」と、交感神経を通じて指令を出します。結果として心臓をいじめてしまうことになるので、薬で交感神経の活動を抑えています。心不全にならないために気を付けるべきことはありますか?高血圧や動脈硬化、心筋梗塞などの病気をもっている人は、病気を放置することなく、早めに治療することを心がけておくといいと思います。そうすることで、もし心不全になっても、軽い症状で済ますことができますからね。インタビュー・文:たなか みえ/イラスト:浅海 司

石川 義弘

2018.5.28

風疹ワクチンを受けたほうがよい人とは

5年前に大流行した風疹。首都圏を中心に、今年も流行の兆しをみせています。これを受け、厚生労働省は予防接種の徹底などを呼びかける通知を出しました。風疹は子どもの病気と思われがちですが、患者の多くは30~50代の男性や20~30代の女性。まさしく予防接種を受けていないか、免疫を十分に獲得できていない可能性のある人たちです。(*1)最も注意が必要なのは妊婦の感染で、障害をもった赤ちゃんが生まれる可能性があります。ですが、風疹はワクチンで予防できる病気です。風疹にかかったことがない人や予防接種を受けたことがない人、特に妊娠を希望する女性やそのパートナーは積極的に抗体検査を受け、十分な免疫がなければ予防接種を受けましょう。感染の自覚ない人も。風疹の感染経路と症状風疹は、せきやくしゃみなどの飛沫(ひまつ)を吸い込むことで感染し、症状が出るまでの潜伏期間は2~3週間です。発熱や発疹、リンパ節の腫れなどが現れます。また、大人が感染すると、子どもよりも重症化することがあります。一方で、症状が出ない感染者も15%~30%程度いると言われています。(*2)つまり、感染者の中には「風疹にかかった」という自覚がない人がおり、知らないうちに家族や職場の同僚などにうつしてしまうことも少なくありません。感染力はインフルエンザの数倍風疹の感染力はインフルエンザの2~4倍あり、1人の感染者から、免疫がない5~7人に感染させる可能性があります。(*3)風疹は「三日ばしか」という別名のとおり症状は軽めですが、まれに脳炎などの合併症が起こることがあり、決して軽視できない疾患です。なお、自然に感染したりワクチン接種をしたりすることで生涯続く免疫が体内につくられるため、その後は風疹に感染することはないとされています。妊娠中の感染で赤ちゃんに障害も妊婦が感染すると、赤ちゃんが難聴・心疾患・白内障などの障害をもって生まれるおそれがあり、これらの障害を先天性風疹症候群(CRS)といいます。妊娠初期ほどその確率は高くなり、妊娠1カ月で50%以上と言われています。(*4)妊娠したら風疹ワクチンは接種できない妊娠中は予防接種を受けられません。最も大切なことは、妊娠前に風疹ワクチンの接種を受け、免疫を獲得しておくことです。妊娠を希望している女性はもちろん、パートナーや家族、職場の同僚といった周囲の人たちも、ぜひ積極的に予防接種を受けてください。生まれた年で予防接種の機会が違うワクチン接種によって95%以上の人が免疫を獲得することができると言われています。2回の接種を受ければ、1回の接種では免疫がつかなかった人にも免疫をつけることができます。1990年(平成2年)4月2日以降に生まれた男女は、2回の予防接種を受ける機会がありましたが、それより年齢が上の人は受けていても1回だけ。十分な免疫がついていなかった場合、感染の可能性があります。1979年(昭和54年)4月1日以前に生まれた男性にいたっては、接種の機会すらありませんでした。(*5)また過去に風疹にかかったと思っていても、「はしか」など別の病気だったのを勘違いしている可能性もあります。記憶があいまいな場合は、採血による抗体検査を受けてみましょう。抗体検査はどこで受けられる?多くの自治体では、先天性風疹症候群(CRS)の予防のために、妊娠を希望する女性を主な対象とした抗体検査を無料で実施しています。検査といっても簡単で、採血検査のみで抗体価が分かります。無料で受けられるかどうか、どのクリニックで受けられるかなどについては、自治体のホームページでご確認ください。(*1)風疹急増に関する緊急情報:2018年9月26日現在 – NIID 国立感染症研究所(*2)風疹とは– NIID 国立感染症研究所(*3)風しん・先天性風しん症候群とは?|風しんの感染予防の普及・啓発事業|厚生労働省(*4)先天性風疹症候群とは – NIID 国立感染症研究所(*5)風しんについて|厚生労働省文:Open Doctors編集部監修医師:横浜市立大学教授・医学博士/石川 義弘

2018.10.18

寄り添い導くパートナー。今求められる医師の役割とは

「Open Doctors」とは?今、インターネット上にはたくさんの情報があふれています。当然「医療」にもその影響は及んでいますが、とりわけ医師と患者の間には大きな「情報格差」や「コミュニケーションギャップ」が生まれています。その現状をどうとらえて、どう未来へと進んでいくべきか。ここで紹介するのは、これからの医療の課題を見つめ、医師と患者の在り方をよりよくしていこうと考えている医師ばかりです。そんな医師たちを、私たちは「Open Doctors」と呼んでいます。第1回は、整形外科医・和田 啓義(わだ ひろよし)先生にお話を伺いました。和田先生プロフィール医師、医学博士。専門は整形外科、主に脊椎脊髄外科。医療現場でのコミュニケーションギャップを肌で感じ、その改善を目的として日本医療学会の設立に参画。その後も医療現場の一線に立ちながら、情報格差、コミュニケーションギャップの改善方法を模索している。平成6年 東京女子医科大学 整形外科入局平成9年 テキサス大学ヒューストン校 医学部分子医学部門リサーチフェロー平成12年 東京女子医科大学整形外科 助教平成19年 特定非営利活動法人 日本医療推進事業団勤務平成22年 東京女子医科大学整形外科 講師平成23年 東京女子医科大学東医療センター整形外科 講師平成29年 船橋総合病院 整形外科「情報格差」と「コミュニケーションギャップ」まずは、「情報格差」と「コミュニケーションギャップ」という言葉について教えていただけますか?はい。単純に言うと、「情報格差」は、医師と患者さんの持っている情報量と質が違うということで、「コミュニケーションギャップ」は、医師が持っている情報を患者さんに説明したけれど、理解が十分に得られていないこと、ということです。情報量と質の違いに、理解のズレ、ですか。そうです。例えば、外科の手術を行う前に、1時間かけて説明をしたとします。手術のやり方からメリット、デメリット、手術による合併症や薬の副作用、術後のケア……。医師としては、1から10まで全て説明したつもりです。患者さん、家族も納得して手術を受けられた。しかし、手術後に合併症が起こってしまった場合、患者さんは「こんなことは聞いていません」となることがあります。なぜかと言うと、医師が1時間で話した内容のうち、合併症についての話はその一部にすぎません。しかし、合併症が起こったときには、その原因や理由、治療法に今後の対策と、さらにさまざまな情報が必要になります。そのため、合併症についての詳しい情報を追加でお伝えすると、「聞いていません」となるのです。これは情報格差、コミュニケーションギャップの両方が絡み合った問題です。医療には不確実な要素が多く、さまざまな合併症が生じる可能性があります。特に手術治療では、その合併症が「不可逆性」、つまり元に戻せない性質であることが多く、情報格差やコミュニケーションギャップを原因とする問題が起こりやすいと感じています。医師と患者の「共通言語」としての情報医師として一般の人に情報を出していくのは、「医療の不確実性」つまり医療は完全ではなく不確実な要素が多いことを分かっておいてほしいという気持ちがあるからです。現在の医療は、10年前と比べても格段に進歩していると言えます。テレビやネットでは、医療分野における新しい発見や新しい技術が、日々取り上げられています。しかし捉え方を変えれば、「発見されただけ」で「実用化されていない」わけですから、まだまだ分からないことやできないことがたくさんあるとも言えるでしょう。 実際の医療現場では、「現在の医療レベルで適切と言われること」を行っているという現実があります。これは確実なものではなく、「不確実性」をはらんでいます。その「不確実性」の中には、個々の病気の特殊性や個人個人の多様性も含まれていて、結果として先ほどお話ししたような合併症につながってしまうこともあり得ます。医師側と患者側の情報格差を解消するのは非常に難しいことだとは思いますが、できるだけその間を埋めるような努力をしていくべきでしょう。これは、情報を多く持っている側、つまり医師側が努力をしていくことでしか、本質的な解決は望めません。そして、患者さんにとって分かりやすい情報を医師と患者で共有できれば、医師の側にもプラスになるだろうと思っています。。 例えば、自分の専門の整形外科領域では、患者さん向けの疾患ガイドブックを日本整形外科学会が作成しています。学会が研究結果に基づき作成した、ある病気についての標準的な診療方針や治療などがまとめられた資料を「ガイドライン」と言うのですが、これは医師向けなので、一般の方にはなじみのない表現や、分かりにくい部分もある。ガイドブックというのは、これを患者さん向けに分かりやすくしたものです。 自分は、診察の現場ではまずガイドブックを用いて病状を説明します。さらに深く知ってもらえるように、本での購入を希望する方には表紙のコピーを渡すか、無料で見ることのできる『Mindsガイドラインライブラリー』というWebサイトを紹介しています。患者さんがどこまでの情報を求めているかは個人によって異なるとは思いますが、自分の命に関わることであれば、やはり多くの情報をもとに自分で決めていきたいだろうと思うんです。でも、中には「先生が決めてください」という患者さんもいるのでは?そうですね。一通り説明しても、決められない。そうすると、よくあるのが「ほかのみなさんはどうしていますか?」という質問です。たとえ今までは周りの人と違うことを選ぼうとしてきた方であっても、医療の話になると「平均」を求める傾向にあります。「平均的なこと」を知るにはガイドラインを読むのが一番なので、ガイドブックが分かりやすい場所にたくさんあることは重要だと思います。患者さんがガイドラインを理解していれば、「自分はどうもこれに当てはまると思いますが、先生はどう思いますか?」「そうですね。この段階ですね。そうなるとこれが標準治療になります。ここをもう1回読んできてくださいね。」となる。そして「この治療になるとこういう合併症が起こる可能性もあります。」などと話していって、「この幅の中でどの治療法を選びますか?」という会話ができるようになるのです。共通言語ができるんですね。そういうことですね。こうなれば、情報格差がなくなります。情報格差がなくなると共通言語が生まれて、ギャップが埋まる。患者さんも「自分で選択」できるわけです。決めてほしい患者、情報を見るなと言う医師しかし、決めてほしい患者さんに対しては、共通言語を持つ、つまり同じ土俵に立ってもらうまでが大変なのかな?という気がするのですが。そうですね。本人の自覚と、時間が必要にはなると思います。情報化社会と言われる前は、『論語』にある「よらしむべし、知らしむべからず」のような考え、つまり「患者は病気や治療について詳しく知らなくても、医師が患者にとってベストと思う治療を行えばよい」と考える医師が多く、それがよしとされてもいたとも思います。患者さんが自分でどの治療を受けるか選択するという文化はほとんどありませんでしたからね。わたしの友人は、乳がんになったときに医師から「一切、ネットで病気の検索をするな」と言われたそうです。どのような状況での発言か分かりませんが、ネットにも病気に関する有用な情報は載っています。一方で民間療法に関するものや、不安をあおって「お金を出せばなんとかなる!」とうたう詐欺まがいのものまであり、何がいいのか分からなくなっちゃう。それを心配して、「見るな」と言われたのかしれませんね。でも「見るな」というのは一つの方法ではあるけれど、このネット社会で「未来永劫(えいごう)見るな」というわけにはいかないと思います。そうですよね。経営コンサルタントの梅田望夫さんが著書『ウェブ人間論』の中で、誤った情報が出てきてしまったとき、それを一つ一つつぶすんじゃなくて、正しい情報をたくさん発信していくことが大事なのだといったことを書かれていました。たくさん発信していくと誤った情報が正しい情報で埋め尽くされていき、結果正しい情報が広まっていくと。確かにそうだと思いましたし、正しい情報を出していくほうが、将来的には社会にはプラスになるんだとも思いました。それによって、医療の質も高くできるかもしれない。そのときに、正しい情報は誰が出すの?と言ったら、やはり医師が出すしかないのではないでしょうか。医師がガイドラインから一歩進んで、より分かりやすい患者向けガイドブックを作ったのは、その一つの流れと思います。医師だけが情報を抱え込む時代は、終わりを迎えつつあるのではないかなと思っています。導き手としての医師では、これから医師はどうあるべきなのでしょうか?先ほどお話したように、患者さんはガイドラインを読んで「わたしはきっとこの状態だ」と知ることはできるのですが、やはり自信が持てないんです。そこで、医師のところに行って検査を行い、画像などの結果を一緒に見ながら医師の判断を聞き、一緒に治療方針を考えていく。そこに医師の立ち位置がある。医師は導き手になる、というのが僕の考えです。そこまで念頭に置いて、「インターネットでどんどん見てください」と僕は言います。その上で、「もし、分からないことがあったら持ってきてください」と言っています。もちろんその前にガイドラインの説明をし、「これは多くの専門医師が多くの論文をもとに、今の一般的な方針を書いたものだから、まずはこれを読んでください。」と言っています。同じものを共有しながら導くのが医師の役割になっていくということですね。病を自分ごととしてとらえるしかし、そのやり方だと治療方針を決めるのにも時間がかかりそうですね。はい。時間はかかります。1回の診察では時間の制限があるので、最初はガイドラインを用いて説明し、さらに自宅で読んで勉強してもらい、次の外来で疑問点に答える。こういう形で、何度かに分けて理解をしてもらっています。でも、この時間があることによって患者さんは自分の病気と向き合い、“自分ごと”として理解するようになっていきます。数日のタイムラグを惜しむより、自分の病気としてしっかりとらえて、自分で決めていくことが大事なんです。そうすると、どんな結果になったとしても、自分が前を向いていけるから。医師の言う通りにしてうまくいかないと「だからやらなければよかった」となりがちです。しかし、自分で考えて選択した場合には、たとえ思った通りの結果にはならなくても、その結果に向き合っていくことができます。治療は一時ですが、結果は一生。どのように病をとらえていくかは、本当に大事なことだと考えています。自分のものとしてとらえることが重要なんですね。でも「自分で決めよう」という気持ちを引き出すのは大変そうです。そうですね。患者さんに「先生だったらどうしますか?」と聞かれることもあります。自分は正直に「僕も悩みます」と答えると「先生、ずるいですね」って言われるんです。(笑)でも、医師は病気を診断することはできても、「医療の不確実性」があるために、その治療結果に絶対はありません。となると、何が本当に大事なのか優先順位を決めていくしかないのですが、その優先順位は個人の価値観や人生観も含めて考えないと分からないのです。ですから、「自分もその場面になって初めて、本当の答えを出すために悩む」というのはうそではないと思っています。以上の言葉を、それこそコミュニケーションギャップのないように伝えた上で、「大事なのは、自分で決めることです」と言っています。「決められない」も「答え」である「自分で決められない」患者さんにはどうされるんですか?実は、「決められない」ということも「答え」なんです。例えば、手術は「決めた」ときにしかできないので、「決められない」というのは「やらない」と決めたことと同じことになるのです。確かにそうですね。だから「決められない」というのも、その人の答えであり、人生観に基づく判断と理解しています。これは、あくまでも自分の考えですので、扱う病気によっても違うかもしれません。自分は整形外科の中でも脊椎外科が専門で、加齢に伴う疾患を多く診ているから「自分で決める」ということについて比較的時間をかけてお話しできるのかもしれませんね。これからの医師の価値とは決めたい人にとっても、決められない人にとっても、このサイトのような情報源は重要な役割になると感じます。そうですね。情報が整備されれば、正しい情報にアクセスする患者さんが増えて、変な情報にアクセスしにくくなる。これだけ情報を出すと、医師に何の価値があるのかなと思われそうですが、逆に医師の価値は「あなたはこういう状態ですよ」と診断をして、次のステップに進む手助けする部分にあると思います。それが先生の言う「導き手」としての医師の姿ですね。はい。ほかにも診療の現場では、これまで言葉だけで説明していたものを、絵や画像、冊子などを使って伝えるなど、患者さんに「残る情報」にしていく工夫もしています。そして、自分が渡しきれない情報をインターネットで見てきてもらい、次回それについて話して、情報を修正する。事実がしっかりとありながら、患者さん側が誤解して受け取っていることもありますからね。Open Doctorsのような情報媒体をどんどん使っていけたらいいのではないかと思っています。これからは、「自分(医師)だけが情報源である」という医療のスタイルから、患者さんがアクセスできる情報がたくさんある中で、医師はその情報を整理してあげる「患者さんのパートナー」的な役割になっていくと考えています。「今のあなたは、その状態ではないから、こちらの情報をもとに考えていきましょう。」などと情報を修正しつつ、お互い理解して進めていく。多くの患者さんを診ている医師だからこそできることと思います。どんなに情報が増えても、その部分は変わらないでしょう。和田先生は、「自分自身が納得した人生を歩むために、自ら選択する。」「医師はその“導き手”であり、“パートナー的存在”になっていく」と語ります。人はいつか必ず死を迎えます。そして、日本の現代社会に暮らす私たちのほとんどが、その手前で健康を損ない、医療を受ける側になります。そのとき私たちは、どんな選択をするのでしょうか。患者としていつか医療に関わる私たちも、健康や医療にもっと関心を持ち、情報化社会の中で賢く学んでいく。そうすることで、いざ医療を受けることになったときも、納得した形で、人生を歩んでいくことができるのではないでしょうか。インタビュー・文:亀山 美千代

和田 啓義

2018.6.27

Open Doctorsは病気についての正しい知識をやさしい言葉で紹介。お医者さんとの間にある情報の差を解消することで、あなたの意思決定を支援します。

produced by
市民・患者のための健康・医療コミュニケーション学会